訪問診療や往診を始めようと考えているクリニックは増加傾向にあります。しかし、実際に始めようとしても自院のスタッフに対してどのような教育をすれば良いかわからない先生も多いのではないでしょうか?
スタッフ教育はどの業界でも重要な課題ですが、特に医療分野ではスタッフの技術力向上と同時に患者対応能力も求められます。中でも、患者さんと接する時間が長くなる往診や訪問診療を展開していきたいと思っているクリニックでは、診療業務に忙殺されてスタッフ教育に苦労されているケースも散見されます。
本記事では、埼玉県西部にて訪問診療を中心に行っている医療法人の副理事長Aさんにお話をうかがいました。Aさんの医療法人は訪問診療所の立ち上げやコンサルティングなども手がけており、これまでに多くの医療機関をみてきました。スタッフ教育で重要なポイントや院内外での勉強会の必要性といった知見をぜひご参考ください。
■スタッフ教育で重要な「理念の共有」
「まず、クリニックのスタッフ教育で重要なのは、院長やクリニックの理念を共有することです。
当院では、患者さんから『あなたに出会えてよかった』と思ってもらえる気持ちを大切にしています。こうした理念を経営サイドはもちろん、現場のスタッフも共有していなければなりません。現場に出るスタッフは、その全員が自院の代表として患者さんの元へ行きます。そこでクリニックや医師の思いが共有できていないと、患者さんが疑問に感じてしまう部分も増えてしまいます」(Aさん)
Aさんは「クリニックにはそれぞれ理念があり、その理念をスタッフ全員と共有し続けることが結果的により良い医療の提供へとつながる」と言います。
■マニュアルの改善がクリニックの成長につながる
スタッフの技術向上やクリニック全体の効率化を目的として、Aさんのクリニックでは新人看護師や事務スタッフに業務内容をまとめたマニュアルを配っているそうです。
「例えば、体位変換や痰の吸引など、患者さんごとに処置や対応が決まっている場合がありますよね。こうした患者さんへの恒例の処置に関しては、ある程度のマニュアルを作っています。事務方であれば、レセプト請求やそれに付随する業務もマニュアル化されています。
しかし、これは診療や処置を機械的にしてほしいわけではありません。私は“医療はオーダーメイドであるべき”という考えでして、恒例の処置でも声かけのタイミングや言葉のチョイスなどは、それぞれのスタッフに任せています。
また、このマニュアルはスタッフが現場で良いと思った方法を随時追加してもらうなどして、ブラッシュアップしていきます。マニュアルの改善がスタッフの教育につながり、結果的にはクリニックの評価向上にも関わってきます。“スタッフの成長=クリニックの成長”ですからね」(Aさん)
■適材適所な人員配置の重要性
スタッフ教育を考える上では人員配置についても気を配る必要があると、Aさんは言います。
「スタッフを配置する際には、事前にそのスタッフがどのような処置をできるのかなどを確認してから行います。新しいスタッフは病棟や外来勤務の経験が大半で、訪問診療は初めてという人も多いため、今までどのような処置・経験を積んでいたのかをヒアリングしてから適材適所に配置し、その上でスタッフ教育を行っていきます」(Aさん)
Aさんのクリニックでは、新しいスタッフのこれまでの経験やその人の性格などから総合的に判断して帯同する医師を決定しているとのことです。スタッフの経験やパーソナリティを理解することも、スタッフ教育の重要なポイントと言えそうです。
■研修や勉強会だけでは学べないことも
スタッフ教育では院内研修のほかにも、多くの外部セミナーや勉強会が開催されています。Aさんは「基本的に、院内であろうと外部であろうとどちらで勉強してもかまわない」と言います。
「大切なのは、PDCAサイクル(※)のように実践して改善することです。
※PDCAサイクルーーPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返して業務の効率化を目指す手法
勉強会で全スタッフの知識をアップデートするのは大切ですが、インプットだけしてアウトプットしなければ何の意味もありませんからね。
また、それぞれのクリニックで抱えている課題や問題点は異なります。研修や勉強会を通じて、クリニックの課題や問題点をスタッフ全員で考えて共有することで、より改善を目指せるのではないでしょうか」(Aさん)
Aさんのクリニックでは、研修や勉強会といった場で患者さんやその家族から届いた意見を定期的に共有しているそうです。
■新人のミスをフォローできる環境づくりを
臨床の現場において、Aさんは新人のフォローをする心構えの重要性も説きます。
「スタッフも人ですから、必ずミスをすることはあります。特に新人のスタッフであれば、自身が同行してミスを未然に防ぐようにしながら、起こってしまった過失については的確にフォローできるよう配慮をしています。
どの科でも同様だと思いますが、医療は自分で手を動かさなければ身につかないスキルなどが多いです。ミスが起こってもスタッフを責め立てるのではなく、私がフォローできる環境を整えた上で、新人もベテランも手を動かして能力を身に着けていってほしいと思っています。いわゆるOJT(※)です」(Aさん)
(※)OJTーー「On the Job Traininng」の略称で、実務を経験しながら能力を身に着けていく教育方法
■クリニックとスタッフの間には信頼関係が必要
最後に、スタッフ教育にあたっては、クリニックとスタッフとの間にしっかりとした信頼関係を築くことも重要だ、とAさんは言います。
「当たり前ですが、労働基準法はしっかりと守る。社労士など専門家の手を借りながら運営するといいと思います。また、就業規則を明確にしておくことで、クリニックとスタッフ間の認識ズレなどを予防できます。こうやって培われた信頼関係がより良い仕事にもつながっていくはずです。職場として、コンプライアンス遵守の意識をしっかりと持ちましょう」(Aさん)
特徴
対応業務
診療科目
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対応業務
診療科目
この記事は、2021年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
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