医師・クリニック院長は何かと忙しいものですが、その忙しさの中に本来であれば担当しなくてもいい仕事が入っているのであれば問題です。かといって、それが医療行為でないのなら看護師に頼むのも考えものです。本来看護師が行うべき仕事でないなら余計なワークロードになります。そこで、昨今では「医療クラーク」という職種が注目されています。
「医療クラーク」とは?
もともと「クラーク(clerk)」とは「書記」「事務官」「事務員」などの意味ですが、「医療クラーク」は、医師、看護師の手足となって医療現場に関わる事務仕事をこなす専門職のことを指します。
『厚生労働省』は、書類作成(診断書や主治医意見書等の作成)などの医療関係事務を処理する事務職員(医療クラーク)と説明しています(2010年4月30日付け「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」内p.351)。
最近では資格試験も登場しており、
呼称 | 分類 |
---|---|
ドクターズクラーク | 医師をサポートする医師事務作業補助者 |
メディカルクラーク(看護クラーク) | 主に看護師のサポートを行う |
病棟クラーク | 担当する医療現場による分類 |
外来クラーク | 担当する医療現場による分類 |
などの呼称もありますが、本稿では『厚生労働省』の文書にある「医療クラーク」を使います。
医師が本来の医療業務に集中するために
「医療クラーク」は、医師、看護師が本来の専門である医療の仕事に専従するために存在します。
例えば、2007年には『厚生労働省』医政局長から各都道府県知事あてに「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について(通知)」が出されており、この中では、
近年、医師の業務については、病院に勤務する若年・中堅層の医師を中心に極めて厳しい勤務環境に置かれているが、その要因の一つとして、医師でなくても対応可能な業務までも医師が行っている現状があるとの指摘がなされているところである。
また、看護師等の医療関係職については、その専門性を発揮できていないとの指摘もなされている。
良質な医療を継続的に提供していくためには、各医療機関に勤務する医師、看護師等の医療関係職、事務職員等が互いに過重な負担がかからないよう、医師法(昭和23年法律第201号)等の医療関係法令により各職種に認められている業務範囲の中で、各医療機関の実情に応じて、関係職種間で適切に役割分担を図り、業務を行っていくことが重要である。
このため、今般、医師等でなくても対応可能な業務等について下記のとおり整理したので、貴職におかれては、その内容について御了知の上、各医療機関において効率的な業務運営がなされるよう、貴管内の保健所設置市、特別区、医療機関、関係団体等に周知方願いたい。
としています。
要は、医師、看護師が本来専門である医療行為に集中できるように、事務の仕事は専門の事務職に行ってもらいなさい――という通知です。
「医療クラーク」に任せていい仕事
上記の通知では、条件付きで以下のような仕事は事務職員に任せてもいい、としています。
1)書類作成等
1. 診断書、診療録および処方せんの作成
診断書、診療録および処方せんは、診察した医師が作成する書類であり、作成責任は医師が負うこととされているが、医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が医師の補助者として記載を代行することも可能。
2.主治医意見書の作成
介護保険法に基づき、市町村等は要介護認定及び要支援認定の申請があった場合には、申請者に係る主治の医師に対して主治医意見書の作成を求めることとしている。医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が医師の補助者として主治医意見書の記載を代行することも可能。
3.診察や検査の予約
いわゆるオーダリングシステムの導入を進めている医療機関が多く見られるが、その入力に係る作業は、医師の正確な判断・指示に基づいているものであれば、医師との協力・連携の下、事務職員が医師の補助者としてオーダリングシステムへの入力を代行することも可能。
2)ベッドメイキング
看護師および准看護師以外が行うことができるものであり、業者等に業務委託することも可能。
3)院内の物品の運搬・補充、患者の検査室等への移送
滅菌器材、衛生材料、書類、検体の運搬・補充については、専門性を要する業務に携わるべき医師や看護師等の医療関係職が調達に動くことは、医療の質や量の低下を招き、特に夜間については、病棟等の管理が手薄になるため、その運搬・補充については、看護補助者等の活用や院内の物品運搬のシステムを整備することで、看護師等の医療関係職の業務負担の軽減に資することが可能になる。その際には、院内で手順書等を作成し、業務が円滑に行えるよう徹底する等留意が必要である。また、患者の検査室等への移送についても同様、医師や看護師等の医療関係職が行っている場合も指摘されているが、患者の状態を踏まえ総合的に判断した上で事務職員や看護補助者を活用することは可能。
4)その他
- 診療報酬請求書の作成
- 書類や伝票類の整理
- 医療上の判断が必要でない電話対応
- 各種検査の予約等に係る事務や検査結果の伝票、画像診断フィルム等の整理
- 検査室等への患者の案内
- 入院時の案内(オリエンテーション)
- 入院患者に対する食事の配膳
- 受付や診療録の準備等
についても事務職員や看護補助者の積極的な活用を図り、専門性の高い業務に医師や看護師等の医療関係職を集中させることが、医師や看護師等の医療関係職の負担を軽減する観点からも望ましい。
参照・引用元:『厚生労働省』「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」
というわけで、最終的に医師の確認を要したりしますが、書類の作成など医療クラークに任せられる部分はかなりあるわけです。
医療クラーク導入のメリットとデメリット
医療クラーク導入のメリットは以下になります。
- 医師・クリニック院長、看護師の業務の軽減
- 医師・クリニック院長、看護師が本来の業務に集中できる
医療クラークが活躍してくれると、医師・クリニック院長の業務はずいぶん軽減されます。
しかし、以下のようなデメリットもあります。
- 人件費がかかる
- 適任者が容易に見つからない
まず、医療クラークのための人件費が新たにかかるのがクリニックの負担になります。また、たとえ資格試験に合格していたとしても、「現場をさばく能力」については実際に働いて身に付くものです。最初から医師・クリニック院長、看護師に対応できる能力のある人材はいないといえます。育てなければならないのです。
実際、以前クリニックで働いている医療クラークについて、院長先生にお話を伺ったことがありますが、「8カ月働いてもらってやっとこなれてきた感じ」という感想でした。レセコンや電子カルテ、予約システムなど導入しているシステムもクリニックごとに違いますから、それに慣れる時間も必要で、育てる覚悟がなければ雇用できない職なのです。
しかし、その院長は「雇用して本当に良かった」という感想でした。医師・クリニック院長が本来行うべき仕事に集中できることはクリニックにとって非常に良い効果を与えるのです。また、話し相手ができるというメリットも得られます。医師・クリニック院長は概して孤独なものです。秘書官のように話せる相手がいることはメンタル面で良い効果を与えるのです。
まとめ
「医療クラーク」についてご紹介しました。いてくれると大変に助かる専門職なのですが、まだクリニックへの導入は始まったばかりだといえます。また、まだ人材も十分とはいえないのが現状です。しかし、もし雑事で医師・クリニック院長の仕事に集中できないといった状況であるなら、導入を考えてみるのはいかがでしょうか。
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2021年4月時点の情報を元に作成しています。