
電子カルテを使うクリニックは年々増えている印象がありますが、実際のところ、どのくらいの病院やクリニックが既に電子カルテを導入済なのでしょうか? 今回は、気になる電子カルテの普及率についてみていきます。
クリニックにおける電子カルテシステムの普及率は2025年時点で55%
厚生労働省が公表している「令和5年医療施設(静態・動態)調査」によると、2023(令和5)年10月時点でのクリニックにおける電子カルテ普及率は55%です。内訳としては、「診療所全体で診療録を電子化している」が43.3%、「診療所内の一部で診療録を電子化している」が11.7%であるため、紙カルテと併用しているクリニックもあると推測されますが、いずれにしても、2020年時点では50%に達していなかった普及率が約5%も伸びていることになります。
残りの45%のクリニックのなかには、「今後、診療録を電子化する予定はない」と回答しているクリニックも多く存在しますが、これらのクリニックも承継を考える可能性があることや、これから新規開業するクリニックが出てくることを考えると、55%という数字からさらに伸びる可能性は非常に高いと考えられます。
≪一般診療所における電子カルテシステムの普及率推移≫
平成20年(2008年) | 14.7% |
平成23年(2011年) | 21.2% |
平成26年(2014年) | 35.0% |
平成29年(2017年) | 41.6% |
令和2年(2020年) | 49.9% |
令和5年(2023年) | 55.0% |
病床規模別に比較するとクリニックの電子カルテ普及率は高くはない
なお、2023(令和5)年時点でクリニックの電子カルテ普及率は55.0%に達しているとはいえ、有床の病院と比べると普及率が高いとはいえません。平成20年から令和2年にかけての、病床規模別の電子カルテシステムと普及状況の推移は次の表の通りです。
一般病院 | 病床規模別 | 一般診療所 | |||
400床以上 | 200~399床 | 200床未満 | |||
平成20年(2008年) | 14.2% | 38.8% | 22.7% | 8.9% | 14.7% |
平成23年(2011年) | 21.9% | 57.3% | 33.4% | 14.4% | 21.2% |
平成26年(2014年) | 34.2% | 77.5% | 50.9% | 24.4% | 35.0% |
平成29年(2017年) | 46.7% | 85.4% | 64.9% | 37.0% | 41.6% |
令和2年(2020年) | 57.2% | 91.2% | 74.8% | 48.8% | 49.9% |
海外と比べて日本の電子カルテ普及率は高い?低い?
2008年以降、普及率は右肩上がりとはいえ、41.6%という数字は海外と比べると決して高いとは言えません。
厚生労働省が2019(平成31)年に公表している「諸外国における医療情報の標準化動向調査」の結果によると、アメリカ、スウェーデン、イギリス、シンガポールにおける電子カルテ普及率は以下の通りです。
普及率 | アメリカ | スウェーデン | イギリス | シンガポール |
---|---|---|---|---|
一般病院における電子カルテ | 85-100% | 90% | 99% | 100% |
クリニックにおける電子カルテ | 80% | 90% | 99% | 80% |
続いて、これらの国がどんな目的で電子カルテを活用しているかをみていきます。
まず、アメリカは、患者が受ける医療の質向上、障碍者手当の正当な配給、公衆衛生に関わる報告活動の円滑化を進めているほか、重複検査の排除や医療行為の効率化を通じたコスト削減に力をいれています。
スウェーデンは、プライマリーケアの役割強化と地域医療の実現を通じた費用対効果の向上、地域内における各コミューンとの医療情報連携促進、各種の主要な疾患領域における医学研究の促進などに積極的です。
イギリスは、医療行為のアウトカムを把握することで医療の質向上を目指したり、医療内医療行為の効率化を通じたコスト効率化も視野に入れたりと、アメリカ、スウェーデン同様、医療の質向上および医療の効率化に注力しています。
一方、シンガポールの活用目的は主として患者中心の医療および医療の効率化。医療従事者が最新の患者方法にアクセスして適切な判断を下せる環境を整えているほか、重複検査の排除、投薬ミスの低減、疾患ごとの管理などを通じて医療の質向上および医療費節約につなげることを目指しています。
参照: 厚生労働省「諸外国における医療情報の標準化動向調査」P.4~P.5より一部抜粋
なぜ日本では電子カルテの普及が遅れている?
日本は世界の中でも長らく「医療先進国」とされてきました。しかし、アメリカやスウェーデン、イギリス、シンガポールと比べてみたところ、かなり普及率が低いことがわかります。では、なぜこれらの国と比べて普及率が低いかというと、主に次の理由が考えられます。
紙カルテから電子カルテへの移行に手間がかかる
紙カルテから電子カルテへの移行が大変だと考える医療機関が多いからです。
どういった点が大変かというと、特に医師が高齢である場合などは、電子カルテの操作を覚えることが大変です。入力に時間がかかって患者を待たせる日々が続くようなら、クリニックの評価が大きく下がることも考えられます。
導入コストの高さ
初期費用が高額だということも理由のひとつ。電子カルテのメリットを考えると、高くてもそれだけの価値があると思う人もいるかもしれませんが、一方で長期的視野を持って物事を考えるのが苦手という人もいるかもしれません。
電子カルテが普及しない理由について、詳しくは下記の記事をご参照ください。
参照記事: 電子カルテが普及しない理由
電子カルテの種類と特徴
電子カルテは、オンプレミス型とクラウド型の大きく2種類にわけられます。それぞれのメリット、デメリットは次の通りです。
メリット | デメリット | |
オンプレミス型 | ・カスタム性が高い・セキュリティ面で安全性が高い・周辺システムと連携しやすい | ・初期費用が高い・使用する端末を選べない場合がある・院内でしか使用できない・メンテナンスにコストがかかる・停電時に使用できない・サーバ設置に場所をとる |
クラウド型 | ・初期費用を安く抑えられる・ランニングコストも安い・院外でも使用できる・スマートフォンやタブレットでも使える・システムが自動でアップデートされる・バックアップが用意である | ・カスタム性が低い・オフラインだと使用できない・オンプレミス型と比べて操作時の反応が遅い場合がある |
オンプレミス型
オンプレミス型は院内にサーバを設置するため、データ管理が容易です。サーバが院内にあることから、外部からアクセスされにくい点や、自院に合わせてカスタマイズしやすいというメリットもありますが、院内でしか使用できないという大きなデメリットがあります。
つまり、電子カルテに記載されたデータを必要とする仕事を自宅に持ち帰ることもできなければ、院内以外の場所からオンライン診療をおこなうこともできないということになります。
また、クラウド型のように自動で最新の状態にアップデートされることがありません。
クラウド型
クラウド型は、インターネットが使える環境であれば、院内以外でも使用できるため、オンライン診療や訪問診療に力を入れたいクリニックには適しているといえるでしょう。院外からのアクセスには、スマートフォンやタブレットを使います。
また、院内にサーバを設置しなくてよいため、設置場所を確保する必要がなく、初期費用も抑えられます。ただし、サーバ側のトラブルによって利用できなくなるリスクなどがあります。
サーバ設置が不要なぶん、初期費用が安いうえ、ランニングコストも安いのも大きなメリット。なかには、初期費用無料もランニングコストも無料で提供しているメーカーもあります。ただし、無料だと機能が限られているため、自院に必要な機能がしっかり備わっているかどうかは事前に確認することをおすすめします。
電子カルテ導入時の注意点・選定のポイント
続いては、電子カルテ導入時の注意点を解説していきます。電子カルテを導入する際の注意点および主な選定ポイントは次の通りです。
- 初期費用、ランニングコストを確認する
- 自院に導入しているまたは導入予定の医療機器と連携可能かどうか確認する
- レセコン一体型か分離型か
- 使いたい機能がついているか確認する
- 操作性のよさ
- 自院のパソコンに対応しているかどうか
- サポート体制、アフターフォローが万全であるかを確認する
それぞれ詳しくみていきましょう。
初期費用、ランニングコストを確認する
初期費用、ランニングコストはメーカーによってピンキリなので、予算内に収まるものを中心として候補を拾っていくと選びやすいでしょう。
自院に導入しているまたは導入予定の医療機器と連携可能かどうか確認する
電子カルテを導入する際は、院内のシステムや医療機器と連携可能であるかどうかは必須の確認ポイントです。なぜかというと、連携可能かどうかによって、業務効率化が大きく異なってくるためです。自院に導入している、または導入予定の医療機器と連携可能かどうかわからない場合は、必ずメーカーに問い合わせることをおすすめします。
なお、クリニックに関しては、診療予約システムやウェブ問診システム、オンライン診療システムなどと連携するのが一般的です。病院は、PACS(医療画像管理システム)や検査システムなどと連携させることによって、患者データを有効に活用することを目指します。
レセコン一体型か分離型か
レセコン一体型の電子カルテであれば、電子カルテを操作することで、領収書、診療明細書、処方箋まで発行できます。レセコン分離型の電子カルテの場合、自院のレセコンと連携可能であるかをまず確認して、導入時には連携させる必要があるのは手間ですが、後々電子カルテを買い替えることになっても、レセコンはそのまま使い続けることができます。
使いたい機能がついているか確認する
電子カルテの機能はメーカーによってさまざまです。そのため、使いたい機能がついているかどうかは必ず確認する必要があります。たとえば、オンライン診療を導入する予定があるなら、オンライン診療機能を有した電子カルテを選ぶのが得策ですし、経営分析を強化したいなら、経営分析ツールが備わっている電子カルテを選ぶことをおすすめします。
操作性のよさ
どのメーカーも操作性は追求していますが、操作ボタンの配置やちょっとした色味の違いによって、「断然AよりBのほうがいい」などと感じることは往々にしてあるので、操作性のよさを確認するためには、実際に触ってみることが一番です。
自院のパソコンに対応しているかどうか
電子カルテによっては、win/macのいずれかにしか対応していなかったり、スペックに条件があったりする場合があります。そのため、自院のパソコンに対応しているかどうかは必ずチェックすべきポイントですが、パソコンが古くて買い替え時を迎えている場合などは、電子カルテを先に決めて、それに合わせてパソコンを買い替えるのもいいかもしれません。
サポート体制・アフターフォローが万全であるかを確認する
故障や停電などで電子カルテが使えなくなったなど、万が一のときにすぐに対応してもらえるよう、サポート体制・アフターフォローが万全であるかどうかを確認することも極めて重要です。
また、クラウド型電子カルテの場合、随時アップデートされていくので、自院の要望もアップデートへの反映を検討してもらえるかなども確認するといいでしょう。
電子カルテの導入手順は?
続いては、電子カルテの導入手順を解説していきます。
電子カルテ導入の手順は次の通りです。
- 【本稼働の1年~半年前】導入する電子カルテを選ぶ
- 【半年~4か月前】デモの実施
- 【4か月~2か月前】契約・工事
- 【2か月前】マスターデータを登録する
- 【2か月~1か月前】操作方法を習得する
- 【本稼働の1週間前】試験運用する
- 本稼働
それぞれ詳しくみていきましょう。
導入する電子カルテを選ぶ
前述した選定ポイントや、クラウド型かオンプレミス型かなどの要素をチェックしながら電子カルテを選びます。選定開始時期は、本格稼働予定日の1年前から半年前が理想です。
デモの実施
電子カルテの機能や価格などを比較検討して、気になる製品をいくつかに絞ったら、それぞれのメーカーに問い合わせを入れてデモを申し込みます。その際、自院が電子カルテに望むことを各メーカーにしっかり伝えて、一つひとつの要望が叶うのかどうかを確認することが大事です。なお、クラウド型の場合は、頻繁にアップデートされている商品も多いため、「現状はそうした機能はついていませんが、要望をいただくことが多いため、改良を検討している最中です」との返答もあり得ます。
また、このような質疑応答を通して、メーカーの対応の質や、先方担当者との相性もわかってくることで、「営業担当が誠実で気持ちのよい会社だから今後も長く付き合っていけそうだ」など、自然とひとつの商品に絞られる場合もあるでしょう。
契約・工事
自院に必要な機能を選定したら、メーカーと契約を結んで発注します。発注時には、インターネット環境を整えるための工事内容や納入日などの打ち合わせもおこないます。
なお、患者用にwi-fiを導入している場合、セキュリティの観点から別回線を引いて運用するのが一般的です。また、LAN環境を整備できていない場合は、別途、工事が必要です。
マスターデータを登録する
電子カルテを使い始める前には、マスターデータを登録することが不可欠です。マスターデータの登録とは、使用頻度が高い病名や医薬品、それらの組み合わせ、診療行為などを登録することで、これらを登録しておけば、運用後の電子カルテ操作がとてもスムーズになります。
操作方法を習得する
医師や看護師、医療クラークなど、電子カルテを操作するスタッフに対して、電子カルテの使い方を説明する研修会を実施します。研修会はメーカー担当者に実施してもらうのが一般的で、なかには、オンライン操作研修を開催しているメーカーもあります。また、新しい機能が追加されたときに、研修用の動画を配信するメーカーも多いので、そうしたメーカーの商品を選べば、本稼働後に覚えなければならないことが出てきたときも安心です。
試験運用する
操作方法を学んだあとは、予約・診察・会計という一連の流れのなかで問題なく電子カルテを使うことができるかどうかを確認することが大切です。そのため、本稼働前に1週間程度の試験運用期間を設けて、電子カルテを使うことで、患者やスタッフの導線に問題が起きることがないかどうかをしっかり確認します。問題が発生した場合は、本稼働後に同様の事態に陥ることがないよう、対策を考えます。
本稼働
1週間程度の試験運用を経ていても、本稼働後は想定外のトラブルが発生しやすいので、受付から診療、会計までの流れのなかで患者を待たせることのないよう、時間に余裕を持って業務をこなしていきましょう。また、本稼働後の次の大きな山場としてレセプト請求が待ち受けているので、まずはレセプト請求を滞りなく終えることを目標に、毎日の診療を続けていきましょう。
新しいことを覚えるストレスは最初だけ
操作を覚えることに不安やストレスを感じている人は、実際のところとても多いでしょう。しかし、たとえば新しいスマホやパソコンを導入するときのことを思い出してみてください。
「いつもみたいにサクサク使えなくてイライラする」と感じるのは最初の数日ではないでしょうか?
操作に慣れてしまえば、以前の機種より快適に操作できるうえ、できることが増えているはず。紙カルテから電子カルテへの移行もそれとまったく同じで、一度慣れてしまえば、手書きするよりうんと速く入力できますし、伝達ミスや処方ミスなどがなくなります。
さらに、久しぶりの患者のカルテを探したいときなどは検索できるので、大量の紙カルテから探し出す必要がありませんし、オンライン診療などもおこなえるように改良していくことで、患者の満足度が高まることも予想されます。「面倒くさいのは最初だけ」を意識して、ぜひ電子カルテ導入のメリットにも目を向けてみてください。
補助金活用などでハードルは下がる
また、操作面の不安に関してはメーカーのサポート、金銭面の不安に関しては補助金活用などで解消できる場合もあります。電子カルテ導入を迷っているクリニックは、各種サイトなどを見ながら検討してみてはいかがでしょうか?
CLIUSクリニック開業マガジンや、クリニック開業ナビでも電子カルテ販売店の紹介ができますので、ぜひお気軽にお問い合わせくださいね。
特徴
オプション機能
対象規模
提供形態
診療科目
特徴
提供形態
対象規模
オプション機能
診療科目
この記事は、2021年12月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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