『二田哲博クリニック』理事長に訊く、分院展開で成功する秘訣

分院開設を視野に入れているものの、メリット、デメリットを比較検討するにつけ、最初の一歩を踏み出せないというクリニックは多いのではないでしょうか。

もしくは、思い切って開設に踏み切ったものの、ほどなくして経営が立ち行かなくなったというケースもあるでしょう。

では、分院開設で成功しているクリニックは、どんな点を押さえて分院開設を進めたのでしょうか?糖尿病と甲状腺の専門クリニック『二田哲博(ふたたてつひろ)クリニック』理事長の二田哲博先生にお話を伺いました。

目次
  1. 2001年の開業からしばらくは毎月800万円の赤字だった
  2. 専門の疾患の患者さんのみを丁寧に診察し続けた結果、患者数がぐっと増加
  3. 分院開設に踏み切ったタイミングは「本院だけだと手狭だと感じるようになったとき」
  4. 患者数の増加にともない病院の設備を広げていくのは「チーム医療を充実させるため」
    1. 医師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、健康運動指導士、医療秘書、医療事務、すべてのスタッフの育成に時間をかけたい
    2. スタッフの育成に時間と労力をかけることで、結果として患者さんによりよい医療を提供できる
    3. 腕が確かで目指す医療も同じなら、安心して分院を任せることができる
  5. 本院も分院も、「患者さんの通いやすさ」「スタッフの働きやすさ」を考慮した立地選びが大切
  6. 分院展開後も、スタッフみんなが知識やスキルの研鑽を続けることが大切
  7. 短期的に物事を考えるのではなく、長期的視野を持って「コスパのよい医療」を目指せばおのずと患者は増える
  8. 分院の開設は自院にとって本当に必要なのかを考えてみてほしい
  9. よく考えた結果の結論として分院を開設したいなら、準備する前にまずは長期目標を考えてみるのも一手

2001年の開業からしばらくは毎月800万円の赤字だった

『二田哲博クリニック』は、2001年に福岡市の住宅街である西区姪浜(めいのはま)に開院。糖尿病専門医・甲状腺専門医である二田先生の他、看護師2名、管理栄養士1名、受付事務3名の合計6名体制でスタートしました。

「パラシュート開業の専門クリニックだったので、1日の患者数がゼロという日もあり、最初のころは毎月800万円の赤字でした。糖尿病と甲状腺疾患を専門にしているとはいえ、風邪などの疾患にも対応できなくはありませんでしたが、当初から『専門とする疾患以外の患者は診ない』という姿勢は貫いていました。

専門外の疾患の患者が来院した場合はどうするかというと、適切なクリニックを紹介していました。紹介された側のクリニックは、当院が開院したばかりで患者さんの数も決して多くないことも判っていたはずなので、『なんで自分のところに患者さんを送ってくるのだろう?』と不思議がっていたと思います。

そして反対に、周囲のクリニックから当院へ送っていただいた患者さんには、専門医として圧倒的な医療レベルでの治療をおこなっていました」(二田先生)

専門の疾患の患者さんのみを丁寧に診察し続けた結果、患者数がぐっと増加

その結果、次第に評判は上昇。

「いくつもの病院で診てもらってきたけど一向によくならなかったのに、ここで診てもらってから検査数値がよくなってきました」という喜びの声も増えてきたといいます。

それもこれも、開院時の「糖尿病と甲状腺疾患だけを診療する」というポリシーを貫き、患者さん一人ひとりに「専門医=治療のプロフェッショナル」として全力で向き合った結果でした。

分院開設に踏み切ったタイミングは「本院だけだと手狭だと感じるようになったとき」

そして開業から5年後には、1日平均60名の患者が来院するようになり、スタッフも4倍に増員。待合室に患者さんが溢れてしまうこともあったため、床面積が約1.5倍になるよう増築することに決めました。

その際、新たな取り組みとして“体感できる栄養指導”を実現すべく、収容人数10名程度の「キッチン」を新設。食事カウンセリングの幅を拡げました。

しかし、ほどなくしてそれでもキャパシティ不足を感じるようになったため、2011年、福岡市最大の繁華街である中央区天神に『二田哲博クリニック天神』を開院。同時に、本院となった姪浜は『二田哲博クリニック姪浜』と名称を改めることにしました。

そして、『二田哲博クリニック天神』が開院して9年目の2020年、今度は天神の増改築をおこなうことに。待合室を拡げて、診察室、予診室、処置室を強化。導線を整理しました。

さらに、食事カウンセリング室を全面的にリニューアル。シックな色調にガラス張りの部屋の奥には、森をイメージさせるオブジェを配置しました。増築や分院開設を重ねながらクリニックは大きく成長。本院開院から19年目には、のべ来院患者総数は62万人に達しました。

「分院展開=倍々ゲームで儲かるもの」との考えだと、増設にもお金をかけることが理解できないかもしれません。しかし、お話を伺うと、二田先生にとって大切なのは「分院展開するかどうかではない」ことがわかります。

患者数の増加にともない病院の設備を広げていくのは「チーム医療を充実させるため」

「会社、いわゆる『組織』というものは、小さければ小さいほど効率がいいはずです。組織が小さければ中間管理職も必要ないわけですから。

しかし、『顧客』つまり医療機関であれば患者さんが増えていくなか、専門医療機関が『高いレベルのチーム医療を充実させよう』とするなら、どうしても設備の拡張が必要になってきます。

『各スタッフが効率よく仕事ができる環境』と『患者さんが気持ちよく快適に過ごせる空間』の両方を確保すべきだからです」(二田先生)

医師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、健康運動指導士、医療秘書、医療事務、すべてのスタッフの育成に時間をかけたい

「たとえば、ひとりの管理栄養士が結婚や出産を機に仕事をセーブしなくてはいけなくなったら、その分を他のスタッフがカバーしなくてはなりません。カバーできる状況ならよいのですが、いつもそうとは限らないし、なにかあるたびに外部から人材を補充することは、極めて非効率な上に大変難しいことです。

なぜなら当院では、管理栄養士にせよ臨床検査技師にせよ、最低2年かけて、専門クリニックのスタッフとしての育成をおこなっているからです。そして、一人ひとりにきちんと目を行き渡らせて、優秀なスタッフへと育て上げていこうと思うと、クリニックの成長にともない、ひとつの医療機関では不十分になってきます。

たくさんのスタッフを詰め込んで仕事をしてもらっていては、効率よく仕事することもできないからです。そのため、おのずと分院を開設するにいたりました」(二田先生)

スタッフの育成に時間と労力をかけることで、結果として患者さんによりよい医療を提供できる

一般的に分院のメリットといえば、「本院にはない機能を持たせることができる」「診療地域を拡大することができる」「本院と分院とで機材を共同購入することによってコスト削減ができる」などが考えられますが、

『二田哲博クリニック』でまず考えたのは、「よりよい医療を提供するため、スタッフの育成に最適な環境をつくること」だったのです。

腕が確かで目指す医療も同じなら、安心して分院を任せることができる

「たとえ大学病院で中堅として活躍している人でも、当院で時間をかけ育て育てたスタッフとでは医療レベルに圧倒的な差があります。専門特化したクリニックの業務はそれだけ濃密で、濃厚な経験がそのままスタッフを成長させている、ということです。

とはいえもちろん、大学病院などで評価の高い人は高いポテンシャルも持っているので、きちんと育成することで劇的に成長します。分院展開を視野に入れているのであれば、まず考えるべきは絶対的に育成ですね」(二田先生)

二田先生が理事長を務める現在、『二田哲博クリニック姪浜』『二田哲博クリニック天神』で院長を務めているふたりの先生も、入職以来、クリニックが目指す志をともに、専門医として一人ひとりの患者に向き合い、日々、全力で治療にあたっています。

医療レベルが確かで信頼できるスタッフがそろっていることこそが、分院成功の鍵であることは間違いなさそうです。

本院も分院も、「患者さんの通いやすさ」「スタッフの働きやすさ」を考慮した立地選びが大切

分院開設で他に考慮すべき点を尋ねてみると「立地にはこだわりました。県外をはじめ遠方からの患者さんが、医療費よりも高い交通費を負担しないといけなくなるなんておかしいですから」と回答。

さらに、「本院から近すぎれば商圏が重なってしまいますが、かといって遠すぎるのも問題です。たとえば、スタッフに急な欠勤が出た場合、カバーすることができなくなってしまいます。ですので、本院と分院のスタッフが互いに行き来できる距離感が大切だと考えました」とも明かしてくれました。

分院展開後も、スタッフみんなが知識やスキルの研鑽を続けることが大切

常に患者さんから選ばれるクリニックであるためには、日々、進化し続けている医療技術を吸収して、知識をアップデートし続けることも大切です。

そのためスタッフには、日々、各地でおこなわれている勉強会や講演会、学会に出るように促しているそうです。そこで他の医療機関でおこなわれている臨床に触れ、違いを知ることも、自院の改善に役立っているのだとか。

短期的に物事を考えるのではなく、長期的視野を持って「コスパのよい医療」を目指せばおのずと患者は増える

「違い」には、見習うべきことだけでなく、賛同できないこともあります。

「医療経営の勉強会などに参加すると『患者数×患者単価=売上だが、患者数を増やすと言っても簡単ではないので患者単価を上げましょう』と言った提案をしているようですが、当院では、開業した20年前と現在を比べると患者の単価は下がっています。

下げる努力をしてこそ、患者数は増えるのです。特に、糖尿病や甲状腺疾患といった長く通院しなくてはならない患者の立場から考えると、単価が高いと通うのが大変です。だから、単価を下げてもマイナスにならないよう、いかに効率よく医療をやっていくかを考えることが重要です。

患者さんに長く通ってもらうためには、短期的な思考をするのではなく、より長期的に捉え、どうしたら“コスパのよい医療”を実現できるのか考えることが大事です。その結果が出ているかどうかは、患者数を見ればわかるはずです」(二田先生)

分院の開設は自院にとって本当に必要なのかを考えてみてほしい

最後に、「分院の開設を考えている人にアドバイスはありますか?」と質問したところ、「本当に必要なことなのかを考えてみること。しなくてもいいと思うのなら、しないほうがいいと思います」と二田先生は即答。

「考えた結果として必要だと思うなら、本院と分院とで均質な医療ができるよう、まずはスタッフを育てていくことが大切です。もしスタッフ育成が十分ではないけれど分院を開設する必要があるのであれば、実力のあるスタッフを分院へ配属するべきです。

彼らはすでに効率的な仕事を理解していますし、それを実戦できるはずですから。ただし、分院展開は多くのメリットがある一方で、コストもかかるなどデメリットも多いことを忘れないでください」(二田先生)

よく考えた結果の結論として分院を開設したいなら、準備する前にまずは長期目標を考えてみるのも一手

分院展開にはさまざまなメリットもありますが、コストや労力を考えると、大変なこともたくさん。

それでも分院を開設したいと思うなら、一度、長期目標を書き出してみて、その実現のために何をすればいいかを考えてみるのもいいかもしれません。

二田先生にならって「スタッフの育成」に力を入れることはもちろん、自院の特徴や強み、立地の特徴まで考慮して、ぜひ一度ゆっくりと時間をかけて考えてみては?

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特徴

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対象規模

無床クリニック向け 在宅向け

オプション機能

オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

提供形態

サービス クラウド SaaS 分離型

診療科目

内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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