健診クリニック事務長が語る業務の実情 1日のスケジュールから必要な心構えなどを解説

CLIUSクリニック開業マガジンでは、以前もクリニック運営において重要な役割を果たす"事務長"について取材を通して紹介してきました。

『現役・事務長に取材。クリニックの事務長の仕事内容とは?「激務」との噂は本当?』

今回お話をうかがうのは、健診を専門としたシグマクリニックにて前事務長であり現理事を務める加藤 俊 氏、現事務長の五十嵐尚子氏の2名。加藤氏は理事でありながら現在も事務長業務の一部を担っており、五十嵐氏と二人三脚でクリニック運営をサポートしています。そんなお二人に、事務長業務の内情から必要な心構え、ITシステムの運用についてなどをお聞きしました。

事務長職の雇用を検討されている医師をはじめ、クリニック経営者の方はぜひご参考にしてください。

Q.事務長になった経緯は?

加藤 俊氏
(以下、加藤)
私はもともと人材派遣会社で人事関連の仕事をしていました。その会社の産業医を務めていた、当クリニックの現理事長から声をかけていただいたのがきっかけです。私は前職で安全衛生の仕事に携わっていたため、産業医をしていた理事長とも密にやり取りをしていました。そこでの縁がきっかけで、2016年に医療業界は未経験ながらも事務長として入社しました。

私が事務長になるまでは、別のスタッフが事務長業務を兼務していましたが、本業に加えて事務長としての仕事を対応するのには、業務量の面で非常に大変だったようです。
五十嵐尚子氏
(以下、五十嵐)
前職では、別の医療機関で健診業務の渉外を担当していました。前の病院を辞める際に人づてで職を探して、健診がメインのクリニックなら今までの経験がそのまま活かせるということで、2018年5月に当クリニックに入りました。私には「健診をもっと盛り立てていきたい」という目標もあったので、当クリニックでならそれが実現できそうだと思ったことも関係しています。

Q.事務長は、どのような業務を担当している?

加藤
基本的には医師、看護師、受付事務、技師など、医療の専門スタッフがやらない、あるいはやる必要はないものの、クリニックの運営上は不可欠な仕事をすべて担当するのが事務長と理解しています。

当クリニックのスタッフ構成は、曜日によって医師が異なり、看護師はメインで動いている者が4名、あとはスポットで入ってもらっています。受付担当のスタッフは6名で、データ入力や在宅の経理の事務まで含めると8人体制で対応しています。

ただ、スタッフが潤沢にいるわけではないので、営業も含めて医療業務以外は私たちが何から何まで担当します。自分では冗談でよく"雑用係"と言っています(笑)。
五十嵐
一般的な事務長業務は経理や実務、運営面などさまざまありますが、そういった諸々の仕事を加藤が請け負って、私はその中で運営面を補完する形です。

今まで培ってきた健診業務の経験をもとに、当クリニックに足りないと思った部分の改善内容を提案し、理事長や加藤に承諾を得た上でスタッフを配置します。ときには、健診患者さんからの要望を吸い上げて業務改善を図ることもあります。すでに、それまで紙で取っていた予約のデジタル化なども果たしています。

また、先ほど加藤が言った営業についても、区の補助を利用する検査など、一部直接的な営業が禁止されているので、こちらからアクションをかけるというよりは「当クリニックに健診を委託したい」という団体さんがいた際に受け入れられる体制を作っています。

こういった院内整備によって、患者さんも確実に増えました。
加藤
五十嵐が入社し対応してくれたことで、私が十分に行えていなかった医療スタッフへのより細かいフォローや、業務効率化による予約枠のキャパシティが増加しました。おかげで、どんどんクリニックが拡大している印象があります。これは五十嵐をはじめとするスタッフの努力はもちろんですが、理事長が新たに五十嵐を加える決断をしてくれたおかげだと思っています。
医療法人社団 治成会シグマクリニック(外観)

Q.事務長の業務スケジュールは?

五十嵐
8時30分頃に出社して、8時50分から軽いミーティングを行った後、9時から業務がスタートします。昼の受付は3〜4人で回しているので、私が実際に受付に入るのは午後の業務が始まる14時頃からです。電話受付が終了する17時までは電話対応をし、終業時間である18時まで業務をしているので、大体18時30分ぐらいにはクリニックを出ています。繁忙期であっても、19時には仕事を終わらせています。
加藤
私が入った当初は8時に出社し、帰宅したらほぼ毎日0時でした。当時僕が、今の自分でやれることは何か考え、やれることは何でもやりたがったのと、家庭的にも残業可能な環境だったということが大きな要因ですが……。

五十嵐が入ってからは、おかげで0時頃に帰るというのはひと月に1回もなくなりました。

Q.院長と事務長の円滑なコミュニケーションの取り方は?

加藤
重要な相談については直接会って相談するようにしています。
ただ当クリニックの場合、理事長が別の病院でも仕事をしていることもあり、限られた曜日にしか在院しません。そのため、日常的な連絡などは「LINE WORKS」(コミュニケーションアプリ「LINE」が提供するビジネスチャットツール)を使っています。
五十嵐
連絡事項やその日の受診者報告など、「LINE WORKS」で綿密にコミュニケーションを取っています。

また、当クリニックは時間が拘束されてしまう定例の会議がなく、必要な提案や発信などがあれば都度LINEで送って、先生からも即答してもらえています。
加藤
「LINE WORKS」導入前はスタッフ全員に専用のアドレスがなかったため、連絡を取るのは各個人のメールアドレスなどで、連絡やスケジュール共有がとても非効率でした。その解決策として導入を提案し、院長にも早急に許可をいただけたので、私たち事務職でどんどん進めることができました。

Q.事務長業務で大変なことは?

加藤
経営面では、健診メインのクリニックの場合、区民に健診を案内する「健診受診券」の発送が6月頃となっていることから、その前の4〜5月の売上が低い傾向にあります。そのため、企業との産業医契約に付随する形での営業や、健康保険組合といった外部機関との契約を増やせるように努力しています。知人の人事担当者にお願いして未契約の健康保険組合にアプローチしたり、力になってもらえそうな組織や人などと話しながら上手く当クリニックに目を向けてもらえるようにしていますが、なかなか厳しいことも多いです。
五十嵐
当クリニックの場合、例えば人間ドックの受診者がどれだけ増えれば十分な利益を確保できるかのラインを算出して、そのための技師なども配置しています。また、検査会社や健診機関と比べても遜色ないほどの最新の検査機器を導入しております。最近入れ替えた女性健診の検査機器も、本当にベストだと思えるものを備えました。

それでも、今は健診クリニックについてネットですぐに調べられるので、値段比較が容易ですし、良い医師のいるクリニックに関する情報も溢れているので、競争のようなことが起こっています。

その中で当クリニックを選んでもらうためには、やはり受診者に「対応やサービスがとても良かった」と思ってもらえるようにしなければなりません。
今後はウェブ問診やウェブでの健診結果閲覧が当たり前になってくるので、受診された方が手軽にウェブを通じて十分なインフォメーションを得られるようなシステムを整備したいと考えています。
医療法人社団 治成会シグマクリニック(診察室)
加藤
今後は自宅で健診が受けられるような時代がやってくるでしょう。そうなった時、当クリニックのような健診専門のクリニックは今のやり方のみだと売り上げを大きく落としてしまうので、今のうちに備えておかなければなりません。

また、集患だけでなく採用も苦労が多いです。医療系の採用サービスは手数料も一般企業に比べて高く、自院からの持ち出しが多くなってしまいます。現在は職業紹介サービスを利用していて、そのサービス内において当クリニックに合う人財をマッチングしてもらっています。

しかし、実際に採用しても定着しないことがあるので、やはりリファラル採用が最良です。信頼をおいている人からの紹介だと、大きなミスマッチが少ないことと、採用コストがかからないという点が大きなメリットです。
五十嵐
健診分野は女性の就業者が多いため、育児をはじめとしたワークライフバランスも重要になってきます。その時に、ITシステムの力を利用して人的な労力を減らすなど、働きやすい環境を作ることもとても大事だと思います。

Q.事務長に必要な心がまえは?

五十嵐
クリニック全体の目標や、理事長の意見を汲み取った上で、その実現に向けて自分ができることをしていくのが一番だと思います。
その際、例えば診療報酬会計が得意なスタッフがいたら、その人から知識を共有してもらうなどして、それぞれが得意な分野でカバーしていくことが大事です。
加藤
新型コロナウイルス対策にしても、看護師の知識や医師の判断、スタッフが調べた知識などを共有して院内での対処を決めました。当クリニックではスタッフの得意分野が多岐に渡っていたので、そういった面で補完し合えたことはクリニックとしても大きかったです。

Q.事務長が必要なクリニックとは?

加藤
開業される医師は、それまで勤務医として「医療」のみに専念してきた先生が大半で、経営ノウハウはこれから学ばれる方も多いと思います。財務面など経営に興味があって「自分ですべてやりたい」という先生なら事務長は不要かもしれませんが、医療の仕事に集中したい先生であれば、クリニックの規模に関わらず事務長を検討するのが良いのではないかと思います。
五十嵐
当クリニックの規模でも、事務長がいなかったと仮定すると、今ほどの運営は非常に難しいと感じます。
加藤
事務長がいないと、診察や健診の業務にプラスして、銀行や業者対応に時間を取られてしまうので相当大変なはずです。そういった実務も楽しめる先生であれば問題ないのかもしれませんが……。

ただ、クリニック業務の実態を知るという意味で、最初は院長や理事長自身で事務長の役割を担うという選択もあるでしょう。その後、将来クリニックをどうしていきたいか、と考えた時に事務長を登用するかどうかの判断をしても良いと思います。
医療法人社団 治成会シグマクリニック(事務長・理事)
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加藤 俊

取材協力 医療法人社団治成会 シグマクリニック 理事 | 加藤 俊

人材派遣会社でITエンジニアを経験後、同社で人事関連の業務に異動し、主に安全衛生に関する仕事に従事。退職後、東京都の若者向け就職支援施設でキャリアアドバイザーに。その後、シグマクリニックの事務長に就任。現在は自身の会社を経営しつつ、医療法人社団治成会の理事として営業や人事、財務などに関連する役割を担っている。


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五十嵐尚子

取材協力 医療法人社団治成会 シグマクリニック 事務長 | 五十嵐尚子

医療機関にて健診業務の渉外に関する業務を経験した後、2018年5月よりシグマクリニックの事務長に就任。
クリニックの運営面をメインに、業務改善を積極的に図っている。


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