クリニックが続かなければ患者さんを長年にわたって治療することはできませんが、「経営者」の視点を持たなければクリニックを存続できません。
今回は、医師と経営者の両立という難しいテーマについて『MYメディカルクリニック』の笹倉渉院長にお話を伺いました。
笹倉院長は、2016年東京・渋谷に『MYメディカルクリニック』を開業。すでに5年間を経営者兼前線に立つ医師として過ごし、現在同院はスタッフ155人を擁する人気クリニックとなっています。
「社会貢献」と「お金」についての管理能力が必要である
――クリニックを開業するに当たって難しい点とはどんなことでしょうか。
笹倉院長 医業は公的な性格を持つものですから、クリニックを開業するとどのような社会貢献ができるのかが問われます。ですから、なんために開業するのか、「クリニックの社会貢献」について考えておくことは重要です。
――『MYメディカルクリニック』のホームページには「ビジネスパーソンの健康こそ、日本の未来を救う鍵」とその設立理念について書かれていますね。
笹倉院長 その一方でお金のことも考えないといけません。医療期間は営利組織ではない、と「医療法」に書いてありますが、しかし、クリニックが継続できなければ社会貢献もできません。継続するためにはしっかり経営に取り組まなければいけません。
開業すると、
- 社会貢献
- お金
「一国一城の主」としてこの2つについて考え、バランスよく管理できる能力が必要です。私も現在行っている最中ですが、これは難しいです。また時間がたつとバランスが変わってくることもあるでしょう。ですから、何をもって社会貢献を行うのかを強く思っていないといけないところがあります。
――難しいですね。
笹倉院長 勤務医のときは、来院する患者さんにきちんと対応していれば問題になりませんので、そんなことは考えないのですが、開業は、自分できちんと目標設定ができて、高い管理能力がある人でないと正直しんどいかな、と思います。
経営者としての準備とは?
――開業すると経営者の視点を持たなければならないといわれますが、どのような準備が必要でしょうか? 経営についての勉強は必要になりますか?
笹倉院長 開業すると、軌道に乗るまでは多くの医師がオーナー兼プレイングマネージャーとして働くことになりますが、その経営の勉強というのはけっこう難しいものです。病院と診療所では全く違いますし、どんな診療科目なのか、保険診療なのか自由診療なのかなどで目標設定は変わりますしね。
――どんなクリニックにしたいかで経営の指標も変わってくるので、それに合わせた勉強は難しいということですね。
笹倉院長 残念ながら、「地道に地域で愛される医療を続けていれば成功する」という時代は終わりました。そのクリニックがどのように生き残るのかに合わせた経営の勉強が必要な時代になっているのではないでしょうか。かなり難しいですよね。
これはどんな業種でも一緒だと思うので、実は皆さん飲食業のアルバイトでも経験した方がいいぐらいです。数値目標設定などが学べますから。
――例えば、開業に当たってBS(バランスシート/貸借対照表)、PL(損益計算書)は読めた方がいいですか?
笹倉院長 それは基本の基本で、もし院長になって初めて見るようでしたら、正直に言えば、もはや開業には向いていません。また、BSやPLが読めないようでしたら、ある程度の規模のクリニックを開業するのは厳しいと思います。
――笹倉院長の場合はいかがでしたか?
笹倉院長 私の場合は父親が銀行員で、その知識は医師になる前からありました。勤務医時代にも自分の勤めている病院のBSやPLは見ていましたし、フリーランスで契約させてもらうときには、必ず「この金額をもらうのだったら損益分岐点をこうやって超えよう」などと考えていました。
――自分の労働単価と病院の収益性を考えていたわけですね。
笹倉院長 勤務する病院の財務状況は『帝国データバンク』から取り寄せて見ていました。また、個人的に沖縄でダイビングショップのオーナーをしていたことがあります。
――クリニック開業前にすでに経営者の経験があったのですね。
笹倉院長 医師は職人で自分の診療分野には非常に詳しいのですが、社会的な知識と経験が乏しいことが多いです。例えば、先ほどの財務、また労務についての知識です。クリニックを開業すると人を雇用しますから、労務についての知識は必須になりますが、医師でその知識を持っている人はほとんどいないでしょう。私の場合は、開業前から財務・労務・簿記など一応の勉強はしていました。
――なるほど。やはりその辺りの知識は持っていないといけないわけですね。
「戦うフィールド」を間違えたら負ける
――これから開業しようという医師の皆さんにアドバイスをいただけるでしょうか?
笹倉院長 開業したいという希望があるのなら、それはやった方がいいと思います。人生は一度きりですから、やらないよりは思いきってやってみるといいです。ただし、「戦うフィールドを間違えたらどんな強者も負ける」ということを忘れないようにしてください。私もそのことを常に考えていましたし、今も考えています。
また、日本は人体でいえば、もう老齢で下り坂です。少子高齢化が進み、超高齢社会になっています。医療も社会の一部ですから、このような社会的な趨勢から逃れることはできません。これからクリニックを開業するのであれば、社会の動きを見てどのようにすればいいのかを考えておくべきではないでしょうか。
医師って新聞を読む人が少ないように思うのですが、必要なのはそういう部分だと思います。医師の働き方改革も始まりますしね。医療も社会の一部であることを意識していることは大事だと思います。
――ありがとうございました。
まとめ
現在も医療の現場に立ちながら、経営者でもある笹倉院長のお話でしたが、いかがだったでしょうか。これからの開業を考える医師の皆さんは、「戦うフィールドを間違えたらどんな強者も負ける」という言葉を念頭に置いて、「勝つ開業」を目指してください。
取材協力:MYメディカルクリニック
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
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診療科目
この記事は、2021年7月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 麻酔科標榜医 日本医師会認定産業医 | 笹倉 渉 氏