医療法人の「持ち分あり」「持ち分なし」は何が違う?

社団医療法人には「持ち分あり」「持ち分なし」の2つがあります。現在では、「持ち分あり」の社団医療法人は設立することはできません。しかし、いまだに持ち分ありの医療法人は多く、承継案件もあることから、開業を考える医師はこの違いについて知っておく方がよいでしょう。

目次
  1. 「持ち分あり」と「持ち分なし」の違い
  2. 「持ち分あり」で起こるトラブル
  3. 「持ち分あり」の場合、承継案件が巨額になることあり
  4. まとめ

「持ち分あり」と「持ち分なし」の違い

「持ち分あり」は、その医療法人の設立時に出資した分だけ「財産権・返還請求権」があること、「持ち分なし」は出資した分について「財産権・返還請求権」がないこと、を意味します。

「持ち分あり」の場合には、社員が除名・死亡・退社で資格を喪失した際には、出資した分について相続・譲渡(承継)が可能です。また定款に定められていれば、社員が除名・退職・死亡した場合には、出資に応じて財産の返還請求を行うことができます。

これだけでは分かりにくいですので、会社を設立して業績を上げていったら……と考えてみましょう。

「持ち分あり」で起こるトラブル

まず、普通に株式会社を作ることを考えてみましょう。

例えば、2人で1億円ずつ出し合って株式会社を作るとします。合わせて2億円が資本金になり、額面いくらで何株発行してもいいですが、2億円ぶんの株式が同数それぞれに分配されます。株式の保有比率がその会社に対する支配権になりますので、この設立者2人は50%ずつ会社に対する支配権を持つことになります。

持ち分ありの医療法人も株式会社と同じようなもので、前述のとおり拠出した資金、この「持ち分」に応じて「財産権・返還請求権」があります。

株式会社なら、その会社が利益を出し、会社の規模が大きくなれば株式の価値も上昇します。つまり、最初に出した資金よりも価値が大きく膨らむわけです。20年後、会社を辞めるときに株式の価値が10倍になっていれば、株式を売却することで10倍のお金を受け取ることができます。

医療法人でも、定款に「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払い戻しを請求することができる」と書かれている場合には、同様の考え方を取ることができるのです。

これが問題でした。

前記と同様に、20年後にその医療法人の価値が10倍になっていた場合、「その出資額に応じて払い戻しを請求」できたらどうなるでしょうか?

2億円で始めた医療法人が、10倍の20億円の価値になっていると算定されたら、医療法人から半分、すなわち10億円支払ってもらえることになります。このようなことを行われると、最悪その医療法人の経営が傾いてもおかしくありません。

政府としては医療法人が継続して医療に貢献し続けることこそが大事ですので、それでは困るのです。実際、この医療法人の出資持ち分の払い戻し・返還請求についての訴訟が起こり、問題になりました。このような訴訟は医療法人の承継にも影響します。

そこで、法改正が行われ、2007年4月1日以降は持ち分ありの社団医療法人を作ることができなくなりました。しかし、『厚生労働省』の「種類別医療法人数の年次推移」によれば、2018年(平成30年)時点で以下のように持ち分あり社団医療法人はいまだ多いのです。

持ち分あり社団医療法人 3万9,716
持ち分なし社団医療法人 1万3,859

参照・引用元:『厚生労働省』「種類別医療法人数の年次推移」

「持ち分あり」の場合、承継案件が巨額になることあり

というわけですので、持ち分ありの医療法人の場合には譲渡(承継)が行われる際は、出資持ち分の評価額が膨らんで問題になることがあります。繁盛している病院なのに後継者がいないなんてことが往々にしてあるのは、承継する第三者がその金額を用意できないのが理由だったりするのです。

まとめ

現在では前記のとおり「持ち分ありの社団医療法人」を設立することができません。「持ち分なし」の医療法人の場合には、出資額に応じた財産権・返還請求権がありませんので、解散時には残余の財産は国・地方公共団体などに帰属することになります。ですから、医療法人の設立前から、積み上げた利益、退職金などについてどのようにするのかを考えておく必要があります。また、一度医療法人を設立したら基本なくすことはできません。そのため、医療法人を設立するのなら十分に準備、下調べをしておきましょう。

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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