診療報酬の請求では現在ほとんどの病院・診療所でレセプトコンピューター(以下「レセコン」と表記)が使われています。レセコンにも多くの種類がありますが、日本医師会標準レセコンは「ORCA(オルカ)」です。
日本全国の医師の診療報酬請求をIT化するためにプロジェクトが立ち上がり、以降その機能を進化させてきた歴史があります。「ORCA」は現在どこまできていて、この先どのようにバージョンアップしていくのでしょうか。
「日本医師会ORCA管理機構株式会社」の上野智明取締役副社長、営業企画部の福田知弘さんにお話を伺いました。
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「ORCA」プロジェクトが起動する
――「ORCA」はそもそもどのように始まったのですか?
上野副社長 もともとレセコンはとても高価なもので、さらに診療報酬改定があるたびにお金がかかりました。そういった点に医師会の先生方は不満を感じていたわけです。
20年以上も前ですから、電子的なレセプト(診療報酬明細書)もなく、電算化に取り組まれていたころの話です。ただ、世間ではオフィスオートメーション化がどんどん進んでいました。
――企業でワープロやパソコン、プリンターが普及し始めたころですね。
上野副社長 ところが医療機関の方は進んでいなかったのです。唯一デジタルで動いていたのがレセコンでした。財務省の方は医療費を絞れといい、医療の分野ではIT化を進めろという話が出ていました。
医師会が考えた答えの一つがオープンソースでレセコンのソフトを作り、先生方のIT化を助けるというものでした。それでレセコンを作れとなったのですが、そう簡単に作れるものではなく、大変だったわけです。
――なるほど。国からの医療費適正化の要請とIT化促進の、矛盾した要請があったのですね。
上野副社長 医師会としては、「ORCA」をもって国の要請に対峙するという考えがありました。また、ちょうど「EBM」(Evidence-Based Medicine)という言葉がはやり始めたころで、レセコンができればデータが取れてEBMにも役立つだろうという部分もありました。
また、地方の先生方から日医がレセコンを作ってくれれば……という声が何年にもわたってありました。この声に応えたという面もあります。他にも理由はありますが、そのような状況と要請の中、「ORCA」のプロジェクトがスタートしました。
――さまざまな要素がプロジェクトを後押ししたのですね。
上野副社長 現在ホームページでは「ORCAプロジェクト設立意図」(2002年)となっていますが、その前の2000年からプロジェクト自体は日医総研(日本医師会のシンクタンク)でスタートしていました。その後、「医師会総合情報ネットワーク構想」(日医情報化検討委員会)を構成するツールの一つとして認められ、いろいろ試し、「いけそうだ」となって始まっています。
――オルカのマークに「2000」と入っているのはそのためなのですね。
上野副社長 日本全国の医師会に呼び掛けて試験運用を行いました。何カ月か準試験、本試験という形で行い、本番がスタートしています。
――プログラムの開発にかかってから本試験がスタートするまで、どのくらいの時間がかかったのでしょうか?
上野副社長 2年はかかっています。当時はオープンソースということで「Linux(リナックス)」業界の重鎮の方々が多くの協力をしてくださいました。
本番での運用は10くらいの医療機関で開始し、その後、ゆっくりですがユーザーは増えていきました。当時は普及のペースを5年で1万人と見込んでいましたが、その倍ぐらい時間がかかりました。先生方の支持を得て、年間1,000人ぐらいのペースで増え、ここまできたわけです。
――要求される仕様もいろいろ変遷があったのでは?
上野副社長 レセプトの電子化、今ならオンライン資格確認、その都度話があり、対応を重ねてきています。
――現在注力しているのはどんな点ですか?
上野副社長 電子カルテも今伸びているのはクラウド型のものですので、私たちは「ORCA」のクラウド版に力を入れています。
現在クラウド型のレセコンにはまだちゃんとしたものがないですね。ですので、私たちは、それを先取りしながら進めていこうとしています。
私たちの目的は、
- 保険診療請求のインフラとしてどこの医療機関にもある
- (意識されないでも)実は「ORCA」を使っている
というところまでいくことです。
医療には「質の部分」と「保険請求の部分」があるわけですが、保険請求のインフラ部分を押さえることを目指しています。現状としては業界2位、シェア2割となっています。このまま続けていけば、シェアトップになれるでしょう。
――「ORCA」の電子カルテは作らないのでしょうか?
上野副社長 電子カルテも作ってほしいという声はあるのですが、日医のサービスの立場として、小児科から精神科まで全ての診療科目をカバーするオールマイティーな電子カルテを開発するのはとても大変です。かつ、コンピューターの好きな先生方が集まって議論しても、これが電子カルテだと仕様を決めることは困難です。
ですので、電子カルテはメーカーの皆さんで作ってください、私たちは診療報酬請求の部分をやります、というのが一貫したスタンスです。つまり、「ORCA」は「レセプトエンジン」であることに徹しており、クラウド対応版になってからそれはますます顕著になっています。
用意されたAPI(Application Programming Interfaceの略:アプリケーション・プラグラミング・インターフェース)※を使って電子カルテと接続し、連携して使っていただくというコンセプトを貫いています。
先生方には、「ORCA」を選んでおけば電子カルテは好みのものを選ぶことができます、と伝えています。これまでのメーカーではレセコンも電子カルテも選択肢はそのメーカーの製品しかありません。「ORCA」では、接続する電子カルテがたくさんあります。レセプトの部分は「ORCA」が支えます、ということですね。私たちは、年数・実績・ブランドで先生方に安心して使っていただけるように「ORCA」の開発を進めています。
※APIは外部のプログラムと接続するためのいわばソケットのような役割を果たします。APIの仕様が公開されていれば、そのソフトと連携するためのプログラムを作ることができます。
西日本の医師の方が新しいものに熱心?
――「ORCA」が登場した当時の医師の反応はいかがでしたか?
上野副社長 日経の一面にも載りまして、都道府県レベルの医師会から多数、試用に参加したいという希望をいただきました。なぜか西日本の方が多かったですが(笑)。地元でIT化を推進している先生であるとか、そういった方がまず「ORCA」を使うというのがブームになりましたね。
――なぜ西日本の先生方が多かったのでしょうか?
上野副社長 それは分からないのですが、4、50年前に「三洋電機」が日本初の卓上型のレセコンを出しましたが、やっぱり売れたのは西日本の方だと聞いています。新しいもの好きな人が多いのかもしれませんね。
「ORCA」はAPIの拡充に向かっている
――「ORCA」がこれから目指す方向性について聞かせてください。
上野副社長 若い先生のほとんどが電子カルテを使う時代になっていますので、電子カルテとのAPIを拡充していく方向で進めています。いわゆる「レセプトエンジン化」です。電子カルテは、APIでクラウド上の「レセプトエンジン」に接続するのが一般的になると思います。
福田さん 「ORCA」は多くの先生方に使っていただくための進化を続けています。昔は紙のカルテとレセコンだったのですが、今、開業する先生方は電子カルテが基本で、9割以上は電子カルテとレセコンという形になります。
ですので、電子カルテと連携ができないと「ORCA」も選ばれません。どの電子カルテでも連携できる環境を作っていくしかないだろうと考えています。
――そうすると電子カルテとレセコン一体で開発している企業がライバルになりますね。
福田さん そのような大企業の場合には企画・開発・テスト環境などがしっかりしているのですが、小さな電子カルテメーカーの場合には良い製品であっても厚生労働省のガイドラインをきちんと守っているのかどうか、セキュリティーやデータの取り扱いなど手薄になるところがでてきます。
そこで、管理機構の方で電子カルテの認定組織を作り、評価した製品については大企業の製品と同等のセキュリティーは担保されていますと先生方が分かるようにしたいと考えています。その電子カルテと「ORCA」を一緒に使っていただくようにする取り組みです。
――なるほど。
福田さん 「ORCA」の普及のキーになるのは、これからは広報や宣伝ではなくて、電子カルテや他の製品とどれだけシームレスにつながるのかであると見ています。ですので、先ほど上野から話があったようにAPIの強化に取り組んでいるわけです。
それから現在「API協議会」というものを開催しておりまして、110社ぐらいが参加されています。APIの公開を行い、また「ORCA」と連携したい企業からの要望を聞いてAPIを拡張していきます。多くの企業に受け入れてもらえる環境を作っている状況です。
また、APIだけではなくて、UI(User Interfaceの略:ユーザー・インターフェース)のパーツも提供しております。電子カルテ・レセコンが一体となったかのような操作感を得ることができるようにという意図からです。APIを設けて連携できる分、電子カルテ側がUIを開発しなければならなくなりますから、その手間を省力化できると思います。
――それは素晴らしい取り組みですね。
「ORCA」は日医の「IT化宣言」を体現したレセコンである
――最後にこれから開業する医師に「ORCA」のアピールをお願いいたします。
上野副社長 時代は変わっても、医者という職業は地域の住民にとって頼りになる、なくてはならない存在です。デジタルの時代になってもそれは変わりません。私たちはそれを支援していきます。
2016年に日本医師会はIT化宣言を行っています。
日医IT化宣言2016
- 日本医師会は、安全なネットワークを構築するとともに、個人のプライバシーを守ります。
- 日本医師会は、医療の質の向上と安全の確保をITで支えます。
- 日本医師会は、国民皆保険をITで支えます。
- 日本医師会は、地域医療連携・多職種連携をITで支えます。
- 日本医師会は、電子化された医療情報を電子認証技術で守ります。
2016年6月 公益社団法人 日本医師会
宣言の中で、日医はIT化で日本の皆保険制度を支えると述べています。それを体現するのがこの「ORCA」です。ですので、皆さん安心してお使いいただければと思います。
福田さん これから開業する先生方は、自分の使いたい電子カルテを選ばれるでしょう。その電子カルテの中にはこっそりと「ORCA」がいるかもしれませんが、ぜひ「ORCA」の入っている電子カルテを選んでいただきたいですね(笑)。
――ありがとうございました。
まとめ
「ORCA」は日本のレセコンの草分けであり、日本の医師、医療行政と共に歩んできました。その歴史はすでに20年を超えています。今回取材した上野副社長の言葉にもありましたが、この先も「レセプトエンジン」として日本の医師の業務を支え続けることでしょう。
取材協力:「日本医師会ORCA管理機構株式会社」
この記事は、2021年8月時点の情報を元に作成しています。