クリニック開業を予定している医師の中には、開業や経営のプロの意見を知って、開業に役立てたいと考えている人が多くいます。ただ、プロのノウハウを吸収し続けるだけでなく、医師という立場からの率直な話も気になるはずです。
今回から、医師のリアルな開業体験談を届けるべく「開業医にインタビュー」という企画を始めました。先輩医師がどのように開業準備をしたのか、実体験をもとに話していただくシリーズです。
第一回目の本記事では、2020年4月にクリニックを開業した生田陽二医師に、開業準備で苦労した点やコンサルティング会社に支援してもらって良かった点を伺いました。
ぜひ、開業準備の参考にしてみてください。
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開業を決めた時期や、準備した工程を教えてください
開業を決めたのは開業の約1年10カ月前、自分で事業計画を作り始めたのは開業の約1年半ほど前です。
2019年に入ってから、本格的に土地やコンサル会社の契約を行い、それに伴ってクリニックの設備や内観を具体化させていきました。
クリニックのビジョンはどのように決めましたか?
ビジョンや理念の基礎は、てんかんや重症心身障害児(者)のお子さんたちを診ていく中で強まっていった問題意識です。
てんかんや重症心身障害児(者)のお子さんは、大人になってからの行き場が限られています。学会でもその事実は問題視されており、私もどうにかしたい、どうにかしなければならないと思っていました。
もちろん、勤務医として組織に雇われていた方が安定的です。でも、病院という組織でその問題意識に向かって動くには限界があると気づき、開業を決めました。
そのため、この問題意識を解決するために必要な仕組みづくりの最適解を考え、ビジョンや理念に落とし込みました。
事業計画はどのように書きましたか?
お金の部分はコンサルの方に助けてもらいましたが、それ以外のところは開業に関する本をもとに作成しました。クリニックの開業本はもちろん、一般的な起業関係の書籍も読み漁り、そこに載っている事業計画の項目を埋めるようなかたちです。
全体の方針を考えるためには、自分ができること・できないこと、そして得意なこと・苦手なことを明確にしました。私の場合は脳波の検査が得意でかつ好きなので、それを組み込んだ診療スタイルを考えました。
事業計画を書いて良かった点は、頭の中が整理されたことです。現在の社会的な問題点を具体的な数値をもとに整理し、それを解決するための私の使命、それを達成するために今足りないことをリストアップしたことで、開業準備において誰に何を頼れば良いか明確になっていきました。
開業セミナーやクリニックの開業本は役立ちましたか?
開業までの全体像を把握する上ではすごく役立ちました。
開業本は、先述したように事業計画を書く際にも役立ちましたし、セミナーでいろんな意見を聞くことも良いと思います。
何人かの話を聞くと「この人は違う」「この人は頼れる」という自分なりの感覚がわかってくるからです。
開業コンサルを利用した理由、コンサル会社を探した方法は?
ずっと臨床をやってきて経営とは無縁の世界にいたため、開業に大きな不安があったからです。
相談していたコンサル会社に、開業までに必要な工程を洗い出してもらったことがありますが、作業内容が多すぎて一人では無理だと思いました。一人で行うとしても 、病院勤務を辞めて、一年間は開業準備に充てる必要があると思います。
ただ、コンサル会社の選定も慎重に行っていました。世の中には医者を食い物にする悪い人がいっぱいいる、という話をよく聞いたので気を引き締めていました(笑)。
個人的には知り合い経由が安全だと思い、 友人や知り合いを辿って医療コンサル会社、税理士事務所、卸など何社かに相談しました。最後は、開業後の経営面も支援してくれて、柔軟なアドバイスをしてくれるところにお願いしました。
開業コンサルにお願いして良かったところは?
2つに絞って挙げるのであれば、情報のリサーチと交渉ごとです。
クリニックには診療に関わるさまざまなシステムを導入するので、例えば電子カルテや検査機器なども、どんなメーカーがあるのか自力で調べるには時間がかかります。
そういった時に、既に情報を持っているコンサルの方が選択肢を示してくださるのは助かりました。
交渉ごとは、特にお金の面です。私が直接言うよりも、仲介しているコンサルの担当者が話した方が角が立ちません。交渉ごとは精神的なコストもかかるので、コンサルにお願いして本当に良かったと思います。
開業コンサルに依頼しなくても良かったところは?
広告・宣伝の部分です。
私は、次のような作業を自分で行いました。
・クリニックのロゴ作成依頼
┗Lancers(スキルの売買ができるクラウドソーシングサイト)にてロゴの募集を実施
・ホームページ作成
┗ワードプレス(オープンソースのホームページ作成ソフト)にて作成
・SEO&MEO対策
┗ホームページ制作後、コンテンツ作成でSEO対策。MEOの設定も実施
かかった費用はロゴの作成で数万円と、ホームページのレンタルサーバー代、ドメイン管理料で年間1万円以下。プロに依頼したら数百万円になっていた可能性があるので、この部分は大きなコストカットになったと思います。
ただ、これは私の場合であり、他の人にも同様に実施できるとは限りません。自分でやりたいところ、自分でやった方がストレスにならず時間もかからない作業があれば、その部分は依頼しなくていいかもしれません。
私の場合は、それが広告・宣伝にかかる作業でした。
開業準備で、予想より時間がかかったところは?
開設届を出してから開院日までに行う、申請作業です。
私の場合、開設届は診療開始日の約1カ月前に出しましたが、その開設届を出さないと提出できない書類もたくさんありました。(例:保険医療機関・保険薬局の指定申請)
そして、そのほとんどが自分で窓口に行かなければならないものだったため、同時にスタッフの採用や研修が始まってくるこの期間は時間的な余裕がなかったです。
スタッフの研修はどのように行いましたか?
受付業務や保険診療の仕組みは私も素人なので、教えるというよりもスタッフと一緒に動きや運用を考えました。経験豊富なスタッフも雇っていたため、過去に働いていた医療機関での事例も聞きながら教わりました。
開院までの最後の2週間は集中的な研修を実施しました。模擬患者を想定して診察のシミュレーションを繰り返し行い、かなり濃い時間を過ごした記憶があります。
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集患対策はどのようなことをしましたか?
当院は、完全予約制の特殊な診療科ということもあり、医療機関からの紹介と患者さんやご家族が能動的に調べて受診されるケースがほとんどだと思います。
そのため、集患対策は医療連携の強化とSEO・MEO対策をメインに行いました。特に、SEO・MEO対策以外の広告・宣伝(一般的な有料広告など)は、当院にとっての費用対効果が極めて低いと考え、一切出していません。
当院の集患経路に適した対策のみに絞ったことで、大幅なコスト削減を実現しています。
具体的な内容については、3つに分けてこれからお話しします。
(1)連携先の医療機関・患者さんの利便性をもとにした場所選び
まずは場所選びです。
先述したように、当院は病院から逆紹介を受けることを想定していたので、もともとつながりのある小児神経科の強い病院からの距離を考慮しました。当院がある東小金井は、近くに検査面で連携し合える脳神経外科のクリニックがあることも分かっていたので、有力な候補地でした。
また、患者さんにとっての利便性も考えました。
新宿駅や東京駅などのターミナル駅からアクセスのよい、JR中央線・東小金井駅から徒歩一分という立地は、主にてんかんの患者さんを想定しています。てんかんの患者さんは、働いていたり学校に通っていたりするので、電車利用者が多いです。駅近であることも条件に入れて探しました。
一方で、駐車場の確保のしやすさも重視する必要があります。てんかんの患者さんが電車移動をするのに対し、重症心身障害児(者)の患者さんはバギーを使用されていたり荷物が多かったりするため車移動の方が多いです。
車・電車利用の両方の利便性を保ちつつ、予算内で駅前の駐車場を借りられるJR中央線の駅は、ほぼ東小金井しかありませんでした。
当院は特殊な診療科目であり、一般的な診療圏調査は全く使えません。そのため診療圏調査は行わず、前職の時に診ていた患者さんがどの程度来てくれるか、周辺の医療機関からどの程度ご紹介いただけるかを感覚で予想するしかありませんでした。
上記のようなさまざまな条件をもとに、病院からの紹介等を受けた楽観的な試算と、これまで診てきた患者さんがあまり来てくれない場合のシビアな試算を実施。シビアな試算を見ても大丈夫だと判断し、ちょうど医療モールが建設されることになっていた現在の場所に決めました。
(2)病院やクリニックとの連携
他の医療機関との連携をするためには、関係性作りも大事だと思います。私は、前職に退職の意向を伝えたのち、開業の1年前くらいから知り合いの小児神経科医に学会や勉強会などで開業のことを伝えていきました。開業の4カ月前くらいからは当直明けなどの時間を利用して、開業後に連携を取るであろう周辺の医療機関へ直接ご挨拶に行くようにしました。
その後コロナの影響であまり行けなくなってしまいましたが、挨拶に行ったところからは患者さんを紹介していただいています。
当時は、事前に電話で「開業することになったのでお世話になると思います。一度ご挨拶に行きたいです」という旨の電話を入れてから、先方の診療時間後に伺いました。お会いしてからは世間話をするぐらいですが、事前に伺って関係が作れて本当に良かったです。
また、近くにある脳神経外科・神経内科のクリニックとも患者さんを紹介し合っています。そのクリニックではMRIがとれて、当院では脳波がとれる。例えば、発作が起きたその日に心配で受診された患者さんに対して、脳波とMRIの検査を当日に終え、診断が確定して治療まで開始できるケースも多々あります。これもひとえにお互いに信頼し合える強固な連携体制ができているから成せることです。
受診までに時間がかかった上にさらに検査まで数カ月待ちになることの多い病院を受診するよりもスピーディーであり、患者さんにとって大きなメリットになっていると思います。
(3)SEO・MEO対策
SEO対策を行うには、ホームページが必須です。
SEO(Search Engine Optimization)
検索エンジン最適化のこと。キーワード検索の結果、サイトが上位表示されるよう、ウェブサイトの構成やコンテンツなどを調整すること。
私は、開業の1年4カ月ほど前にドメインを取って「開業ブログ」としてオープンさせていました。
その他、コンスタントにブログ記事をアップすることでGoogleからドメインに対する信頼を得ておくようにしました。(サイトが運営されている歴史の長さや、サイトの更新頻度等もSEOに良い影響を与えるとも言われているため)
開院日が具体的に見えてきてからは、クリニックのホームページとして構成を切り替えました。
これまで、診療科目に関係が深い疾患の記事をいくつか書いているので、その疾患のことを検索している人のアクセスも増えています。実際にそこから辿って来院してくださる方も増えてきている印象です。
また、合わせてMEO対策も行いました。
MEO(Map Engine Optimization)
地図検索(主にGoogleマップ)で上位表示させる施策。上位表示されることで、商圏内のターゲットユーザーの目に付く機会が増え、店舗や施設の認知・来店につながる可能性が高まる。ネットからの新たな集客チャネルとして注目されている。
Mapに表示されるクリニックの位置も、実際の場所よりずれて掲載されていたので、そこを修正しつつ電話番号やホームページのURLを設置、当院の写真も掲載して情報を充実させました。
実際に、Google Mapで医療機関を検索して、当院にお電話してくださる方もいらっしゃいます。MEO対策を行うには「Googleマイビジネス」(無料)に登録する必要があります。複雑な設定ではないので、自力でできる作業のひとつだと思います。
これから開業する人に向けてアドバイスがあれば教えてください
「なぜ開業するのか」という根本的なところをしっかりと見つめ直すことが最も重要だと思います。
そうすれば、ビジョンやすべきこと、人に頼るべきことも明確になり、つらい開業準備も楽しんで進めることができます。
あとは自分がやらなければならないことに打ち込み、他人に頼った方がいいところはしっかり頼る。私たちは経営について知らないことだらけなので、全部自分でやろうとしなくていいと思います。知らないことが多いからこそ、多少お金がかかってでもきちんとプロに頼った方が良いのではないかと思います。
今回の私の体験談が、これから開業する方への参考となれば幸いです。
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
この記事は、2020年6月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 東小金井小児神経・脳神経内科クリニック院長 | 生田 陽二 医師
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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