クリニックの福利厚生にはどんなことが求められる?

クリニック開業に向けてよりよい人材を採用していきたいなら、福利厚生を充実させることが鉄則です。

働き手が納得できる条件でなければ、求職者から選んでもらいづらくなりますし、引く手あまたな人材ほど、より条件のいい医療機関を選ぶでしょう。

では、自院の福利厚生を決める際には、どんな点に気を付けたらいいのでしょうか? 具体的にみていきましょう。

なぜ福利厚生が重要なのか

まずは、なぜ福利厚生が重要なのかを今一度考えてみましょう。

福利厚生の定義は、一般的に「雇用主が、従業員およびその家族の健康や生活の福祉を向上させるために導入する諸施策」とされています。

具体的には、雇用保険や労災保険などの各種保険もあれば、業務用PC貸与をはじめ、従業員が働きやすい環境を作る目的で用意されているものもあります。

なぜそのような制度や環境を充実させる必要があるのか? についてですが、高度経済成長期とその後のバブル経済期には当たり前だった「終身雇用」が当たり前ではなくなってきたから、という時代背景があります。

つまり、雇用側は「従業員から選んでもらえるための対策を講じること」が必要になってきたのです。

福利厚生が充実していると、従業員が家族の健康を守りながら安心して仕事できるため、職場を離れにくくなります。

このことは、一般企業にとっても医療機関にとっても共通していえること。優秀な人材から選んでもらい、長く勤めてもらうためには、どんなふうに福利厚生が整っていることが理想であるかを考えることが重要です。

福利厚生の種類は?

福利厚生は大きく分けて2種類あります。

社会保険への加入をはじめとする法律で定められた「法定福利」と、住居補助など経営者側が任意で定める「法定外福利」です。

「法定福利厚生」とは?

法定福利厚生は、雇用主が費用を負担して従業員に提供しなければならないことが、法律によって定められているもの。

具体的には、

  • 雇用保険
  • 健康保険(または国民健康保険 )
  • 介護保険
  • 労災保険
  • 厚生年金保険(または国民年金 )
  • 「子ども・子育て拠出金」

などが該当します。

「法定外福利厚生」

法定外福利厚生を用意するかどうかは雇用主次第。

たとえば、住宅手当、通勤にかかる交通費、人間ドックの受診料、退職金、企業型確定拠出年金などが当てはまります。

また、スポーツクラブの利用割引、飲み物飲み放題などの独自の福利厚生を用意している企業もあります。

クリニックの社会保険と一般企業の社会保険との違い

クリニックの社会保険は、一般企業とは一部異なる部分があります。

まず、医療法人化しているクリニックの場合、健康保険および厚生年金保険の加入が義務付けられています。

また、医療法人化されていない個人クリニックであっても、常時5人以上の従業員を雇用している場合、社会保険への加入が義務付けられています。

一方従業員が5人以下である場合は、国民健康保険および国民年金への加入となります。ただし、従業員が5人未満の個人クリニックであっても、従業員の同意があれば「任意適用事業所」として社会保険に加入できます

とはいえ、従業員を雇うことでかかる社会保険の保険料は、雇用者が全額あるいは一部を払うことになるため、クリニックにとってはかなりの負担。

実際は、多くの個人クリニックが社会保険には未加入のままであるようです。

求職者からニーズが高い「法定外福利厚生」

続いては、求職者からのニーズが高い「法定外福利厚生」についてみていきます。

1. 住宅手当や家賃補助

独身寮の用意や家賃の半額負担などは、求職者からするとメリットが大きいです。生活費のなかで家賃の占める割合は大きいため、住宅手当や家賃補助があると生活に余裕が生まれます。

求職者としては、「住宅手当があるならここにしよう!」と決め手になりやすいです。

2. 短時間勤務

育児や介護などの家庭の事情があって、どうしても一般的な雇用時間である8時間勤務が難しいという人は多いはず。

そのため、時短採用があるクリニックは必然的に求職者にとって就職先候補上位に入りやすくなるでしょう。

3. 保育施設利用補助

育児中の従業員にとってありがたい福利厚生のひとつが、保育施設の利用料補助です。また、最近では、院内に保育施設を設ける病院も増えています。

個人経営のクリニックにとってはなかなかハードルが高いかもしれませんが、将来的にクリニックの規模を大きくしたいと考えているなら、そうした世の中の動きも把握しておくといいでしょう。

4. 学会・研修補助

従業員の知識や技術の研鑽のためにも、学会や研修会への出席は応援したいところ。

学会や研修は日本各地で開催されるため、交通費の補助があれば、従業員のモチベーション維持にも役立つでしょう。

5. 退職金

退職金制度を用意しておくと、「定年を迎えるまでこのクリニックで働こう」と思ってもらいやすくなります。

「老後は2,000万円必要」と言われている時代だからこそ、金銭面での不安が少しでも緩和される制度は魅力が大きいのです。

6. 医療費補助、人間ドック費用補助

勤務先のクリニックを受診すれば医療費の一部が還付されるなどの制度があれば、子どもがいる従業員などは安心です。加えて、人間ドックの費用負担もあれば、さらに魅力的だと思ってもらえるでしょう。

クリニックの設備によっては、各種検診を自院でもおこなえるでしょうし、自院とは異なる診療科のがん検診などは、地域の検診センターで受けてもらって費用を負担するというのも一手です。

7. スポーツクラブの利用割引

健康維持のためにも、適度な運動は続けたいもの。

その費用の一部をクリニック側が負担してくれるとなると、従業員も日ごろから気軽に身体を動かすことができるので、ストレスも軽減されて毎日気持ちよく働けます。

8. 充電自由

スマホの充電であれば、フル充電1回0.4円弱とされているので、30日使ってもたったの12円。スタッフが5人いても100円にも満たないため、福利厚生にはカウントされないレベルです。

もっとも先進的な企業のなかには、電気自動車(EV)をスタッフに貸し出してその充電も福利厚生としている企業もあります。

さすがにクリニックでそのレベルの福利厚生は現実的ではありませんが、「職場で充電できる=生活費を節約できる」との思考が働くのか、スマホ充電OKというレベルでも「ありがたい」と感じる人も一定数いるようです。

9. おしゃれの許容範囲が広い

カジュアルな洋服を含めて服装自由の場合、それを福利厚生のひとつとしてアピールする企業もありますが、クリニックでは服装を福利厚生にカウントすることはできません。

ただし、ある程度のおしゃれを楽しめたほうが気持ちに張り合いがでるという人はいます。

ロングヘアを束ねないことや、つけ爪、ゴテゴテしたアクセサリーなどは問題外ですが、ナチュラルメイクで誰がみても清潔感があると感じられる範囲でならおしゃれを楽しめるような規定にすると、働き手からも選んでもらいやすくなる可能性が高いでしょう。

クリニックに福利厚生を導入するメリット

福利厚生を導入するメリットは、クリニックにとっても大きいです。具体的にどんなメリットがあるのか見ていきましょう。

1. いい人材が集まりやすくなる

「これだけの福利厚生が整っているクリニックで働くチャンスは逃したくない!」と思ってもらいやすいため、採用力が向上します。

2. 従業員の満足度に伴う生産性の向上

従業員が雇用条件に満足していると、ストレスフリーで毎日気持ちよく働けるので、生産性も上がることが考えられます。

3. クリニックの社会的信頼性の向上

従業員がいつも笑顔でキビキビと働いていたら、それを見た患者からの評価も上がります。それによって、よい口コミが増えることも考えられます。

4. 節税効果が見込める

福利厚生にかかった費用がきちんと条件を満たしていて「福利厚生費」と認められれば、経費として計上ができます。

そうなれば、法人税の算出根拠となる利益を下げられるため、法人税が安くなります

ちなみに、福利厚生にかかった費用を「福利厚生費」と認めてもらうためには、「従業員全体が対象となっていること」「社内規定が整備されていること」「支出金額が社会通念上妥当な範囲であること」の3つの条件を満たしている必要があります。

また、採用力が向上してスタッフが定着しやすくなることで、採用にかかる費用がかかりにくくなるというのも大きなメリットでしょう。

福利厚生を充実させデメリット

福利厚生を充実させるデメリットは、なんといっても費用負担管理負担がかかることでしょう。

ある程度であればクリニックにとってもさほど負担ではないにしても、種類を増やしたり範囲を広げたりし過ぎると、費用の負担も管理も大変になります。

また、「もっと福利厚生を充実してほしい」と具体的に盛り込んでほしいことが従業員から提示された場合、なかには応えられないものもあるので、「あの人の要望はきいていたのにわたしはきいてもらえなかった。不公平だ」との声が上がることも考えられます。

もしくは、家庭がある人にメリットが大きい福利厚生など、そもそも一部の人向けのものもあるので、すべての従業員に満足してもらうための工夫を考えることも大切です。

コロナ禍において、福利厚生に関しておさらいしておきたいこと

コロナ禍に福利厚生に加わったことのひとつにPCR検査がありますが、陽性だった場合の治療費も福利厚生に入るのか?についてですが……。

まず、患者対応が原因で勤務中に感染した場合は労災の適用となり、「法定内福利厚生」に該当します。一方、プライベートなどで自分の不注意で感染した場合は自己負担となるケースがほとんどでしょう。

福利厚生は長期的な視野で考えて

従業員にとってのメリット、自院にとってのメリットを踏まえたうえで考えても、「今はまだそこまでの資金捻出は難しい……」と二の足を踏んでしまうクリニックもあるかもしれません。

しかし、生産性向上や社会的信頼性向上に目を向けると、長期的には自院にとってのメリットがとても大きいことはわかるでしょう。

最初のうちは最低限の福利厚生しか用意できなかったとしても、少しずつ内容を変えていくのも一手。従業員と一緒に成長できるクリニックを目指してはいかがでしょうか。

自分一人で決めかねてしまう場合は、外部のプロに相談するのも一つの手です。

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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