クリニック開業時にはそろえなければならない備品がいくつもあります。有床のクリニックであれば、入院中の患者が使うものも用意しておく必要があります。そのひとつがナースコールシステムですが、ナースコールシステムを選ぶ際はどんなポイントを押さえればいいのでしょうか? 詳しく解説していきます。
ナースコールシステムとは?
ナースコールシステムとは、医療施設や介護施設、もしくは患者・利用者の自宅で、患者・利用者が、看護師や介護士、家族などに連絡するための呼出装置です。
現在のナースコールシステムの原型とされる「弁つき呼鈴」を考案したのは、なんとかのフローレンス・ナイチンゲール。彼女が考案した弁つき呼鈴は各病室に設置されていましたが、患者が鳴らすと、どの患者が鳴らしたのかがわかるような仕組みが施されていたのだとか。ケアが必要な患者のもとにいち早く駆け付けるために、試行錯誤を凝らして開発されたのでしょうね。
そこから改良が重ねられ、日本でも1955年頃から、同時通話が可能なナースコールが活用され始めました。当時のナースコールシステムは、病室の天井にマイクが取り付けられた簡易的なもので音質も悪かったとされていますが、現在のナースコールシステムは音質がクリアであることはもちろん、よりよい医療・看護を提供するために役立つさまざまな機能も搭載されています 。
ナースコールシステムの基本的な利用方法
ナースコールシステムの基本的な利用方法、手順は次の通りです。
1. 患者がナースコールのボタンを押す
2. ナースステーションに設置された親機または子機に通知が入る
3. ナースコールのボタンを押した患者の病室の表示灯が点灯して、ナースコールボタンが押された部屋が示される
4. 親機または子機を通して、スタッフが患者と対話する
5. 対話終了後は復帰ボタンを押して、表示灯を解除する
ナースコールへの対応方法
ナースコールへの対応用法は、大きく以下の3パターンにわけて解説することができます。
それぞれについて詳しく解説していきます。
ナースコール制御装置を使用するパターン
専用のナースコール制御装置を使って、ナースコールに対応する方法です。専用のナースコールは基本的に有線です。
ビジネスフォンを使用するパターン
ビジネスフォンを使ってナースコールに対応する方法です。このパターンを選んだ場合、基本的には子機が標準搭載されています。
ソフトウェアを使用するパターン
子機、アンテナ、中継器を設置してソフトウェアを使うと、ナースコールに無線で対応できるようになります。有線で使用するより、レイアウトの自由度が高くなります。
4種類のナースコールシステムのうち、国内シェア率NO.1はどの種類?
ナースコールは、大きく以下の4つの種類にわけられます。
従来型
親機、子機、廊下等などで構成されるベーシックなナースコールシステムを「従来型」と分類します。または、「制御盤・主装置個別型」ともいいます。親機に画面が搭載されていて、ナースコールがあるとカメラが起動するものなどもあります。
従来型の国内シェア率は半数を超えます。
電話機一体型
電話設備とナースコールが一体化したナースコールシステムは、電話設備と一緒に導入する必要があります。そのため、開業時などに新規導入するぶんにはいいですが、乗り換え時に、電話設備ごと入れ替える必要があることはネックであるといえます。
見守りシステム一体型
見守りシステムが搭載されている一体型タイプは、患者・利用者の異常を自動で感知してお知らせしてくれます。患者の病室での様子や睡眠状況を24時間センサーが見守ってくれるので、介護施設などへの導入もおすすめです。
コンセントコール型
コンセントに挿入するだけですぐに使える「コンセントコール型」は、もっとも単純な仕様です。電話回線工事やネットワーク回線工事が不要なので、急遽導入が必要になった際などにも選ばれやすいでしょう。
ナースコールシステムの価格の相場
ナースコールシステムの導入費は、ナースコールシステムのタイプによっても異なりますが、大まかに見積もって、1床あたり10~50万円程度であるといえます。
内訳は以下の通りです。
【機器の購入費】
【配線工事費】
また、そのほか、修理費や定期点検費などが必要になることもあります。
ナースコールシステムの寿命について
ナースコールシステムの寿命は、新品で購入した場合、8~12年とされています。また、中古品を回収した場合の寿命に関しても、8~12年とされています。なぜかというと、回収にあたっては配線の引き直しおよび接続し直しの工事をおこなうため、寿命と関連する部品に関してはすべて新品となるためです。
ただし、この寿命はあくまでも目安で、これより早い時期に不具合が生じることもあれば、12年を超えても問題なく動作する場合もあります。いずれにしても、だましだまし使い続けた結果、あるとき急に壊れたというようなことになると、患者にいつも通りの医療・看護を提供できなくなるので、すでに目安となる年数を使用している場合などは、早めに買い替えを検討すべきです。
買い替えの際には、各メーカーが提示している独自の製品推奨使用期間も参照することをおすすめします。
ナースコールシステムを選ぶ際の5つのチェックポイント
続いては、ナースコールシステムを選ぶ際の5つのチェックポイントをお伝えします。ナースコールシステムを選ぶにあたっては、次の5つのポイントをチェックすることがおすすめです。
それぞれについて詳しく解説していきます。
機能
先に述べた通り、ナースコールシステムはいくつかの種類にわけられます。また、メーカーによって機能にも違いがあります。そのなかでも特に重視したい機能は、スマートフォンとの連携機能です。スマートフォンと連携可能なナースコールシステムを導入すれば、看護師がナースステーションにいない場合もすぐにナースコールに対応できるうえ、ナースコールを受けた時間などの記録がスマホに残るため、より正確な看護記録を作成することができます。
コスト
ナースコールシステムの価格はピンキリです。なぜかというと、先に述べた通り、コンセントコール型のような簡易型もあれば、見守りシステム一体型のような高性能なものもあるためです。
また、有線の場合は配線工事費、無線の場合はWi-Fi環境の構築に関連する費用が発生する場合があります。そのため、導入にあたっては、システムのみの価格ではなく、追加費用込みの見積価格で比較検討することが大切です。
導入実績
導入実績をチェックしたほうがいい理由は、どんな医療機関が導入しているのかを確認することで、自院に向いているかどうかがわかるためです。
まず、大病院向けであるのか、小規模なクリニック向けであるのかをチェックするだけでなく、自院と同じ規模の導入先がどんな使い方をしているのかも確認できるとなおいいでしょう。
メーカーの応対のよさ
ナースコールシステムは年単位で使うものなので、メーカーの担当者の応対が悪いと、後からイヤな思いをすることも考えられます。というよりそもそも、応対品質がよくないメーカーのものを導入しようとは思えないでしょう。
アフターフォロー
ナースコールシステムは24時間365日稼働するものなので、サポート体制が整っていなければ、万が一のときに困ってしまいます。
故障時にはすぐに駆け付けてもらえるのかを確認すると同時に、メンテナンス契約の有無なども確認しておくといいでしょう。
ナースコールシステムの主なメーカー
続いては、ナースコールシステムの主なメーカーを紹介します。
ナースコールシステムの主なメーカーは以下の通りです。
アイホン株式会社
医療・福祉施設向け―にナースコールシステムを製造・販売しているだけでなく、住宅向けインターホン・ドアホンやマンション向けインターホンシステム、オフィス・工場向け通話機器各種も作っている会社です。そのため、訪問医療の提供を考えていて、利用者宅でも使えるものに興味があるなら、詳しく調べてみてもいいかもしれません。
同社が提供しているナースコールシステムは、“映像が見える・情報が見える”をキャッチコピーとする「Vi-nurse(ビーナース)」。患者の様子を遠隔で見守ることができる見守りカメラや、患者のデータが自動反映される液晶表示等などの便利な機能が搭載されています。スマートフォン連動機能は、最大6台の端末をほぼ同時に呼出するため、素早い対応が可能です。
料金は要問合せ。
参照:アイホン株式会社「ナースコールシステム Vi-nurse(ビーナース)」
株式会社ケアコム
『株式会社ケアコム』は、連携できるシステムを絞り込んだベーシックモデル「NiCSS-EX3」をはじめ、幅広いラインナップのナースコールシステムをそろえています。
コンピューターナースコールの最上位機種「PLAIMH NICCS」は、スマートフォンや電子カルテ用PCとも連動させて、看護業務に伴うストレスや不要な業務の削減をサポートしてくれます。院内のさまざまなシステム・機器と連動して、看護に必要な情報を通知する「NiCSS-EX8」は、呼出履歴の酢集計機能も備えた、コンピューターナースコールのスタンダードモデルです。
料金は要問合せ。
株式会社ナカヨ
主に介護目的で使われるナースコールシステムをそろえているメーカーです。
場所を選ばず設置可能なワイヤレスインターホン「NYC-WLINTA」は、無線LAN通信採用で配線工事が不要。内臓バッテリによって、停電時も10~40分の動作が可能です。壁掛け、ハンディのどちらでも使える省スペース設計のハンディコール「ES-HNDINTA-2/5」は、ハンズフリーで通話可能。受話音量は大・中・小の3段階に調整できます。そのほか、ベッドサイドなどの壁面設置に最適な埋め込み型インターホンなどの用意もあります。
料金は要問合せ。
参照:株式会社ナカヨ「介護・医療 緊急コールシステム、ケアNYC(緊急コールシステム連携)」
名電通株式会社
料金・価格 ナースecoエコール:月額7800円~※7年リース
対象施設 医療機関、介護施設
スマホ連携 〇
連携システム PHS、各種センサー、インカム
設置方法 有線
ナースコールシステムと電話設備を一体化することによって、低価格かつ高い拡張性を実現した、小規模施設向けナースコールシステムです。ベーシックな機能のみ使う場合は低コスト。「見守りシステム連携機能」「介護記録管理システム・電子カルテ連携機能」など多彩な機能を後付けできるほか、インカムを用意すればハンズフリーで使用することなどもできます。
料金は要問合せ。
岩崎通信機株式会社
ハンディな子機(=PHS端末)を活用したナースコール連動システムです。ハンディ子機は防水仕様タイプもあるので、水濡れによる故障リスクが軽減されます。また、看護師同士、もしくは医師と看護師の連絡ツールとしても使うことができます。
料金は要問合せ。
ジーコム株式会社
介護施設専用ナースコールシステムとして開発されたシリーズです。見守りシステムや介護ソフトとの連携が可能なため、導入することによって介護委の精度を高めることもできます。コスト削減を重視したメール通知型システムから、多彩なセンサーによって入居者の状態変化の自動通知を受けられる最先端ナースコールシステムまで幅広いラインナップが用意されています。
料金は要問合せ。
参照:ジーコム株式会社「介護施設専用ナースコールシステムココヘルパシリーズ」
株式会社インフィック・コミュニケーションズ
介護施設用デジタル見守りシステム「LASHIC-care」、介護施設と同じ24時間の見守りを自宅で実現できる「LASHIC」のラインナップをそろえています。「LASHIC-care」の居室センサーは、各種リスクの自動警告機能、温湿度などの24時間グラフ作成機能、利用者の運動量検知機能、居室の在不在把握機能などを備えています。
月額税込2,178円~(自宅用の「LASHIC」のほう)
参照:株式会社インフィック・コミュニケーションズ「LASHIC(ラシク)」
参照:株式会社インフィック・コミュニケーションズ「LASHIC-care」
ハカルプラス株式会社
コンセントに挿すだけですぐに利用できるコンセント接続タイプのナースコールシステムです。呼出スイッチの「コールスイッチ」は7,000円、送信機である「子機」は49,000円、スタッフルーム用表示機である「親機」は108,000円、スタッフ携帯用受信機の「ペンダント」は40,000円と、「子機中継器」は63,000円「ペンダント中継器」は49,000円とシンプルな価格設定。Wi-fiも不要で導入後すぐに使えますが、現地での事前通信確認を無償でおこなってもらえます。
料金は本文の通り。
株式会社パシフィック湘南
配線工事不要で簡単に導入できるうえ、壁などにも設置可能な「スリム型送信機」も、場所をとらない「カード型送信機」も気軽に使えることから、「簡易ヘルプコール」と呼ばれています。既にナースコールシステムを導入している医療機関が、廊下やトイレなどにプラスで設置したいときの選択肢としても◎!
料金は要問合せ。
参照:株式会社パシフィック湘南「オーダーコールシステム ソネット君」
株式会社マイコール
配線工事不要の無線呼び出しベル「スマジオ」を、送信機10台~のセット価格で販売しています(レシーバー1台付きは221,100円、レシーバー2台付きは246,400円)もともと飲食店で利用されていた呼出ベルで、現在は、飲食店のほか、工場、医療施設、介護施設でも使われています。医療機関・介護施設での用途に合わせて開発されたナースコール型握りスイッチは、力が弱い高齢者などでも簡単に送信できるよう設計されています。
料金は本文の通り。
株式会社iSEED
遠くまで届くLoRa無線を採用することで、高い信頼性を確保している無線方式のナースコールシステムです。導入によって、スマホは1台8役をこなすことに。呼出コールが入ると、音や振動、名前で通知してくれる「コール受け端末」、呼出時に誰が対応しているかを即座に他のスタッフのスマホに通知する「スタッツ間連携ツール」、映像付きの音声会話も可能な「居室とのインターホン会話」、SIM契約不要の「内線・外線電話」、駆け付け前に音声と映像を確認できる「見守りカメラ」、対応完了時に選択式で介護記録をつけられる「業務記録入力端末」、バイタルデータのグラフの「データ閲覧・異常受信」、骨伝導ヘッドセットによる「情報の一斉共有」が叶います。
料金は要問合せ。
小規模クリニック向けナースコールシステムのおすすめは?
上記のうち、病床が10床より少ない比較的小規模なクリニックで使うのに適しているナースコールシステムを提供しているメーカーはというと、『アイホン株式会社』『株式会社ケアコム』『名電通株式会社』『岩崎通信機株式会社』『ハカルプラス株式会社』『株式会社パシフィック湘南』『株式会社iSEED』ということになります。
7社のナースコールシステムの比較は以下の通りです。
メーカー | 商品名 | 連携システム | 設置方法 |
アイホン株式会社 | Vi-nurse | PHS、スマートフォン、位置情報システム、電子カルテ | IPネットワーク、個別線式 |
株式会社ケアコム | 「PLAIMH NICCS」「NiCSS-EX8」「NiCSS-EX3」など | PHS、スマートフォン、電子カルテなど院内情報システムなど(機種によって異なる) | 機種によって異なる |
名電通株式会社 | ナースecoエコール | PHS、スマートフォン、各種センサー、インカム、見守りシステムなど | 有線 |
岩崎通信機株式会社 | ナースコール連動システム | PHS、ベッドセンサー、ネットワークカメラ | 有線 |
ハカルプラス株式会社 | コンセントコール | 超音波センサー、起き上がりセンサー、ふむふむセンサー(離床センサー)など | コンセント接続 |
株式会社パシフィック湘南 | オーダーコールシステム ソネット君 | 外部スピーカー、中継器 | 無線 |
株式会社iSEED | パルモスマートコール | スマートフォン、見守りセンサー、インカムなど | 無線 |
まとめ
ナースコールシステムは、一度導入したら数年来にわたって使うことになるものです。そのため、なるべく妥協することなく、自院にとってもっとも役立つであろうナースコールシステムを選択することがおすすめです。場合によっては、導入費が高くつくこともあるかもしれませんが、そのぶん業務効率が向上すれば、結果的にメリットが大きくなることが考えられますよ。
この記事は、2024年12月時点の情報を元に作成しています。