2020年10月1日、株式会社Donutsが提供するクラウド型電子カルテ『CLIUS』は、クリニックの人事評価に関するオンラインセミナーを主催しました。
本記事は、セミナーの要点と、人事評価制度を整備する上で医師や事務長が実践しやすい例をまとめた内容となっています。
<セミナー概要>
・日時:2020年10月1日(木)14:00〜
・会場:オンライン(ウェビナー)開催
・費用:無料
・プログラム:『スタッフ育成と生産性向上で集患・増患につなげる「人事評価制度」』
・講師:株式会社 経営人事教育システム 代表取締役 下山 学 氏
※以下は、下山学氏の発言をもとにした内容です。
雇用者に必要な3つの考え方と実践方法
医療業界全体が人手不足を感じています。10年ほど前まではスタッフ募集広告を出せば看護師は最低でも数名、事務に至っては20~30名以上の応募がありましたが、最近は募集広告を数回出しても応募がないケースも増えています。費用をかけた上で人材が確保できないとなると、広告媒体の工夫、雇用条件や職場環境の見直しが急務といえます。
これらの改善が、後ほどお話する「人事評価制度の見直し」との相乗効果につながりますので、まずはクリニック特有の人材における課題を解決する、3つの考え方をご紹介します。
・採用側の考えを改めなければ人は集まらない
→就業時間や有給休暇、福利厚生など、他の医療機関と比べて働きやすいか確認
・パートスタッフでも仕事を続けたいと思うような職場環境を作る
→パートスタッフの働きやすい環境や条件も検討する
・スタッフの能力の低さに不満を言うよりも、育てて使う
→優秀なスタッフを採用するよりも、教育してスキルアップを図ることが建設的
この3つの考え方を実践するための具体的な方法をいくつかお話しします。
【実践しやすい改善】採用力を上げよう!
まずは採用力の改善を図ります。採用力は以下の3つの要素の掛け合わせで成り立っています。
①医業力(認知度、診療科目、仕事内容)
②条件(勤務地、仕事内容、給与、福利厚生)
③採用活動(接触機会、ターゲット、面接、原稿内容、既存スタッフ満足度)
このなかで最も早急に変えられるものは③採用活動(接触機会、ターゲット、面接、原稿内容、既存スタッフ満足度)です。
例えば、自院が魅力のあるクリニックであることを知ってもらうためには、面接前後での見学を実施することも有効です。どんな職員と一緒に働くのか知ってもらうことで、そのクリニックで働くようすをイメージしやすくなることでしょう。
院長との面接時でも、他のスタッフを同席させ、緊張を和らげるといった手法もあります。
採用基準を決めることでも、最終的なリスクを軽減できます。「とりあえず人が足りないから」と採用基準を持たずに人材を確保しても、結局クリニックの理念や職員、仕事内容が合わずに辞められてしまっては元も子もありません。
人件費率と離職率を見ながら採用計画を立て、年に何人採用すると良いのか考えてみてください。
厚生労働省が発表している医療・福祉分野での離職率は15.5%で、6〜7人スタッフがいれば、毎年一人は辞めている計算です。(厚生労働省:平成30年雇用動向調査結果の概況)自院の離職率と比較していかがでしょうか? 自院の現状が分からない場合は、これを機に計算してみてください。
【職場環境の改善】トラブル・ストレスのないコミュニケーションをとろう
院内のコミュニケーションを改善することも有効です。院長と職員、職員間同士のミスコミュニケーションによって、トラブルは起こり得ます。
<ミスコミュニケーションが起こる例>
・自分の考えを相手も理解していると思い、大事な情報を省略して伝える
・事実と異なる内容を含めて伝える、偏った言い方や悪い表現をする
・自分のなかの常識を押し付けて、それ以外を排除するような言い方をする
このような状況によって、職員や院長と意見が合わないように感じ、離職につながるケースもあります。離職を防ぐためには、問題点の原因を把握し、対策をとる会話をすることを、ぜひスタッフ教育としても示していただければと思います。
人事評価制度を整える際に必要なこと
さて、ここからは今回のセミナーのメインテーマともなっている人事評価制度について話します。
まず、なぜ人事評価制度を整える必要があるのかというと、人事評価制度が整うと、自分の能力や結果が正当に評価されます。すると、頑張った時の評価がやりがいと成長の実感につながり、職場への愛着が生まれ、モチベーションも向上。離職する要因が格段に減ります。
そのために必要な要素をお伝えします。
やりがいを感じ、人間関係のトラブルが少ない職場環境を作る
職員が定着するために必要なエンゲージメント(クリニックへの愛着心・やりがい・評価)を高めるには、理念を説明し、スタッフに理解を求めることが大事ではないかと思います。
愛着心が高まり、クリニックに対する職員の満足度が上がると患者さんの満足度も上がります。そうすると、口コミが広がったり再診患者が固定化し、集患・増患にもつながっていきます。
私としては、
・感謝と共感
・1on1
・理念浸透
の3つを、院長主体で日常の業務内で確保することが有効だと思います。
・感謝と共感
助けてもらった時や、自分に気をつかって動いてくれたことに対して、素直に「ありがとう」と感謝を伝えられる環境。そして相手を尊重する関係ができている職場であれば、職員が居心地の悪さを感じることも少なくなります。
みなさんもぜひ、日常的に感謝が飛び交う職場作りを心がけていただきたいです。感謝と共感ができるだけで、職場環境は劇的に変わると思いますので、まずは院長がどのスタッフにも素直に感謝を伝え、相手を尊重する行動を示せると良いのではないでしょうか。
・1on1
院長のみなさんは、初めから能力が高い人を職員として雇いたいと思うかもしれませんが、選り好みしていては時間ばかりかかってしまいます。そのため、能力がずば抜けて高くない職員を粘り強く教育することでスキルアップしてもらう、という選択肢も視野に入れていただきたいです。
そのためには、1on1のミーティングもやっていただきたいです。
院長があまり職員とコミュニケーションをとらずに、職員のなかのリーダーに任せっきりになってしまうと、例えばそのリーダーが幅を利かせて職場環境に悪影響を与えている人だった場合、院長が状況を把握しないまま他の職員がどんどん辞めてしまうかもしれません。
しっかりと院長と各職員が情報共有できる機会を設けて、一人ひとりのスキルや悩みに寄り添っていただければと思います。
・理念浸透
職員にクリニックの理念を浸透させる仕組み作りも大切です。これを行うには、職員一人ひとりと向き合い、目標とその進捗を確認しながら進める「ピープルマネジメント」を目指すことで実現できます。
ピープルマネジメントによって、個人のエンゲージメントがアップするとされて言われています。
職員の目標はクリニックの事業計画に根ざしているので、まずは院長が考えた事業計画をスタッフに明確に伝え、部門ごとの役割・タスクを分解し、そこから職員ごとの目標を考えます。
そして、4半期ごとに、4つの視点に合わせて進捗確認をします。
<進捗確認をする際に必要な4つの視点>
1:学習と成長の視点 → 職員の満足度工場につながっているか
2:内部プロセスの視点 → 患者サービスの質の向上ができているか
3:顧客の視点 → 患者満足度が実現できているか
4:財務の視点 → 医業収入の拡大につながっているか
私が相談に乗っているクリニックさんでも、事業計画の伝達から職員の目標設定までを行って、3カ月ごとに1on1をして上司や院長と進捗確認をしたところがあります。
昨年よりも定着率が上がったとの報告もいただいておりますので、ぜひ試していただけるといいと思います。そのためには、クラウド目標管理・人事評価システム等を導入し、見える化を強化することも大事です。
例えば看護師の方でも、これからどんな看護をしたいのか聞きながら目標を設定したり、看護師を志したきっかけに結びつくようなことが実現できるようになると成長を感じますし、モチベーションの向上にもつながります。
ぜひ院長の方針・理念を踏まえた事業計画を立てながら、職員一人ひとりが自分の目標を立てて成長を実感できる「ピープルマネジメント」の仕組みを取り入れていただきたいと思います。
実績や業務内容に関する処遇を適正化する
さて、目標に向かって行動した後には、その評価や振り返りが必要です。
この際、院長と職員のギャップを埋める作業が必要です。院長からみて、職員が「やったこと」と、職員本人からみて自分が「やったこと」にはギャップが生まれることがあります。このギャップをそのままにせず、必ずフィードバックし、職員の今後の能力開発につなげてもらいたいです。
そしてもちろん、「やったこと」は正当に評価していただきたいです。正当な評価制度を整えるには1〜3年ほどかかるかもしれませんが、昇給と賞与をしっかり反映できるよう、クリニック全体としてきちんと計画を立ててください。
評価制度は、思い立って数カ月で実現できるものではありません。2、3年経ってようやく安定してくるので、まずは計画を立てて実行すること。時々、計画を立てないで一足飛びに昇給・賞与を与えてしまうクリニックさんもあるのですが、仕組みがない以上はうまくいきませんので、気をつけていただきたいです。
今回のセミナーに参加された方は、おそらく人材確保、教育等に対して悩まれている方、漠然と「変えたい」と思っている方だと思います。
まずは職員のエンゲージメントを高めて、目標管理、人事評価の仕組みを作って安定的な運用を図ってもらえればと思います。働きやすい職場、職員が辞めない職場へと改善していただき、よりよいクリニック経営に結びつけていただきたいです。
特徴
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2020年10月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 株式会社 経営人事教育システム 代表取締役 | 下山 学
兵庫県生まれ。人事コンサル系の企業にて中小病院をメインにコンサルティング業務に従事。2005年から、株式会社 経営人事教育システムにて、医療施設の人事評価に関するサポートを実施。長年のノウハウと経験をもとに、院長やスタッフの潤滑油になるべく、人間関係、環境、制度改善に努めている。人事制度導入実績100社以上。
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執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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