医療法人化のメリット・デメリット|法人化にベストなタイミングも併せてご紹介

開業医として独立した暁には、医療法人化を視野に展開を進めていきたいと考えるドクターも多いでしょう。

スムーズに設立まで漕ぎつけて、その後の事業も順調に進めていくためには、メリットやデメリットを把握したうえでしっかりと構想を描いて実現していくことがとても大切。

そこで今回は、医療法人化について詳しく解説していきます。

医療法人とは?

まずは、医療法人とは何かを簡単に説明します。

医療法人とは、病院や診療所、介護老人保健施設または介護医療院といった医療施設を開設することを目的に設立される法人のこと。「医療法」という法律によって、法律が認められている法人になります。

医療法では、医療法人の形態を「社団法人」または「財団法人」と定めていますが、大多数は社団法人です。また、各法人の出資者は「社員」と呼ばれます。

出資者が、出資持分に応じて払戻請求権を保有する場合は「出資持分のある法人」と呼ばれ、払戻請求権を保有しない場合は「出資持分のない法人」と呼ばれます。

「出資持分のない法人」のうち、公益性に関する一定の条件を満たしている法人は、租税特別措置法に基づき、法人税の軽減税率が適用される「特定医療法人」に分類されます。

日本の医療施設のうち、医療法人によって開設されているものの割合は、以下の通りです。 ※厚生労働省が公表している「平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」による

開設者別にみた施設数 - 病院

病院施設数全体の施設数における割合
3243.90%
公的医療機関1,20714.4%
社会保険関係団体520.60%
医療法人5,76468.50%
個人1872.5%
その他83810.10%[1] [2]

開設者別にみた施設数-一般診療所

病院施設数全体の施設数における割合
5360.50%
公的医療機関3,5503.50%
社会保険関係団体4640.50%
医療法人42,82241.30%
個人41,44441.30%
その他13,28912.90%

参照:平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況―p.7一部抜粋

また、医療法人は、先に述べた通り、医療法人には社団法人と財団法人がある他、出資者の払戻請求権の保有の有無によっても違いがあります。

これらの条件を元に大きく分けると、以下のようにまとめられます。※2015(平成27)年時点での条件による区分

社団医療法人出資持分のない法人社会医療法人(旧特別医療法人)
特定医療法人
その他医療法人
基金拠出型法人
出資持分のある法人経過措置型医療法人
財団医療法人社会医療法人(旧特別医療法人)
特定医療法人
その他医療法人

社会医療法人(旧特別医療法人)

政令で定めるところにより、都道府県知事の認定を受けた医療法人です。

非営利性に加えて公益性の高さが求められる医療法人で、地域の医療計画に沿って救急医療等確保事業を行うことから、地域医療の中核を担う役割となります。

認定要件は厳格ですが、認定されると、自院や自社医療施設から生じる所得の法人税が非課税になることに加え、直接救急医療等確保事業に供する資産に対しての固定資産税や都市計画税が非課税になるなど、税制上の優遇措置を受けられます。

特定医療法人

租税特別措置法に規定されている、特定の医療法人を指します。社団医療法人も財団医療法人も承認対象。

承認要件チェックは厳格に行われますが、承認を受けられると法人税の軽減税率が適用されるなど、税制上の優遇措置を受けられるのでメリットが大きいです。

基金拠出型法人

2007(平成19)年4月1日の医療法改正によって、出資持分のない社団医療法人は、基金制度を採用できることになりました。

その際、基金制度を採用した医療法人のことを、基金拠出型医療法人と呼ぶようになりました。

ちなみに「基金」とは、医療法人が拠出者に対して返還義務がある財産のこと。社員や理事以外の人間でも拠出可能です。

また、基金には、配当・利息がありません。

経過措置型医療法人

社員の退社にともなう出資持分の払い戻しや、医療法人の解散にともなう残余財産分配の範囲につき、払込出資額を限度とする旨が定められている社団医療法人は「出資限度額法人」とされていました。

しかし、2007(平成19)年4月1日の医療法改正によって、出資額限度法人は「経過措置型医療法人」と改定。

また、同日以降に設立された医療法人は、経過措置型医療法人に移行することはできません。

医療法人化するメリット

続いては、医療法人化するメリットをみていきましょう。

給与所得控除が受けられる

医療法人化すると、所得が給与扱いになるため、給与所得控除を受けられます。給与所得控除は最大195万円です。

家族に理事報酬を支払うことができる

理事長の給与を敢えて抑えて、その分、家族に分散すると課税額を抑えられます。

承継する場合相続税がかからない

個人事業のクリニックを承継する場合は相続税がかかります。

しかし医療法人なら理事長を変更するだけで承継できるため、子どもなどにクリニックを継いでもらいたい場合、相続対策がバッチリということになります。

生命保険を利用すれば退職金を準備できる

生命保険の途中解約によって、退職金を準備できます。

保険料の半額は医療法人の経費からも払えるので、理事長個人は支払額以上の退職金が得られます。

事業展開しやすくなる

分院の設立はもちろん、介護事業施設やリハビリテーション施設も展開できます。

個人の借金を医療法人の借金にできる

クリニック開業時にできた借金の名義を医療法人に移せば、理事長個人のリスクを減らせます。

資金調達しやすくなる

個人事業の場合、院長に加えて保証人がひとり必要ですが、医療法人の場合、主体が医療法人で保証人を理事長にできるので、事実上ひとりで資金調達できます。

個人事業主より信用度が高いとされる

銀行に融資を申し込む場合も、個人事業主と比べて有利になります。

社会保険診療報酬の源泉徴収がない

個人事業主の場合、社会保険診療に対する源泉徴収がありますが、医療法人の場合には「法人税」になりますので、これがなくなります。

欠損金を10年繰り越せる

青色申告の医療法人の場合、赤字決算になった場合は、その欠損金を10年は繰り越して控除することが可能です(事業開始年度2018年4月1日以降)。

たとえば、ある事業年度に1,000万円の赤字となったとします。

翌年に500万円の黒字であっても、前期の赤字を繰り越して-500万円。赤字ですから基本法人税はかかりません(均等割は支払う/資本金1億円超の医療法人の場合は全額を差し引けません)。

また残った赤字分の500万円はさらに次期に繰り越せます。

青色申告の個人事業主の場合は繰り越し可能なのは3年ですので、そのメリットは大きいのです。

医療法人化するデメリット

反対に、医療法人化するデメリットとしてはどんなことが考えられるのかみていきましょう。

書類作成などの雑務が増える

事業報告書や資産登記、理事会の議事録などをたびたび作成しなければならなくなります。

解散したくなってもなかなかできない

医療法人は、「地域医療の担い手である」という観点から事業の永続性が求められるため、個人的な理由による解散が認めづらいという特徴があります。

解散時には各都道府県の認可が必要となりますし、理事長が引退したい場合は、理事長の座を明け渡す人、もしくはM&A先を探す必要があります。

基本的には個人事業主に戻れない

2と理由が重複しますが、医療法人は公益性が重んじられているため、「継続すること」が大前提。

基本的には、個人事業主には戻れないと思っておいたほうが無難でしょう。

社会保険と厚生年金への加入義務が生じる

従業員の人数に関わらず、社会保険と厚生年金に加入しなければなりません。

小規模企業共済は解約することになる

個人事業主ではなくなるため、解約が必須となります。

法人化におすすめのタイミングは?

開業してすぐに法人化することは、予算的にも経験値的にもなかなか難しいでしょう。では、法人化するタイミングとしてはいつがベストなのか。

これを見定めるひとつの基準となるのが、収入です。

具体的には以下の2点が目安となります。

  • 社会保険診療収入が年間5,000万円を超えたとき
  • 自由診療も含めた総収入が年間7,000万円を超えたとき

社会保険診療収入が年間5,000万円以下、自由診療も含めた総収入が年間7,000万円以下であれば「概算経費」が利用できます。

概算経費とは、個人事業主の医師が、社会保険診療報酬にかかる経費を実際の金額ではなく概算で計算できる優遇制度です。

この制度を利用すれば課税所得を大きく減らせますが、利用条件となる金額を超えて制度が利用できないとなると、個人事業主のままでいるメリットが減るので、医療法人化するひとつのタイミングなのです。

また、事業展開や事業拡大の明確な構想がある場合は、概算経費とは関係なく、いかにスムーズに展開していけるかを優先して考えるのがベストでしょう。

法人化するために必要なこと

続いては、法人化するために必要なことをみていきましょう。

新しい医療法人を設立する

医療法人化するためには、まず、「医療法人」を設立することが必要です。

このステップには約6か月要します。

医療法人を設立するためには、各都道府県の首長に「医療法人設立認可申請書」を提出する必要があります。

この申請書には、2年分の確定申告書、予算明細書、事業計画書など50種類前後の書類を添付する必要があるため、書類に不備が見つかる場合もあります。

そのため、「仮申請」に通ったら「本申請」という流れが設けられており、書類に不備があった場合は修正したり追加で書類を提出したりすることが必要になります。

たとえば、東京都の場合は以下の書類を添付する必要があります。

【必要添付書類一覧】

  • 受付表
  • 定款(寄附行為)
  • 設立総会議事録(様式2)
  • 財産目録(様式3)
  • 財産目録明細書(様式4)
  • 不動産鑑定評価書
  • 減価償却計算書(様式5)
  • 現物拠出の価額証明書
  • 基金拠出契約書等(様式6-1~4)
  • 預金残高証明書
  • 診療報酬等の決定通知書
  • 設立時の負債内訳書(様式7-1、2)
  • 負債の説明資料(様式8)
  • 負債の根拠書類
  • 債務引継承認願(様式9-1~3)
  • リース物件一覧表(様式10)
  • リース契約書(写し)
  • リース引継承認願(様式11)
  • 役員・社員名簿(様式12)
  • 履歴書(様式13)
  • 印鑑登録証明書
  • 委任状(様式14)
  • 役員就任承諾書(様式15)
  • 管理者就任承諾書(様式16)
  • 理事長医師免許証(写し)
  • 管理者医師免許証(写し)
  • 理事医師免許証(写し)
  • 診療所等の概要(様式17-1)
  • 施設等の概要(様式17-2)
  • 周辺の概略図
  • 建物平面図(1/50~1/100程度のもの)
  • 不動産賃貸借契約書(写し)
  • 賃貸借契約引継承認書(覚書)(様式18)
  • 土地・建物登記事項証明書
  • 近傍類似値について(様式19)
  • 事業計画書(2カ年または3カ年)(様式20)
  • 予算書(2カ年または3カ年)(様式21)
  • 予算明細書(様式22)
  • 職員給与費内訳書(様式23)
  • 実績表(2年分)(様式24)
  • 確定申告書(2年分)
  • 診療所の開設届および変更届の写し

参照:『東京都福祉保健局』「医療法人設立認可申請書チェックリスト」

登記する

医療法人の設立許可が下りたら、法人登記を行います。

登記は、認可書を受領した日から2週間以内に法務局でおこなうことが必要です。

登記の際は、「医療法人設立登記申請書」の提出が求められます。

さらに、「医療法人設立認可申請書」提出時と同様、複数の書類を提出する必要があるので、事前に必要な書類をチェックして準備を進めておきましょう。

【登記申請に必要な書類一覧】

  • 設立認可書(または所轄庁の認証のある謄本)
  • 定款
  • 理事長の選出を証する書面
  • 理事長の就任承諾書
  • 資産の総額を証明する書類(財産目録)
  • 委任状(代理申請の場合)

登記が終わったら、「医療法人の登記事項の届出」を都道府県の福祉保健局に提出します。

保健所に「診療所開設許可申請書」を提出する

所轄の保健所に「診療所開設許可申請書」を提出します。提出後は、保健所による立ち会い検査などがあります。

(有床の場合)「診療所使用許可申請書」を提出する

有床の場合、「診療所使用許可申請書」の提出も必要です。

厚生局に「保健医療機関指定申請書」を提出する

管轄の厚生局に、「保健医療機関指定申請書」を提出します。この申請が受理されなければ、社会保険診療をおこなうことができません。

廃院届けを出す

新しい医療法人が開設されたら、これまでのクリニックを廃院します。

所轄の保健所には「診療所廃止届」、厚生局には「保健医療機関廃止届」の提出が必要です。

「診療所廃止届」は「開設届」、「保険医療機関廃止届」は「保険医療機関指定申請書」と同時に提出するといいでしょう。

まとめ

医療法人化の手続きは、提出書類も踏むべきステップも多く、それだけでいっぱいいっぱいになってしまいそうですが、医療法人化と並行して、インフラの名義変更やリース中の医療機器の名義変更なども行わなくてはなりません。

さらに、社会保険診療の報酬は新しい法人口座に入れるため、銀行口座の開設も必要ですし、場合によってはスタッフの増員やクリニックのリニューアルなどを行うこともあるでしょう。

大変な労力がかかることは間違いないので、後悔や失敗のリスクを少しでも減らせるよう、準備には十分に時間をかけてくださいね。

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医療法人設立認可関係及び届出・申請書類の作成と所管の官庁へ提出を

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