
近年、高齢化社会の進行とともに、患者の多様なニーズに応える「ケアミックス病院」という新しい形の病院が増えています。厚生労働省の資料によると、ケアミックス病院は「一般病床と療養型または精神病床の混合型病院」 とされていますが、具体的にどのような医療を提供している病院なのでしょうか? また、なぜ今、この形態の病院が注目されているのでしょうか? 本記事では、ケアミックス病院の全貌を詳しく解説していきます。
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ケアミックス病院とは
冒頭で触れた通り、厚生労働省の資料では、ケアミックス病院を「一般病床と療養型または精神病床の混合型病院」と説明していますが、実際にははっきりした定義があるわけではありません。なぜかというと、各病院が地域の医療ニーズや自院の強みに合わせて、柔軟に病床機能の組み合わせを変化させてきた歴史的経緯があるためです。
しかし、“ケアがミックスされている病院”という名前の通り、「一般病床(急性期)だけでなく、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟、あるいは緩和ケア病棟、精神病棟など複数の病床機能を併せ持ち、急性期医療から慢性期医療、在宅復帰支援、さらには看取りにいたるまでの一貫した医療を提供できる」という特徴ははっきりしています。この特徴のおかげで、手術から術後のケア、療養、看取りまで一貫しておこなうことができるため、患者はそのときどきの状態に合わせて転院する必要がありません。通常であれば、容体や回復状況に合わせて転院しなければならないところ、急性期を脱した後も同じ病院で療養を続けられることを、メリットととらえる患者も多いでしょう。
複数の病床機能を備えていても、病床数の割合によってはケアミックス病院とはいえない
注意すべきは、前述の特徴を備えていても、病床数の割合によってはケアミックス病院とはいえないということです。なぜかというと、一般病床の割合が80%以上であれば急性期病院(一般病院)、療養病床の割合が80%以上であれば慢性期病院(療養型病院)と定義されているためです。ケアミックス病院と呼ばれるのは、これらのいずれにも明確に該当せず、複数の病床機能がバランス良く配置されている病院を指すことが一般的です。
しかも、ケアミックス病院の多くは、ホームページなどで自院がケアミックス病院であることを謳っていないため、サイト内の病院概要などのページをもとに病床の機能や割合を確認しなければ、外部からはケアミックス病院かどうかがわからないことがあります。そのため、ケアミックス病院かどうかを重視して転職活動している場合などは注意が必要です。
ケアミックス病院における入院から退院までの流れは ?
前述の通り、ケアミックス病院は急性期医療・慢性期医療の両方の機能を併せ持っているため、急性疾患やケガで入院した後、症状が落ち着いたからといって他の病院に転院する必要がありません。具体的には、入院から退院までは次のような流れを辿ることになります。
入院
外来受診や他院からの紹介、救急搬送などによって入院します。急性疾患や大きなケガの場合、手術がおこなわれることもあります。
病棟転棟
症状が落ち着いて、集中的な治療が不要になれば、院内の回復期リハビリ病棟や療養病棟に転棟することになります。回復期リハビリ病棟に転棟した場合、在宅復帰を目指して積極的にリハビリをおこなうことになります。療養病棟に転棟した場合、経過観察や日常生活援助を中心におこないます。
退院支援カンファレンス
医師や看護師、リハビリ職、医療ソーシャルワーカーなどが参加して、退院後の生活を支えるプランを検討します。必要に応じて、入院前から関わる地域のケアマネジャーや、退院後のサービス提供事業者なども参加することがあります。
退院・在宅復帰
患者が退院後の生活に支障が出ないように、地域と病院が協力して支援体制を構築します。必要に応じて、在宅診療医や訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどとも連携します。
なお、前述の通り、一連の流れの締めくくりが「退院・在宅復帰」ではなく、看取りの場合もあります。
看護師がケアミックス病院で働くためにはどんなスキルが必要?
転職の話が出たところで、ケアミックス病院での看護師の働き方を解説していきます。
ケアミックス病院では、急性期から慢性期までさまざまな状態の患者を看護するため、急性期の患者の変化を見逃さずに適切にケアするスキルも、慢性期の患者とじっくり向き合うスキルも求められます。
また、病棟によっては、介護士やPT(理学療法士:Physical Therapy)、OT(作業療法士:Occupational Therapy)と密に連携をとることが必須となるため、コミュニケーション能力も求められます。
もちろん、配属される病棟によって求められるスキルや知識は変わりますが、少なくとも、急性期・慢性期いずれの患者にも対応できるスキルは身に着けておく必要があるといえます。
看護師がケアミックス病院で働くメリット・デメリットは?
続いては、看護師がケアミックス病院で働くメリット・デメリットをみていきましょう。
看護師がケアミックス病院で働くメリットは ?
まず、看護師がケアミックス病院で働くメリットとしては、主に次のようなことが考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
幅広い看護を経験できる
ケアミックス病院では、急性期から慢性期、看取りにまで対応しているため、幅広い看護を経験できます。そのため、若手のうちであれば、ケアミックス病院内でさまざまな状態の患者の看護を体験することで、自分に合った現場を理解して、その後の方向性を考えることもできます。また、幅広い知識を身に着けていくことで、将来的にジェネラリストとして活躍しやすくなるのも魅力です 。
キャリアプランを立てやすい
幅広い看護を経験しながら、自分に向いていることや自分が極めたいことに目を向けると、前述の通り、理想の転職先がイメージしやすくなるだけでなく、5年後、10年後、看護師としてどんなふうに活躍していきたいかといったところまでイメージしやすくなります。つまり、キャリアプランを立てやすくなるといえるでしょう。
転職しなくても働き方を変えられる
ケガが病気の急性期の状態にある患者に適切なケアを施すことが必要で、かつ急患が運ばれてくる可能性もある急性期病院などに勤務している場合、育児や介護でこれまで通りに勤務することが難しくなった場合、転職したり仕事を辞めたりするケースがほとんどでしょう。
しかし、回復病床や療養病床なども有しているケアミックス病院では、転職をせず同じ病院にいながらにして、配置転換で働き方を変えられる可能性が高いといえます。
ただしもちろん、「これまでとは違う働き方をしたい」という要望に応じてもらうためには、日ごろからきちんと仕事と向き合い、仕事ぶりを評価されていることが不可欠であるといえるでしょう。
看護師がケアミックス病院で働くデメリットは ?
続いて、デメリットです。看護師がケアミックス病院で働くデメリットとしては次のようなことが考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
希望通りの配属とならない可能性がある
メリットの3つめで説明した通り、働き方の希望があっても100%通るとはいえません。育児や介護などの事情がない場合はなおさらその可能性が高いでしょう。
そのため、転職の際には、求人票や面接時の質疑応答を通して、院内でのキャリアチェンジに対する病院側の考え方をチェックすることをおすすめします。
専門性を極めることが難しい
急性期なら急性期、慢性期なら慢性期、看取りなら看取りなど、決まった分野の看護スキルを極めたい場合、配属が変わる可能性があるケアミックス病院を選ぶより、専門性を極められる医療機関を選ぶのが得策であるといえます。
はっきりした定義がないことから、病院によって特徴が異なる
前半で解説した通り、ケアミックス病院にははっきりした定義がありません。「一般病床の割合が80%以上であれば急性期病院(一般病院)、療養病床の割合が80%以上であれば慢性期病院(療養型病院)」とは定義されていますが、たとえば一般病床の割合が70%の病院と、一般病床の割合が30%の病院とでは、単純に一般病床配属となる確率も異なりますし、病院全体の雰囲気にも違いが感じられるでしょう。
そのため、転職前にきちんとした調べや下見をしておかないと、入職後に、「想像していた感じと全然違った……」ということになりかねません。
医師がケアミックス病院で働くメリット・デメリットは?
続いては、医師がケアミックス病院で働くメリット・デメリットをみていきましょう。
医師がケアミックス病院で働くメリットは?
医師がケアミックス病院で働くメリットとしては次のようなことが考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
多疾患併存患者や専門外の疾患の患者への対応力を養える
幅広い症状の患者に対応することから、総合的な診療能力が身に付きます。また、多疾患併存患者や専門外の疾患の患者に対応することもあるため、専門分野の患者しか診療していない場合と比べて知識に幅が出ます。
医療の連続性を実感しやすい
急性期の治療からリハビリ、在宅移行にいたるまで、ひとりの患者を長期的に診ることもあるため、医療の連続性を実感しやすいといえます。一連の流れのなかで、たとえば急性期のみにしか関わっていなかったとしても、急性期を脱した後も患者が院内にあればなにかしらの接点があるため、「治す」だけでなく「支える」医療にも関与できるということになります。
ワークライフバランスがとりやすい
慢性期の業務を担当する日も多いケアミックス病院の勤務であれば、ワークライフバランスがとりやすいこともメリットのひとつです。病院によっては、当直やオンコールの頻度も少なくなります。
地域医療への貢献を実感できる
ケアミックス病院は、地域医療の中核的な役割を担っているため、診療を通して、地域医療に貢献していることを実感しやすいでしょう。
開業や在宅医療へのステップに役立てられる
業務を通して多職種連携や在宅移行支援などを学べるため、将来の開業や在宅医療分野へのステップに役立ちます。また、医療と介護の接点についても学べる機会が多いでしょう。
医師がケアミックス病院で働くデメリットは?
続いて、デメリットとしては次のようなことが考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
専門性を深めにくい
専門性の高い症例や最新の医療技術に触れる機会が少ないため、特定の診療科でキャリアを極めたいと考えている場合、物足りなさを感じるかもしれません。
スピード感や緊迫感が少なく、モチベーションを維持しにくいと感じる場合もある
急性期病院で求められるスピード感や緊迫感に乏しいため、モチベーションを維持しにくいと感じる医師もいるでしょう。
収入が高くない場合がある
高度急性期病院や、もしくは自由診療をおこなうクリニック勤務の場合と比べて、収入が低くなる場合があります。ただし、病院の規模や経営状況によって差があるので、ケアミックス病院であれば必ずしも給与が低いというわけではありません。しかし、病院の規模や地域、また、救急医療の受け入れ状況や専門性の高いリハビリテーションの有無といった、提供している医療内容、さらには医師の専門性や経験年数によっても給与は大きく異なります。地域の中核病院としての役割を担い、比較的幅広い症例を扱うケアミックス病院であれば、収入面でも魅力的な場合が多いため、入職希望者が多い傾向にあるでしょう。
医療・介護・地域連携の調整役を求められることがある
ケアミックス病院は地域密着型であるケースが多いことから、医療・介護・地域連携の調整役を求められる場合があります。そのため、経営や病棟運営などに関心がない医師は、大きな負担を感じるかもしれません。
ケアミックス病院の課題は?
続いては、ケアミックス病院の課題をみていきます。ケアミックス病院には、次のような課題があると考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
医師や看護師の人手不足や偏在
急性期志向、もしくは専門性を高めたいと考えている医師や看護師には、ケアミックス病院で働くことが魅力的に映らない可能性が高いといえます。そのため、特に地方のケアミックス病院や、中小規模のケアミックス病院は、医師不足・看護師不足が深刻化しているのが現状です。
診療報酬改定への対応
ケアミックス病院は複数の病床機能を有していますが、診療報酬はそれぞれの病床機能に応じて算定することになるため、診療報酬改定への対応が複雑になります。また、場合によっては、施設基準の管理や病棟再編を迫られることも考えられます。
地域包括ケアへの貢献と連携強化
ケアミックス病院には、在宅医療、介護施設、訪問看護ステーションなどとのスムーズな連携体制の構築が求められています。しかし、情報共有に遅れが生じたり、介護・医療の文化の違いが障壁になっていたりするのが実情です。
ICT・DXへの対応
医療業界では、電子カルテや地域連携システムなどの導入が進められていますが、ケアミックス病院、特に中小規模の施設では、多額の導入コストや、専任のIT担当者不足が大きな障壁となっています。また、システムを導入したとしても、スタッフへの教育や運用ルールの策定、そして継続的なメンテナンス体制の構築が追いついていないケースも散見されます。これらの不足によって、情報の共有不足や業務の非効率性が生じることもあり、DX推進は喫緊の課題といえるでしょう。
施設の老朽化
ケアミックス病院の多くは中堅規模であるため、建て替えやリニューアルのための資金が潤沢ではなく、設備の老朽化が進んでいてもなかなか改修に踏み切れないのが実情です。
超高齢化社会におけるケアミックス病院の役割とは ?
前述の課題を抱えながらも、超高齢化社会といわれる現代において、ケアミックス病院の果たすべき役割は大きいといえます。そのため、今後はこれらの課題克服を目指しながら、さらに大きな社会的役割を担っていくと考えられます。具体的には、次のような役割を担っているといえます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
医療の「つなぎ手」として機能すること
骨折や肺炎、脳卒中などで急性期治療を必要とした後は、回復期・慢性期と段階的なケアを要しますが、高齢者の場合、急性期治療が終わった後に病院を転院しなければならないとなると肉体的・精神的に大きな負担を要します。その点、急性期治療から在宅医療移行までの流れがスムーズなケアミックス病院であれば、患者の負担を減らせるだけでなく、患者の移動や医療従事者の連携による混乱も避けることができます。
多疾患・多様なニーズを抱える高齢者に対応すること
高齢者は、たとえば高血圧・糖尿病・認知症など複数の疾患を抱えていることが多く、その場合、単一診療科では対応が難しくなります。その点、複数の診療科の医師が在籍していて、リハビリや福祉、栄養面に関することまで多職種で対応しているケアミックス病院なら、包括的なケアが可能です。
地域包括ケアシステムの中核を担うこと
ケアミックス病院は、医療と介護の橋渡し役として、在宅支援、退院調整、ケアマネ・施設との連携の3つを積極的に担うことによって、地域の高齢者を生活の場へと戻す重要な役割を果たしています。
医療資源の最適化に貢献すること
超高齢化社会においては、医療需要が増加する一方、医師数や病床数は限られていることが大きな課題となっています。そんななかで、急性期を終えた患者を受け入れる後方支援病院、在宅・施設の患者の救急対応もできるセーフティネットとしての役割も果たしているケアミックス病院は、限られた資源を効率的に活用する医療構造の一部として機能しているといえます。
高齢者とその家族にとっての安心できる拠点となること
治療からリハビリ、在宅移行までをひとつの病院で完結できることは、患者にとってもその家族にとっても安心できることであるといえます。また、退院後の介護や生活の相談にも応じられることから、家族にとっては頼りになる存在でもあります。
メリットやデメリットをよく理解することが理想の転職を叶える第一歩
ここまで述べてきた通り、ケアミックス病院で働くことにはメリットもデメリットもありますし、病院によって特色が大きく異なります。そのため、理想の転職を叶えるためには、メリット・デメリットの両方を理解することや、転職志望先についてよく調べることがとても大切です。志望先の病院のホームページや口コミをしっかりチェックして、可能であれば院内を見学させてもらったうえで、じっくり検討してみてくださいね。
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この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。