医師のみなさんは、患者からどのように思われているか考えたことはありますか? 常に現場にいる私たち看護師は、患者からさまざまな相談や意見をいただきます。そこで今回は、現場で聞いた、患者の医師に対するリアルな本音をご紹介していきたいと思います。
患者は医師に対してどのような思いを抱いているのか
まず結論から申しますと、患者は本音の5割程しか医師に伝えることが出来ていません。その理由としていくつかご紹介します。
感謝の気持ちが一番
大前提として、患者は医師や看護師に対する感謝の気持ちが大きいです。ですが、そのことが原因で、本音を言えずにいたり、何か言いたいことがあったとしても我慢したりする傾向にあります。
私の受け持ち患者Aは、足首の骨折で入院していました。Aは口数は少なかったのですが、些細なことでも「どうもありがとうございました」「ご迷惑おかけしました」と言うようなとても腰の低い方でした。
ある晩、Aからコールがあり訪室すると「足がズキズキして眠れないから痛み止めか眠剤をいただけませんか」とのことでした。それまで、Aからそのような訴えを聞いたことはなく初めてであったこともあり、なんだか胸騒ぎがして足首の傷口を見てみると、膿んで赤く炎症を起こしていたのです。
いつごろからこのような症状があるのか聞いたら、2~3日前程とのこと。それまでどのようにして過ごしていたのか聞くと、氷枕を借りて冷やしていたと話してくれました。その当時は夏場だったため、氷枕を渡した看護師も暑さが原因と思っていたのでしょう。誰も、足の傷が痛んでいて、そこを冷やすためだと気づかず渡していたことを知らされました。
Aはお風呂もトイレも自立しており退院日も決まっていたことから、私たち看護師はAに対して過信していました。それが一番の原因ですが、なぜAは最初から傷のことを打ち明けなかったのでしょうか? それに関して、Aには以下の思いがあったといいます。
A「せっかく手術してくれた先生や良くしてくれている看護師さんたちに迷惑を掛けたくなかった。だからなかなか言い出せなかった」
Aは、自分が苦しみたくないということよりも、医師や私たちへの感謝の思いの方が大きかったことから、結果的に最悪の自体になってしまったのです。膿んでいるところの浸出液を調べたところ、感染症にかかっていることがわかり、せっかく退院日も決まっていたのに白紙に戻ることになりました。
患者の中には、Aのように感謝の気持ちがとても大きく、これ以上迷惑かけられない、一刻も早く退院しなければいけないと思っている患者も少なくありません。さらに、このような患者は我慢強くなかなか本心を打ち明けてくれないことからも、判断が遅れてしまったりAのように最悪の自体になったりしかねません。
ですので、日頃からなかなか本音を打ち明けてくれない患者に対しては特に、こちらからのアプローチや観察が重要になってきます。
申し訳なさ
上記の感謝の気持ち同様に抱いている本音が、この「申し訳なさ」です。医療現場では、重症である患者や不穏が強く危険行動の多い患者を自然と特別視してしまいますが、私たちがそのように特別視できるのは、他の患者の配慮があってこそだということに気づいていない医師や看護師が非常に多いです。
私はある日、人手が足りず本来なら主に助手が担当しているシャワー浴を手伝うことになりました。そのとき、1~2回程度しか受け持ったことのないほぼ自立している患者Aを介助することになりました。
Aは、右肩の手術をしていて最近やっと自分で頭を洗えるようになったと助手から報告を受けました。私が介助に入ったときは調子が悪かったのか痛みがひどかったようで、「申し訳ないんですけど頭と背中を洗っていただいてもいいですか? 後は自分で洗いますので」とAに言われました。重症の患者や不穏の患者の介助に比べたら頭と背中を洗うことなんてなんてことないと思っていたので、「申し訳ないなんてとんでもないです。他にもできないところがあればいくらでもおっしゃってくださいね」と私が言うと、「ここの看護師さんたちは忙しいのにみんな優しくて本当にありがたいです」と言ってくださいました。
そのころは、重症患者や不穏の患者が多く意思疎通もままならない方ばかりと接する毎日で、精神的にへとへとだったこともあり、思いがけないAからの言葉にいつの間にか他の患者に気を遣わせていたことに気づかされたのです。シャワーが終わった後も、「とっても気持ちよかったです。ありがとうございました」とA。私たちからすれば処置などに比べれば体を洗うことなんて朝飯前のように感じますが、患者からすればそのことを頼むこと自体申し訳ないと思っており、さらに実際にやってもらうとなるとどれだけ助かることなのかということを、Aの言葉から感じることができました。
Aのように申し訳ないという思いでいっぱいで、医師だけでなく看護師である私たちにですら本音を言えない患者も非常に多いのが現実です。そのような患者はとても腰が低く、自分のことは自分でやらないといけないと強い責任感を感じている方も少なくありません。
このような方で、実は数日前に転んでいたけど言えずにいたといった話をよく聞きます。大きな事故に繋がる前に、こちらから積極的にコミュニケーションをとることが重要になってきます。
寄り添う姿勢を感じない
医療現場の慢性的な人手不足も非常に大きく関係していることですが、医師も看護師もギリギリの人員でやっている現場がほとんどなのが現状です。私の働いていた病院では、医師が少なく一人ひとりが多忙であることから、回診の時間がその日に決まることもしょっちゅうでした。
9時に来るときもあれば11時に来るときもあるなど、時間が固定されていないと患者から何度もクレームがあったし、リハビリやお風呂などと重なり、全然医師と会うことができないといった声もありました。
忙しさもあって、用件だけを言って立ち去る医師や、患者の話もろくに聞かず「特に変わったことはないですか? いつもの薬を出しときますね。ではリハビリ頑張ってください」という風に一方的に話して終わる医師もいました。
ですが、高齢の患者になるとそうもいかず、「●●が痛む」「××の薬がほしい」といった要望を言われることがよくあります。そのような患者に対して、「様子を見てみましょう。それでも変わらないようでしたら看護師に言ってください」など最終的に看護師にスライドさせる医師に対して、患者は「この先生は患者に寄り添ってくれない」といった不信感を抱き、本音すら言おうと思わなくなってしまうのです。
患者はまず身近である看護師に相談します、相談された看護師は、自分だけの判断では難しい内容だった場合、医師に相談するように伝えます。その結果、上記のような対応を医師からされてしまうと、医師だけでなく看護師のことも信用できなくなり、病院全体の評判にも繋がります。
実際、このような噂は自分が働いている病院以外で耳にしたことが何度もありますし、身内からも聞いたことがあります。医師だけでなく病院全体の評判を下げないためにも、患者に対して寄り添う姿勢は重要だと感じました。
患者の本音
ここまでは、患者が医師へ本音が言えない原因についてご紹介しましたが、次は、実際に患者はどのような本音を抱いているのかご紹介します。
こちらの思いは本当に医師まで届いているのか
看護師は患者から「●●が痛いんだけど」「××の薬がほしいんだけど」などの相談を受けることがあります。正直、医師に直接言ってほしいところですが、医師も多忙のため頻繁に病棟に来ることができるわけでもありません。
「先生に直接言っていただけますか?」と言いたいところですが、クレームに繋がりかねませんので、とりあえず緊急性がないものの場合は、「先生に伝えておきますね」と言うようにしている看護師がほとんどです。ですが、それから何日経っても先生からの返答がなかったり薬が処方されなかったりすると、「私の話は本当に先生まで届いているのかしら」という疑問が湧いてくるのも仕方がありません。
これは、医療現場においてどうにかしなければいけない問題の一つであるという風に私自身感じています。私たち看護師や医師が「緊急性がない」と判断しても、患者自身にとっては緊急性のあるものだから私たちに伝えているのであって、それを勝手にこちらが判断するのは間違っているように思います。
このような患者の本音に対して取れる対応策としては、
- きちんと医師に報告した旨を伝える
- 今すぐに返答できない場合はできるだけ期日を決めて再度報告するようにする
このように誠心誠意患者と向き合っていますよという姿勢を見せる必要があると思いました。
退院のタイミングは患者から?
もうひとつ、よく患者から聞かれることが、「私っていつになったら退院できるの?」です。「私からも先生に伝えておきますけど、先生がいらっしゃった時直接お話しされてみてください」というと、だいたい医師からは「じゃあ明後日で」「今週中で」と具体的な返事が返ってきます。
患者には、「そんなすぐに退院できるならどうしてもっと早く先生のほうから言ってくれないの?」と思われても仕方ありません。こういったケースで過去にクレームを受けたことがあります。「病院側からいつまでたっても退院の話はなく、母(患者)から申し出るとすぐに退院できたなんておかしくないですか? 入院費を取るために無駄に入院期間を長くしているのですか?」と患者の家族から言われたことがあり、正直そう思われても仕方ないと感じました。
もちろん、医師はその患者のことを忘れていたわけでも入院費を取ろうとしたわけでもありません。だからこそ、退院できそうになったときは速やかに退院日を設定することも需要になってくるのです。
なんでぜんぜん病棟に来ないの?
過去に経験した話ですが、4人部屋のうち3人の患者は同じ担当医師で、残りの1人だけは別の担当医ということがありました。1人の主治医Aは、リハビリや検査などでその患者が不在のときなども含め、その患者に会えるまで毎日足しげく通い、何でもない会話を数分して帰っていくような医師でした。
反対に、他の3人の医師は術後と退院前に少し顔を出したくらいでその他はほとんど顔を見せに来ることはありませんでした。足しげく通うAの姿を目にしていることもあり、3人は、「同じ病院の先生なのにこうも忙しさが違うの?」と次第に不信感を抱くようになり、患者の間で「あの先生ほとんど顔も出さないし来たときと帰るときだけ良い顔するのよ」のような噂が、病院内だけでなく外部にもすぐに広まったのです。
以降、その医師は曜日を決めて病棟にやってくるようになりましたが、噂とは怖いもので、最近来た患者までもがその噂を知っており、結局、その先生は他の病棟に移動になってしまいました。このように、ただ顔を見せてほしい、何でもない話をしてもらって安心したいというのも本音の1つなのです。
まとめ
現場で見ていて思うことですが、患者が医師に対して本音を言えるまで関係性を深めることはハードルが高いように思えます。決められた入院生活の中で、数える程度しか医師に会うことはできないのが現状なのに、その僅かな中で本音を伝えるのは難しいように感じます。ですので、患者の本音を聞き出せるように、日頃からコミュニケーションを意識的にとったり情報収集したりと方法はいくらでもあると思いますので、業務に支障がない程度で自分なりに考え実践してみていただきたいと思います。
コロナ禍の現在、どの病院も人員不足ですし、退院調整で苦戦しているところがほとんどではないでしょうか。こういったことを少しでも軽減するためにも、いち早く患者の本音を聞き出し、スタッフや患者家族と連携しよりよい医療現場を作っていくことも今後重要になってくるのではないかと思いました。
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この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。