開業医の平均年齢が60歳を超えており、医療現場からのリタイヤを考える医師・クリニック院長が増加しています。そのため、クリニックを誰かに引き継いでほしいという承継案件も増えています。このような承継案件で開業医になろうという方もいらっしゃるでしょう。ただし、「個人立」と「医療法人立」のクリニックでは、承継の手続きに違いがあります。これをまず理解しておかなければなりません。
今回は、承継案件を考える上での基礎知識、「個人立」と「医療法人立」で手続きがどう違うのかについてご紹介します。
クリニックの承継手続きは設立形態によって異なる
クリニックには大きく分けて「個人立」と「医療法人立」があります。「承継」という視点で考えると、どちらが良い悪いではなく、この2つでは譲渡の手続き、注意しなければならない点が異なるのです。
個人立の場合は新規開業と同じ
個人事業として営まれている個人立のクリニックの場合には、診療所の譲渡契約を締結するのですが、その契約の対象となるのは内装や機器などの固定資産、これに営業権をセットにしたものになります。
このようなクリニックを引き継ぐ場合には、実は法律上は「新規開業」と同じです。
それまでの個人立のクリニックはいったん閉院し、その上で承継する人が翌日に新規開業する、という段取りになります。これで患者さんの引き継ぎが可能です。
注意しなければいけないのは「届け出」と「申請書」です。新規開業と同じですので、「診療所開設届」を保健所に出す必要があります。この届け出が認められた日が「医療法」上は医療機関と認められた日になります。
また、社会保険診療を行うためには、「保険医療機関指定申請書」を地方厚生局に提出し認可を受ける必要があります。これが受理されて初めて「医療機関コード」が割り振られ、社会保険が適用される診療が行えるのです。この受理手続きには通常1カ月かかります。
そのため、患者さんを引き継いでも1カ月はそのクリニックで社会保険診療ができないという困った事態になってしまいます。これは手続き上のタイムラグの問題で、「保険医療機関指定申請書」はその診療所が開設されてからではないと受け付けてもらえないために起こります。
この事態は地方厚生局に「遡及申請」を出すことで避けることが可能です。これは例外的に保険医療機関の指定日を遡って認めますという制度です。
ただし、この例外が認められるのは以下の場合のみです。個人立のクリニックを個人事業主が承継する場合は、「1」が該当します。
- 保険医療機関等の開設者が変更になった場合で、前の開設者の変更と同時に引き続いて開設され、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関等の開設者が「個人」から「法人組織」に、または「法人組織」から「個人」に変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関が「病院」から「診療所」に、または「診療所」から「病院」に組織変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関等が至近の距離に移転し同日付で新旧医療機関等を開設、廃止した場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
参照・引用元:『関東信越厚生局』「指定期日の遡及の取扱いについて」
「1」に該当しますが、前のクリニック院長が閉院する翌日に開設していなければなりません。患者さんの引き継ぎをきちんと行っていることが前提です。これは遡及申請の際に問われます。承継する医師は引き継ぎ期間をしっかり取って、準備していることが大事なのです。
医療法人立の場合は理事長が替わるだけ
一方の医療法人立の場合には、手続きは理事長の交代だけで事業承継できます。法人自体は同じ(保険医療機関としても同じ)で経営者が交代するだけなので、上記のような社会保険診療についての申請書、また遡及申請の手続きも必要ないのです。
ただし、持ち分ありの医療法人の場合には理事長が設立時に拠出した「出資金」の譲渡という手続きが必要で、これをどのように処理するかについて契約を締結しなければなりません。
まとめ
このように、「個人立」と「医療法人」では、基本的な手続き自体が全く異なります。患者さんからは、医師・クリニック院長が替わった、理事長が替わっただけに見えますが、個人立のクリニックの場合には、法的には新たなクリニックが開院したことになるというわけです。
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この記事は、2021年4月時点の情報を元に作成しています。