在宅医療が推進された背景は?在宅医療を始める前に知っておきたい現状

いわゆる「第一次ベビーブーム世代」が一斉に75歳となる2025年、日本の医療や介護の需要はさらに増えると予測されています。内閣府による高齢者の意識調査では、住み慣れた場所である「自宅」で最後を迎えたいという方が多くみられています。さらには働き手となる世代の人口減少もあり、国は医療を提供する現場を、「病院から在宅へ」という方向へ舵をきりました。しかしその一方で、在宅医療の現場にも課題が残されているのが現実です。

今回は、在宅医療を推進する背景や現状についてご紹介します。

目次
  1. 在宅医療を推進する背景
  2. 在宅医療推進のための制度や取り組み
    1. 国が推進する「地域包括ケアシステム」とは
  3. 在宅医療の体制は
  4. 在宅医療の現状はどのようになっている?
    1. 在宅医療患者の動向
    2. 在宅医療の提供の実態
  5. 在宅医療を支える事業所
  6. 在宅医療を始めるために知っておいてほしいこと
    1. 医師1人で24時間・365日対応することは難しい
    2. 患者とかかりつけ医や家族間で終末期の医療についての話し合いがされていない場合が多い

在宅医療を推進する背景

2020年9月、65歳以上の高齢者の人口は3617万人と過去最多となり、高齢化率は28.7%となりました1)。いわゆる団塊世代が前期高齢者となる2025年には高齢化率は30%を超え、75歳以上の後期高齢者だけでも13%を超えると予測されています2)

さらに、内閣府による平成29年版高齢社会白書における「65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来の推計」によると、2012年は認知症患者数462万人、有病率15%(7人に1人)だったのに対し、2025年には600万人を超え、有病率も20%(5人に1人)になると推定されています3)

一方、令和元年版高齢社会白書によると、治る見込みがない病気にかかった場合、60歳以上の人の約半数(51.0%)が「自宅」で最期を迎えたいと希望していることがわかります4)。病状にもよりますが、自宅で最期を迎えたいという理由には、「住み慣れた場所で最期を迎えたいから」「最期まで自分らしく好きなように過ごしたいから」「家族との時間を多くしたいから」「家族に看取られたいから」などが多くあるようです5)

しかし、高齢者人口は増えても、生産年齢人口は減少傾向が止まりません。このような背景もあり、療養の場は医療から在宅へと、「在宅医療」の推進が強く求められることになりました2」

在宅医療推進のための制度や取り組み

まずは、在宅医療の推進に関する制度の変遷についてみてみましょう6)

<在宅医療の推進に関する制度の変遷>
1980年 在宅医療における指導管理科として、「インスリン在宅自己注射指導管理料」が創設される
1986年 訪問診療の概念が導入され、「寝たきり老人訪問診療料」や「各種の指導管理科」が新設される
1992年 第二次医療法改正により、「居宅」が医療提供の場として位置づけられる。「寝たきり老人在宅総合診療科」の誕生。
1994年 在宅時医学管理料、在宅末期総合診療科、ターミナルケア加算が創設される
1996年 在宅末期医療総合診療科の適用の拡大や、在宅患者末期訪問看護指導料の新設などが行われ、在宅での終末期医療の評価の充実が図られる
2000年 24時間連携加算が創設される、介護保険法施行
2004年 重症者への複数回訪問看護が評価される
2006年 第五次医療法改正により、在宅療養支援診療所が創設されるなど、在宅で療養する患者のかかりつけ医機能が確立される
2008年 在宅療養支援病院が創設される
2012年 機能強化型在宅療養支援診療所・病院が創設され、ますます在宅医療の充実が図られる

2000年から施行されている介護保険法は、2000年以降何度も改正されています7)。根底にあるのは「高齢者の介護を社会全体で支え合う」という考え方です。

国が推進する「地域包括ケアシステム」とは

国は2025年に向けて、「地域包括ケアシステム」の構築の実現を目指しています。地域包括ケアシステム実現のためには、以下の取り組みが継続的に行われることが必要です。

(1)医療の連携強化
(2)介護サービスの強化
(3)予防の推進
(4)見守りや買い物など、さまざまな生活支援サービスの推進
(5)高齢者の住まいの整備

地域の実態を把握し、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性にあった施策を行うことが重要になります。つまり、実際の地域包括システムのあり方は、地域によって変わってきます。子供から高齢者まで誰もが、住み慣れた地域で自分らしく生活し続けていくためには、行政や医療職・介護職、地域の町会やボランティア、そして住民が一体となって支えあう体制をつくることが求められています2)

厚生労働省:地域包括システム

在宅医療の体制は

国が在宅医療の提供体制に求めている医療機能は、主に以下の4つです。

(1)退院支援
入院医療機関と在宅医療に関わる機関とが連携・協働して継続的な医療を行う

(2)日常の療養支援
多職種と協働し、患者や家族の生活を支える医療を提供するとともに、緩和ケアの提供ならびに家族への支援も行う

(3)急変時の対応
在宅療養の患者の病状が急変した時の往診や訪問看護体制の導入、入院病床の確保を行う

(4)看取り
住み慣れた自宅や介護施設など、患者が希望する場所で看取りを実施する

これらの機能を継続していくには、病院、歯科、薬局、訪問介護事務所、居宅介護事務所、地域包括支援センター、短期入所サービス施設などの多職種、多機関と連携を図り、24時間体制で在宅医療を提供していく必要があります2)

また、この場合の「地域」とは、二次医療圏等にこだわるものではなく、あくまでも市町村体位や保健所での管轄単位など、医療資源の状況によって弾力的に設定される、となっています。そして、在宅医療における積極的な役割を担う医療機関には、24時間対応体制の在宅医療の提供、他医療機関の支援、医療、介護、障害福祉の現場での多職種連携の支援などを求めています。

在宅医療の現状はどのようになっている?

在宅医療患者の動向

厚生労働省による「在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移」では、在宅医療を受けた推計外来患者数は1996年から2005年までは約70,000人と「ほぼ横ばい」で推移しています。しかし、2008年以降から増加傾向であり、2017年は約180,000人となっています8)。また、在宅患者訪問診療科、往診料のレセプト件数の推移をみても、2008年は272,540件であるのに対し、2017年は710,868件と大幅に増えました2)

2017年の訪問診療を受けた年齢の内訳をみると、全体の62.78%が85歳以上、26.42%が75~84歳です。在宅医療を受けている人のほとんどが75歳以上の高齢者であることがわかります8)

在宅医療の提供の実態

厚生労働省の資料によると、訪問診療を行う診療所の数は20,167カ所(診療所全体の約20%)、訪問診療を行う病院の数は2,702カ所(病院全体の約30%)と、近年その数は横ばい状態です2)

在宅医療を中心とする診療所に実施したアンケート調査(全回答数124)をもとに、在宅医療提供の実態をみていきます。

(1)診療所の開設主体は?
「医療法人」が78件、「個人」が42と大半を占めています8)

(2)診療所区分は?
「無床」119件、「有床」が9件と、無床診療所が大部分を占めています8)

(3)施設基準の届出状況は?
一番多かった回答は、「在宅療養支援診療所」が61件、次いで「機能強化型在宅療養支援診療所(連携型)」が35件、「機能強化型在宅療養支援診療所(単独型)」が5件、届け出ていないという診療所が23件でした8)

(4)在宅医療で行う内容で多かったものは?
「往診」、「訪問診療」、「訪問看護ステーションの指示書の交付」、「在宅看取り」がそれぞれ100件以上と、大半の診療所で行われていました8)

その中の「往診」においては、「地域の多医療機関と協力しながら24時間365日対応している」が40件、次いで「単独で24時間365日対応している」が38件という結果でした8)

(5)連携している機関は?(複数回答)
「訪問看護ステーション」が109件と最も多く、次いで「居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)」が94件でした9)。連携機関平均8.8機関という結果も出ており、多職種と連携して協力しながら在宅医療をしていることがわかります8)

(6)連携機関との患者情報の共有手段は?(複数回答)
連携機関との情報の共有手段は、「電話」が101件、「FAX」が97件と多く、次いで「専用の連携用紙」が48件と続いています8)

情報通信技術(ICT)の活用は21件でした。地域の状況や利用する医療者等のスキルにもよっては、ICTの利用が効率化の一つの手段となるでしょう9,10)

(7)在宅医療を継続するうえでの課題は?(複数回答)
「訪問するための時間の確保が困難である」が最も多く、次いで「医師の高齢化」「医師以外の医療・介護スタッフの不足」「医師不足」「24時間対応の訪問看護」という課題がみられました8)

在宅医療継続には、人材の確保が最も重要であることがうかがえます。

在宅医療を支える事業所

「在宅療養支援診療所」には、以下の7つの基準が設けられています11)

(1)診療所である
(2)24時間連絡を受ける体制を確保している
(3)24時間往診可能である
(4)24時間訪問看護が可能である
(5)緊急時に入院できる病床を確保している
(6)連携する保険医療機関、訪問看護ステーションに適切に患者の情報を提供している
(7)年に1回、看取りの数を報告している
※ただし、(3)、(4)、(5)の往診、訪問看護、緊急時の病床確保については、連携する保険医療機関や訪問看護ステーションにおける対応でも可能

このように他の連携機関と協力しつつ、24時間体制で往診、訪問看護などの提供を行っています。

2019年3月31日現在、在宅療養病院の数は全国に1,405カ所、在宅療養支援診療所は14,193カ所あります12)。また、2017年10月現在、歯科診療所(68,609カ所)のうち、在宅医療サービスを実施している歯科診療所は、14,927カ所で、総数の約20%程度です13)

連携機関として欠かせない訪問看護ステーションの数は、一般社団法人全国看護事業協会の調査によると、2021年4月1現在稼働している事業所数は13,003カ所、2012年以降大きく増加しています14)。訪問看護ステーションの看護職員の数(常勤換算)は、2019年10月1日現在、60,440人です。2017年は45,885人、2018年は55,119人であり、年々増加傾向にあります13)

介護職員の数は2016年183万人で、年々増加傾向ではありますが、まだまだ人手不足は解消されない状況であり、非正規職員に依存しているのがわかります15)

理学療法士と作業療法士の数はそれぞれの協会の会員数ではありますが、理学療法士は、2020年度129,875人、作業療法士は2019年度62,294人となっています16)

在宅医療を始めるために知っておいてほしいこと

「在宅療養支援診療所」を開設するためには、いくつかの課題があることが分かっています。

医師1人で24時間・365日対応することは難しい

やはり、医師1人で24時間・365日対応するのは難しく、他機関・多職種との連携は不可欠です。在宅医療を行うにあたり、患者・家族からの連絡をいつでも受けられる体制づくりが必要となります17)

多職種それぞれの悩みや課題、気を付けていることなどを、みなで共有する機会を持つことで、患者や家族のケアの充実につなげていきます。他機関・多職種との情報の共有方法については、自地域での方法を検討します。他地域が成功しているからといって、同じ方法を導入しても継続しないことがあります。その地域の在宅医療関係者が負担なく、効率的に実践できるように、試行錯誤しながら最適な方法を見つけていく必要があります17)

患者とかかりつけ医や家族間で終末期の医療についての話し合いがされていない場合が多い

終末期の医療について話し合いがされていない場合、患者本人の意思に反した医療処置や搬送が行われる可能性があります2)。患者さんの意思に沿った医療を行うためにも、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が必要です18)

患者さん自身が意思を伝えられる段階で、自分の望む医療やケアについて、家族や医療・介護職と何度も話し合い、記録しておくのがACPです18)

しかし、一部では「賛成である」という意見もありますが、ACPの国民全体への認知度はまだまだ低いのが現状です。ACPについてより多くの人に知ってもらうことが大切です。

在宅で療養したいという人がいる一方で、在宅での療養を希望しない人もいることも現実です。希望しない理由には、「介護してくれる家族に負担がかかるから」「病状が急に悪化したときの対応に自分も家族も不安があるから」などがあります。つまり、患者と家族が安心できる環境が整っていないからです。

在宅医療の推進には、地域の力が必要です。まずは在宅医療に関わる機関や職種のこと、その地域の特性をしっかり調べることから、在宅医療への取り組みを始めていきましょう。


<参考資料>

1)総務省統計局 1.高齢者の人口
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1261.html

2)厚生労働省 在宅医療政策の方向性
http://www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/docs/highlevel-trainingprogram/2020/2020_01_suzuki_t.pdf

3)内閣府 平成29年版高齢社会白書
第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(3)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html

4)内閣府 令和元年版高齢社会白書(全体版)4高齢期の生活に関する意識
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_3_1_4.html

5)厚生労働省 人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf

6)厚生労働省 在宅医療の最近の動向
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h24_0711_01.pdf

7)厚生労働省 介護保険制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf

8)厚生労働省 医政局 委託事業 平成 30 年3月 株式会社日本能率協会総合研究所
在宅医療連携モデル構築のための実態調査報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000341065.pdf

9)厚生労働省 在宅医療介護連携を進めるための情報共有とICT活用
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h25_0509-01.pdf

10)在宅医療と介護の連携のための情報システムの共通基盤の構築に向けた規格の策定に関する調査研究事業
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/39_sisutemukougyoukai.pdf

11)平成26年度診療報酬改定の概要【在宅医療】
https://www.ncgg.go.jp/zaitakusuishin/zaitaku/documents/08_2-2.pdf

12)厚生労働省 在宅医療にかかる地域別データ集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html

13)厚生労働省 平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/17/dl/02sisetu29-3.pdf

14)一般社団法人全国訪問看護事業協会 令和3年度 訪問看護ステーション数 調査結果
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r3-research.pdf

15)厚生労働省 介護分野の現状等について
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000489026.pdf

16)日本作業療法士協会 2019 年度 日本作業療法士協会会員統計資料
https://www.jaot.or.jp/files/page/jimukyoku/kaiintoukei2019.pdf

17)東京都医師会 序章 現状の分析
https://www.tokyo.med.or.jp/docs/appendix/005_prologue_p13-43.pdf

18)東京都医師会 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)―人生会議―
https://www.tokyo.med.or.jp/citizen/acp

Mac・Windows・iPadで自由に操作、マニュア ルいらずで最短クリック数で診療効率アップ

特徴

1.使いやすさを追求したUI・UX ・ゲーム事業で培って来た視認性・操作性を追求したシンプルな画面設計 ・必要な情報のみ瞬時に呼び出すことが出来るため、診療中のストレスを軽減 2.診療中の工数削減 ・AIによる自動学習機能、セット作成機能、クイック登録機能等 ・カルテ入力時間の大幅削減による患者様と向き合う時間を増加 3.予約機能・グループ医院管理機能による経営サポート ・電子カルテ内の予約システムとの連動、グループ医院管理機能を活用することにより経営サポート実現 ・さらにオンライン診療の搭載による効率的・効果的な診療体制実現

対象規模

無床クリニック向け 在宅向け

オプション機能

オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

提供形態

サービス クラウド SaaS 分離型

診療科目

全て

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


他の関連記事はこちら