さまざまな診療科のクリニックが集まった医療モールは、地域の患者にとっては便利でありがたい存在のように思えます。しかし、クリニック側からするとなにかメリットはあるのでしょうか? また、モール内で開業しているクリニック同士、情報共有などはおこなわれているのでしょうか?早速みていきましょう。
医療モールは大きく6タイプに分けられる
診療科が異なる複数のクリニックが一か所に集まった「医療モール」は、運営形態によって大きく6タイプに分けられます。
1.戸建てクリニックが1か所に集まった「医療ビレッジ」
戸建てタイプのクリニックが同じ敷地に集まったタイプの医療モールは、「医療ビレッジ」と呼ばれています。戸建てであるため建物設計の自由度が高く、自院の医療コンセプトに合ったデザインを落とし込みやすいのがメリットです。敷地内には共用の患者用駐車スペースが設けられているのが一般的。車で来院する患者にとっては便利です。
2.利便性が高い「商業施設併設型」
施設内に食料品店や衣料品店も入っている「商業施設併設型」の医療モールなら、ショッピングついでに受診したり、診察後に体調に合わせて食べ物を買い込んだりと使い勝手抜群。同伴した家族が時間を潰したいときにも便利です。
3.ビル内のすべてのテナントが医療機関である「医療ビル」
ビル内に複数のクリニックや調剤薬局が入っているタイプの医療モール。商業施設併設型とは異なり、一棟丸ごと医療機関で構成されているのが特徴です。ビルがもともと医療機関用として設計されている場合、医療に必要な電気容量や給排水インフラを兼ね備えていることが多いうえ、バリアフリーで患者にとっても利用しやすいことがメリットです。
4.マンション低層部に複数のクリニックが入る「レジデンス併設型」
低層部に医療ゾーンを設けた、マンション内医療モールです。マンション住人のかかりつけ医になりやすいのが特徴ですが、マンション住民以外にも利用してもらえる工夫も必要。マンションが面している通りなどに看板を出したり、通りからも病院があることが認識されやすい設計にしたりすることが有効です。
5.慢性疾患患者を中心に集客しやすい「オフィス併設型」
複数のオフィスが入っているビル内の医療モールがこのタイプ。ビル内で働く人はもちろん、立地によっては広範囲からの集客も期待できます。また、仕事の合間などに通えることから、慢性疾患の患者をターゲットにすると集客率が高まるでしょう。
6.診診連携で医療モールとして機能する「医療ドミナント」
開業しているクリニックの敷地に隣接した土地に、異なる診療科のクリニックの開業が重なり、医療集積エリアとなることがあります。このエリアを「医療ドミナント」と呼びます。クリニック同士の診診連携によって医療モールとして機能するため、患者にとっては利便性が高いといえるでしょう。
近年、医療モールが増加している理由とは?
医療モールにはさまざまなタイプがあるうえ、全国の医療モールの総数も増えています。
大きな理由は、超高齢化社会になったことで医療費が膨らんでいることです。日本の国家財政は長らく赤字状態にありますが、医療経済に関しても年々高齢者医療費がかさんでいることが懸念されています。なぜかというと、保険制度を支えている現役世代の人口は、今後ますます減っていくとみられているからです。そうなったときになお高齢者医療費が増加し続けていたとすると、保険制度そのものを維持できなくなる可能性があるからです。
その対策として、政府は現在、後発医薬品の開発促進および薬価改定、病床数の削減などに力をいれていますが、これによって患者数が減るわけではありません。また、開業医自身も高齢化していくため、その分、新規で開業するクリニックも増えていくとみられています。
患者数が減らないのに病床数を減らそうというのはどういうわけかというと、集中治療が不要な患者や治療機関の長い慢性期の患者には、介護施設や在宅での通院を促進しようということです。そうなると、入院施設を有した病院施設は減少することになるので、それにともない、開業に踏み切るドクターが増えることになるでしょう。
医療モールで開業するメリットは?
続いては、医療モールで開業するメリットについてみていきましょう。
集客しやすい
商業施設やマンションなど人が集まる場所にあるため、自然と認知度が高まり、集客しやすいといえるでしょう。
他の診療科の受診ついでの患者も期待できる
異なる複数の診療科が集まっているため、他の診療科にかかるタイミングで来院する患者もいれば、家族に同行するついでに、たとえば眼科で目薬を処方してもらったり皮膚科でビタミン剤をもらったりといったこともあるでしょう。
モール内の他クリニックと連携しやすい
症状によっては他の診療科を診療することが望ましい場合がありますが、複数の診療科が集まっているモールなら、情報共有もスムーズ。自分が患者を送り込むこともあれば、送り込んでもらえる場合もあるので、win winになりやすいです。
駐車場や看板などの設備代を安く抑えることができる
駐車場も看板も、モール内のクリニックや調剤薬局で共有すれば、金銭的負担が少なくなります。医療モールによっては、トイレも共有になる場合があるため、清掃はビルの掃除担当者に任せられるのもメリットといえるかもしれません。
医療モールで開業するデメリットは?
さらに、医療モールで開業するデメリットについてもみていきます。
1.工事会社や医薬品会社を指定されることがある
医療モールによっては、設計・工事会社や医薬品を取り扱う会社を指定される場合があります。後からトラブルにならないよう、内見の際には条件について十分にヒアリングする必要があります。
2.駐車場の台数が十分でない場合がある
複数のクリニックが集まっていることから、診察開始時間になるとすぐに満車になりがちな医療モールもあります。そうなると、せっかく来院しようとしていた患者が他のクリニックに流れていくこともあるので、駐車場の台数についても、内見の際にきっちり確認しておくことが賢明でしょう。また、駐車場台数が十分でなくともその医療モールに魅力を感じているなら、他のクリニックと診療時間や休診日をずらすなどの工夫も一手です。
3.同じ診療をおこなっている医療機関が既にある場合など、患者の取り合いになりやすい
自院と同じ診療をおこなっている医療機関があるかどうかは、重要なチェックポイント。先に入居している医療機関が人気の場合など、集客が期待できないことも考えられます。また、インフルエンザの予防接種シーズン、花粉症シーズンなどは特に、注射や処方薬目的で医師の腕にそこまでこだわらないという患者もいるため、他院が該当処置の価格を安く設定している場合などは患者を取られることもあるかもしれません。
4.人間関係にストレスを感じる場合もある
医療モールには、大病院の医局のような上下関係はないものの、多くの人と関わる以上、トラブルが起きることがないとはいえませんし、時にはストレスを感じることもあるでしょう。できる限りトラブルを避けるためにも、開業前に、どんなドクターがいる医療モールなのかをよく調べておくといいかもしれません。
医療モールのメリットをうまく活かして理想の医療を実現しよう
医療モールでの開業を視野に入れているなら、医療モールのメリット、デメリットを十分に理解した上で開業の準備を進めることが大切。モール内の他院のドクターとも連携しながら、地域住民の健康をサポートしていけるといいですね。
特徴
対応業務
診療科目
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この記事は、2021年7月時点の情報を元に作成しています。