在宅医療、訪問医療を提供したいと考えているなら、電子処方箋の導入を検討したいところです。新しいことを始めると、そのぶん覚えなくてはならないことが増えて業務が煩雑化しがちなので、いかに業務を効率化していくかを考えることが大切だからです。なぜ電子処方箋の導入が業務の効率化につながるのか、スムーズに導入可能なのかなどを解説していきます。
電子処方箋とは
電子処方箋とは、従来、紙で発行されていた処方箋が電子化されたものです。電子処方箋は、オンライン資格確認の仕組みを前提としているもので、2023年1月6日から運用が開始されています 。
紙の処方箋と電子処方箋には違いはあるかというと、大きな違いは一点だけです。どんな違いかというと、電子処方箋に対応している医療機関や薬局であれば、当該電子処方箋を発行した医療機関以外でも、処方・調剤された薬をチェックすることが可能だということです。反対に、電子処方箋を発行する医療機関が、他の医療機関が発行した電子処方箋をチェックすることも可能なので、重複投薬・併用禁忌に該当しないかどうかを確認することもできます。
その他の違いは以下の表の通りです。
電子処方箋に対応した医療機関 | 電子処方箋未対応の医療機関 | ||
発行できる処方箋 | 電子処方箋 | 紙処方箋 | 紙処方箋 |
患者の資格確認方法/発行を希望する処方箋の選択方法 | マイナンバーカードの場合、顔認証付きカードリーターの画面上で選択。または診察時に医師・歯科医師に伝える。健康保険証の場合、診察時に医師・歯科医師に伝える | マイナンバーカードの場合、顔認証付きカードリーターの画面上で選択。または診察時に医師・歯科医師に伝える。健康保険証の場合、診察時に医師・歯科医師に伝える | 処方箋選択の必要なし |
医師・歯科医師が各印できる患者の薬剤情報の期間 ※本人の同意がある場合に限る |
直近~過去3年分(今後、過去5年分となる予定) | 直近~過去3年分(今後、過去5年分となる予定) | 約1か月前~過去3年分(今後、過去5年分となる予定) |
重複投薬・併用禁忌に該当しないかのチェック | 電子処方箋に対応した他の医療機関・薬局で処方・調剤された薬も対象にチェック可能 | 電子処方箋に対応した他の医療機関・薬局で処方・調剤された薬も対象にチェック可能 | 当該医療機関で処方した薬のみを対象にチェックする場合が多い |
電子処方箋管理サービスへの処方情報の蓄積 | 〇 | 〇 | × |
院外処方が必要な患者に渡すもの | 処方内容(控え) | 紙処方箋 | 紙処方箋 |
医療機関から薬局への処方箋の自動送信 | × | × | × |
電子処方箋に対応した他の医療機関・薬局で処方・調剤された薬をどうやってチェックするの?
紙の処方箋と電子処方箋のもっとも大きな違いは、前述の通り、電子処方箋に対応した他の医療機関・薬局で処方・調剤された薬もチェック可能ということですが、どうやってチェックするのかというと、クラウドに格納された電子データにアクセスして確認します。
電子処方箋として電子化された処方データは、社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会が管理するクラウド「電子処方箋管理サービス」に格納され るため、電子処方箋に対応している医療機関や薬局は、「電子処方箋管理サービス」にアクセスすることで必要なデータをスピーディに入手できるのです。
電子処方箋の導入の手順
続いては、電子処方箋の導入の手順を説明します。
電子処方箋を導入する際は、次の5つのステップを踏むことになります。
1. オンライン資格確認を導入する
2. 医師資格証(HPKIカード)の発行申請を進める
3. 電子処方箋に対応したソフト・システムを導入する
4. 電子処方箋の利用申請を進める
5. 運用フローを確認する
それぞれのステップを詳しく解説していきます。
オンライン資格確認を導入する
電子処方箋の導入にはオンライン資格確認の導入が不可欠です。とはいえ、オンライン資格確認システムの導入は令和5年4月から原則として義務付けられているため、未導入の医療機関は少ない と考えられます。
参照:厚生労働省「医療DXの基盤となるオンライン資格確認の導入の原則義務付け」
なお、令和6年11月8日時点における、全国のオンライン資格確認システム導入施設数は210,981軒で、全体の約99.74%の医療施設が導入しているということがわかります。
参照:デジタル庁「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」
万が一、現状、オンライン資格確認が未導入である場合は、厚生労働省が公表している「電子処方箋導入に向けた準備作業の手引き」などを参照しながら今すぐ導入しましょう。
在宅医療における被保険者資格確認の手順は?
オンライン資格確認自体の導入手順は、上記ホームページなどで確認できますが、在宅医療における被保険者資格確認の手順は特殊であるため、ここで一旦、説明します。
在宅医療において患者の被保険者資格確認をおこなうためには、マイナンバーカードの読み取り機能が備わったモバイル端末から「マイナ在宅受付Web」にアクセスする必要があります。「マイナ在宅受付Web」とは、マイナンバーカードでオンライン資格確認をおこなう専用システムです。
なお、「マイナ在宅受付Web」を活用して被保険者資格確認をおこなうためには、マイナンバーを手元に準備することに加えて、健康保険証をマイナンバーカードに登録しておくことが必要です。
「マイナ在宅受付Web」にアクセスしたら、次の5つの質問に対して、「同意する」「同意しないか」のいずれかで回答します。
回答が終わったら、同意登録内容について確認します。その後、4桁の暗証番号を入力してマイナンバーカードをかざして、同意登録を完了したら、資格情報が取得できます。
参照:医療機関等向け総合ポータルサイト「マイナ在宅受付WEBに関するよくある質問(FAQ)」
医師資格証(HPKIカード)の発行申請を進める
医師資格証とは、医療福祉分野の国家資格や管理者資格を証明するためのカードです。HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure)の頭文字を取って「HPKIカード」とも呼ばれています。
電子処方箋を発行する際や、地域医療連携の際に必要な認証をおこなうために必要な資格証で、この資格証がなければ電子署名をおこなうことができません。医師資格証は、医師・歯科医師・薬剤師ごとに1枚の発行申請が可能です。
参照:【対象者:医師】日本医師会電子認証センター「医師資格証(HPKIカード)新規お申込み」
参照:【対象者:医師・歯科医師・薬剤師】MeDis(Medical Information System Development Center)保健医療福祉分野公開鍵基盤 電子認証局のご案内
参照:【対象者:薬剤師】公益社団法人日本薬剤師会「日本薬剤師会認証局」
電子処方箋に対応したソフト・システムを導入する
電子処方箋に対応するためには、電子処方箋に対応したソフトやシステムを導入する必要があります。既に電子カルテやレセコンを導入している場合は、電子処方箋に対応するためのソフトをインストールしたり、システムを設定したりすることになります。
また、医師資格証を読み取るためのICカードリーダーの用意も必要です。
電子処方箋の利用申請を進める
電子処方箋に利用申請はオンライン上でおこなうことができます。利用申請を進めると、既存のレセコンや電子カルテから、電子処方箋管理サービスを使えるようになります。利用申請は、「医療機関等向け総合ポータルサイト」の「電子処方箋の利用申請」ページからおこなえます。
参照:厚生労働省「電子処方箋導入準備にあたり、電子処方箋の「利用申請」を行って下さい
参照:医療機関等向け総合ポータルサイト「電子処方箋の利用申請」
運用フローを確認する
電子処方箋を運用するための準備が整ったら、スタッフが問題なく使うことができるよう、マニュアルを作成するなどして運用フローを確認します。同時に、患者向けに電子処方箋に関する案内資料の準備も進めると安心です。
在宅医療、訪問医療における電子処方箋導入のメリット
在宅医療、訪問医療における電子処方箋導入のメリットは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
処方箋をスピーディに受け渡しできる
在宅医療や訪問医療で紙の処方箋を発行するためには、医師が患者宅・利用者宅にモバイルプリンターを持ち込む必要があります。もしくは、患者宅からクリニックに戻った後、クリニックから薬局へ処方箋を送付するという方法もありますが、いずれにしても、患者が必要な薬を受け取るまでには一定の時間を要します。
一方、医師が電子処方箋管理サービスを介して作製した処方箋が薬剤師にリアルタイムで共有されるため、患者の治療がスムーズになります。
重複投薬・併用禁忌をチェックできる
紙の処方箋の場合、重複投薬・併用禁忌の有無を確認する手段は、「患者のお薬手帳を確認する」「患者に直接、他に服用している薬を教えてもらう」「薬局で保管している、個々の患者の薬剤情報を確認する」のいずれかでした。
しかし、お薬手帳を持っていない患者、お薬手帳を失くした患者もいれば、服用している薬を覚えていない患者も多いことなどから、確認が困難なケースもありました。
一方、本記事の前半で説明した通り、電子処方箋管理サービスを活用すれば、他の医療機関が発行した電子処方箋をチェックすることも可能なので、重複投薬・併用禁忌に該当しないかどうかをしっかり確認できます。
紙の処方箋作成にかかる費用を削減できる
紙の処方箋を発行した場合、印刷する紙やインク代が発生するだけでなく、調剤を終えた処方箋や調剤録を3年間保管するためのスペースも必要です。
一方、電子処方箋であれば、紙代もインク代も保管スペースも不要です。
オンライン診療・オンライン服薬指導がスムーズ
在宅医療、訪問医療は毎回患者宅を訪れるわけではなく、必要に応じてオンラインで診療をおこなうこともあります。その際も、スピーディに処方箋を発行できるので、薬局側のオンライン服薬指導もスムーズです。
患者が処方箋原本を紛失するリスクがなくなる
在宅医療、訪問医療の場合、患者が出歩く必要がないぶん、処方箋原本の紛失リスクは低いとはいえ、自宅にいながらにしてモノを失くしてしまいがちな人も一定数います。その点、電子処方箋ならそのリスクを回避することができます。
医療DX推進体制整備加算をとれる
「電子処方箋を発行する体制を有していること(経過措置 令和7年3月31日まで)」「オンライン請求をおこなっていること」「オンライン資格確認をおこなう体制を有していること」の施設基準を満たしたうえで、患者に対して初診をおこなった場合、月1回に限り「医療DX推進体制整備加算」を算定することができます。
在宅医療、訪問医療における電子処方箋導入のデメリット
在宅医療、訪問医療における電子処方箋導入のデメリットは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
電子処方箋を導入するための設備を整えるための費用と手間が発生する
既存の電子カルテやレセコンを電子処方箋対応にするために、専用のソフトをインストールしたり、パソコン上で設定したりすることが必要になるため、そのぶんの費用と手間が発生します。さらに、定期的なメンテナンスが必要になることもあります。
電子処方箋発行の手順に慣れるまでに時間がかかる場合がある
前述の通り、紙の処方箋を電子処方箋にアップデートすることで業務を効率化できますが、運用に慣れるまでは、却って業務遂行に時間がかかる場合があります。
セキュリティ対策の強化が不可欠
電子処方箋には患者の個人データが含まれているため、漏洩を防ぐためにセキュリティ対策を強化する必要があります。
地域医療連携のためにも電子処方箋の対応を早めに進めておこう
在宅医療、訪問医療を提供していくうえでは、地域医療連携について考えることが不可欠です。患者に最善の医療を提供していくためにも、電子処方箋の導入をはじめ、地域の医療機関や薬局、行政などとのスムーズな連携に不可欠なことはできるだけスピーディに導入していけるといいですね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年12月時点の情報を元に作成しています。