住宅街にあるクリニックに多く見られるのが「医院併用住宅」です。文字どおり、自宅をクリニックとしても利用している形なのですが、この「医院併用住宅」にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか? 医院建築事業を展開している『三菱地所ホーム株式会社』の橋本忠さんに伺いました。
時間やコスト面でメリットがある
――医院併用住宅のメリットを教えてください。
橋本さん まずは「時間のメリット」が挙げられます。自宅とは別の場所にクリニックがある場合、そこまで通勤しないといけませんが、医院併用住宅の場合はその必要がありません。通勤時間がいらない分、時間的な余裕を生むことができます。
また、これも時間のメリットといえるかもしれませんが、クリニックと自宅が離れていないので、急な事態にも対応しやすくなります。例えば夜中の急患などですね。自宅が離れている場合、すでに帰宅していると対応に時間を要しますが、医院併用住宅であればスムーズに対応できる可能性が高まります。
――診察時間外でも対応しやすくなるのですね。
橋本さん 他には、見守りが必要なお子さんがいる場合でも、勤務しやすい点が挙げられます。自宅区画から医院区画に入れるようにしておき、そこからお子さんがスタッフルームに入れるような工夫をされているケースもあります。ご両親が勤務されている場合は、スタッフルームで勉強したり食事をしたりして過ごせます。目が届く位置なので、安心して診療に当たれるということですね。
――夫婦ともに医師という場合もありますから、そうした子守りの必要がなくなるのは大きいかもしれません。
橋本さん そのためか、医院併用住宅はご家族で経営されているケースが多く見られます。夫婦ともに医師であるケースもありますし、御主人が医師で奥様が事務長であったり、親子両方が医師だったりと、さまざまなパターンがあります。
――他にはどんなメリットがありますか?
橋本さん 例えば、クリニックが別にある場合、自宅のローンや賃料に加え、クリニックのローンや賃料も支払わないといけません。しかし、医院併用住宅であれば、医院部分も含めて住宅ローンを組む事ができる場合もあります。医院併用住宅はコストの面でのメリットも考えられます。
また、自宅がその地域にあるということで、「地域に根差したクリニック」というイメージも広げやすいのかなと思います。その地域・町内会の一員でもあるわけですから、ただクリニックがあるのとでは、住民の方の受け入れ具合が変わります。
――それだけ信頼も得やすいのかもしれませんね。
業務とプライベートが切り離せない恐れも……
――医院併用住宅のデメリットは何でしょうか?
橋本さん 先ほど地域に根差すことができるとお話ししましたが、これはメリットである反面、デメリットにもなります。例えば、生活状況が知られやすいため、車はどんなのに乗っている、子供がどこの学校に通っているなど、個人情報が広まりやすいのです。特に従業員さんとして近くに住んでいる人を雇う場合、そこから家庭状況が漏れることもあるようです。
――車が高級車だと「儲かっているのでは」なんて言われそうですね。
橋本さん 医師の方はお忙しく趣味にお時間をかける事ができないため、車が趣味という方も多くいらっしゃいます。その場合、余計な詮索をされないよう、外から車が見えないようなガレージタイプの駐車場とし、シャッターを閉めるなどの工夫をされています。
――医院併用住宅は、仕事とプライベートの切り離しが難しいのがデメリットなのですね。
橋本さん 自宅併設の場合はセキュリティー面の不安もあります。そのため、「医院併用住宅はやめてほしい」と、家族の理解が得られないという場合も見られます。
――その他にデメリットはありますか?
橋本さん 立地の問題もあります。住宅を建てるのに適した場所と、商業施設を建てるのに適した場所は特徴が異なります。クリニックも、閑静な住宅街よりも、人通りの多い場所の方がいいのです。しかし、医院併用住宅の場合は「住宅」でもあるので、どうしても住宅街に建てることになります。そうすると、駅から遠い、視認性が低いなどのデメリットにつながる可能性があります。
――どちらに適した立地を選ぶか難しそうですね。
入口や区画、動線の工夫を心がける
――医院併用住宅を建設する際の注意点を教えてください。
橋本さん まずはプライベートを守る工夫が必要です。例えば、クリニックの入口と自宅の入口を分けるのはもちろん、クリニックを道路側、自宅の入口を建物背面部にするなど、できるだけ離すということも考えられます。実際の医院併用住宅の中には、正面の大通り側をクリニックの入口にして、裏側の小さな通り側を自宅の入口にするといった工夫をされている物件もあります。
――自動車が見えないような工夫も必要ですね。
橋本さん そうですね。シャッターをつけたり、駐車場スペースを地下に設けたりしている方もいらっしゃいます。他には、区画を分けることも当然ながら重要です。プライベートの確保はもちろんですが、衛生的な意味でも動線は分けるべきです。
――自宅とクリニックをつなげる場合も最低限に、ということでしょうか。
橋本さん そうですね。院長先生やお子さんが出入りできるようにする場合も、患者さんとは異なる動線にするといいでしょう。また、設備スペースの位置にも注意しないといけません。設備機器などは音が出るものもあるので、自宅区画からはなるべく離すなどの工夫が必要です。後になって困らないよう、設計段階から設備スペースにも注意しておくべきですね。
――ありがとうございました。
時間やコストの面でメリットが得られる医院併用住宅ですが、プライベートとの切り離しが難しいなどのデメリットもあるようです。医院併用住宅を建てる際は、動線や区画の分け方を工夫するなど、デメリットをできるだけ減らすことが重要とのことでした。三菱地所ホーム株式会社のHPでは、建築事例を多く掲載しています。医院併用住宅を建てられる際は参考にしてみてはいかがでしょうか?
取材協力:三菱地所ホーム株式会社
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この記事は、2021年7月時点の情報を元に作成しています。