ここ数年、「在宅医療」「訪問診療」への注目度が高まりつつあります。
超高齢化社会を迎えた日本では、かねてより在宅医療のニーズにいかに応えていくかが課題でしたが、数年前には予想だにしなかったウィズコロナ時代にも突入したことで、課題の重要性が増しています。
では、実際のところ在宅医療を必要としている患者は現在どの程度いるのか、そして、これまでに患者数はどのように変遷してきたのでしょうか? 早速ご紹介します。
在宅医療を受けている患者数の推移は?
厚生労働省が発表した「在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移」(厚生労働省:平成29年(2017)患者調査)によると、在宅医療を受けた患者数は、2008(平成20)年から増加傾向にあります。
レセプト数という観点から見ると、2006(平成18)年には月に19万8,166件だった訪問診療のレセプト数が、2014(平成26)年には64万5,992件にまで増加。
年齢別の内訳を見てみると、64万5,992件のうち59.2%におよぶ38万2,204件が85歳以上の患者で、29.8%におよぶ19万2,807件が75歳以上84歳未満の患者となっています。つまり、在宅医療を受けている患者の大半は、75歳以上の後期高齢者だといえます。ただし、小児や成人についても一定数の患者が存在しているうえ、その数は年々増加傾向にあります。
参照:厚生労働省 第1回全国在宅医療会議 平成28年7月6日 参考資料2「在宅医療の現状 p.7」一部抜粋
在宅医療の患者数と在宅療養支援診療所・病院の届出数との相関関係
在宅療養支援診療所について見ると、2016(平成28)年までは増加傾向にありましたが、それ以降は届出数としては横ばい状態。特筆すべきは、近年は「機能強化型在支診」(単独型・連携型)としての届出数が増加傾向にあるということです。また、在宅療養支援病院の届出数は、2010(平成22)年以降右肩上がり。こちらも「機能強化型在支援診病」(単独型・連携型)が上昇しています。
いずれも先述した、在宅医療を受けている患者数と同様に右肩上がりとなっています。
少子高齢化が進行し、在宅医療の必要性が叫ばれる日本
在宅医療の患者数および医療機関増加の背景として、日本における超高齢化社会の進行が広く指摘されています。
総務省がおこなった「国勢調査」および「人口統計」、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」によると、1990年以降の日本の人口構造は少子高齢化が進行。これに伴い、1990年に1億2,361万人だった日本の総人口は、2060年には8,674万人になると予想されています。この70年の間に19歳以下の人口は26%から13%までに減少して、65歳以上の人口は12%から40%に増加。また、高齢者を支えるゾーンとされる20歳~64歳の人口は、61%から47%に減少しています。
20歳~64歳が65歳以上を支えるということは、1990年代には約5.1人で1人の高齢者を支えていることになりますが、2060年には約1.2人で1人の高齢者を支えている計算になります。
2060年には日本人口の約4割が高齢者となる、といった試算が示すように、少子高齢化が顕著な日本において、今後も在宅医療のニーズは高まり続けることが予想されています。
参考:厚生労働省医政局指導課 在宅医療推進室「在宅医療の最近の動向 -p.5抜粋」
在宅医療を利用している患者はどんな処置を必要としている?
在宅医療を必要としている患者が受けている医療処置についても確認します。
厚生労働者が公表している「社会医療診療行為別調査」によると、人工呼吸器や中心静脈栄養などの特別な処置を必要とする在宅医療患者は増加傾向にあります。もっとも増えているのが「在宅人工呼吸指導管理料」で、2008(平成20)年の1万2,357件と比べて、2014(平成26)年は2万4,293件もの処置が行われています。
「人工呼吸指導管理」を受けている年齢層の内訳は、0歳~19歳の在宅患者がもっとも多く、次いで20~39歳の患者が多いという結果。後期高齢者の受診が多い在宅医療ですが、若年層の場合には特別な処置が必要になるケースも多いといえます。
また、「在宅気管切開患者指導管理料」「在宅中心静脈栄養法指導管理料」「在宅成分栄養経管栄養法指導管理料」は横ばい傾向ではあるものの、2014年(平成26年)時点で5,000件以上の医療処置が行われています。
患者はなぜ在宅診療を希望するのか?
先に述べた通り、在宅医療を受けている患者の大半は75歳以上の後期高齢者で、もっとも多い患者の年齢層は85歳以上です。内閣府が公表した「24年度 高齢者の健康に関する意識調査」によると、高齢者の実に54.6%が、「自宅で最期を迎えたい」と思っていることがわかっています。
これに対して、「病院などの医療機関」を最期を迎える場所として選択した患者の割合は27.7%。この結果にも、在宅医療の需要の高さが見て取れます。
1980年代から現在にかけて、在宅医療の推進に関する制度はどう変わっていった?
ここ数十年で在宅医療を受ける患者数が増加している背景として、在宅医療制度の創設・推進なども欠かせません。
【1980年代】訪問診療の概念導入へ
1980(昭和55)年には、「インスリン在宅自己注射指導管理料」が創設されています。また、1986(昭和61)年は、「寝たきり老人訪問診察料」および各種指導管理料が新設された年。「訪問診療」の概念が導入されることとなりました。
【1990年代】在宅終末期医療の評価が充実
1992(平成4)年、在宅医療の包括点数の原型として、「寝たきり老人在宅診療料」が誕生しています。また、1994(平成6)年には、在宅時医学管理料、在宅末期総合診療科などが創設。1996(平成8)年になると、在宅末期医療総合診療科の適用が拡大されています。
【2000年代】在宅で療養する患者のかかりつけ医機能の確立、在宅療養の推進に向けた動きが活発に
2000(平成12)年に24時間連携加算が創設となり、2004(平成16)年には、重症者への複数回訪問看護が評価されることとなります。さらに2006(平成18)年には、在宅療養支援診療所が創設。在宅で療養する患者のかかりつけ医機能の確立され、在宅療養の推進に向けた動きが生まれます。
【2010年代】機能強化型在宅療養支援診療所および病院が創設される
2012(平成24)年に、機能強化型在宅療養支援診療所および病院が創設されたことが、在宅医療のさらなる充実へとつながっています。
参照:厚生労働省医政局指導課 在宅医療推進室「在宅診療の最近の動向」p.4一部 抜粋
【2020年代】2022年度の診療報酬改定により「質の高い在宅医療の確保」がさらに求められる
2022(令和4)年度の診療報酬改定により、外来在宅共同指導料の新設、さらには在宅療養支援診療所以外の診療所の訪問診療に対する評価も新設されました。また小児がん患者の在宅診療のニーズも高まりも見られ、在宅がん医療総合診療料における小児に係る加算も新設されています。
参考:厚生労働省保険局医療課 「令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」
在宅医療における今後の課題は?
厚生労働省が公表している「人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書」P.54の結果によると、「症状が急変したときすぐに入院できるか不安」「介護してくれる家族に負担がかかることが心配」といったように、患者は在宅医療を含めた終末期医療への不安感も一定数あるようです。
また、日本医師会総合政策研究機構が実施した「在宅医療の提供と連携に関する実態調査」の「在宅療養支援診療所調査」では、在宅療養支援診療所医師の24時間体制への負担が大きいことも明らかになっています。
参照:厚生労働省医政局指導課 在宅医療推進室「在宅診療の最近の動向」p.11、18一部抜粋
新型コロナウイルスが在宅医療に与えた影響とは?
在宅医療の推進は、日本が超高齢化社会になる未来が見え始めた数十年前から、国をあげて力を入れてきたことです。
そんな中、2020年以降の新型コロナウイルスの影響によって、以前より多くの人が在宅医療の課題に目を向けるようになりました。かねてから取りざたされてきた在宅医療のニーズ増加に加え、地域や病院・診療所間の連携についてもより多くの注目が集まるようになった、と指摘する有識者もいます。
少子高齢化の進行や地域包括ケアシステム、病診連携など、在宅医療をめぐる状況は日夜変化し、進歩を続けています。少なくとも、今後も在宅医療を受ける患者数は増加傾向にあると見込まれており、体制の整備や社会への浸透などが広く期待されている現状です。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年7月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
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