血液検査のみで脳梗塞や心血管障害の発症リスクを評価できる「LOX-index®(ロックス・インデックス)」が注目されています。一番の特徴は、MRIを使うことなく、わずか5分の採血のみで検査にまわせるため、患者への負担も少ないということ。2021年4月現在、全国2,000以上の施設で診療可能で費用は約1万2,000円。新たに導入を検討している病院やクリニックも多いと聞きます。そこで今回は、「LOX-index®」とはどのような検査なのかを具体的にご紹介します。
採取した血液の「酸化変性LDL(LAB)」「sLOX-1」の含有量を測るだけの簡単検査
「LOX-index®」とは、動脈硬化が原因となる疾患である、脳梗塞および心筋梗塞の発症リスクを予測する最新のリスク検査です。検査方法は血液採取。採取した血液中に、動脈硬化を引き起こす原因物質である「酸化変性LDL(LAB)」と「sLOX-1」がどれくらい含まれているかを調べるというものです。
「酸化変性LDL(LAB)」と「sLOX-1」からわかる「LOX-index®値」が高いほど、脳梗塞および心筋梗塞の発症リスクが高くなる
この2つの原因物質の量がわかれば、一人ひとりの「LOX-index®値」が求められますが、「LOX-index®値」が高ければ、脳梗塞および心筋梗塞の発症率が高いということがわかっています。発症率の高さがどのくらい違うかというと、脳梗塞発症リスクに関しては、「LOX-index®値」低値群に該当する人と比べて高値群に該当する人はおよそ3倍。心筋梗塞発症リスクは、「LOX-index®値」低値群に該当する人と比べて高値群に該当する人はおよそ2倍となっています。
1996年から2007年の11年間にわたる追跡調査をおこない、「LOX-index®値」に関するエビデンスが報告されている
これは、1996年から2007年の11年間にわたる追跡調査の結果から報告されました。大阪府吹田市にて、国立循環器病研究センター主導でおこなわれたこの疫学研究は、「Suita Study(吹田研究)」として医療関係者の認知度も高い研究です。どういった調査内容であったかというと、30歳から79歳までの住民2,437人の中で、冠動脈性心疾患(CHD)および脳卒中の既往歴のない人を対象に、「酸化変性LDL(LAB)」および「sLOX1」の測定をおこなうというもの。その結果、先に述べた通り、「LOX-index®値」が高いほど、その時点では罹患しておらずとも、後に脳梗塞および心筋梗塞を発症する確率が高いことがわかったのです。
動脈硬化を引き起こす原因物質である「酸化変性LDL(LAB)」および「sLOX-1」の関係性は上図のとおり。「sLOX-1」は、血管内皮から切り離された「可溶化LOX-1」のこと。血管内皮に障害が起こると「LOX-1」の産生が促進されますが、その一部が、酵素分解等により切り離されて血液中に放出されます。「LOX-1」と結合する「酸化変性LDL(LAB)」は、測定系に「LOX-1」を用いることによって、生体内での状態を反映し、測定することができます。また、「LOX-1」は血管内皮細胞に存在する「酸化変性LDL(LAB)」の受容体で、「LOX-1」と「酸化変性LDL(LAB)」が結合すると、血管内皮細胞に慢性的な炎症状態が生じます。そしてこれこそが、動脈硬化の原因だったのです。
「LOX-index®値」を測定すれば、初期段階の動脈硬化まで見つけることができる
つまり、「LOX-index®値」を測定すれば、従来の血液検査や画像検査では症状が現れにくい、動脈硬化の初期段階までとらえることができるということ。従来の検査では、動脈硬化に起因する疾患は、ある程度症状が進行した段階で見つかることが多いですが、「LOX-index®値」を調べれば、未病の段階でリスクを把握して予防につなげることができるのです。「LOX-index®」の利用目的としては、「予防医療、生活習慣改善への意識付けのための検査」「脳ドックや精密検査受診にあたってのスクリーニング」などが考えられ、利用方法としては主に「健康診断や人間ドックにオプションとして項目を追加」することで受診できます。
「LOX-index®」は、動脈硬化の進行メカニズムを捉えた検査
動脈硬化のリスクマーカーとしては、これまでは「LDLコレステロール」が一般的でした。しかし、LDLコレステロールの値と脳梗塞は相関性が弱く、LDLが低値にも関わらず心筋梗塞を発症するという報告も。これに対して、「LOX-index®」は動脈硬化の進行メカニズムを捉えた検査ですので、通常の健康診断にプラスして受診することで、よりしっかりとした予防につながることが期待できます。
LOX-index®の値が高かった場合、予防のためにまずおこなうべきは生活習慣改善の指導
では、「酸化変性LDL(LAB)」または「sLOX-1」の数値が高かった場合、どういった対策を取れば、脳梗塞・心筋梗塞の発症予防することができるのでしょうか?
まず、「酸化変性LDL(LAB)」についてみていくと、喫煙は動脈硬化のリスク因子であり、「酸化変性LDL(LAB)」の増加にもつながります。また、喫煙は体内の活性酸素を高めるとされていますが、事実、非喫煙者に比べて、1日20本以上のタバコを吸う多量喫煙者は、「酸化変性LDL(LAB)」が高くなる傾向があることが示されています。また、メタボリックシンドロームも、動脈硬化性疾患のリスクを高めるものであり、「酸化変性LDL(LAB)」の増加にもつながる要因となります。内臓脂肪の蓄積に伴い、耐糖能異常や脂質異常症、高血圧などが集積して、脂肪組織からはさまざまな種類の炎症性サイトカインや活性酸素が発生しますし、実際にメタボリックシンドロームだと診断されている人は、「酸化変性LDL(LAB)」が高いことが報告されています。さらに、暴飲暴食も動脈硬化のリスクのひとつ。食事は腹八分を心がけ、活性化酸素の発生を抑えて「酸化変性LDL(LAB)」の改善にも作用してくれるとされる、抗酸化作用のある食物を積極的に摂取することが望ましいでしょう。
抗酸化作用のある食物としては、キウイやイチゴ、トマトなどのビタミンCが豊富なもの、エビやカニといったアスタキチンサンの含有率が高いもの、ビタミンE豊富なナッツ類や大豆、ポリフェノールが豊富なリンゴや赤ワイン、コエンザイムQ10の含有率が高いカツオやさば、イワシ、ほうれん草などが挙げられます。
次に、「sLOX-1」と動脈硬化リスク因子の関係性についてみていきます。血中sLOX-1の濃度は、「酸化変性LDL(LAB)」同様、1日あたりの喫煙本数、呼気中の一酸化炭素濃度などの指標と相関しているとの報告があるだけでなく、禁煙の効果としてLOX-index®値が低下したとする研究結果も発表されています。また、BMI25以上の肥満群では、血中sLOX-1濃度が高値を示すことが報告されているうえ、カロリー制限や有酸素運動などをおこなうことで、sLOX-1が低下することも報告されています。さらに、血液中を流れる血糖が増える糖尿病も、LOX-1の増加に密接なかかわりがある疾患のひとつ。血中のブドウ糖とタンパク質が結びついて熱せられることで産生されるAGEが、LOX-1の増加をもたらすことや、II型糖尿病患者なら血中sLOX-1濃度が上昇することが報告されています。また、血糖のコントロールによってsLOX-1の濃度に改善がみられることも報告されているので、未病が見つかった時点で、生活習慣を変えていくことが発症を防ぐことにつながります。
「LOX-index®」の検査結果があれば、受診者に対して、発症リスクを伝えられる
先に述べた通り、「LOX-index®」は現在、全国約2,000以上の施設で受けることが可能です。導入することによって、将来的な動脈硬化の進行の可能性および脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを評価することができるため、検査受診者に適切な指導ができるのが大きなメリットです。動脈硬化進行のリスク評価にはLDL検査が一般的ですが、LDLが低くても脳梗塞・心筋梗塞を発症する人も存在するので、「LOX-index®」を補強的に活用すれば、将来の発症リスクを早期に伝えることが可能です。また、メタボ検診とは違い、受診者に対して、「このままいくと脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクが高い」と、具体的な病名およびその発症リスクを伝えることができるのも大きなメリット。受診者の健康に対する意識に強く訴えかけることができるため、健康寿命延命につながることが期待できます。
▲総合評価グラフのほか、生活で気を付けるべきことなどのコメントも記された検査結果報告書が発行される
自分の「LOX-index®値」がどれほどなのか、将来の脳梗塞および心筋梗塞発症リスクがどの程度なのかということは、受診者にもわかりやすいよう、「検査結果報告書」も発行されます。検査の結果、脳梗塞および心筋梗塞の発症リスクが高いとわかった場合、受診者に精密検査の受診を促す流れとなるでしょうし、リスクが低い場合も、定期的な検査を促して、集患・増患につなげることができます。
実際に「LOX-index®」を導入されている、東京都・世田谷区の『パークサイド脳神経外科』にて近藤新院長(写真上)にお話を伺ったところ、「脳の病気は生活習慣病をともなって発症することが多いので、生活習慣病の有無も含めた全身の健康診断のひとつとして、LOX-index®の検査も受けていただいています。他の検査と組み合わせることで、患者さんの状態をより詳しく把握することもできますし、患者さん側も、将来的な発症リスクまで知ることができるので、生活習慣を改めることにつながっていると思います」とコメントしてくれました。また、「患者がLOX-index®での検査を希望するきっかけのひとつとしては、親兄弟が脳の病を発症したことが挙げられます」と説明。脳の疾患は遺伝しやすい傾向にあるため、身内に発症した人がいる場合は、より早めの検査が望ましいとも教えてくれました。
このように、病院・クリニック、受診者の双方にとって魅力的な「LOX-index®」ですが、さらに、企業や健康保険組合にとっても、導入によるメリットは多大なるものです。自社の人材の脳梗塞および心筋梗塞の発症を予防することで、医療支出を抑制できるだけでなく、労働人材の確保にもつながるからです。加えて、健康経営の実現にも役立つだけに、受診できるかどうかが、病院選びのひとつの基準になってくる可能性もありそうですね。
特徴
検査種別
検査システム連携
検査分野
診療科目
この記事は、2021年6月時点の情報を元に作成しています。