診療に係る文書等の保存期間(保管期間)は各種法令で規定されており、所定期間において安全かつ適切に保存されていなくてはなりません。
電子カルテの導入から時間が経過した医療機関においては、多くの医療情報がデータとして蓄積管理されていることでしょう。
あるいはこれから電子カルテの導入を考えている医療機関では、紙媒体のカルテを大量に保管しているのではないでしょうか。
そんな中において、紙媒体・電子媒体問わずカルテの保存期間(保管期間)はなんとなく分かるものの、「管理を適切に行えているか」「運用に不備はないか」「万が一に備えて再確認しておきたい」という人は少なくないはずです。
電子カルテの保存期間(保管期間)や保存方法については、紙カルテと共通する部分が多くありますが、電子カルテ固有の課題として注意しなければいけないこともあります。
ここでは、電子カルテの保存期間(保管期間)や紙媒体と電子媒体のカルテ保存方法と注意点について解説します。
正しい電子カルテの保存期間(保管期間)とは
カルテ(診療録)の保存期間(保管期間)は5年間と義務付けられています。
カルテ以外の診療に関わる諸記録は3年間です(医師法第24条、療担第9条、療担第22条)。この法定保存年限が過ぎた文書の保存期限については各医療機関で規定することができるようになっています。
最近は、保存期間5年(または3年)ルールが浸透しつつあり、広く知られるようになりました。
とはいえ、保存期間(保管期間)の起算日を間違って覚えている人は少なくありません。
保存期間(保管期間)は、完結の日から数え、一連の診療を終了した日から5年間(または3年間)となっていますので注意しましょう。
では、電子カルテの場合はどうでしょうか。
診療に関する情報は電子上で作成・保存されるため、「原紙」が存在しません。
この場合は電子カルテ自体が、診療に関する情報が保管されている文書そのものと言えます。つまり、診療録の保存に関するルールは電子カルテでも紙のカルテでも同様の扱いとなります。
参考:医師法(昭和二十三年法律第二百一号)
保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号)
電子カルテの保存(保管)で欠かせないポイント『電子保存の3原則』
保存(保管)のルールは紙カルテと同様ですが、電子カルテを使うときには、それとは別に守らなければならない基準があります。
ここでは、電子化カルテを使う場合に知っておく必要のある「電子保存の3原則」について解説します。
真正性
電子データは紙データと異なり、データのコピー、削除、上書きによる改変が容易にできてしまい、原本と写しの区別がつきにくく「改ざん」や「なりすまし」の恐れがあります。
そのため、いつ、どこで、だれがカルテを記録し修正を行ったのかを分かるようにしておく必要があります。
「真正性」の原則は作成されたカルテが虚偽のないものであることを保証することです。
基本的事項として
- 作成責任の所在を明確化しておくこと
- 権限がないものが勝手に入力できないようにしておくこと
- 外部からの侵入を防ぐセキュリティ対策を行うこと
- 入力履歴、操作記録の監査、教育を行うこと
となっています。
第三者から見ても虚偽入力や書き換え、消去といった「改ざんをしていない」ことが明確で、防止につとめているようすが分かるということが大切です。
見読性
電子カルテの閲覧は、医師や看護師など医療者が見ることはもちろん、患者や家族に見せる機会もあります。
さまざまな場面で見る・見せる機会があるため、必要な情報を必要なタイミングで見る・見せることができるようになっていなければいけません。
「見読性」の原則は、「診療に用いるのに支障がない」「監査などに差し支えない」程度に内容が分かるようにしておくよう措置を講じることです。
保存性
「保存性」の原則では、保存すべき期間中に真正性や見読性を保ち、復元可能な状態で保存すること、すなわちデータの破損や消去を防ぐ対策を講じることです。
たとえば、不適切なソフトウェアの使用を禁止したり、こまめなバックアップを行ったり、機器の不具合にはすぐに対処するなど、常に最良の状態で保存されるよう注意する必要があります。
外部業者に、データをしっかり保存しているか確認してもらうことや改ざん防止などの実施も、保存性を担保する内容に含まれます。
見読性や保存性を保つために知っておきたい、
「電子カルテのセキュリティ」の解説資料はこちらにご用意しています。
▶︎【無料】CLIUS「図解で分かる クラウド型電子カルテ セキュリティの仕組み」をダウンロードする
参考:厚生労働省「医療情報システムを安全に管理するために」
新しい電子カルテに移行する際の旧カルテ保存方法(保管方法)と注意点
紙カルテから電子カルテに移行するときや電子カルテから新しい電子カルテへ移行するとき、古いカルテはどのように扱えばよいのでしょうか。
ここでは、旧カルテの保存方法(保管方法)や保存する際の注意点を解説します。
電子カルテ導入後の紙カルテ(旧カルテ)の保存について
電子カルテを導入し紙のカルテをスキャンしたあとは、旧紙カルテの法定上の保存義務はありません。
ただ、単にスキャンしてPDF化した文章は、あくまでも参照情報であり、原紙とは認められません。そのため原紙として電子的に保管が認められるようにするためには電子署名・タイムスタンプを用いるという方法があります。
電子署名・タイムスタンプを用いれば、電子的に保管が認められるため、旧紙カルテは不要となるというわけです。
とはいえ、情報の真正性や保存性の確保の観点から言えば、旧カルテも保存しておくことが望ましいでしょう。
大学病院や大規模病院などでは研究用の資料として長期に保管したり、訴訟事故が発生した場合に備えて長期保管をしたりしているケースも多いようです。
旧紙カルテも保管する場合、膨大な量のカルテの保管スペースが必要となります。整理・整頓しておかなければ必要な時に取り出すことができませんので手間もかかります。
紙カルテ(旧カルテ)の保存方法
では実際に大量の紙カルテをどのように保存・保管すると良いのでしょうか。ここでは、紙カルテの保存・保管についてどのような方法があるのか紹介します。
カルテを院内・施設内で保管する
まず、最初に思いつくのが、院内・施設内の空きスペースを活用して、オーソドックスに保存・管理する方法です。
ここで問題となるのが、年々増えていくカルテの収納場所です。
定期的に整理・廃棄を行わないと、どんどんカルテがたまっていきます。収納用の棚を増設することで、スタッフの居場所が狭くなっていく可能性もあります。
紙カルテをスキャンして(電子化)保存する
保管スペースを確保しなくても良い方法として、紙カルテをスキャンして電子化する方法があります。
紙媒体の原本をスキャナで読み取り、電子化するにあたっては、厚生労働省の「9 診療録をスキャナ等により電子化して保存する場合について」が参考になります。
紙カルテをスキャンして保存するためには、まず、診療に差し支えのない十分なスキャン精度を確保する必要があります。300dpi、RGB各色8ビット(24ビット)以上が1つの基準となっています。
可視化するソフトウェアには、容易にダウンロードすることで取得できるものが良いでしょう。
PDF形式で保存するのが最も一般的ですが、スキャンの対象となるデータに応じてJPEG、PNG形式を使い分けて保存するのも良いでしょう。「汎用性が高く可視化できる」というのがひとつのポイントです。
次に、「改ざん」や「なりすまし」を防止する措置を講じる必要があります。
運営管理規定を定めたり、情報作成管理者を配置したり、電子証明およびタイムスタンプを遅滞なく行い、責任の所在を明らかにすることが大切です。
また、医療機関ではシステムダウンなどが発生しても診療を継続して行っていかなければいけません。その場合でも診療情報が必要な時に直ちに閲覧可能な状態にしておく措置を講じる必要もあります。
原本である紙媒体を必要なときに取り出し閲覧可能な状態としておくことも対策の1つです。
最後に個人情報保護の取扱いについていても対策を講じておくことが重要です。
とくに電子化後、もとの紙カルテやフィルムを破棄する場合、シュレッダー等で個人識別不可能な状態にしたうえで破棄しなければなりません。
参考:厚生労働省「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 4.1 版」に関するQ&A」
紙カルテを外部倉庫に保管する
スペースの確保が難しい場合、紙カルテを外部倉庫に保管するという方法があります。
その場合、外部業者に委託するのが一般的で、院内・施設内で保管するのと同じかそれ以上の基準を満たす必要があります。
少なくともプライバシーマークを取得していること、過去に問題を起こしていない事業者であることをしっかりと確認しておくと良いでしょう。
専門の業者だと、セキュリティ対策が徹底されており、院内で保管するよりも安心でき、コストも安く抑えられる場合があります。
診療録等を保存する場所〜紙媒体のままで外部保存を行う場合〜
・記録が診療の用に供するものであることにかんがみ、必要に応じて直ちに利用できる体制を確保しておくこと。
・患者のプライバシー保護に十分留意し、個人情報の保護が担保されること。
・外部保存は、診療録等の保存の義務を有する病院、診療所等の責任において行うこと。また、事故等が発生した場合における責任の所在を明確にしておくこと。
引用:厚生労働省「診療録等の外部保存について」
新電子カルテを使う際の、旧電子カルテ情報の保存について
紙カルテから電子カルテへのシフトではなく、電子カルテから別の電子カルテに乗り換える場合も「データ移行」は大きな課題です。
電子カルテは、メーカーによって保存形式が異なり、標準化されていないため、データの抽出や移行に難航し、費用が掛かる場合があります。つまり、簡単にデータ移行できるというわけではありません。
新しく導入を検討中の電子カルテがある場合は、契約を進める前に、データ移行の可否、費用面をしっかり確認しておくことをおすすめします。
ただ、必ずしもデータの移行が必要かというとそうではありません。これまで使っていた電子カルテをそのまま残し、必要な時に使用するなど上手に使い分けて運用するのも1つの方法です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
電子カルテから電子カルテへ移行した医師のインタビュー記事も参考にご覧ください
CLIUS使用/笹塚駅前こたろ形成皮ふ科クリニック 吉武 光太郎 医師
▶︎「CLIUSに決めた最大の理由はデータ移行の柔軟性です」
CLIUS使用/医療法人幸和会 福田整形外科医院 福田 幸久 医師
▶︎「安心できる技術者がいる、電子カルテの移管もできる、その上コストが低い。乗らない手はないと思いました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なにから始める?電子カルテの保存管理
最適な方法でカルテを管理・保存をしたいけれど何から始めたらよいのか、とお悩みではないでしょうか?
そんなとき、まずは医療情報を電子的に取り扱う方法が記載されているガイドラインの趣旨を踏まえた運用を行うことが大切です。
つまり、ガイドラインを読み込むということがファーストステップになります。読み込むガイドラインは厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(以下「厚労省ガイドライン」)がおすすめです。
医療情報を取り扱ううえでの安全管理やe-文書法に適切に対応するためのセキュリティ対策、運営に必要な組織体制や設置基準、さらには、外部委託時に事業者と定める内容などが示されています。
電子カルテを運用するうえで必ず守らなくてはならない3つの基準「電子保存の三原則」についても、明記されています。
このガイドラインの説明会や研修会については、一般社団法人 日本医療情報学会や一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会等で案内されることがあるので要チェックです。
今後の電子カルテ運用に役立つ
「クラウド型電子カルテのセキュリティ」の解説資料はこちらにご用意しています。
▶︎【無料】CLIUS「図解で分かる クラウド型電子カルテ セキュリティの仕組み」をダウンロードする
適切な保存方法(保管方法)を理解して電子カルテを運用しよう
紙媒体と電子媒体どちらにおいても、カルテは正しく記録され管理運用されていなければいけません。
虚偽入力、書き換え、消去などの「改ざん」や「なりすまし」が容易にできたり、見づらかったりすれば、当然カルテの信頼度は下がります。
また、所定の期間において適切に保存されていないと、監査や医療過誤訴訟等での証拠資料としては使えません。適切な管理運用を怠った場合には、診療はもちろん監査や訴訟において、何らかの影響があることでしょう。
それらを未然に防ぐために適切な保存方法(保管方法)を理解して電子化カルテを運用することは非常に重要です。ぜひ、本記事を参考にしていただけたらと思います。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年4月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
他の関連記事はこちら