2019年5月に健康保険法が改正され、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる規定が設けられました。この規定により、2021年3月より被保険者の保険資格の確認を「オンラインで行うこと」が可能となります。オンラインで行えるようになることで、従来確認に必要だった時間や手間が省略でき、より良い医療が提供できるようになるのではと期待されています。
医療機関側、患者側双方に大きなメリットをもたらすと目される「オンライン資格確認」ですが、どのような仕組みのものなのかよく分からないという人もいるでしょう。今回は、「オンライン資格確認」の概要やメリット・デメリットなど、導入の参考となる情報をまとめてみました。
オンライン資格確認とは?
医療機関では、患者さんがどの医療保険に加入しているのか、またその医療保険資格が有効かどうかなどを確認します。これが「資格確認」です。医療保険が正しく使われているのか(不正使用されていないか)を確認することや、保険料の請求にも必要不可欠な行為です。
現在は、患者さんから健康保険証を預かり、保険証に記載された記号・番号・氏名・生年月日などのデータを、医療機関システムに入力する形で保険資格の確認を行っています。しかし、この方法ではスタッフが入力する手間や時間がかかり、結果的に患者さんの待ち時間も増えてしまうといったデメリットがあります。そのため、オンラインで資格情報の確認ができるシステムを導入すれば、そうしたデメリットが解消されるのではと期待されています。
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オンライン資格確認の仕組み
今回導入されるオンライン資格確認は、マイナンバーカードのICチップや、健康保険証の記号番号などを用いて保険資格の確認を行います。
マイナンバーカードを使った確認では、従来の保険証のように預かるのではなく、カードを患者さん自身の手で専用のカードリーダーにかざしてもらいます。このとき、顔認証機能付きのカードリーダーであれば、同時に来院しているのが被保険者本人で間違いないかを確認。それができない場合は、スタッフによる目視や、暗証番号の入力で本人確認を行います。
こうしたプロセスを経て、保険者から情報提供を受けている支払基金・国保中央会(支払機関)へ情報照会が行われ、医療機関に医療保険資格情報が提供される、という仕組みです。
医療機関側もスタッフが情報入力をせずに済み、被保険者もマイナンバーカードがあれば保険証を携帯する必要がなくなるという便利なシステムです。また、オンライン資格確認のシステムを導入したからといって、保険証による確認ができなくなるわけではありません。保険証で資格確認を行う場合は、従来どおりに患者さんから保険証を預かり、記号番号などをシステムに入力することで、オンラインで資格確認を行うことが可能です。
導入にオンライン請求システムは必須
オンライン資格確認は、レセプトのオンライン請求システムと同じ閉域網のインフラを用いて行われます。そのため、オンライン請求システムの回線がない場合は、オンライン資格確認を導入することはできませんので、オンライン資格確認を利用する場合は、オンライン請求システムも導入しないといけません。オンライン請求システムの導入に必要となる費用は、医療情報化支援基金の補助対象となりますから、この機会に導入を検討するのもいいでしょう。
導入は2021年3月予定
注目を集めているオンライン資格確認は、2021年3月から導入される予定。厚生労働省は3月のスタート時点で医療機関などの6割程度、2022年には9割、2023年3月にはおおむね全ての医療機関での導入を目指すとしています。そのため、オンライン資格確認を導入したい場合でも必ず2021年3月に始めなければならないというわけではありません。
オンライン資格確認の導入は義務?
2020年7月中旬に、厚労省・社会保険支払基金から各医療機関に「オンライン資格確認導入に向けたご案内」が送付されました。この案内の内容からは、オンライン資格確認の導入は義務なのか任意なのかが分からなかったため、問い合わせが殺到したそうですが、あくまで導入は「任意」です。
上述のように、オンライン資格確認は2021年3月から導入される予定ではありますが、このタイミングに必ず始めなければならないものではありません。もちろん、保険資格の確認は医療の基本です。保険資格の確認を簡易かつ正確に行うためにも、導入を考慮しておくべきでしょう。
ただし、マイナンバーカードを保険証として使うには、被保険者がマイナポータルで保険証利用の申し込みをすることが必要です。登録は、医療機関・薬局の窓口に置かれた顔認証付きカードリーダーでも可能ですが、マイナンバーカードの普及率は2020年時点で約17%と低いため、まだまだ保険証利用の方がメインになると予想されます。
オンライン資格確認のメリットは?
厚生労働省では、オンライン資格確認を導入することには以下のようなメリットがあるとしています。
メリットその1「資格過誤によるレセプト返戻の作業削減」
通常、保険医療機関が提出したレセプトは、支払機関である「支払基金・国保中央会」または「保険者」で審査や確認が行われます。しかし、提出したレセプトの内容に間違いがあったり、請求点数に増減があったりなど不備があれば、提出した保険医療機関にレセプトが差し戻されます。不備が生じる原因は、保険資格の失効や単純な入力ミスなどが挙げられますが、返戻があった場合は再度正しいレセプトを提出するための確認が必要となり、その作業に大変な手間がかかります。
オンライン資格確認は支払基金・国保中央会のシステムとつながっており、「その場で正確な医療保険資格を確認することが可能」です。そのため、こうしたレセプト返戻を減らすことにもつながります。
メリットその2「保険証の入力の手間削減」
従来の保険資格の確認は、スタッフが健康保険証を患者さんから預かり、保険証記号番号、氏名、生年月日、住所などを医療機関システムに入力する形でした。上述のように、この方法では、どうしてもスタッフが入力する手間・時間が生じます。そうなると受付業務も圧迫され、患者さんを長時間待たせることにもなります。
オンライン資格確認では、マイナンバーカードのICチップ内にある「利用者証明用電子証明書」を利用して認証を行い情報を取得します。取得情報は自動的に医療機関システムに取り込めるようになっているため、いちいち入力する手間も省けます。また、健康保険証の情報を用いてオンライン資格確認も行えますが、その際も必要最小限の情報のみで確認ができ、こちらも保険資格情報を自動的にシステムに取り込むことが可能です。
メリットその3「来院・来局前に事前確認できる一括照会」
オンライン資格確認を導入することで、患者さんの照会保険資格の一括照会を事前に行えるようになります。例えば、来院予約をしている患者さんの健康保険証記号番号をまとめておき、一括で照会すれば、その患者さんの保険資格が有効か、保険情報が変わっていないかなどを事前に把握できます。
メリットその4「限度額適用認定証等の連携」
高齢受給者証など限度額適用認定証等情報は、患者さん側が保険者に申請しないと発行できませんでした。例えば、対象者であっても、受診時に認定証情報がなければ、限度額以上の医療費を窓口で支払わないといけないのです。しかし、オンライン資格確認システムは、患者さんの同意を得れば、自動的に資格情報を照会できます。患者さんから保険者に申請をすることなく限度額情報が取得できるので、認定証を持参していなくても限度額以上の医療費を窓口で支払う必要はなくなります。
対応する限度額適用認定証等情報と、表示される情報は以下のとおりです。
- 高齢受給者証(70歳以上75歳未満の高齢者について、一部負担割合を表す証)
一部負担金の割合 - 限度額適用認定証(高額療養費制度の適用区分を表す証)
適用区分 - 限度額適用・標準負担額減額認定証(高額療養費制度の適用区分及び入院時の食費等の減額の対象者であることを表す証)
適用区分(長期入院該当年月日) - 特定疾病療養受療証(特定疾病の認定を受けたことを表す証)
認定疾病名(自己負担限度額)
メリットその5「薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができる」
オンライン資格確認システムを導入すれば、患者の薬剤情報(レセプト情報を基にした3年分の情報)・特定健診等情報(医療保険者等が登録した5年分の情報)を医師・歯科医師・薬剤師などの有資格者が閲覧可能になります。
こうした情報が閲覧可能になると、かかりつけ医療機関以外でやむを得ず診察を受けることになった場合でも、適切な対応、治療が可能になります。また、患者さんに対して新たに問診を行う時間を削減することもできるため、対面診療時間を減らす、より多くの患者さんを診ることが可能となります。いずれにしても、高品質の医療を提供することにつながります。
情報の閲覧は本人の同意を得た場合に可能となります。同意取得は、マイナンバーカードの受付時に行います。カードリーダーにマイナンバーカードをタッチし、本人確認をした後に「薬剤情報・特定健診情報等の閲覧同意」を患者さんに選択してもらいます。ここで同意を得た場合に、薬剤情報・特定健診情報の閲覧が可能となります。
メリットその6「災害などの緊急時に薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができる」
薬剤情報・特定健診情報の閲覧は、通常時は本人の同意が必要ですが、災害時は「特別措置」として、本人確認ができなくても薬剤情報の閲覧ができます。災害が発生すると、必要な薬を家に置いてきてしまったり、かかりつけの医師の診察が受けられなかったりと問題が起こります。そうしたトラブルに対応するための特別措置というわけです。
ただし、災害が起こった場合はどのような場合でも閲覧可能になるのではなく、災害の規模に応じて、厚生労働省保険局が薬局の範囲および期間を定めるとのこと。
オンライン資格確認の気になるデメリット
保険証の入力の手間や資格過誤によるレセプト返戻が減らせるなどのメリットが挙げられていますが、次のような「デメリット」も考えないといけません。
デメリットその1「維持費用の問題」
厚生労働省は、「2021年(令和3年)3月までに顔認証付きカードリーダーの申し込みを行った医療機関・薬局に限定して一定の補助上限まで定額補助を行う」としています。診療所の場合は顔認証付きカードリーダーが1台無償提供となり、レセコン改修やパソコンの購入などで必要となった費用も、42.9万円を上限に実費補助されます。こうした「財政補助」があるため、導入の際に発生するコストは大きな負担とはなりません。
しかし、イニシャルコストは安く済んでも、維持費、つまりランニングコストの問題が発生します。また、端末故障の際の修理費は医療機関側の負担になるなど、「後々のこと」を考えると懸念材料は意外と多いのです。福島県保険医協会がオンライン資格確認についてのアンケートを行ったところ、懸念材料として「維持費用」が挙がるなど、不安視している医療機関も実際に多いようです。
デメリットその2「導入そのものに対する手間」
導入するといっても、設置して終わりというわけではありません。導入のための申請の手間やシステム改修に伴う業務の停止、また機器の操作をスタッフが覚える必要があるなど、クリニック側の負担は小さくありません。特にコロナ禍で全く動けないクリニックも多くある今は、すぐに導入に踏み切れるところはそう多くないでしょう。非常に便利なオンライン資格確認システムですが、こうしたデメリットも踏まえ、導入を検討すべきでしょう。
デメリットその3「手続き対応の増加」
新しいシステムを導入した際に、必ずといっていいほど増えるのが、「問い合わせ」です。例えば、電話で「これはどうすればいいのか」「これは使えるのか」といった問い合わせが増えることはもちろん、来院した患者さんからも機器の操作についての質問が増えると予想されます。また、オンライン資格確認はマイナンバーカードを保険証として使えるよう登録しないといけないため、登録していないマイナンバーカードや番号通知カードを持参しても「使えない」というケースも考えられます。
ほかにも、マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認だけでなく、従来の保険証を用いての保険資格確認も変わらず利用可能なため、顔認証付きカードリーダーと従来の方法の2ラインで管理しないといけなくなります。スタッフの手間を省くために導入したのに、かえって忙しくなることもあり得ます。導入当初は専用のスタッフを配置するなど対応策を用意しておく必要があります。
デメリットその4「セキュリティ対策」
オンライン資格確認システムでは、本人の同意を得た場合に、患者の薬剤情報(レセプト情報を基にした3年分の情報)・特定健診等情報(医療保険者等が登録した5年分の情報)を閲覧することが可能になります。よりセンシティブな情報が閲覧可能となるためウイルス対策など、これまで以上にオンラインセキュリティ対策を行う必要があります。
もし医師やスタッフがそうしたジャンルに詳しい場合は、対応もスムーズかもしれませんが、そうでない場合は業者に任せることになるでしょう。先ほど「維持費用」がネックとして挙げられましたが、設備そのものだけでなく、セキュリティなどの「その他の費用」が必要になることも考えておくべきです。
また、マイナンバーカードという「個人情報のかたまり」を持ち歩くようになるわけですから、オンライン上でのセキュリティだけでなく、院内での紛失や盗難といった点にも備えないといけません。スタッフがこうしたトラブルにも対応する必要が生じるのも、デメリットといえるでしょう。
デメリットその5「自治体の公費や地方単独事業との引き継ぎがない」
オンライン資格確認システムは、限度額適用認定証等の連携をすることが可能です。そのため、従来は申請が必要だった高齢受給者証は、申請なしで適用可能となり、この点も大きなメリットとされています。しかし自治体助成事業とは、2021年3月のスタート時点で連携は行われないため、対象となる患者さんは別に受給者証を医療機関に持参し、確認・入力してもらう必要があります。
2021年3月から導入される予定の「オンライン資格確認」の概要や、導入のメリット・デメリットをご紹介しました。レセプト返戻の削減や事務の効率化などさまざまなメリットがありますが、まだまだマイナンバーカードの利用者が少ないため、メリットが感じられるまでは時間がかかるでしょう。導入の手間や慣れるまではスタッフにも負担がかかる可能性もあるため、慌てて導入するのではなく、まずはどのようなシステムなのか確認した上で、導入を検討するようにしてください。
この記事は、2021年1月時点の情報を元に作成しています。