病棟に勤めていると、手術を終えた患者さんや退院の患者さんが、感謝の気持を込めて差し入れのお菓子を送ってくれることがあります。
しかし、患者さんからのお礼や差し入れの品はもらってはいけないという規則の病院は多いです。
そんななか、絶対に渡したい患者さんと、絶対に受け取ることができない病棟スタッフの間に起こった攻防とは……!? そして、陰で繰り広げられるスタッフ間の駆け引きとは……?3つのエピソードをご紹介します。
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これはごみです
ひとつめのエピソードの主役は、抗がん剤の治療のために入院していた男性患者さん。入院生活や治療中は特に問題は起きず、平和に退院の日を迎えられることとなりました。
退院当日、来院された奥さまが手にしていたのは菓子折りが入った紙袋。退院の手続きを終えられ、いざ帰ろうとしたそのとき、窓口カウンターに紙袋を置いて「みなさんで召し上がってください」とおっしゃられました。
しかし、残念ながら病院の規則があるため、絶対に受け取ることができません。そこでまずは師長が、「当院では院内の決まりで一切の心づけをお断りしております。お気持ちだけいただきます」とニコリと返却しました。
実は、病院は公立ではないため、厳密には差し入れや贈り物を受け取ってはいけないわけではありません。しかし、患者さんの負担が増えることや、反対に差し入れや贈り物を渡すことができない患者さんがそのことを申し訳なく思わないように、差し入れや贈り物は一切お断りすることにしているのです。
そうした方針のため、最近では窓口カウンター横の掲示板にも、「差し入れや贈り物は一切受け取ることができません。置いていかれた場合は郵送で返送することになりました」と記したポスターまで貼られていました。
師長はそれを武器に、「このように返送の必要があるので、どうかお持ち帰りください」と言いました。すると、それを聞いた患者さんの奥さんは、「そうですか……」と残念そうに言いながら一度はカウンターを離れられました。
それを見たスタッフは、ポスターの威力はすごいなと感じていました。しかしその直後、今度は患者さん本人が来られ、「お世話になりました。これはゴミです。重いので捨てておいてください」とニヤリとされ、紙袋をカウンターに置いて行かれました。
師長がその「ゴミ」と言われる菓子折りを持って患者を追うも、患者さんは廊下に響くくらいの大きな声で「ゴミなのでよろしく!」とだけ言い残して、ニコニコとエレベーターに乗り込んで帰られました。
リハビリの成果?
続いてのエピソードの主役は、がんの手術のために入院されていた88歳の女性患者さんです。
彼女は、合併症を引き起こしやすい因子をいくつか持っておられ、手術後の回復が心配されましたが、何とか無事に退院を迎えることができました。しかし、手術後から携帯酸素を使用しており、退院後は、チューブを通して酸素を取り込む機械を導入することになっていました。
外出時も、数キロある酸素ボンベを車輪のついたカートに乗せてコロコロと引き、身体の一部として生活していかなければなりません。数キロの酸素ボンベでもカートに乗せるとそこまで重さは感じませんが、88歳の高齢の方となると、ただ歩くことさえ一苦労であるため、車輪を操作しながら酸素ボンベを引くことは大変であると予想されました。
そんな女性患者を退院当日に迎えに来たのは、3人の娘さん。退院の手続きや説明が済むと、患者さんと家族のみなさんはカウンターまでいらして、スタッフと談笑していました。
しかし、ほどなくして「さあ行こうか」の掛け声とともに、娘さんが贈り物のお菓子が入った紙袋をカウンターに投げるように置くと、88歳の患者さんは酸素ボンベを引きながら、何と小走りで走って帰って行きました。走り去る後ろ姿は、在宅酸素の導入や酸素ボンベの使用、術後のリハビリさえ危ぶまれていた患者さんの姿ではありませんでした。
本来ならすぐに追いかけてお断りの言葉を言うはずの師長もポカンとして、最後には笑っていました。何とか贈り物を受け取ってほしいと思う気持ちとリハビリの成果が合わさった結果の、酸素ボンベを引きながら走って帰るという患者さんの行動だったのでしょう。
患者さんの作戦勝ち!
最後のエピソードの主役は、70代の上品な印象の女性患者さんです。
その方は、以前同じ病院の別の病棟に入院されていたことがあるのですが、入院中には、その病棟を退院する際に焼き菓子の贈り物を用意したら、受け取りを断られたと話していたことがありました。また別の日には、「いつも忙しそうだけど一体何人のスタッフの方が所属しているの?」と病棟のスタッフ数を尋ねられたこともありました。
退院の日は案の定、迎えにきた娘さんとともに、「お世話になりました」とカウンターにかなり大きな箱を置かれました。中身は、医師や看護師、看護助手さんや病棟クラークさんを含めたスタッフの人数の倍の数のシュークリームでした。病棟には40人ほどのスタッフがいたので、シュークリームの数は80個ほど。
初めは、師長も例の通り「受け取れません」とお断りしていましたが、患者さんと娘さんの「生ものだから返されても困る」「賞味期限の過ぎたものを返送するよりはみなさんで食べてください」の言葉に負けて受け取っていました。
生ものでかつ大量であると返送はできないし、家族で食べるにしても限度があるから何とか受け取ってもらえるだろうと考えたのでしょう。別の病棟で贈り物を断られた患者さんと娘さんの作戦勝ちでした。
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陰で繰り広げられる看護師同士の攻防…!
また、夜勤や休日にスタッフのためにお菓子や差し入れを持って来られる患者さんもいます。
平日であれば、「師長に言ってください」「師長からお叱りを受けるので受け取ることができません」とお断りするので、休日や夜間などに師長がいないとわかっていてそのタイミングを狙っているのでしょう。
もちろん、スタッフも2~3回はお断りするのですが、それでも渡してくる方もいます。そのようなときは、自分が受け取ったという事実が残らないように、スタッフ間で攻防が繰り広げられます。中には、「わたしは下っ端で受け取ると怒られるので、あそこにいる主任さんに渡してください」と、年上スタッフに責任を押し付けるスタッフもいます。
また、患者さんが紙袋を持ってナースステーションに近づいているのを見たら、Uターンしてナースステーションから離れたり、他のスタッフがナースステーションで患者さんからの差し入れを受け取る/受け取らないの攻防を繰り広げていたら、まるでそれが目に入っていないかのように通り過ぎたり。そして、患者さんの押しに負けて受け取ったスタッフを、みんなでニヤニヤしながら励ましています。
このように、絶対に渡したい患者さんVS絶対に受け取ることができない病棟スタッフの攻防はどの病院にでもあるのでしょうか。気持ちよく受け取ることができたらいいのになと考えながらいつも攻防を繰り広げています。
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2021年5月時点の情報を元に作成しています。