モンスターペイシェントへの対応

※この記事はライターが執筆した原稿をもとに編集部で加筆・編集しています。

医療業界での仕事は、やりがいがある一方で、大変なこともたくさんあります。長時間労働や感染の危険性、患者からの訴訟の可能性などさまざまな要素が挙げられますが、そのひとつが「ペイシェントハラスメント」です。

具体的にはどのようなものであるのか説明していきます。

目次
  1. ペイシェントハラスメントとは?
  2. モンスターペイシェントの事例
    1. 何かにつけ文句を言う
    2. すぐに感情的になる
    3. 前の病棟と比較する
    4. 問題を大きくしようとする
  3. モンスターペイシェントへの対応
    1. まずは話をよく聞いてみる
    2. いったんその場を離れて時間を置いてから話を聞く
    3. 毅然とした態度で接する
    4. 何を言われても笑顔で返す
    5. スタッフ間で情報を共有する
    6. クレームの内容によっては病院側の非を認めて改善に励む
  4. スタッフ同士で協力し合うことも大事

ペイシェントハラスメントとは?

ペイシェントハラスメントとは、医療従事者が、家族やその家族などから、人権や人格、自尊心を侵害されるような暴言、暴力、迷惑行為、性的嫌がらせを受けたり、不快感や不利益、脅威を感じるようなことをされたりすることです。

ペイシェントハラスメントを行う患者のことを「モンスターペイシェント」と呼ぶこともありますが、モンスターペイシェントに悩む医療従事者は殊のほか多く、昨今では厚生労働省も対策に奔走しているほど。

記憶に新しいところでは、2021年、大阪市の心療内科では元雄患者による放火殺人事件が起きていますし、2022年には、埼玉県ふじみ野市で、死亡した母親が利用していた出張介護クリニックに恨みを持ち、従業員を呼び出して人質にして立てこもり、医師1名が殺害された事件も起きています。

とはいえ、すべてのペイシェントハラスメントがここまで酷いレベルというわけではなく、もっと日常的な嫌がらせレベルのものも多数存在します。そしてもちろん、ハラスメントが軽度であれば見過ごせるというわけではなく、多くの医療従事者は日常的に頭を抱えていますし、精神的・ときには肉体的にも大きな負担を強いられます。

次の項からは、具体的にどんなペイシェントハラスメントが存在するのかをご紹介します。

モンスターペイシェントの事例

一言にモンスターペイシェントと言っても、さまざまなタイプの患者がいます。私や私の周りの医療スタッフが実際に対応したことのあるモンスターペイシェントについて、パターン別に紹介していきます。

何かにつけ文句を言う

たとえば、配膳の際に声かけしても反応がないため、看護師のほうでテーブルの上の私物を少しずらすと途端に豹変して「人の物を勝手に触るな!」と怒鳴るなどのケースがこれにあたります。しかも、一度や二度ではなく毎回こうなので、接する方は手を焼くことになります。

入院生活に対する不安な気持ちが、こうした言動として現れてしまうことは珍しくありませんが、看護師もただのわがままには付き合いきれません。

すぐに感情的になる

すぐに感情的になり、怒鳴ったり怒ったりする患者も多いです。

たとえば、検査の時間が押していることに対してキレたり、急患の来院によって自分の診療が後回しになったことに腹を立てたり。どんなになだめても興奮が収まらないことから、新人看護師などであれば対応中に泣いてしまうこともしばしば。

挙句、ベテラン看護師が対応に当たってもどうにもならず、医師に直接説明してもらわなければ納得してもらえないこともあります。

前の病棟と比較する

入院慣れしている患者さんでよくあるのがこのパターン。

既往歴がたくさんあり、入退院を繰り返していると、入院中の病棟スタッフと他の病棟のスタッフを比較しがち。食事や外出などに関する希望が通らないとなると、「前の病棟はOKしてくれたのに」、看護師が要望に応えてくれないと、「前の担当看護師はやさしかったのに」といった具合です。

ひどいときは、「ここの看護師はこんなこともできないのか」などと見下してくることも。

問題を大きくしようとする

自分の思い通りにならないことがあったとき、「お前じゃ話にならん。上のやつを呼べ」などと怒鳴ったり、最悪の場合、医療機関を訴えようと画策したりする人も。

しかも、「上のやつを呼べ」に応えて看護師長に対応してもらっても、「病院の一番偉いやつを呼べ」と言われてしまうこともあります。

モンスターペイシェントへの対応

続いて、例として挙げたようなモンスターペイシェントが来院・入院してきた場合、どのように対処すればいいのかを説明していきます。

まずは話をよく聞いてみる

多くのモンスターペイシェントに共通している特徴は、「自己主張が強い」ということです。しかも、入院や検査の際を余儀なくされていつにも増して不安になっていることから、いつも以上に自分の訴えを聞いてもらおうとする傾向にあります。

しかし、こうした患者たちは話を聴いてもらうだけで安心する傾向にあることも事実。決して相手を否定することなく、相手の気持ちに寄り添って耳を傾けてあげるだけで、気持ちが落ち着いて素直になる場合が多いです。

いったんその場を離れて時間を置いてから話を聞く

患者が激高して何を言っても通じそうにない場合、「病棟を回ったら話を聞きにきますからね」といったんその場を離れることが功を奏すことも多いでしょう。

怒鳴る相手がその場から立ち去ると、再び戻ってくるまでの間に冷静になっていることはよくあること。興奮が収まった後なら、意外と話が通じることもあります。

毅然とした態度で接する

日ごろから家で甘やかされていて、なんでもかんでも我儘が通ると思っている患者が理不尽な要求をしてきた場合などには、この対応が正解となることが多いでしょう。

ダメなものはダメとはっきり言わずに許してしまったら、それを見ていた周りの患者も我儘を言い出す可能性もあります。

何を言われても笑顔で返す

人に対して怒鳴ったりキレたりする人の多くは、自分に自信がないために相手を威嚇して保身する傾向にあります。このとき、怯えた様子を見せては、相手はますます調子に乗ります。

しかし、まったく動じることなく、怒鳴られても「次回から気を付けますね」「●●さんはそうしたいんですね。でも今は療養中だから難しいんです、治ったらそうしましょうね!」と笑顔で返すようにすれば、相手も自分が大人げなく怒っていることを恥ずかしく思うはず。

スタッフ間で情報を共有する

「なにもかも気にくわない」というモンスターペイシェントもいれば、激昂するポイントがある程度決まっているモンスターペイシェントもいます。

一度でも問題行動を起こした人に関しては、どんな問題行動があったのか、そのときどんな対応をして、相手の反応はどうだったのかなどを共有するのも手です。

対処法をみんなで考えられるので、同じことが起こらないよう、対応が可能になります。

クレームの内容によっては病院側の非を認めて改善に励む

言い方がきつかったり、激しく暴れたりはよくないにしても、クレームの内容はまっとうであることがあります。

たとえば、体調が悪ければ「待ち時間が長すぎてしんどい」と訴えたくなって当然ですし、場合によっては「早くしてくれ!」と大声で泣きわめきたくなることもあるでしょう。

患者が言っていることに一理あるなと思った場合は、すぐに改善できない場合でも、改善に励む旨を伝え、「不快な思いをさせてすみません」と謝ることも大切です。

スタッフ同士で協力し合うことも大事

いくつかの例を挙げましたが、いずれにしろ、最終的には、スタッフ間で患者の苦情内容やそのときどきの対応を共有して、今後どのように対処していけばよいのか話し合うことがとても大切。もちろん、その実践のためにスタッフ同士で協力し合うことも重要になってきます。

今回の記事がモンスターペイシェントの対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い病院運営に繋がればと思います。

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risa

執筆 看護師 | risa

看護師歴9年目で現在、総合病院勤務。日々、慌ただしく忙しい中でも、看護師としてやりがいを持って医療にたずさわっています。内科や外科での実際の経験を通して、皆さんに役立つ情報を提供していければと思います。


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