機器を使った処置や手術などを手掛けることがない分、精神科医の仕事は体力面などで負担が少ないように思えます。ということは、その分、給与水準も低くなるのでしょうか? しかし一方で、開業しようと思ったら、そろえるべきものが少なく済むため、実入りがいいようにも思えます。実際のところどうなのでしょうか? 精神科医の仕事内容や年収事情に迫ります。
精神科医の平均年収は1,261万円
まずは、精神科医の平均年収を見ていきましょう。労働政策研究・研修機構が実施した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、精神科医の平均年収は1,230.2万円です。これは、13に分けた他診療科目との比較をした場合、上位から8番目の平均年収が1,261.1万円であることから、水準よりやや低めの数字とわかります。
順位 | 診療科目 | 平均金額(万円) |
---|---|---|
1位 | 脳神経外科 | 1480.3万円 |
2位 | 産科・婦人科 | 1466.3万円 |
3位 | 外科 | 1374.2万円 |
4位 | 麻酔科 | 1335.2万円 |
5位 | 整形外科 | 1289.9万円 |
6位 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1267.2万円 |
7位 | 内科 | 1247.4万円 |
8位 | 精神科 | 1230.2万円 |
9位 | 小児科 | 1220.5万円 |
10位 | 救急科 | 1215.3万円 |
11位 | その他 | 1171.5万円 |
12位 | 放射線科 | 1103.3万円 |
13位 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1078.7万円 |
参考:勤務医の就労実態と意識による調査 – p.30 一部抜粋
また、年収階層別の分布を見てみると、収入格差が大きいことがわかります。
収入 | 割合 |
---|---|
300万円未満 | 1.8% |
300万円から500万円 | 4.1% |
500万円から700万円 | 7.3% |
700万円から1,000万円 | 18.3% |
1,000万円から1,500万円 | 33% |
1,500万円から2,000万円 | 24.8% |
2,000万円以上 | 10.60% |
上記は2012年のデータから確認した場合の数字で、データが古いため令和2年の平均診療点数からみた精神科医の診療点数を見た場合は以下の結果となりました。
診療点数でみた場合の、精神科医の診療点数平均
順位 | 診療所 | 関東平均 |
---|---|---|
1位 | 内科(人工透析有) | 9,820 |
2位 | 内科(人工透析以外(在宅)) | 1,590 |
3位 | 外科 | 1,347 |
4位 | 泌尿器科 | 1,306 |
5位 | 精神・神経科 | 1,240 |
6位 | 整形外科 | 1,218 |
7位 | 内科(人工透析以外(その他)) | 1,184 |
8位 | 産婦人科 | 977 |
9位 | 小児科 | 974 |
10位 | 眼科 | 968 |
11位 | 耳鼻咽喉科 | 807 |
12位 | 皮膚科 | 684 |
上記での、診療点数では整形外科の平均診療点数より上回っているため、来院患者数が増やせれば明らかに平均年収は上げられると考えられます。
参考データ
- 令和2年度 東京都内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 千葉県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 埼玉県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 神奈川県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 群馬県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 茨城県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
- 令和2年度 栃木県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
30代で半数以上が1,000万円を超える
また、リクルートドクターズキャリアの年齢ごとに平均年収を見てみると、研修医である20代のうちは一律600万円から1,000万円ですが、30代に入ると、全体の78%の精神科医が年収1,000万円を超えているという結果です。さらに、40代に入ると全体の64%が年収1,400万円を超えています。
働き方で年収に格差が出る!?
年代以外に働き方も、収入格差に影響しています。そこで次は、代表的な3つの働き方別に、給与の傾向を見ていきましょう。
総合病院または精神科単科病院
精神科がある総合病院または精神科単科病院の精神科医は、外来の診察だけでなく入院患者のケアもおこなうため、比較的多忙になります。しかも、総合病院の場合は、他科の患者に睡眠障害やせん妄の症状が見られる場合にも対応することがあるため、場合によっては時間外勤務を余儀なくされることもあります。さらに、精神保健指定医は措置入院などの強制入院時に法的診察をおこなうことも多いため、かなりのハードワークに。しかしその分、給与の水準も高くなる傾向にあります。
メンタルクリニック
入院施設を有していないメンタルクリニックは、時間外勤務やオンコール、日当直などがないため、ワークライフバランスを保って働きやすいのが特徴です。開業のハードルは、外科や内科のように高額な医療機器を導入する必要がないため低め。そうなると、収益率が高くなるため年収も上がる傾向にあります。また、認知症を専門的に扱うクリニックの場合、介護保険施設などの往診をおこなうこともあります。
公的機関
もうひとつの働き方は、自治体の精神保健福祉センターなどの公的機関に勤めることです。精神福祉に関する関係法規など、臨床ではほとんど必要とされない知識を求められるため知識の吸収は必要ですが、公的機関であるため、時間外勤務は極めて少なく、土日祝日の休みも確保されているケースがほとんど。福利厚生も充実しています。しっかりと休みを取れる分、給与の水準は低くなりますが、ワークライフバランスを保って働きたい人にはぴったりです。
年収アップの近道は開業?
3つの働き方を比べてもわかる通り、開業医としてメンタルクリニックを立ち上げることは、年収アップのひとつの方法です。事実、厚生労働省が実施した「医療実態経済報告」を元に計算すると、開業医となった場合、勤務医の約1.7倍の年収を得られるという結果が出ています 。
ただし、精神科医として自立するためには、国家資格である「精神保健指定医」の資格取得が不可欠です。精神保健指定医の資格を取るためには、5年以上の医療実務経験(3年以上の精神科実務経験)および厚生労働大臣が定める精神科臨床経験が必須となります。将来、精神科医として開業したいと考えているなら、早い段階から準備を進めるほうがよさそうですね。
加えて、経済的なことや経営的なことについても勉強することが不可欠。集患・増患がうまくいかなければクリニックがうまく回っていかなくなるので、マーケティング調査をおこない、効果的な宣伝方法について考えることも大切です。
精神科医としてのキャリアアップ、年収アップの秘訣は?
年収アップを狙い、「精神保健指定の資格を取って開業する」を目標に掲げて邁進するのも立派ですが、いざ開業した後、集患・増患がうまくいかなければ行き詰ってしまいます。先に述べた通り、マーケティングや宣伝に力を入れるだけでなく、「どうすれば地域住民の精神的な健康を守っていけるか」という課題にしっかりと向き合うことはとても大切。地域包括ケアシステムが進む昨今、病院から地域に移った患者の経過観察をおこなえる医師は重宝されると考えられるので、自分に求められること、自分にできることについて、ぜひ一度ゆっくりと考えてみてはいかがでしょうか?
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年6月時点の情報を元に作成しています。