美容クリニックの開業を考えるとき、まず最初に悩むのが開業資金をいかに効率よく使っていくかということです。
一般的な内科などのクリニック開業と比較して、内装や機器に費用をかける傾向にあるため高額な開業資金が必要だと言われていますので、より慎重に検討していく必要があります。
この記事では、美容クリニックの開業資金が高額になる5つの理由と、開業資金を効率よく運用するポイントについて紹介します。
美容クリニックの開業資金はいくら必要?
開業する地域、物件や設備の規模、美容医療の内容によって必要な開業資金は大きく異なりますが、保険診療をメインとする内科と比較して、約2倍の資金が必要となります。
開業資金の目安としては、以下の項目と金額が挙げられます。
- 賃料、敷金礼金など物件費用 およそ200万〜1,000万円
- 内装設備、家具や備品などの費用 およそ1,000万〜3,000万円
- 美容医療に必要な医療機器の費用 およそ2,000万〜7,000万円
- 医師や看護師、事務職員を雇う費用 およそ100万〜300万円
- 広告宣伝やWebマーケティング費用 およそ100万〜500万円
- 税金や医師会の会費などの諸費用 およそ100万〜300万円
- 電気、水道、ガスといった光熱費 およそ10万〜30万円
美容クリニックの開業資金が高くなる5つの理由
美容クリニックの開業では、保険診療をメインにする一般クリニックと比較して、開業資金が高くなります。
クリニックの開業をする際に、多くの医師が融資を受ける金融機関として日本政策金融公庫がありますが、ここでは融資限度額は7,200万円として設定されていますが、美容クリニックの開業は融資限度額以上の資金が必要となるケースが多いことからも、高額な開業資金が必要ということがわかります。
ではなぜ、美容クリニックでは開業資金が高額になるのでしょうか。具体的な理由についてご紹介します。
医療機器が高額、かつ種類も多い
美容クリニックで取り扱う医療機器は単価自体が高いものが多いです。
機器自体に最新の技術が導入されていたり、メンテナンスのランニングコストが発生し続けることも高くなる要因でしょう。
また、一般的にメーカーの価格設定は、基本的に市場価格が考慮されたものとなっています。この辺りが、医療機器が高額な要因です。
また、美容クリニックに来院する顧客の心理として、「自分の身体に使うものだから、最新機器で施術をしてくれるクリニックがいい」「せっかくキレイになるために施術してもらうのだから多少高額でもいい」というものがあります。
この心理を考慮して、型落ちではなく、最新機器を導入して、他のクリニックとの差別化を図ろうとするクリニックも少なくないのではないでしょうか。
するとほかのクリニックも追随するため、結局は多くのクリニックが最新機器の導入を行うことになるのです。
こうした流れもあって、開業資金は増えていきます。
人気の立地と物件が固まっているため
美容クリニックの開業を考える経営者の多くには、立地を選ぶ際「やっぱり恵比寿や銀座で開業」という固定概念が少なからずあるようです。
銀座周辺の地価を見ると、坪単価5,000万円から1億5000万円以上にもなるのに対して、例えば、となりの埼玉県の中心地、大宮では坪単価1,000万円前後と同じアクセスの良い中心地でも5〜15倍近く地価が変わります。
美容クリニックの立地選びでは、美容に意識が高い人が集まる地域で、集客がしやすくアクセスの良い立地で開業しがちになります。つまり、好条件の地価が高い地域の物件を賃貸しようと思うと、物件にかかる費用は高額になってしまいます。
内装にもこだわる必要があるから
美容クリニックは美を意識した人が来院するので内装にもこだわる必要があります。
印象に残る内装であれば、SNSでの拡散やリピートにもつながり集客も期待できますが、その一方で、特にこだわりもなく見栄えのないような内装であれば口コミや集客にも悪影響の可能性があります。
一般クリニックと比べて、ある程度は内装設備にこだわる必要があることが、初期費用が高くなる理由になります。
人件費を高めに設定する必要があるから
美容クリニックの職員は、一般クリニックの職員より給料が高めに設定されています。
クリニック自体の収益が高いこと、競合する美容クリニックが優秀な人材を確保するために給料相場が上がっていることが要因です。
求人情報サイトで調べると、銀座の美容クリニックの看護師の月給は35万円〜45万円が相場となります。
その一方で、大卒看護師の給与は約27万円。東京都内のクリニックでも30万円〜35万円となるので、比較すると美容クリニックの給与の高さがわかるでしょう。
多額の広告費用が必要だから
美容クリニックは人気の立地に密集して開業する傾向にあるため、多額の広告費用を投資して集客をする必要があります。
例を挙げると、Googleマップ「銀座 美容クリニック」の検索結果からも、競合となるクリニックがいかに多いのかがわかるかと思います。これほどたくさんある美容クリニックの中で、検索結果に埋もれることなく、目立つようなWebマーケティング戦略を取っていかなければなりません。
しかも、ほとんどの美容クリニックはリスティング広告を行っていることからも、広告費を節約した集客というのは現実的に難しいと言えます。
美容クリニックの開業資金を抑えるポイントは?
ここまで美容クリニックの開業資金が高額になる理由を紹介してきました。
それではどのように対策すれば、開業資金を効率的に運用して費用を抑えることができるのかについて紹介します。
クリニックのコンセプトにあった物件選びをする
開業資金が高額になる理由で紹介しましたが、立地によって物件の賃料は大きく変わります。
美容クリニック激戦区で賃料の高い銀座や恵比寿で高級志向として開業するのか、もしくは、東京都内からはなれた中心地で賃料を抑えた開業をするのか、経営コンセプトによってバランスを考えた物件選びが大切です。
ただし、都心部から離れた場所で開業する時は、経営コンセプトにも工夫が必要です。
銀座や恵比寿のような、美意識の高い人がたくさん集まるところでは、ある程度の集客を見込めるでしょう。
しかし、都心部から離れた立地で開業となると簡単に集客できるとはいえません。
わざわざ移動に時間をかけて来院してもらう必要がありますので、自院にしかない特徴を上手く売り出さないと集客は難しいでしょう。一例として、美容外科手術の技術力があるなどがあるかもしれません。
また物件探しでは、不動産業者に余分な手数料を取られていないかが費用を抑えるポイントです。知り合いの経営者から聞いた話では、不動産業者によっては物件の仲介手数料を上乗せして請求してくるところもあるようです。
仲介手数料は、法律で賃料の0.5ヶ月分を上限とすることが決まっているにも関わらず、知らないことをいいことに1ヶ月分以上の仲介手数料を請求する業者もありますので、見積書の内容をしっかり確認することが大切です。
医療機器など設備は必要最低限にする
こちらもクリニックの経営コンセプトによりますが、最初は必要最低限のものだけにすることで初期投資を抑えることができますので、バランスを考えて医療機器に投資しましょう。
そのうえで、医療機器の必要資金を抑える方法としては、リースや中古品で揃える方法があります。
リースでは、初期費用を抑えることができ、新しい機種が販売された時には乗り換えも楽にできるメリットがあります。しかも資産として保有しないので、固定資産税がなくランニングコストにおいても節約できます。また、必要な医療機器を全て中古品でそろえることで、開業資金を抑えることができます。
どのような購入形態においても、業者の見積もり通りの価格で購入するのではなく、必ず交渉をすることをおすすめします。
医療機器メーカーや代理店の立場で考えると、新規開業は売上を獲得する絶好のチャンスであり、なんとしても成約させたいと思っているものです。
相見積もりをとったり、知り合いの経営者にいくらぐらいで購入できたのかなど、情報を集めてからの方が価格交渉もしやすいでしょう。
看護師や受付などの職員は最初から増やしすぎない
クリニックの立地が都内よりも郊外、正社員よりも非常勤やパートの方が、一般的に人件費を抑えることができます。
開業したばかりの時は、どのくらいの集客が見込めるかの判断が難しいので、初期投資としては最小限の人員でのスモールスタートが経営をうまくいかせるポイントです。
必要以上の職員を正社員で雇ってしまうと人員削減するのも一苦労ですので、最初は非常勤やパートを中心に運営しているクリニックも多いようです。
クリニックの事業承継案件も選択肢にいれる
クリニック承継で開業することも初期費用を抑える選択肢の一つです。
承継するクリニックの収益や、前経営者が譲渡する理由、医療機器などの設備状況を慎重に検討をしなければなりませんが、好条件の案件があれば有力な手段となります。
医療クリニックを専門にマッチングサポートをしている業者もありますので、会員登録して情報を集めておくこともおすすめです。
また筆者の経験から、医療機器代理店の営業マンに聞いてみるのも情報収集として有効な手段です。医療機器代理店はさまざまな美容クリニックに出入りをしており、クリニック内情に詳しいことがあります。
おおやけにはまだ募集していない、好条件の承継案件をつかんでいるかもしれませんので、日頃から関係を持っておいた方がいいでしょう。
美容クリニックで勤務し、経営の肌感を身につける
直接的に開業資金を抑える方法ではありませんが、実際に美容クリニックに勤務してから、開業を検討するのも選択肢の一つです。
こちらも筆者の経験ですが、病院での勤務から、知り合いのクリニックで勤務医(雇われ院長)として働き、その後に独立をして開業した医師から話を聞いたことがあります。
「実際に経営者として働き集客できた経験から、独立しても成功をさせる自信がついた」
「経営者としての考え方や、費用を使う勘所がわかった」とのことです。
高額な資金を投資する開業だからこそ、知り合いや先輩のところで経験してからという方法も検討してみてはいいのではないでしょうか。
美容クリニックは開業計画が大切
美容クリニックの開業資金が高額な理由と、費用の抑え方について紹介してきました。
開業計画によって必要な資金は大きく変わりますが、いずれのケースでも費用を抑え効率よく資金運用をすることが大切です。
本記事を参考に、まずは開業の最初の一歩である物件探しに着手してみてはいかがでしょうか。
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2023年6月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療ライター ミナト
製薬会社MRとして営業職を経験。その後は営業組織の管理職となり、マネジメントやマーケティングを行う。
数多くクリニックの開業サポートをしてきた経験から、経営に役立つ情報をたくさんの人に広めたいとの想いを持つ。「医療×経営」の記事を中心に執筆活動中。
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