社会保険や国民健康保険へレセプト(診療報酬明細書)請求を行った際、記載内容に対して不備や誤りがあった場合に差し戻されることを「レセプト返戻(へんれい)」と言います。
修正すれば再請求が可能ですが、報酬の受け取りが1カ月以上遅れます。経営上の負担になることや、保険者からの信用低下にもつながることもあり、レセプト返戻はなるべく発生しないようにしたいのはすべての医師に共通の思いなのかも……。
今回は、レセプト返戻された場合の再請求プロセスについて、改めてご紹介します。
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レセプト返戻とレセプト査定
先ほども書いたように、提出したレセプトの記載項目の不備や不明点からレセプトが差し戻されることを「レセプト返戻」といいます。
これに対し、提出したレセプトの項目について審査側が不適切と判断し報酬の請求自体を認めないことや、減点した上での報酬の支払いをすることを「レセプト査定」といいます。
一方的に減点された上に報酬が減額されて支払われるため、再請求もできず、レセプト返戻よりも厳しい処置となります。なお、査定に納得いかない場合には再審査を申し出ることも可能です。
レセプトが返戻されるケース
レセプト返戻には多種多様なケースがあります。
保険証が有効でなかった
まず、被保険者側の要因としては、
- 保険証が古かった
- 保険証の給付期間が終了している
- 氏名、性別、生年月日の誤り
などが挙げられます。
同一月に同一負傷名で複数の医療機関を受診している
患者が同一月に、同一負傷名で複数の医療機関を受診した場合に医科の請求が優先され、その他の診療所では重複請求扱いと見なされレセプト返戻となるケースもあります。
患者さんは医師の管理下にあると判断され、同一期間中に整体師などが施術を行っても、支払いは自費治療の扱いとなることがあるため注意が必要です。
施術内容が症状に合っていない
施術内容が症状に対応したものでなければ、適切な処置として認められません。
たとえば、皮膚のかゆみを訴える患者を「湿疹」と診断して合成副腎皮質ホルモン剤を処方したところ、「湿疹には適応がない」との理由で返戻があったという例があります。
診療報酬点数が誤っている
診療報酬点数は診療報酬改定で変わることがあるので、電子カルテなどを導入しておらず手動で計算していると間違いが多くなりやすいでしょう。
レセプト返戻を実施する機関の違いに注意
レセプト返戻を実施するのは「社会保険診療報酬支払基金」(社保)と「国民健康保険団体連合会」(国保)の2つの機関に分かれています。
レセプト請求および再請求を行う際の請求先の違いで記入用紙にも違いがあります。誤った実施機関に請求をしないように注意しましょう。
また、それぞれの機関から送られてくる書類は以下の通りです。
増減点連絡書(社会保険診療報酬支払基金)
提出されたレセプトを点検・審査した結果、請求点数に増減があることが確認された場合に送られてくる書類です。増減点数および請求内容、補正・査定後の内容について明記されています。
返戻内訳書(社会保険診療報酬支払基金)
提出されたレセプトを点検・審査した結果、レセプトの内容に確認が必要な場合に送られてくる書類です。
増減点返戻通知書(国民健康保険団体連合会)
提出されたレセプトを点検・審査した結果、請求点数に増減があることが確認された場合、レセプトの内容に確認が必要な場合に送られてくる書類です。返戻の原因となった箇所や事由が記されています。
※この他にも、「再審査支払調整額通知票」「再審査結果連絡書」などの書類が存在します。
レセプト再請求の流れは以下のようになっています。
- 審査が適当でない場合など、審査支払機関からレセプト返戻が行われる
- 内容の不備や間違いを確認し修正を行う
- レセプトを再請求する
返戻レセプトの再請求方法と有効期限
レセプトの請求方法は、紙レセプトと電子レセプトの2種類が存在します。
紙レセプトの場合
返戻された写しをそのまま使用して、必要に応じて追記や修正を行います。
具体的には、訂正したい内容を「取消」として記し、正しい内容を「報告」として記します。また、やむを得ず新たに作成し直す場合には、元のレセプトの添付が必要となります。
電子レセプトの場合
CSV形式でダウンロードしたレセプトデータをレセプトコンピューター(レセコン)に登録して、オンラインで再請求します。
なお、オンラインで提出できない場合にはFD、MO、CD-Rでの提出も認められています。その際のラベル記載方法や送付書のテンプレートは各機関のWebサイトに公開されています。
レセプトの再請求には期限があります。
健康保険法第193条には「保険料等を徴収し、またはその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅する」と定義されています。
受診した患者さんが料金を支払った日から起算して2年以内に再請求を行う必要があります。
参照・引用元:「e-GOV」「健康保険法(大正十一年法律第七十号)」第百九十三条
レセプト返戻されないためには…
レセプト返戻を防ぐためには、なんといってもレセプトをしっかりチェックすることが不可欠です。具体的には以下の順序でチェックすることになります。
入力データに間違いがないか確認する
レセプトは、基本的には、毎日入力しているデータをもとにコンピューターが自動生成してくれますが、そのデータ自体が間違っているとレセプトにも誤りが生じます。
そのため、まずはデータが正しいかどうかを確認することが必要です。
入力データに漏れがないか確認する
診療報酬は、各医療行為に対して設定されている点数によって決定します。
点数をカウントしていない診療行為があればレセプト返戻につながることになるので、すべての診療行為を拾えているかどうかの確認は重要です。
病名と施術内容が対応しているかどうか確認する
「レセプトが返戻されるケース」でも説明した通り、病名と診療内容に整合性がないことはレセプト返戻の対象となります。
診療報酬点を稼ぐために故意に操作することが厳禁であるのはもちろん、誤申告の場合も返戻となります。
ドクターによる確認をとる
入力データの間違いや漏れがないかどうかは医療事務が確認できますが、実際にそれぞれの診療を行ったかどうかがわかるのはドクターのみ。
そのため、最終的にはドクターの確認が不可欠となります。
必要に応じて修正する
ドクターが確認した結果、修正が必要だとの判断であれば修正します。修正後は、再度ドクターに確認してもらうことも必要です。
「ドクターによる確認・再確認」は本人にしかできませんが、それ以前の工程は事務または医療事務が担当するクリニックが多いでしょう。
しかし、レセプト点検は相当数のデータを確認することが必要なため、繁忙期などはスタッフが連日残業を免れなくなることも。
場合によっては翌日の診療に影響が出ることもあるので、必要に応じてレセプト点検は業者にお願いすることを検討してもいいかもしれません。
自院のスタッフの資格取得をサポートするのも一手
レセプト点検を外注することに抵抗を感じるなら、自院のスタッフの資格取得をサポートして、資格取得によって得た知識やスキルをクリニックに還元してもらうのもよい方法。
具体的には、以下のような資格があれば、レセプト点検がスムーズにいきやすいでしょう。
レセプト点検業務技能検定試験
レセプト点検に特化したこちらの試験は、認定講座の受講後に受験することが可能です。
自院のスタッフの受験サポートにあたっては、勤務時間が講座受講の時間にかぶらないよう配慮することが必要でしょう。
診療報酬請求事務能力認定試験
医療事務資格のなかで最難関と言われている試験です。
実技試験では実際にレセプトを書き上げることが必要なので、この試験に合格しているスタッフであれば、安心してレセプト作成を任せられそうです。
医療事務管理士(R)技能認定試験
診療報酬請求事務能力認定試験チャレンジの前段階でのチャレンジにうってつけ。合格すれば、レセプトの点検に関して一人前のスキルがあるといえるでしょう。
医療事務技能士認定試験
試験合格を目指して勉強することで、診療報酬の基礎が身に着きます。
メディカルクラーク(R)
レセプト点検や修正能力を図るための、医療事務の基礎資格です。取得を目指して勉強することで、レセプト作成以外のスキルも身につきます。
医療事務認定実務者(R)試験
レセプト作成の基本に加えて、医療事務の基礎知識も求められるため、これから医療事務の資格を取得したいと考えているスタッフにもうってつけ。
未経験者を事務スタッフとして雇う場合、採用と同時に資格取得に向けて勉強してもらうのもいいでしょう。
レセプト返戻の放置は絶対NG!
レセプト返戻への再請求処理は、手続きが面倒として、少額な場合などに処理を行わず放置してしまう医師・クリニック院長もいます。
返戻を放置した場合、保険者からの信用が下がるだけではなく、厚生労働省からの指導や監査が入る可能性もあります。
返戻された場合には必ず速やかに再請求を行い、再発せぬように対策を講じましょう。
この記事は、2021年6月時点の情報を元に作成しています。