在宅医療・訪問診療の提供を考えているなら、そのために必要な機能を備えた電子カルテを選ぶことが大切です。機能が充実している電子カルテを選ぶかどうかによって、業務効率に大きな違いが出てくることから、結果として患者によりよい医療を提供できるためです。そこで今回は、在宅医療・訪問診療向け電子カルテを選ぶ際のチェックポイントと、おすすめの電子カルテを紹介していきます。
在宅医療・訪問診療向き電子カルテに必要な要件とは?
在宅医療・訪問診療に使う電子カルテに求められる要件はいくつかあります。
まずは、在宅医療・訪問医療向きかどうかに関わったことではありませんが、真正性・見読性・保存性からなる「電子カルテの三原則」を満たしていることは必須要件です。加えて、次のような要件を満たしていると、在宅医療・訪問診療に向いている電子カルテであるといえます。
マルチデバイス仕様
加訪問先でも入力できるよう、スマホやタブレットでも使えるマルチデバイス仕様であることも重要です。ノートパソコンを持ち歩けばノートパソコンで記録もできるのでは? と思うかもしれませんが、ノートパソコンだと立ち上げやネットワーク接続の手間が発生するため、どうしてもロスが生まれてしまいます。その点、スマホやタブレットは画面からさっと入力することが可能です。
カルテの一元管理が可能(クラウド型である)
訪問先で使えるということは「クラウドタイプ」ということになりますが、クラウドタイプであれば、クラウド上で患者データを確認したり共有したりできることから、カルテの一元管理が叶います。たとえば、訪問看護師が訪問先から入力した最新データを、医師が診察室にいながらにして確認することもできるため、より質の高い医療を提供できます。
入力・文書作成支援機能
また、訪問先では、診察室での診療と違って椅子に腰かけて落ち着いた状態で診療できるわけではないので、「入力・文書作成支援機能」を備えていると、スムーズに作業しやすいといえます。スマホやタブレットで撮影した写真をカルテに登録する機能や、タッチペンでタブレットにシェーマを描ける機能などもあると便利です。
レセコン一体型、もしくは連携可能
在宅医療・訪問診療においては、訪問先でレセプト業務をおこなう必要があるため、電子カルテとレセプトコンピューターが別々であると二度手間になってしまいます。また、別々に打ち込むことでミスも怒りやすくなります。
在宅医療・訪問診療には介護保険が絡んでくることも多いため、レセコン一体型の電子カルテを選ぶメリットをとりわけ実感しやすいでしょう。
訪問予定のスケジュール管理ができる
在宅医療・訪問診療においては、訪問予定のスケジュールを管理することが非常に大切です。訪問予定がカレンダー形式で表示される電子カルテであれば、視覚的にスケジュールを把握できるので便利です。
在宅医療・訪問診療における電子カルテの必要性
紙カルテが主流だった時代は、在宅医療・訪問診療に出向く際にも紙カルテを持参するのが一般的でしたが、「急な診療に対応できない」などの問題がありました。また、昨今は多くの診療科が電子カルテを導入していますが、在宅医療・訪問診療に適していないオンプレミス型の電子カルテなどを使っている場合、従来と同じように紙カルテを持参して記録をとり、診療所に戻ってから転記する必要があるため、余計な時間がかかったりミスが起こりやすかったりという課題があります。
一方、在宅医療・訪問診療に適した電子カルテを使っていれば、無駄な作業や無駄な時間が発生することもなく、ストレスフリーで業務をこなすことができます。
在宅・訪問診療と外来の割合で選ぶのがおすすめ
在宅医療・訪問診療と外来とでは、電子カルテに求める機能に違いがあります。そのため、自院は在宅医療・訪問診療と外来のどちらにより力を入れていきたいのか、どのくらいの割合でそれぞれの診療に時間を割いていきたいのかを考えたうえで、電子カルテを選定することが望ましいといえます。
たとえば、在宅医療・訪問診療のほうに重きを置きたいなら、在宅医療・訪問診療向けの機能が充実しているほうがいいですし、主に外来のほうに時間を割きたいなら、外来向け機能が充実しているほうがいいでしょう。ただし、後者の場合も、在宅医療・訪問診療に不可欠な機能は備えている電子カルテを選ぶことが大切です。
在宅医療・訪問診療向け電子カルテの価格設定の目安
前述の通り、在宅医療・訪問診療向け電子カルテはクラウド型であることが望ましいため、クラウド型電子カルテの価格が参考になります。
初期費用の概要
初期費用の目安は10万円です。10万円以内に設定しているメーカーも多いです。ただし、紙カルテからの移行作業や、使い方の説明、研修会などを依頼すると高くなる場合もあります。自院で問題なく初期設定できる場合は、安価な価格で済ませられると考えていいでしょう。
月額利用料の見積もり
月額利用料はIDの発行数などによっても異なりますが、概ね数万円程度と見積もっておくとよいでしょう。IDは基本的に追加発行することが可能です。
月額利用料には、カスタマーサポートの利用料なども含まれているのが一般的です。
その他追加料金について
検体検査・検査機器などの外部機器と連携した場合、月額利用料とは別に、月に数千円の費用が発生する場合があります。追加費用不要なメーカーもあるので、導入したい電子カルテ候補がかたまってきた段階で、先方に確認するのが賢明です。
主要な在宅医療・訪問診療向け電子カルテの紹介
続いては、主要な在宅医療・訪問診療向け電子カルテを紹介します。
CLIUS(株式会社DONUTS)
予約・診察・院内フローまで一元化できる、日本医師会標準レセプト「ORCA」一体型のクラウド型電子カルテです。300種類以上の検査・画像・システム連携実績があるほか、独自のアルゴリズムを用いた「AIオーダー推薦機能」も搭載しています。
在宅機能はオプション機能ですが、CLIUSのユーザーなら誰でも無料でオプション機能を追加できます。在宅機能を追加すると、訪問スケジュールの設定、事前カルテの記入などの役立つ機能を利用できます。
初期費用:200,000円、月額利用料は5IDまで12,000円~
CLINICSカルテ(株式会社メドレー)
「業務効率改善」と「通院負担軽減」の両方を支援してくれるシステムです。CLINICSには、CLINICSカルテ以外に、「オンライン診療・服薬指導アプリCLINICS」をはじめいくつかのプロダクトがありますが、他プロダクトと組み合わせることによって、Web予約・Web問診・オンライン診療などすべてCLINICSカルテで一元管理することができます。
料金は要問合せ
エムスリーデジカル(エムスリーデジカル株式会社)
クリニックのあらゆる手間をラクにすることを目指して開発されたクラウド型電子カルテです。AI自動学習機能で入力時間を80%削減できることや、予約や会計システムとの連携が充実していることなどが大きな特徴です。
ペンタブレットの描きやすさにも定評があります。事前に登録しておけば、シェーマもハンコ感覚で利用することができます。
ORCA連動型プラン、レセコン一体型プランが用意されているので、自院のニーズに合わせて選ぶことができます。
初期費用:無料、月額利用料:ORCA連動型は月額11,800円~、レセコン一体型は月額24,800円~
blanc(JBCC株式会社)
「いつでも・どこでも・だれでも」をコンセプトにした、一般病院・精神科病院向けの電子カルテです。電子カルテのパイオニアが、30年以上の開発・運用経験をもとに開発。在宅医療・訪問診療やオンライン診療でも使いやすいよう設計されています。
文書様式や記載内容をテンプレート化できるため、文書作成業務が効率化。カルテの情報をもとに紹介状や診断書などを自動作成できることや、オーダー内容の事前セットでワンクリックオーダーできることも魅力です。医師だけでなく、看護師やコメディカルもストレスなく使えるよう設計されています。
料金は要問合せ
homis(メディカルインフォマティクス株式会社)
在宅医療に特化したクラウド型電子カルテです。在宅医療専門医が考案していることから、在宅クリニックからの支持が高く、大手医療法人にも多数導入されています。
特徴は大きく3つ。まず、AIの自動学習機能やカルテ自動引用機能が搭載されていることで、カルテ・書類作成時間を大幅に削減することができます。また、オーダリングチェック機能が備わっているため、医療ミスを未然に防ぎ、安全で確実なケアを実現することができます。そして、「いつ・どこで・誰が」を瞬時に把握できる「タイムライン機能」や、連携している訪問看護ステーションや薬局などとカルテの一部を共有できる「他職種連携機能」が備わっていることから、院外・院内との情報共有をスムーズにおこなえます。
初期費用:200,000円、月額利用料:20,000円 +管理患者数による従量課金制
Henry(株式会社ヘンリー)
中小病院向けに開発されたクラウド型の電子カルテです。音声入力やタブレットによる手書き入力にも対応しているので、キーボード入力に苦手意識がある人はもちろん、訪問先でもスムーズにカルテを記載したい人に向いているといえるでしょう。紙カルテからの乗り換え実績も豊富で、使いやすい画面設計であるため、「2週間で慣れた」との声も上がっているのだとか。
指定端末がなく、一般販売されているタブレットでも利用可能なため、初期費用をぐっと抑えることができます。
料金は要問合せ
movacal.net(NTTエレクトロニクステクノ株式会社)
全国の在宅医療クリニックの声から生まれたクラウド型電子カルテです。在宅医療業務をとことん効率化させることを目的に開発されています。そのため、「在宅医療に特化した電子カルテを探している」「居宅療養管理指導所などの医事文書作成をなるべく自動化したい」「多職種で情報共有できるツールを探している」「カルテだけでなく、レントゲンなども一元管理したい」との要望から、movacal.net(モバカルネット)に辿り着くユーザーが多いのが特徴です。
外来の受付機能なども備えているので、在宅医療・訪問診療と外来の両方をおこなっていきたいクリニックにもおすすめです。在宅医療部門を備えた病院であれば、在宅医療部門単独で利用して、グループ内で情報共有をおこなうといった使い方もできます。
初期費用:200,000円、月額利用料は5IDまで50,000円。1ID追加ごとに2,000円/月加算
参照:movacal.net(NTTエレクトロニクステクノ株式会社)
セコムOWEL(セコム医療システム株式会社)
見やすさ・使いやすさにこだわって設計された、操作性抜群のクラウド型電子カルテです。カルテデータはセコムのデータセンターで管理されるため、セキュリティ面での満足度も高いといえるでしょう。さらに、通信セキュリティも万全であるため、セキュリティ対策を強化したいクリニックにも向いています。
往診スケジュールの簡単作成機能、施設単位の請求書発行機能、医療文書の自動作成機能などによって、在宅医療・訪問診療をサポートしています。
料金は要問合せ
きりんカルテ(ウィーメックス株式会社)
外来にも在宅にも対応できることを打ち出しているクラウド型電子カルテです。そのため、豊富な機能が標準搭載されています。在宅医療に特化した機能として、訪問スケジュールの作成・管理機能が搭載されているほか、訪問先や診療室でスマホやタブレットで撮影した写真をそのままカルテにアプロードできる画像撮影アプリなども活用できます。
また、タブレット端末×電子ペンの活用で手書き入力できるので、訪問先でのカルテ記載が楽ちん。電子ペンで書いた文字はテキストに変換され、コピー&ペーストや訂正も簡単にできます。
きりんカルテ自体の利用料は無料ですが、WebORCA利用料+保守・サポート費用として、初期費用300,000円~、月額利用料22,800円~が発生します。
Medicom-HRf Hybrid Cloud(ウィーメックス株式会社)
カルテ入力を効率化することでスピーディな診療を実現するクラウド型電子カルテです。直感的に操作できるよう、UIにこだわって開発されているので、無料オンラインデモなどを通して、まずは操作性のよさを確かめてみるといいでしょう。
患者の抱える問題を並べて記載できる機能や、患者がどのような人生を送ってどのように人生を終えたいのかをまとめられるACP(人生会議)などは、極めて特徴的な在宅医療向け機能といえるでしょう。
参照:Medicom-HRf Hybrid Cloud(ウィーメックス株式会社)
まとめ
在宅医療・訪問診療に適した電子カルテを探すにあたっては、機能や価格をよく比較検討することはとても大切です。そのため、各メーカーのホームページなどを参照しながら、自院のニーズとのマッチングについて考えていく必要がありますが、最終的に数種類にまで候補を絞ったら、各メーカーに問い合わせを入れて詳しく話を聴いたり、デモ利用させてもらったりすることがおすすめです。クラウド型電子カルテは常にアップデートされていくものなので、わからないことがでてきた際など、サポートセンターに問い合わせを入れることが多くなる場合があるので、気軽に問い合わせできるか、親身になって対応してくれるメーカーであるかなどもしっかりチェックしてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年11月時点の情報を元に作成しています。