医療事務の仕事は、資格がなくてもできます。また、資格よりも経験を重視されるクリニックが多いのではないでしょうか。医療事務員を募集する際には、経験者を雇いたいと考えるのが一般的かと思います。医療という専門的分野は想像以上に奥深く、一から教えるには時間がかかるからです。ましてや、患者さんで溢れかえっているクリニックでは、教えている時間さえ取れないのかもしれません。
いわば、即戦力を求められる職種です。無資格・未経験、医療の知識ゼロの私が、医療事務という仕事に就くのには苦労しました。面接までたどり着くことも難しく、面接までこぎつけたとしても、不採用をもらうばかりでした。それほどまでに、未経験者採用の壁は高いと痛感しました。
しかし、今から10年ほど前のことですが、未経験の私を雇ってくれるクリニックがありました。当時の採用された理由や、面接内容、教わった業務内容について振り返りたいと思います。今後、スタッフを募集する際など、何かひとつでも参考になることがあれば幸いです。
面接から採用までの経緯
なぜ医療事務の仕事をしたいと思ったか
まずは、私が医療事務という職種に就きたいと思った志望動機についてお話すると、とても安直な考えでいました。将来を見据えたときに、医療の仕事なら何歳になっても働ける、医療の経験を積めば仕事に困ることはないと考えたのです。そのために専門的な知識を学ぶことが、働く上で強みになると考えていました。
応募~未経験可~
未経験でも採用をもらえたクリニックですが、そこでの面接は、結果的に採用されたこともあり、とても印象に残っています。初めは募集内容に記載されている「未経験可」の文字を見つけて応募を決めました。書類選考という形も多いなか、そのクリニックは履歴書持参で直接来てくださいとのこと。書類で落とされないという安堵の気持ちと、今回も不採用かもしれないという不安を抱え、もし不採用なら勉強してから出直そうかとも思っていました。
面接~受付の対応~
面接は午前の診察終了後とのことで、予定の時間より少し早めに着きました。まだ開業されて3~4年という新しいクリニックで、院内は癒しをモチーフにした造りです。受付で「面接予定の者です」と伝えると、事務の方は優しい笑顔で、「こんにちは、まだ診察中なので待合にかけてお待ちくださいね」と言われました。
緊張を落ち着かせるように、待合の椅子にかけて、受付の様子を見ていました。まだ数名患者さんがいるなかで驚いたことは、スタッフが、年配の患者さんにとてもフレンドリーな対応をされていたことです。当時の私は、クリニックや病院は静かに淡々と仕事をこなすイメージを抱いていました。
「今日は先生に怒られちゃったよぉ」「しっかり薬飲まないからですよ!」というような談笑をしていて、こちらの緊張が少し和らぐような気持ちになったのを覚えています。こんな風に患者さんと関わることもあるのだと驚きつつ、人見知りの私に日常会話をすることができるのかと考えながら、受付の様子を気にしていました。
面接~院長とご対面~
診察が終わり、緊張しながら院長と初対面です。診察室に通され、院長と事務長が同席しての面接でした。院長は穏やかな雰囲気で、事務長はシャキッとされており、両極端な印象でした。
面接は基本的に、診察室でされるクリニックが多いかと思いますが、待合でそのまま面接するところもあります。
面接を担当される方は、
- 院長のみ
- 院長と奥様
- 院長と税理士
- 院長とスタッフ
とさまざまです。私の見解になりますが、面接は院長と、同じ部署で働くスタッフが入ることが一番溶け込みやすいようなイメージがあります。
面接~院長の紹介~
面接では、最初に院長の経歴とクリニック概要を紹介してもらいました。当時はネットなどで事前に情報を調べる習慣がなく、当日に院長のプロフィールを初めて知ったのです。今まで受けた面接ではそういった紹介がなかったこともあり、院長や病院について詳しく知らないままのところもありました。しかしこのときは、しっかりと説明していただいたことで、クリニックのことがよくわかりましたし、院長の丁寧で真面目な対応に好感を持ちました。
面接~質疑応答~
紹介が一通り終わると、次は私への質疑応答が始まりました。これで合否が変わると、気を張る瞬間です。
質問内容としては、以下のようなことを大まかに聞かれます。
- 志望動機
- 医療事務の資格の有無
- 今までの職歴や、退職理由
- 医療事務の心構え
- 業務内容などについての質問の有無
私はこれまでに、接客業と一般企業での事務の経験などがあることと、医療事務については全くの未経験ということを伝えました。資格についても、WordやExcelのパソコンスキルのみで、医療については無知なことも正直に話しました。
事務長からの質問
面接も終盤にさしかかったと思われるそのとき、院長の隣に座られていた事務長が私に質問をします。それは今までの面接で受けた質問のなかで、特に印象的な内容でした。「患者さんに、"もう私の病気は治らないかもしれない"と言われたときは、どのように声をかけますか?」と問われたのです。
思いもよらない問いかけに頭は真っ白になり、しばらく沈黙が続いてしまいました。結局答えが見つからず「先輩に助けを求めます」としか答えられませんでした。
事務長いわく、患者さんによっては、自身の健康に関する不安な気持ちを医療事務にぶつけてくる方もいるとのこと。やんわりと、核心をつかない言葉を医療事務という立場に求めたくなるのかもしれません。院長や看護師に言えないことも、受付でポロッとこぼしてしまうことはよくあることのようです。
「そういう対応もしなければいけない、ということはわかってね」と、事務長から言われました。医療事務の仕事は、専門的分野での事務仕事だけではなく、患者さんと向き合う心構えも必要だというメッセージだったのだと思います。結果は後日連絡するとのことで、医療事務の奥深さを思い知らされた濃い面接は終わりました。
採用の連絡
合否の連絡は院長からで、当日の午後診療後に電話をもらい、晴れて採用という結果をいただきます。やっと採用が決まったのですが、嬉しいという気持ちよりも、未経験ゆえに私で大丈夫なのだろうかという不安が大きかったです。
電話の際に院長から「面接のときは厳しい質問をしてしまったけど、どうか気負わないでくださいね」と、謝罪を受けました。私としては、答えられなかったことに肩を落としていたので、気にかけてもらえたことに驚きです。それと同時に、院長の心遣いに不安な気持ちも救われました。
採用の理由
未経験であり資格もなく、質疑応答にもうまく答えられなかった私が、なぜ採用されたのでしょうか。これはしばらく経ってから聞いたことなのですが、事務長いわく、経験者より未経験者の方がクリニックの方針に染めやすい傾向にあるとのことでした。極端な言い方をすれば、郷に入っては郷に従うタイプが未経験の方に多く、業務の指導もしやすいとのこと。そういった事務長の考えが、採用につながったのかもしれません。
院長がいなければクリニックはまわりませんが、仕事を教えるのは現場の人間です。面接に院長だけではなく、事務長が入ったのも、教えやすい人材を判断するためでもあるのだと思われます。
また、以前、経験者を雇った際に、前の病院ではこうだったと比較することが多かったり、報連相もなく自己流で仕事を進めたりと、うまく連携が取れなかったことも教えてくれました。結局その方は、クリニックの方針に合わないとの理由で辞められたそうです。
教わった業務内容の手順
医療事務の仕事が未経験だった私は、何から覚えていいのかもわからない状態でした。
まずは、先輩たちの受付対応を後ろで見ながら、保険証の仕組みやレセプトの基礎知識を学びます。
という順番で指導を受けました。
柔軟なコミュニケーションに重きを置いているクリニックだからなのか、受付業務が一番難易度が高いということで、最後に覚えてほしいとのこと。受付業務の中にある電話対応については、顔の見えない相手とのやり取りのため、特に慎重な指導だった記憶があります。
レセプト業務や会計業務は、毎日作業することで、いずれは慣れる。受付業務に関しては、患者さんによって変わるため、イレギュラーな対応は珍しいことではないと教わりました。
そして、仕事は人に教えることが出来て一人前と言われているが、医療事務は違う。人に教えることができても、都度新しい知識は必要で、覚えることは無限にある。専門知識を覚えるだけでなく、健康が関わっている患者さんへの対応も学び続けなければいけないと、事務長が言っていたのを今でも思い出します。
事務長は医療に対して、真面目で勉強熱心な方でした。どんなケアレスミスでも、報告し合い、今後の対策を検討します。患者さんに少しでも不快に思われないよう、爪の長さや髪型にも気を配り、アクセサリー等は禁止と身だしなみについても厳しかった印象です。
最後に
未経験から始めた医療事務。右も左もわからない未経験だった私も、今は経験者となり、教える側の立場に変わりました。未経験の私に一から医療業務について教えることは容易ではなかったはずだと、今になって身に沁みる次第です。
極端で安易な志望動機だった私も、今ではやりがいを感じています。当時の動機のままであれば、医療業界は続けられなかったかもしれません。未経験の私を採用していただいたクリニックには、医療業界のいろはを基礎からしっかり教えてもらい、今でも感謝しています。
未経験者を雇うことは、リスキーに感じられることなのかもしれません。私も今となっては、経験者を雇うことの方が心強く思います。ただ、私の勝手な見解になりますが、経験者の方はクリニックの方針に合わないと察すれば、すぐに見切りをつけることが多い傾向にあるような気がしています。
即戦力を必要とするクリニックでしたら、経験者を雇うことが最善なのかもしれません。経験があることで飲み込みが早いため、すぐにでも戦力として働けるでしょう。なにより教える側のストレスが軽減されると考えられます。
しかし、経験だけでは補えないこともあるのは事実です。どれだけ知識があっても、すぐに辞められては本末転倒です。結局は、クリニックとの相性も重要なのかもしれませんね。成長を見込み、経験を問わず、クリニックの雰囲気に合う人を優先して検討するのも良いのではないでしょうか。
この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。