これから開業を考えている医師は、後継ぎのことまではなかなか頭が回っていないかもしれません。自分の開業もまだなのに跡継ぎのことまで考えているとなると気が早いようにも思えるかもしれませんが、せっかく開業したクリニックが、自分の代で終わってしまうのは残念ですよね。しかも、患者目線でみても、いつか閉院する日が訪れるかもしれないのは困ることでしょう。閉院への道を辿らないためにはどんな手があるのか、早いうちになんとなく知っておいてはいかがでしょうか? そこで今回は、開業医が考えるべき跡継ぎ問題について紹介していきます。
跡継ぎは子どもがするもの?
開業医の跡継ぎとなるのは、開業医の子どもである場合が多いかもしれません。実際、代々医者という家系も少なくはありません。しかし近年、晩婚化や少子高齢化などの社会的背景によって、クリニックの跡継ぎがいないケースが増えています。もちろん、子どもはいるけれど、その子が医療の道へは進まなかったということもあるでしょう。そうしたケースにおいて閉院しないためにはどんな方法があるかというと、第三者に跡を継いでもらうという手があります。
後継者不足は社会問題となっている
政府の統計調査によって、2013年から2015年の間に休廃業・解散した中小企業のうち実に半数以上が、黒字であるにも関わらず事業継続を断念する「黒字廃業」余儀なくされていることがわかっています。その主たる理由のうちのひとつが、後継者不足であると見られています。これは医療分野にも当てはまることで、とりわけ99庄以下の小規模病院の減少は著しく、有床診療所の数はこの20年で激減しています。医療機関の場合、経営者は医師の資格を有していなければならないことから、他の業界と比べて後継者確保が難しいことが大きな原因といえるでしょう。
参照:日医総研ワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」5ページ目、6ページ目より一部参照
診療所の廃止・休止施設数推移
年 | 1996年 | 1999年 | 2002年 | 2005年 | 2008年 | 2011年 | 2014年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
廃止施設数 | 3,445件 | 3.613件 | 3,855件 | 4,698件 | 4,941件 | 4,450件 | 6,730件 |
休止施設数 | 829件 | 789件 | 981件 | 1,017件 | 1,030件 | 1,011件 | 947件 |
では、実際のところ、診療所の廃止・休止施設数はどういった推移を辿っているのでしょうか? 1996年以降の推移をみてみると、1996年から2014年にかけての20年間で、廃止施設数は約2倍近く増えていることがわかりました。
診療所の廃止・休止施設推移数
参照:日医総研ワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」14ページ目より一部参照
また、現在、開業医としてクリニックを営んでいる医師のうち、既に後継者を決めている医師を対象にとったアンケートでは、後継者の属性が「親族以外」との回答の割合は、診療所では12.4%、病院では35.3%にのぼりました。
参照:日医総研ワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」18ページ目より一部参照
クリニックを継承してくれる医師はどうやって探せばいい?
子どもや親族以外で跡継ぎを探す場合の有力な跡継ぎ候補は、現在、クリニックで一緒に働いている勤務医です。なにより、クリニックのことをよく知っているので、安心できるでしょう。また、信頼できる従業員に継承するケースも多いです。ただし、トラブルに見舞われるリスクがゼロというわけではないので、十分に考慮することが必要です。
自分の周りに継承してくれる人が見つからなかった場合は?
一緒に働いている勤務医などに継承の意思がない場合、M&Aという選択肢をとることもできます。M&Aを選択することで得られるメリットはたくさんあります。まず、プロに任せることができるので精神的負担が減ります。さらに、閉院にかかるコストが不要となり、クリニックの譲渡益や営業権も得られることとなるため、心が軽くなることでしょう。
閉院したり、後継ぎ問題でゴタゴタしたりすることがないことから、地域住民からの信頼を失わずに済むことも大きなメリットでしょう。ただし、継承を希望する側とのマッチングがうまくいかない場合や、希望のタイミングで継承することができない場合などがあるので、デメリットも理解したうえで、M&Aの手続きを進められるといいですね。
円滑な事業継承のために必要な3つの要素とは?
続いては、事業継承をスムーズにおこなうために必要な3つの要素について説明します。
1. 情報
クリニックの経営状況を表す資料を用意することが大切です。地域での役割、相続する際の税金やリスクに関しての注意、法人の価値をお金に換算したらどのくらいになるか、などの指標もあるといいでしょう。
2. タイミング
承継する側にとって必要なことは、「早めの検討」と「慎重な決断」です。これを後押しできるよう、先方が決断した際にはこちらもすぐに動けるようにしておきましょう。
3. 相談相手
M&Aを決めたら、基本的には手続きなどは専門家に任せることになります。その際、不安なことやわからないことがあれば逐一相談しましょう。
自分が第三者のクリニックの跡継ぎとなりたい場合は?
これから開業したいと考えている医師のなかには、自分自身が後継ぎとなる道を模索している人もいるでしょう。クリニックを承継すると、「初期費用削減」「事業の見通しが立ちやすい」「患者さんを引き継ぐことができる」などのメリットがあるため、開業に失敗しにくいためです。
そこで続いては、クリニック承継の流れについて説明します。
1. 開業希望地や開業希望時期、診療コンセプトなどを決める
承継に限ったことではありませんが、開業医として始動するにあたっては、どのエリアでいつごろ、どんな特徴のクリニックをはじめたいかを決めることが大切。イメージを明確にしておけば、理想の案件が出てきたときにマッチングしやすいものです。
2. 専門家に相談する
承継先のクリニックを自分で見つけようと思うと大変です。専門家に相談すれば、複数のクリニックを提案してもらえるので、比較検討することができます。
3. 秘密保持契約書、仲介契約書を締結する
「秘密保持契約」とは、承継者から預かる個人情報や承継クリニックとの交渉過程で知り得た機密情報を第三者に開示しないことを定めた契約のこと。「仲介契約書」とは、間に入ってくれる専門家の業務内容、業務手数料や報酬体系などについて定めた契約書です。どちらも内容についてしっかりと確認することが大切。納得いかない箇所があるうちはサインしないように注意しましょう。
4. 承継クリニック候補先から選定する
希望条件に合った承継先を紹介してもらいます。基本的には、承継してくれる人を探しているクリニックの名前や詳細な財務情報などは開示されていない【ノンネーム】という状態で候補先を提示されるので、気になる承継先の詳細を知りたい場合は、詳細情報開示の承諾をとることになります。詳細情報開示の承諾をとることを【ネームクリア】といいますが、ネームクリアは複数のクリニックに対して同時におこなうことができます。
5. 承継先候補の内見、院長との面談をおこなう
ネームクリアの結果、気になるものがあれば、内見および院長との面談へと進みます。この段階でも「候補先」でしかないので、気になることがあれば遠慮せずどんどん聞いていきましょう。クリニック内の雰囲気や医療機器を確認すると同時に、院長がどんな診療をおこなっているのかも確認できれば、自分の理想とするクリニックとしてふさわしい承継先かどうか判断しやすいです。
6. どのクリニックを承継するか決定する
内見や面談をおこなったなかから理想に合うものがあるかよく考えて、承継先を決めます。もちろん、理想的な承継先がない場合は、さらに時間をかけて探すなどするといいでしょう。
7. 承継先と条件を調整して基本合意書を締結する
希望の承継先が決定したら、承継元と承継条件を調整します。内観や医療機器の老朽化が進んでいた場合、買い替えが必要になることもありますが、この場合は譲渡対価を減額するなどの交渉を進めます。さらに、承継時期やスタッフ・契約関係の引き継ぎなども調整したら、双方が合意した内容を盛り込んだ「基本合意書」を締結します。基本合意書は、一般的には法的拘束力を有さないことは知っておくといいでしょう。
8. 買収監査を実施する
基本合意書締結後、「買収監査」を実施します。買収監査は、承継するクリニックにリスクがないか、財務情報の数字が適正であるかなどの調査です。ただし、絶対に調査しなくてはならないというわけではないので、クリニックの規模が小さい場合は、買収監査をおこなわない場合もあります。また、買収監査の結果、リスクや不正確な財務情報見つかった場合は、承継条件の最終調整をおこないます。
9. 最終譲渡契約書を締結する
双方が合意した内容を「最終譲渡契約書」に盛り込んで締結します。
10. 承継の対価を支払う
承継の対象となるクリニックの資産を承継して、対価を支払います。
11. 行政手続きを進める
「10」の支払いが完了しても承継手続きは完了していません。承継人は、承継クリニックの所在地を管轄する保健所に診療所開設届を提出して、保健所の検査を受ける必要があります。加えて、保険診療をおこなう場合は、厚生労働省所管の地方厚生局に保険診療医療機関の指定申請をおこなう必要があります。
承継にかかる費用の相場は?
最後に、クリニックの承継にかかる費用の相場をみていきましょう。クリニックの承継にかかる費用は、クリニックが立地するエリア、クリニックの大きさ、売り上げの規模などによっても異なるため一概には言えませんが、一般的には2,000万円から4,000万円程度を支払う場合が多いと考えてよいでしょう。
ただし、承継してくれる人を探しているクリニックの中には、「クリニックが存続するのであれば対価の支払いは不要」という考えのクリニックもあります。また、仲介業者が間に入っている場合は、譲渡の対価とは別に仲介手数料が必要となります。仲介手数料の相場は1割。つまり、対価が2,000万円から4,000万円だとすれば、200万円から400万円だと考えておいてよいでしょう。
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
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この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。