電子カルテの改ざんをどう防ぐ?電子保存の三原則とともに考える

クリニックや病院にとって、電子カルテの改ざんはあってはならないことです。
しかし電子カルテの改ざんに関わる事件は起きています。これまでに起きた電子カルテの改ざんは、医師や看護師の保身、都合の悪いことを隠すため等に行われています。

クリニックの院長が、自院を電子カルテ改ざん事件の舞台にしないためには、電子保存の三原則を厳守することから始める必要があります。

目次
  1. 電子カルテの改ざんはなぜ起こるのか
    1. 電子カルテ改ざんの実例
  2. 電子カルテの改ざん防止に必要な「電子保存の三原則」
    1. 真正性の確保について
      1. 真正性を担保する方法1:電子カルテを操作する人を限定する
      2. 真正性を担保する方法2:セキュリティを強化する
    2. 見読性について
    3. 保存性について
  3. 電子保存の三原則を守らないとどうなるのか:罰則が適用されるおそれも
  4. カルテの追記、訂正をしたい場合はどうすれば?具体的な方法
  5. まとめ:いま一度点検を

電子カルテの改ざんはなぜ起こるのか

電子カルテの改ざん防止に必要な三原則を紹介する前に、なぜ電子カルテの改ざんが起きるのかを解説します。

電子カルテ改ざんの実例

電子カルテの改ざんに関わる事件は全国各地で起きていて、しかも頻繁に医療機関が敗訴する判決が出ています。
報道されているものをいくつか紹介します。

●2021年、東京地裁判決(※1)

大学病院で白内障手術を受けた男性が、手術後に失明。カルテには、手術前から患部の線維が断裂していたとの記載があったが、裁判所は、医師によるカルテの改ざんが多数に及んでいること、事前の説明義務違反があったことを認め、病院側に約960円の支払いを命じた。

●2014年、高松地裁判決(※2)

公的病院で出産した女性が死亡し、生まれた子どもが重い障害を負った。裁判所は、病院側が、病状の説明内容が疑われないようにカルテの内容を改ざんしたと判断。約500万円の賠償を命令した。

●2012年、大阪地裁判決(※2)

精神科クリニックの通院患者が大量の薬を服用して死亡した。裁判所は、カルテの開示請求後にクリニック側が、電子カルテの内容を服薬指導していたように改ざんしたと認定。約5,800万円の賠償を命令した。

●2007年、福岡地裁(※2)

公的病院で入院患者がおにぎりを喉に詰まらせて死亡。裁判所は、看護日誌の事後訂正部分は不自然で信用できないと認定。看護の見守り不備とし、約2,900万円の賠償を命令した。

●2006年、東京地裁(※2)

国立病院で精神科医が診察時に、女性患者を叩いて負傷させた。裁判所は、この医師が事件後に、電子カルテに「多重人格、人格障害」と追加記載する改ざんが行われたと認定。約150万円の賠償を命令した。

※1:日本経済新聞「カルテ改ざんに賠償命令 東京女子医大、男性失明
※2:読売新聞 ヨミドクター「診療記録をめぐる課題(下) 改ざん・隠蔽には民事賠償、行政処分を

電子カルテの改ざん事件からわかることは、クリニックでも公的病院でも起こりうるということです。
しかし、本来の医療としての役割を全うするためにも、電子カルテの改ざんはあってはなりません。

参考:厚生労働省「医療

電子カルテの改ざんを予防するには、改ざんできない仕組みづくりが必要になります。
その仕組みづくりに欠かせないのが電子保存の三原則です。

電子カルテの改ざん防止に必要な「電子保存の三原則」

電子保存の三原則は、電子機器やIT機器を使う人たちが守らなければならないルールです。電子カルテは電子機器でありIT機器なので、これを導入している医療機関も電子保存の三原則を守らなければならないことになります。
また電子カルテの開発・運営をするカルテメーカーも、電子保存の三原則をクリアする製品を提供すべきです。三原則は、医療機関と電子カルテのメーカーがが協力して守っていくものと言えるでしょう。

厚生労働省も電子保存の三原則を重視しています。
同省が作成した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」では、次のように指摘しています(※3)。

■医療情報システムの安全管理に関するガイドラインから(厚生労働省は「三原則」を「3基準」と呼んでいる)

電子保存の3基準の遵守
診療録などの記録の真正性、見読性、保存性の確保の基準を満たさなければならないこと。
診療録などを医療機関などの内部に電子的に保存する場合に必要とされる真正性、見読性、保存性を確保することで概ね対応が可能と考えられるが、これに加え、搬送時や外部保存を受託する事業者における取扱いに注意する必要がある。

この三原則を守ることが、電子保存の3基準の遵守につながります。

次からは、3基準とされる真正性、見読性、保存性についてご説明します。
※3:令和4年3月 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 5.2 版 本編」P.56-64

真正性の確保について

真正性の確保とは、電子保存された内容が虚偽でないことを保証することです。
電子保存された内容とは、電子カルテの記載内容のことです。電子カルテを使っている医療機関は、常にこのなかに記載されている内容が虚偽でないこと、つまり真正であることを証明できなければなりません。

自院の電子カルテが真正性を確保していることを証明するには、電子カルテに虚偽の内容を書くことができないことを証明しなければなりません。

真正性を担保する方法1:電子カルテを操作する人を限定する

電子カルテが誰でも操作できる状態になっていれば、虚偽の内容が記載されるリスクが高くなります。そのため、電子カルテを操作できる人を限定することは、真正性を保つ上である程度有効と言えます。

例えばクリニックの院長が、電子カルテを操作できる人を決め、それぞれが個別のIDとパスワードを設定するなど、すぐに実施できることはあります。電子カルテの機能として、カルテを操作した人が表示されるものの場合、より改ざんの抑止効果が生まれるでしょう。

真正性を担保する方法2:セキュリティを強化する

電子カルテのセキュリティが甘いと、サイバー攻撃の被害を受けやすくなりまます。

そのため、電子カルテのセキュリティを強化することは、真正性の確保につながります。電子カルテを守るセキュリティには次のようなものがあります。

<電子カルテを守るセキュリティについて> ※クラウド型電子カルテの場合
●不正侵入検知システム(IDS)
ネットワークやサーバーを監視するシステム。第三者が侵入を試みたら、管理者に通知される。

●ファイアウォール(防火壁)
電子カルテを動かしているコンピュータ(サーバー)とインターネットの間に設置して、不正なアクセスからサーバーを守る。許可していないアクセスがあれば、そのアクセスを遮断する。

見読性について

見読性の確保とは、いつでも誰でもカルテを見て読めるようにすることです。電子カルテの記載内容は医師だけが読めればよいというものではありません。看護師も技師も事務職員も読めなければチーム医療はできません。

また、カルテは裁判の証拠にもなります。万が一裁判になった時、記載した本人以外が理解できないようなものでは、証拠として自身の正当性を示すことも難しくなります。そういった意味でも、普段から見読性を担保できる記載をすることをおすすめします。
なお、見読性を確保するには、パソコン画面で閲覧できたり、プリンターで印刷できたりする必要もあります。

保存性について

保存性の確保とは、情報やデータを保存して、それをいつでも利用できる状態にすることです。電子カルテの記載内容はデジタルデータとしてパソコン内やサーバー内に保存されています。

電子カルテの記載内容を消去することや、データを保存しているコンピュータを破壊することは、改ざんと同じくらい悪質な行為です。なぜなら電子カルテの記載内容が消えてしまえば、医療事故などが起きた際にその経緯や当時の状況を説明できなくなるからです。
そのため、自院の電子カルテの保存性を確保するには、確実な保存方法を採用する必要があります。例えば、データを第三者に保存してもらったり、毎日バックアップを取ったりすることがそれに当たります。

電子保存の三原則を守らないとどうなるのか:罰則が適用されるおそれも

電子カルテの真正性・見読性・保存性の確保は院長の責任です。現在、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」自体に罰則はありませんが、ガイドラインに違反している場合、法令を遵守していないと判断される可能性があります。

なお、同ガイドラインには「最低限のガイドライン」が示されています。以下の項目をみたしていないと認定された場合、多くの法令に背いたとみなされ、罰則が適用されるおそれがあります。

C.最低限のガイドライン

1. 個人情報保護に関する方針を策定し、公開すること。
2. 医療情報システムの安全管理に関する方針を策定すること。その方針には、次に掲げる事項を定めること。
・ 理念(基本方針と管理目的の表明)
・ 医療情報システムで扱う情報の範囲
・ 情報の取扱いや保存の方法及び期間
・ 不要・不法なアクセスを防止するための利用者識別の方法
・ 医療情報システム安全管理責任者
・ 苦情・質問の窓口
引用:令和4年3月 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 5.2 版 本編」P.13〜14

クリニックの院長は自分の身と自院を守るためにも、電子保存の三原則を徹底しましょう。

カルテの追記、訂正をしたい場合はどうすれば?具体的な方法

基本的にカルテは、初見や治療内容をその都度記録するものなので、後日追記したり、訂正したりすることは避けるべきです。

もし万が一、後日、カルテの追記や訂正をしたい場合は、真正性を保つ必要があります。電子カルテであれば、システムによって記入履歴が表示されたり、記入者の名前や時刻が明示されたりしているケースが多く、真正性を保てる仕組みのものもあります。ご自身の電子カルテの仕様などを確認し、訂正しても真正性を保てるかどうか慎重に検討しましょう。

紙カルテであれば、修正液や修正テープで該当箇所を見えなくする行為は、真正性の観点や、訴訟時のリスクの面でも避けるべきです。もし訂正をする場合は、二重線を引き、横に訂正内容を記載し、訂正日時、訂正理由、訂正者などを明記しておくようにしましょう。

参考:平成26年12月1日 北海道医報 第1155号 「最新・医事紛争Q& 最新・医事紛争Q&A 第19回 カルテの訂正」P.24-25

まとめ:いま一度点検を

電子カルテはコンピュータ・システムです。コンピュータ・システムの利用者は、電子保存の三原則を厳守しなければなりません。
電子保存の三原則は、電子カルテの改ざんを抑止する効力があることが分かりました。改めて、その内容を振り返ってみます。

<電子保存の三原則>
●真正性の確保:電子保存されている内容が虚偽でないことを保証すること
●見読性の確保:電子保存されている内容をいつでも誰でも読めるようにすること
●保存性の確保:電子保存を確実にしていつでも利用できるようにすること

自院の今の電子カルテ・システムの仕組みと、電子カルテの運用ルールで、この三原則を守ることができるでしょうか。いま一度点検することをおすすめします。

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


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