クリニックで導入したい「職場のストレスチェック」とは?

労働者が50人以上の事業所では、ストレスチェックを実施することが労働安全衛生法によって義務付けられています。労働者が50人未満の事業所には義務が課されてはいませんが、同法において“努力義務”が推奨されていることからも、実施するに越したことがないといえます。すなわち、従業員数が少ないクリニックでもストレスチェックをおこなったほうがいいということになりますが、具体的にはどんなことをすればいいのでしょうか? 早速みていきましょう。

参照:労働安全衛生法 第六十六条の十

目次
  1. 職場のストレスチェックとは?
  2. クリニック従業員にはストレスが多い?
  3. ストレスチェックのやりかたは?
  4. クリニックの場合、ストレスチェック後の面接指導は誰が担当する?
  5. ストレスチェックおよび面接指導を受ける時間に、給料は発生する?
  6. 面接指導の結果は、院長にはどのように伝わる?
  7. ストレスチェックは実施するだけでは意味がない

職場のストレスチェックとは?

ストレスチェックとは、従業員一人ひとりに自分のストレスがどの程度であるのかを自覚してもらうべく、ストレスに関する質問に答えてもらうことで、ストレスの度合いを数値化するものです。数値化の方法は、従業員が記入した質問票をもとに分析、評価をおこなうというもの。

その結果、高ストレスと判定された従業員がいた場合、該当者からの申し出があれば、だいたい1か月以内に医師の面接指導を受けさせる必要があるとされています。また、該当者の負荷軽減や配置転換を実施することで、労働環境改善を試みることもあります。

クリニック従業員にはストレスが多い?

厚生労働省が公表している令和3年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する事案の労災補償決定および支給決定件数がもっとも多い業界は、医療・福祉業界です。このことからも、クリニック従業員にはストレスを抱えている人が一定数存在していることがわかります。

【精神障害の業種別請求、決定および支給決定件数】

請求件数 支給決定数
1位 医療・福祉(24.6%) 医療・福祉(22.6%)
2位 製造業(15.0%) 製造業
3位 卸売業・小売業(13.0%) 卸売業・小売業(12.1%)

参照:厚生労働省令和3年度「過労死等の労災補償状況」「精神障害に関する事案の労災補償状況」より一部抜粋

ストレスチェックのやりかたは?

冒頭で説明した通り、クリニックの従業員数が50人未満であれば、ストレスチェックを必ず実施しなければならないということはありません。しかし、医療・福祉業界にはストレスを抱えている人が多いことを考えると、定期的にストレスチェックをおこない、うつ病などを未然に防ぐことが大切だといえます。では、具体的にどのような方法でストレスチェックできるかというと、簡単に実施できる方法のひとつとしては、厚生労働省が用意している「5分でできる職場のストレスセルフチェック」を利用する方法があります。

これは、「STEP1:仕事について」「STEP2:最近1カ月の状態について」「STEP3:周りの方々について」「STEP4:満足度について」の4つのSTEPにわかれた57の質問に4拓で回答していくことで、現在のストレスの目安がわかるというもの。所要時間は約5分で、webサイトにアクセスすれば無料でチェックすることができます。
結果は、「ストレスの原因因子」「ストレスによる心身反応」「ストレス反応への影響因子」の3つがそれぞれどんな要素で構成されているかのグラフとして表示されるほか、客観的に判断された現在の状態や、ストレスケアのアドバイスも確認することができます。

ただし、無料で利用できるサイトを活用してのストレスチェックでは、労働安全衛生法に基づくストレスチェックを実施したとはみなされません。そのため、従業員が50人以上のクリニックにはこのやりかたは不向きです。

参照:厚生労働省「5分でできる職場のストレスセルフチェック」

参照:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」ストレスチェック制度関係Q&A Q3-10より一部抜粋

クリニックの場合、ストレスチェック後の面接指導は誰が担当する?

前半で述べた通り、ストレスチェックによって高ストレスと判定された従業員がいた場合、当該の従業員からの申し出があれば、概ね1か月以内に医師による面接指導を受けさせる必要があるとされています。ここで疑問に思うのは、「クリニックの場合、院内に医師がいるから内部で面接指導を済ませていいのか?」ということでしょう。

これに関しては、厚生労働省が運営するサイトにおいて、「病院長は従業員に対して人事権を持っているため、ストレスチェックの実施者にはなれません」と明記されています。つまり、そもそもストレスチェック自体、クリニックでおこなうことはできないということです(※ただし、安全衛生法に基づくストレスチェックの要件には満たないですが、従業員の心身の健康キープのためにクリニックで自主的におこなうものに関しての制限はありません)

では、ストレスチェックおよび面接指導は誰が実施すればいいかというと、「人事権を持っていない、他の医師や保健師、一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士または後任心理士から実施者を選ぶことになります」とされています。

参照:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」ストレスチェック制度関係Q&A Q6-5より一部抜粋

ストレスチェックおよび面接指導を受ける時間に、給料は発生する?

従業員にストレスチェックや面接指導を外部のクリニックなどで受けてもらうとなると、それなりに時間がかかります。では、ストレスチェックを受けるためにかかった時間に対して給料は発生するかというと、労働者の健康確保は事業の円滑な運営のために不可欠であることを考えると、一般検診と同じ扱いにして、賃金を支払うことが望ましいといえます。ただし、支払わなければいけないと法で定められているわけではないので、労使で協議して決めるようにしましょう。

参照:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」ストレスチェック制度関係Q&A Q0-5より一部抜粋

面接指導の結果は、院長にはどのように伝わる?

外部機関による面接指導実施後、必要な情報に限定すれば、指導を受けた本人の同意がなくとも事業所に伝えることができるとされています。何を持って「必要」とするかというと、労働者の健康や安全を守るために周囲も知っておくべきかということです。

参照:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」ストレスチェック制度関係Q&A Q10-1より一部抜粋

ストレスチェックは実施するだけでは意味がない

ストレスチェックおよび面接指導を実施した結果、高いストレスを抱えている従業員がいることがわかったら、当該者の健康と安全を守るためにクリニックとしてもできる限りサポートすることが必要です。また、現状、ストレスを抱えていない従業員であっても、今後ストレスを発症する可能性は十分あり得ます。ストレスチェック実施が、「従業員がストレスなく毎日を過ごすためにクリニックとして何ができるか?」を考えるきっかけとなるよう、労働環境を常に改善し続けていきたいものですね。

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