患者に薬を処方する際には、原則として、薬剤師や対面で服薬指導をおこなうことが必要とされていました。このことは、薬剤師法および医薬品医療機器等法(旧薬事法)で義務付けられていたことです。しかし、2019年度におこなわれた医薬品医療機器等法の改正によって、2020年9月から、一定の要件を満たしていれば、オンラインでの服薬指導が認められることとなりました。では、オンラインで服薬指導をおこなううえでは、どんなことに気を付けることが大切なのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
オンライン服薬指導を受けるための要件は?
まず、オンライン服薬指導を受けることが認められる患者は、大きく下記の2パターンに分けられます。
1. オンライン診療料に規定する情報通信機器を用いた診療によって処方箋が交付された患者
2. 在宅時医学総合管理料に規定する訪問診療の実施によって処方箋が交付された患者
つまり、「既定の情報通信機器を通してオンライン診療を受け、処方箋が交付されている」もしくは、「在宅訪問時に処方箋が交付されている」ことが条件ということになりますが、さらに詳しくいうと、前者は「原則3か月以内に薬剤服用歴管理指導料[1]または[2]を算定した患者であること」という要件を満たしていることも必要で、後者は「在宅患者訪問薬剤管理指導料が月1回算定されている患者であること」という要件をクリアしていることも必要です。
参照:厚生労働省保険局医療課「令和2年度診療報酬改定の概要(外来医療・かかりつけ機能)」p.24より一部抜粋
オンライン服薬指導に必要なもの
オンライン服薬指導を実施するにあたって、クリニック、患者それぞれが用意しなくてはならないものがあります。
クリニックが用意するもの
クリニックが用意するものは、ビデオ通話機能を有した機器です。パソコン、タブレットなどがこれに該当します。また、ビデオ通話を利用するためのシステムやアプリを端末に導入することも必要です。
患者側が用意するもの
患者側が用意するものは3つあります。まず、クリニック同様、ビデオ通話機能を有した機器が必要です。タブレットやiPhoneなどがこれに該当します。また、場合によっては、調剤薬局から、事前にオンライン服薬指導を受けるときに使うアプリのインストールを求められることがあります。
また、「電子お薬手帳」をiPhoneなどにインストールしておくことも患者に求められることです。電子お薬手帳があれば、クラウド上で薬の情報を管理することができます。電子お薬手帳のなかには、通院日や服薬時間などを患者に知らせる機能を備えたものもあります。
もうひとつはクレジットカードです。オンライン服薬指導にかかった費用は、クレジットカードで支払うのが一般的です。また、なかにはPayPayなどのQRコード決済に対応している調剤薬局もあるので、対応している支払い方法については、事前に調剤薬局に確認することが望ましいでしょう。
オンライン服薬指導の流れ
続いては、オンライン服薬指導の手順を説明します。
クリニック側でオンライン診療または訪問診療をおこなう
前述の通り、オンライン服薬指導を実施するためには、その前に、オンライン診療または訪問診療によって医師の診察を受け、処方箋が交付されていることが必要です。
医療機関から薬局に処方箋を送付する
従来の流れであれば、診療後、処方箋は患者本人に渡され、患者はそれを薬局に持っていくことで服薬指導を受けて薬を処方してもらいます。一方、患者がオンライン服薬指導を希望している場合は、クリニックは患者が希望する薬局に処方箋を送付することになります。ただし、薬局によってはオンライン服薬指導に対応していないところもあるので、事前にクリニック側から薬局に確認を入れてあげるのが親切です。
薬局による「服薬指導計画書」の作成および調剤
患者がオンライン服薬指導を希望しているとの連絡を受けた薬局は、服薬指導計画書を作成します。「服薬指導計画書」とは、患者に処方する医薬品の情報や、医薬品を処方するうえでのルールをまとめたものです。
また、服薬指導計画書の作成と並行して調剤もおこないます。患者の状況を確認しながら、薬が適切に処方されているかの確認もおこない、不明点がある場合は、処方箋を発行した医師に連絡を取って確認します。
薬剤師によるオンライン服薬指導
服薬指導計画書および調合が整ったら、オンライン服薬指導を実施します。患者への連絡方法はさまざまですが、薬剤師から患者に電話やLINEを入れる場合が多いです。そのほか、専用のアプリを活用している薬局もあります。
服薬指導の内容に関しては、基本的には対面指導と同じで、処方された薬の効能や効果、副作用、飲み合わせの注意点などを伝えることになりますが、通信機器を通しているぶん、対面の場合よりはっきりとわかりやすく伝えることが大切です。
患者に医薬品を配送、または患者が薬局で受け取り
オンライン服薬指導修了後は、調剤薬局から患者に医薬品を配送します。ただし、患者は薬局で医薬品を受け取ることも可能です。患者が配送を希望している場合は、配送料に関しても事前にきちんと伝えることが大切です。
医師と情報を共有
オンライン服薬指導後、必要に応じて、患者の状況を医師に伝えます。薬を服用したことで副作用が出る可能性がゼロではないことを考えると、きちんと情報を共有しておいたほうが安心でしょう。
オンライン服薬指導のメリット、デメリットは?
続いては、オンライン服薬指導のメリット、デメリットをみていきましょう。
クリニック | 患者 | |
メリット | ・医療過疎地の患者に医療を届けられる ・院内での感染拡大リスクを削減できる |
・服薬指導を受けるためにクリニックや薬局に出向かなくていいため時短になる ・薬剤師の自宅訪問に備えて掃除するなどしなくていい |
デメリット | ・ビデオ通話機能の使い方を覚える必要がある ・患者の表情を細部まで確認できない |
・ビデオ通話機能を使えるようになる必要がある ・通信環境を整える必要がある |
オンライン服薬指導のメリット
まずはメリットから。
医療過疎地に暮らす患者が望む医療を受けやすい
医療機関や薬局が少ないエリア、薬局があるものの遅い時間までは営業していないエリアなどに暮らしている人にとって、オンライン服薬指導を受ければ薬を配送してもらえることは大きなメリットになるでしょう。
在宅医療を受ける患者の負担軽減
通院が困難で在宅医療を受けている患者に対しては、これまで、薬剤師が自宅を訪問して対面指導することが義務付けられていました。その代わりにオンライン服薬指導を受ければいいということになれば、患者にとっても薬剤師にとっても負担が少なくなるといえます。
感染リスクの削減
コロナ禍を経て、医療機関側も患者側も、感染対策の重要性を強く意識するようになりました。感染リスクを減らすことができるオンライン服薬指導のニーズは高まっていると考えられます。
オンライン服薬指導のデメリット
続いてはデメリットです。
ITリテラシー不足や通信環境が不安定であることによって実施できない場合がある
オンライン服薬指導はビデオ通話機能を有した機器を使っておこなうため、調剤薬局、患者ともにある程度のIT知識が必要です。また、通信環境が整っていない場所では利用できない場合があります。
患者の表情を細かいところまで確認できない
画面を通しての服薬指導になるため、どんなに注意深く患者を観察していても、細かな変化にまでは気付けない場合があります。体調の変化はもちろん、患者の理解度に関しても、画面からでは伝わりづらい場合があります。また、なかには耳が遠い患者などもいるので、薬剤師側で伝え方に工夫することが重要になってくるでしょう。
オンライン服薬指導は今後さらにニーズが高まることが見込まれる
「医療過疎地に暮らしている人」「在宅医療を受けている人」「感染リスクを減らしたい人」「仕事が忙しくて営業時間内に薬局に行けない人」などがオンライン服薬指導を希望していることを考えると、今後ますますオンライン服薬指導のニーズは高まることが予想されます。希望する患者が増えてきたときにすぐに対応できるよう、本格的な導入開始を待つことなく、今のうちに準備を進めておきましょう。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年4月時点の情報を元に作成しています。