クリニックの運営は、院長だけが担うとは限りません。なかには事務長を雇い、運営を円滑化させる工夫をしているところもあります。
では、事務長がいるクリニックはどのような役割分担のもとに動いているのか、クリニックの経営において事務長がいることのメリットとは何なのでしょうか?
イメージだけでは分からないこともあると思いますので、今回は現役の事務長に実情をうかがいました。
協力してくださったのは、熊本県・のぐち皮ふ科に勤める黒田事務長です。
病院事務職として30年以上の経験を持つ黒田事務長のお話をもとに、クリニック経営における「事務長」雇用の必要性などについて検討してみてください。
Q.事務長になったきっかけは何ですか?
大学生時代の経験がきっかけです。当時、病院内のレストランでアルバイトをしていました。
ある時からその病院の事務長にかわいがってもらうようになり、夏休みになると昼間は事務長のもとで働き、夜はレストランで仕事をしていました。
病院を良くしていこうと積極的に活動し、周囲への配慮も欠かさない事務長に憧れていたので、そのままその病院の事務員として就職します。
自分のなかではその事務長が目標となっていたので「40歳までにはこのような事務長になりたい」との意志を胸に突き進んできました。
Q.事務長の役割、院長との違いは何だと思いますか?
院長は医師であり、診療と経営の最終決定権を持ちます。
そして師長は看護を、事務長はそれ以外の全ての業務をこなす役割を担っていると思います。
院長が安心して日々の医療を行いスムーズに意思決定できるよう、データを整理し提案・助言する立場として全面的にサポートするのが事務長の役割ともいえます。
とはいえ小さな事案は私が自己判断し、事後報告しています。
Q.事務長の仕事内容を教えてください
私の仕事内容の一部をざっと挙げてみましたが、これを見るだけでも多岐に渡る業務をしていることが分かると思います。
人事:
面接・採用手続き
労務:
社会保険手続き、入退職手続き、スタッフの相談
経理・財務:
日々の処理から決算、予算や資金管理、補助金の手続きなど
広報:
院内掲示・看板の検討、webサイトの作成、LINE・Facebookへの情報発信
総務:
院長のスケジュール管理、施設管理、物品管理全般
上記の他にも、患者さんの苦情や相談窓口の対応もしています。
患者さまと医師を直接会わせると、その場で結論を求められてしまうので「事務長」というクッション役が必要です。
また、患者さんの統計データも常に把握し、院長からいつ聞かれてもいいように準備しています。
このように、事務長はさまざまな仕事を同時進行するため、オールラウンドプレイヤーとしての資質が常に求められていると感じています。
Q.「事務長は激務だ」との噂の真相を教えてください
確かにやることは多いです。朝の数時間の行動の例を出すと…
8:30~
┗出勤:釣銭準備、データバックアップ、理事長との打ち合わせ内容確認
9:00~
┗前日の日計確認・銀行入金
10:00~
┗来客対応、患者苦情対応、総務対応など
といったように、挙げだしたらキリがないほどの業務があります。
ただ、事務長は「遊軍」であるべきだと考えているので、作業を最小限にできるよう工夫しています。
毎日行う日計・経理処理、患者数統計、その他総務関係などは、できるだけ現場スタッフに振り分けるようにしています。
書類の管理も大変です。保管する場所も必要になるので、行政に提出しなくてもよい書類は全てスキャンによるデジタル保管にしています。
とはいえ、忙しそうにしていると現場スタッフも気軽に話しかけられないと思うので、なるべく時間に余裕がある姿でいるよう努力しています。
Q.業務の中で大変なことは何ですか?
実務自体は、経験値です。
1回経験すれば、2回目からは慣れてきますので、あえて挙げるならスタッフとのコミュニケーションでしょうか。私は若いときからコーチングなどの研修に参加し、コミュニケーションの取り方には注意を払っています。
たとえば、スタッフの意見に間違いがあっても、まずは自分のなかで飲み込むようにしています。後日、スタッフも冷静に話し合える状態で「先日の件を検討してみたんだけど…」と指導するようにしています。
両者が落ち着いて話せる環境を意識しながら、円滑なコミュニケーションを目指しています。
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Q.事務長としての役割を果たすために意識していることは何ですか?
必要に応じて現場では厳しいことも伝えるようにしている点です。
クリニックにはさまざまなスタッフがいますので、時には課題や問題点を明確に指摘しなければならないこともありますが、その作業をトップが行うとスタッフが委縮してしまいます。
院長は良い人、事務長は厳しい人、という位置付けを自分なりに意識して行動しています。
また、院長の意思を汲み取り、代弁者として動くことも意識しています。
院長の持つ診療に対する考え方や、目指すクリニックのかたちを理解し、それを実現する方法を考えて業務にあたっています。院長の考えは日常的に業務を行うなかで掴めてくることもありますが、特別な報告事例がなくても毎朝、何かしら会話をし「今日は何を考えているのか」を観察しています。
世の中の動向を知ることも重要です。
家でテレビを見ている時、ネットを見ているとき、遊んでいるとき、車を運転しているとき、人と会っているときなど、常にアンテナを立て情報収集をしています。その情報が、広報や総務など様々な業務のヒントにつながることもあります。
Q.事務長がいた方がいいクリニックの特長や条件があれば教えてください
私の経験をもとに話すので参考程度にしていただきたいのですが、従業員が10名を超え、1人の医師が1日に100人以上の患者さんを診る場合は事務長を置いた方がいいのではないかと思います。
また、院長の意思にもよると思います。
当院の院長は診療に専念したいタイプですので、私がそれ以外の業務を行っています。院長が診療に専念したいタイプか、それ以外の業務もやりたいタイプかを見極めて検討してもいいかもしれません。
ただ、院長が経営を全く知らないのも問題です。
クリニック全体を運営する仕組みが分かった方が、院長と事務長の間でのコミュニケーションも円滑になると思います。
事務長の雇用を迷っている方は、まずはひと通り院長自身でやられてみて、人に任せる・任せないの判断をされてはいかがでしょうか?
Q.事務長に必要な資格はありますか?
私自身は簿記3級と運転免許証を持っているくらいです。経営に関する資格は持っていません。すべて、若いときからの経験をもとに仕事をしています。
周囲で事務長を務めている人は銀行からの出向者が多く、医療経営士や医業経営コンサルタントといったクリニックの経営に関わる資格を有しているわけではありません。
そのため、必須資格があるというわけではないと思います。
Q.資格の有無に関わらず、事務長として理解しておくべき知識は何ですか?
クリニックの収入源は保険診療によるものですので、診療報酬についての理解はしておくべきです。むしろ、それが分からないと話にならないとも言えます。
そのため、事務長になる人は、まずは自院の保険請求業務に関わる必要があると思います。
受付から会計までの診療の流れを把握し、その結果をレセプトで請求するという一連の流れをつかむこと。事務長の雇用を検討している方にも、ここは押さえてもらいたいポイントです。
医療はIT化が最も遅れている業界です。しかし近年、国が後押しをして電子カルテの導入を進めており、急速にIT化の波が来ています。コンピューターや通信の基本的な知識も必要なのではないでしょうか。
あとは、ある程度財務諸表が読めることと、国語と算数ができることくらいでしょうか。
事務長としての一例ですが、参考になれば幸いです。
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対象規模
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診療科目
この記事は、2020年8月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 のぐち皮ふ科 | 黒田 事務長
熊本県の大手産婦人科病院にて医事全般、企画・広報、経理・財務一連の業務に携わる。その後、内科と介護保険全般を実施する医療機関に転職し、40歳で事務長に就任。業務をこなす傍ら医療機関のIT系顧問としても活躍。2017年よりのぐち皮ふ科に移り、事務長として勤務。趣味はドローン撮影(免許及び航空法における飛行許可取得)。
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執筆 CLIUS(クリアス )
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