医療の仕事に従事していると、患者さんとトラブルになるケースを垣間見ることも決して少なくありません。医師や患者、看護師と患者、医療事務と患者などさまざまな職種とトラブルはありますが、本記事は、私が実際に絡んだ、医師と患者のトラブルについてご紹介していきます。
医師と患者さんがトラブルになるケース
私たち医療従事者は患者さんがいて成り立つ職業であり、医師も患者さんを治すためにその職に就いています。ですが、患者さんからしてみれば、自分が悩んでいる症状や病気を発見し治してくれる存在であるため、医師に恩を感じたり、神様的存在として扱ったりする人も少なくありません。
私自身も、病気をして辛い思いをしたときに医師が治療にあたってくれると感謝したくなるため、気持ちもわかります。しかし、中にはそんなことすら思わない患者さんがいることも事実です。
- 患者は金を払っている
- 治療するかしないか患者の自由
- 自分が退院すると決めたら退院する
- お金は払えない
- (家族が)家に帰って来られては困ると文句を言う
- 医療ミス
など何かと文句をつけてはトラブルとなるケースも珍しくはありません。
患者は金を払っている
患者さんの言い分としては、「金を払っているのだから、こっちの自由にさせろ」という意見です。確かに患者さんからはお金は払って頂いています。毎月、ほとんどの人が保険料を納めていますし、病院にかかった際には、国の負担と自己負担を合わせて支払いをして頂いています。ですが、病院は治療をする場所であり、ホテルや旅館ではなく特典やサービスが付いているわけではありません。客ではなく患者です。治療を目的としています。お金を払っていれば、何もかもが思い通りになるわけではありません。
治療するかしないかは患者の自由
これは当たっています。いくら医師が病気を見つけて治療を勧めていたとしても、その決定権は患者さんにあります。患者さんが治療をしないと決めたなら、治療する必要はありません。また、他の医療機関を受診したいと希望するのも患者さんの自由と言えます。
しかしなかには、入院後に「治療しない」と言ってくる患者さんもいます。医師は患者さんに対して、入院前に治療内容や検査、入院期間などをいろいろ説明して、患者さんが同意した上で入院や治療方針を決めます。しかし、実際に入院すると環境の変化や制限が多くなってくるため、ストレスが溜まり退院を希望する患者さんもいるのです。そこで、「退院はまだ早い。治療も途中段階」と説明しても、「治療するかしないかは患者の自由」と捨て台詞を吐き、退院していく患者さんもいます。
自分が退院すると決めたら退院する
患者さんは、症状がなくなってくると退院すぐにしたがります。しかし、それは内服薬服用や点滴をおこなっているから症状が抑えられているだけであって、中止にした途端、再発する可能性もあるのです。しかし、それを説明しても、症状がない患者さんは治ったと感じてしまいます。
退院したいと思えるくらい元気にはなっているため、良いことではありますが、自分勝手に退院を決めるのも困ってしまうこともあるのです。一番懸念されるのが、退院を急ぐと自宅に戻ってまた症状が出てきて再入院となることです。そうなると、また一から書類や手続きをおこなわなくてはなりません。また、そのときにベッドが空いていればまだ問題はありませんが、なければ入院をさせることができず、他の病院へ移送されることになります。
お金を払わない
入院時には、連帯保証人に誓約書を書いてもらうことがほとんどです。しかし、中には家族や親戚がいなかったり、疎遠となっていたりで連帯保証人がいない人もいます。そのうえ無職で、病院から請求がくると「こんな金は払えないからまけてくれ」という患者さんもいます。
しかし、医療費は基本的に国で管理されています。病院が「この治療はいくら」「この処置はいくら」と決めているわけではないため、医療費をまけるということは存在しないのです。
こういったトラブルは後になって発覚することもあるので、治療内容などでトラブルとなるケースもゼロではないのです。
家に帰って来られては困ると文句を言う
これは、患者さん自身ではなく家族から言われるケースになります。認知症があり、介護の負担がかかっていた場合、入院中の気楽さに慣れ、生活スタイルを崩したくなくなってくるのです。その結果、患者さんが家に帰ってくることを拒否する家族はたくさんいます。
しかし、医療機関はあくまでも治療をおこなうところであり、施設とは違うため治療が終われば、家に帰って頂く形になります。こういったトラブルは多くあるため、入院をさせる時点で医師が退院先を確認し、治療を終えても速やかに退院しないのであれば、入院はさせないことをご家族に説明して、事前にトラブルを回避することもあります。
医療ミス
医師は治療をおこなう上でさまざまな治療内容を説明して、患者さんやその家族が納得したうえで、同意してもらって治療をおこないます。しかし、ごく稀に事前に説明した合併症やよきせぬトラブルが発生することがあります。医療は100%ではなく、常に危険との隣り合わせであるため、こればかりは避けられません。しかし、事前に説明していても何かと「医療ミスだ」と騒ぎたて、患者さんや家族とトラブルになるケースもあります。
一部ではありますが、以上が、私が実際に関わったトラブルになります。こういったケースの場合は、医師が患者や家族に丁寧に説明する場合もあれば、強制退院といった措置を取る場合もあります。
そしてここから先は、医師と患者との珍しいトラブルについて紹介させて頂きます。
非常に珍しいトラブル
医療従事者の白衣は、以前に比べカラフルになりつつあります。数年前までは、医師、看護師、検査技師など医療従事者のユニフォームは白と決められていました。しかし、今は前ほど厳しくはなくなってきています。むしろ、上下白衣というのが少なくなり、ユニフォームだけではなく、ヘアカラーや靴などの身だしなみも厳しくなくなってきています
しかし、それによって大変となるのが患者さんです。ユニフォームによって、医師なのか看護師なのか何の職種がわからなくなってくるからです。その結果、相手が医師とわからず、患者さんが医師に対して暴言を吐いたことがありました。
患者さんはなぜ医師とわからなかったのか
患者さんは何かしらの症状があり、病院を受診します。医師が診察して入院が必要であれば、入院をさせる手続きをします。そのため、入院をさせた医師が主治医となるため、患者さんもその主治医の顔はわかります。しかし、医師は1人だけではありません。その診療科の医師数名で患者さんの治療にあたるため、患者さんも見たことがない医師もいます。
偶然が重なり顔を合わせなかった
その患者さんはあまり病室にはおらず、よく病院内を歩き周ったり、売店に行ったりしていたため、医師が病室に行っても不在にしていることがほとんどでした。痛みを探すための精査入院みたいなところもあったため、特に制限もなく、患者さんも動けていたので医師も看護師も差ほど気にしてはいませんでしたが、それが何度も重なっていきました。
ベッドネームに医師3名の名前
あるとき、べッドネームに、医師の名前が3名記入されていることに患者さんは気が付きました。1人は外来診察にあたり、入院をさせた医師になるため、患者さんもよく知っています。しかし、他2名の医師に関しては、患者さんは全く顔を合わせていません。患者さんも、「医師の名前が3人書いてあるけど、いつから?」と聞かれましたが、入院時から一切変わっていないため、「入院してからずっとですよ」と答えると患者さんは驚いていました。
入院してから数日たっていたため、「今頃」とは思いましたが、患者さんもそれ以上は何も言わず、病室を後にしました。
医師に会っていない患者
あるとき、その患者さんが、他の2名の医師に会っていないことを看護師に伝えてきました。その患者さんはいつも病室におらず、医師が病室にいってもタイミングが合わなかったことを伝えると患者さんは「俺が悪いのか」と言ってきたのです。決して患者さんが悪いと看護師は言っていたわけではないのですが、部屋にいなければ会うのは難しいことを話すと、患者さんは「ふざけるな、こっちは患者だぞ。医者から会いに来るのが普通だろ」と言われ、看護師もそのことを医師に伝えることにしました。
それでも病室にいない患者
患者さんがそう言われた日は、医師も手術で立て込んでおり、夜遅くまで手術をしていたため、伝えることはできませんでしたが、翌日その旨を医師に伝えました。医師はすぐに患者さんのところに行きましたが、患者さんはまた病室にいませんでした。その患者さんが言うだけ言って、自分は病室にいないことを繰り返していたため、医師も次第に苛立ちを募らせていきました。
他の患者にも言いふらす患者
その患者さんは次第に他の患者さんにも、「ここの医者は顔を出さない。こっちは患者なのに」と言いふらすようになりました。しかし、同室の患者さんは、その患者さんがいつも部屋にいないことを知っています。そのため、その患者さんが文句を言っていたとしても、聞き流していたり、逆に「部屋にいつもいないんだよ」と患者さんがフォローをしてくれいることもありました。
患者さん同士のトラブル
患者さんは入院生活が長くなってくると次第にわがままになってくる傾向にあります。そのため、同室の患者さんもそのわがままや自分勝手なことに我慢できなくなり、トラブルに発展することもあります。そうなると、病室を移動したり、入院している患者さんも退院を急いだりすることも多々あります。ですが、問題を起こした本人は自分が悪いなんて一切思っていません。常に自分を正当化しているのです。
医師に対して暴言
この患者さんの暴言は次第にエスカレートしていきました。看護師を始め、周囲の患者さんまで影響が及んでいました。それを知った医師が患者さんのところへ行くと、そのときは患者さんも部屋にいました。入院してから約2週間近くが経過しようとしていました。しかし、その患者さんはその病室に来た人が医師とはわからず名指しで「この医者は全くあいさつに来ない」「それでよく医者がやっていられるな」「こんな医者に診てもらいたくない」「ヤブ医者」とまで言ってしまったんです。
さすがにそれ対して医師も激怒しました。そのことだけではありません。今までの看護師への対応や他患者さんとのトラブルなど、その医師はすべて知っています。医師だと知ったその患者さんは、一瞬のうちに顔が青ざめていましたが、ときすでに遅しでした。
医師が下した決断
怒りが収まらないその医師は、主治医ではないため勝手いろいろと決断することはできません。そのため、その医師は一部始終を主治医に伝え、判断はその医師に任せるとになりました。その医師が下した決断は「退院」の二文字。「今すぐ退院して下さい」と本人へ伝えたのです。
ご家族もなぜ退院となったのかよくわからず、説明には入りましたが、最終的には納得されて退院されました。それ以降、その患者さんは病院を受診することはありませんでしたが、その医師も本人からの謝罪がない限り、診察することはないと話していました。
医療は治療をしてほしい側と治療をする側があって成立しているものであり、どちらが偉いということはありません。医師と患者の関係とはいえ、お互いに尊重し合えればこんなことにはならなかったのではないかと思うケースでした。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 男性看護師ライター | ベル
看護師歴14年目。救急、ICU、外科、内科を経験トラブルも多い看護の世界でいろいろいあってもこの仕事が好きな男性看護師。 現在、管理職として働きながらブログなどでも経験を活かしたノウハウを執筆しています。
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