看護師の仕事は、「診療の補助」と「療養上の世話」の大きく2つにわけられます。前者は、問診や各種検査、患者の状態の観察および報告、家族への説明などを通して医師をサポートすることで、後者は、食事や入浴の介助、排泄補助といった、患者に日常生活を快適に過ごしてもらうためのサポートです 。今回はこれらの仕事のなかから、「食事介助」に焦点を当てて、注意点や気を付けるべきポイントについて解説していきます。
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看護師が食事介助をおこなううえで大切なことは?
まず、看護師が食事介助をおこなううえで大切なことは、「安全性」と「食べる喜び」の両方に配慮することです。
食事介助において「安全性」が重要な理由
私たちが食事を摂る本来の目的は、「生きるうえで必要な栄養を摂取すること」ですが、病気や障害などが理由で、自力で栄養を摂取することが難しくなると、誤嚥の可能性などを理解したうえで食事介助をおこなってくれる人が必要になります。
なお、「誤嚥」とは、食べ物や水分が気管内に入ることを意味します。誤嚥を防ぐためには、頸部を後屈させない姿勢を取ってもらうことが大切です。また、万が一、誤嚥した場合、咳をして食べ物や水分を出す力があるかどうかを確認しておくことも大切です。
食事介助において「食べる喜び」が重要な理由
しかし、安全性にのみ配慮していればいいかというと、そういうわけではありません。どうしてかというと、人間にとって「食べること」は、精神の健康にも大きく関わってくることだからです 。食べ物を摂取して「おいしい」と感じれば高い満足感を得ることができますし、あるいは食事の時間を人と共有できることに幸せを感じれば、笑顔を取り戻せたり、「あしたの食事の時間も楽しみだな」とワクワクするようになったりすることが期待できます。
看護の目的は、一人ひとりが本来持っている自然治癒力に働きかけ、回復しやすい環境を整え、健康の保持増進や未病予防、病気が原因の苦痛緩和をおこない、生涯を通してその人が自分らしく暮らせるようサポートすること ですが、食事介助もまさにその一端を担っているのです。
看護師の食事介助の手順は?
続いては、看護師による食事介助の具体的な手順を説明します。
患者に食事の準備ができたことを伝える
まずは、患者に食事の準備ができたことを伝え、「ベッドから起きましょう」と声をかけます。
患者に手洗い、うがい を促す
食事の前には、患者に手洗い、うがいを促します。ただし、たとえば脚を骨折しているなどの理由で、毎回ベッドから起き上がるのが困難な場合は、おしぼりで手指を拭いてもらうのでも構いません。
患者の体勢を整える
椅子に座れる患者の場合
テーブルで食事する場合、誤嚥を防ぐために患者の頸部を前屈させて、足裏をしっかり床につけた状態に体勢を整えられるようサポートします。椅子の高さは、膝が90度程度になるよう調整します。テーブルの高さは、患者が軽く前傾姿勢をとったときに、肘が90度くらいになるように調整します 。
ベッドで食事する患者の場合
ベッドで食事する場合、ベッドを背上げしてから、膝下に枕やクッションを当てるなどして、患者が安定した姿勢を維持できるようサポートします。また、テーブルで食事するとき同様、「頸部前屈位」を保持できるよう、ベッドを起こした状態で頭部に枕を挟んでもらいます。
座位での食事が難しい患者の場合
上体を起こすことができず、「ファーラー位」(半座位)で食事する場合も、頸部が後屈しないよう、頭部に枕を挟んでもらいます。
自分でうがいできない患者の口腔ケアをおこなう
自分でうがいできない患者の場合、看護師が口腔ケアをおこないます。なぜ食前に口腔ケアを行う必要があるかというと、口のなかの細菌を減らすことによって、誤嚥性肺炎の発症リスクが減ると考えられているためです。また、口腔ケアをおこなうと唾液が出やすくなることから、味を感じやすくなるメリットもあります。
看護師が患者の口腔ケアをおこなう方法は以下の通りです。
① 患者に口腔ケアをおこなうことを説明して、口を開けてもらう
② 口腔ケア用の歯磨きティッシュ、口腔ケアスポンジブラシ、舌ブラシなどを使って、頬の内側、歯ぐき、上あご、舌などをやさしく拭き取る
③ 患者に口腔ケアが終わったことを伝えて、口を閉じてもらう
必要に応じて義歯の装着を促す
患者が義歯の場合、義歯の装着を促します。
患者に嚥下訓練をおこなってもらう
患者に嚥下機能障害がある場合、食前に、頸部の運動、肩の運動、口唇まわりの運動、舌の運動をおこなってもらいます。
【嚥下訓練の一例】
1. 深呼吸する
2. 首を左右に倒したり、左右に回したりする
3. 肩を上下に動かして、その後、肩を中心に腕を回す
4. 両手を頭のうえで組んで、上半身を左右に倒す
5. 上半身を元に戻したら、頬を膨らませたりへこませたりする
6. 舌を出したり引っ込めたり、舌先で左右の口角に触れたりする
7. 息を深く吸い込んで、「パ」「タ」「カ」と5回ずつ言う
8. 再度、深呼吸する
患者に水分補給を促す
食事の前に水分で口腔内をうるおすことも、嚥下防止につながります。なお、患者の状態によっては水分補給時にストローを必要とするので 、必要かどうかを事前に確認して、必要であれば用意しておくことも大切です。
患者に献立を伝えて食欲を促す
献立を伝えることで、患者の食欲を刺激します。「今日は〇〇さんが好きなXXですよ」などと声をかけます。
個々の患者の状態に合わせて配膳する
配膳の際は、患者一人ひとりの状態に合わせて位置を調整する必要があります。たとえば、高次脳機能障害で半側空間無視のある患者の場合、障害のない側に配膳します。上肢や指の動きに障害があり、巧緻性が低下している患者の場合、障害に応じて箸をスプーンに替えるなどする必要があります。
一口分ずつスプーンで口に運ぶ
食事は、ティースプーンに軽く1杯程度すくい、口のなかに運んだら、舌の上に置きます。この際、スプーンを上方向から入れると、顎が上がって誤嚥しやすくなるため、やや下方向から入れるようにします。ただし、顔面に麻痺がある場合は、健側から介助します。
また、次の一口は患者が飲み込んだことを確認してから。患者のペースに合わせて食事を勧めていきます。
主食・副菜・汁物を交互に提供する
食事の際は、主食・副菜・汁物を交互に口に運ぶようにします。いわゆる、「三角食べ」です。ただし、あたたかいうちに食べたほうがおいしいものは、冷めないうちに食べてもらえるよう配慮するなど、料理の温度についても考えましょう。
また、食事の最中にも水分を適量摂取してもらいます 。
患者の意向を大切にする
三角食べは基本ではありますが、患者が食べたい順番や食べやすい順番がある場合は、患者の意向を尊重しましょう。
食事を下げていいかどうかを患者に確認する
患者が食べるペースや集中力が落ちてきたら、「まだ食べられますか?」「もうお下げしますか?」などの声をかけて患者の意向を確認します。
食べ終わったら、摂取量を記録する
摂取量は必ず毎回記録します。日々の食事量は患者の状態と直結します。また、目標とする量を食べることができた場合は、そのことを患者に伝えて、一緒に喜ぶことも大切です。「昨日より食べられましたね」などの声かけをして看護師が笑顔を見せると、患者もうれしくなります。
患者の口腔内に食べ物が残っていないかどうかを確認する
食物残渣がないよう、必要があれば義歯を外すなどした後、口腔ケアをおこないます。外した義歯もキレイに洗います。
食後約30分は身体を起こした状態を保ってもらう
食後、すぐに横になると、胃食道からの逆流による誤嚥が起こり得ます。これを予防するために、食後約30分は仰臥位(ぎょうがい)を避けることが大切です。
食事介助中の観察ポイント
患者の食事介助中、看護師が患者についてよく観察すべきポイントはいくつかあります。
姿勢について
前出の通り、食事するうえでは、座位であろうと半座位であろうと、頸部前屈位であることが大切です。姿勢が崩れて頭部の重力が後方に移動している状態だと、誤嚥する確率が高まるので注意が必要です。
咀嚼・嚥下について
咀嚼や嚥下ができているかを注意深く観察するのが重要であるのはもちろん、咀嚼しにくいものや、むせやすいものがあるようなら、それを見極めて記録していくことも大切です。また、咀嚼・嚥下したようにみえて口腔内に食物が残っていることもあるので、食物残渣がないかどうかをしっかり確認することも大切です。
また、加齢や病気の進行とともに咀嚼や嚥下の力が落ちてくることもあるので、今食べられているものが一カ月後にはうまく食べられなくなっているということも考えられます。そのため、咀嚼力・嚥下力が落ちていることが見受けられた場合、食べ物のサイズを変えていくことなども検討すべきです。そのため、患者の変化に気づいたときは、多職種へのホウレンソウすることで患者の情報を共有して、最適なサポートを提供していくことが肝心です。
食事の時間について
食事のペースは患者に委ねるのが望ましいものの、際限なくいつまでもだらだら食べさせるのはよくありません。なぜなら、食事時間が長すぎると患者が疲れてしまい、嚥下しやすくなるためです。それを防ぐためにも、食事時間は長くても30分程度に留めましょう。30分の時間があっても十分な量を摂取できない患者に対しては、栄養補助食品のおやつなどの間食を用意するのも一手です。
患者の食事への関心について
患者が食事に関心を持っているかどうかも、必ずチェックしたいポイントです。また、普段は食事に関心を示さない患者が、特定の料理を前にしてうれしそうな表情を垣間見せるようなことがあれば、確実に記録して周りにも情報を共有しましょう。患者が「楽しい」「うれしい」「幸せ」と感じる時間や対象に気づくことができたら、よりスムーズに患者のQOLを上げられる可能性が高まります。
食事介助のポイントは抑えておいて損はなし!
既に看護師として働いている人であっても、食事介助を必要とする患者と接する機会が少なければ、食事介助に関して、必要最低限の注意点以外は把握していないかもしれません。業務上、必要でなければ現状としては問題ないといえますが、将来的に転職する可能性があるようなら、現在の自分の業務の範疇ではないことも知っておいたほうが有利です。特に、訪問看護師として働くことが将来の選択肢のひとつである場合などは、介助に関する知識を常にアップデートしていくことがおすすめです。
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この記事は、2024年9月時点の情報を元に作成しています。