クリニックの立地と物件は、どちらも患者数を大きく左右する要素です。
では、どのような点を考慮しながら立地と物件を選べば、集患、増患につながるのでしょうか?
2021年11月25日に開催されたオンラインセミナー『開業物件の選び方と集患・増患施策がわかる 院長がゼロから教えるクリニックの経営戦略』から一部抜粋しつつ、クリニック開業マガジン編集部より「診療圏」「診療圏調査」についての補足情報も交えながらお届けいたします。
診療圏について
開業物件および立地について考えるにあたっては、診療圏について知っておくことが大切です。
診療圏とは?
診療圏とは、ひとつの医療機関に対して、患者が訪れやすいエリアです。該当の医療機関を円の真ん中に仮に設置して、患者が訪れやすい範囲まで半径を広げたエリアのことを指します。
内科なら半径500m、内科と比べて患者が訪れる頻度が低い場合が多い耳鼻科や皮膚科は1,000mなど、おおよその目安があります。
診療圏調査とは?
診療圏調査とは、ある場所で開業した場合、1日あたりどれくらいの患者の来院が見込めるのかを把握するための調査です。推定患者数を割り出すための基本式は以下の通り。
エリア人口×受療率÷(科目別競合医院数+1(=自院))=推定患者数
ただし、エリア人口は夜間と昼間とで異なりますし、そのエリアに都市開発計画が持ち上がっているなら、近々人口に変動が出る可能性が高いなど、正確な数値を出すことは難しいといえます。
診療圏調査のやり方
診療圏の簡単な調査方法手順は以下の通りです。
- 開業予定地の候補を挙げる
まずは、ざっくりであってもいいので、開業したいエリアを決めなければ計算することができません。理想の開業地を考えるところからはじめましょう。
- その周辺○kmを仮想診療圏として設定する
前述の通り、診療圏には診療科ごとに目安があります(後述のセミナー抜粋にて解説しています)。そのなかから自院の科目に該当する診療科の目安を仮想診療圏として設定します。
- 診療圏内の競合数をチェックする
診療圏内に競合となる医療機関がいくつあるのかを数えます。ただし、仮想診療圏として設定した円の内側を高速が走っている場合や、山や川など交通を遮るものがある場合などは、それより先のエリアの住人が来院する可能性は極めて低いため、そのエリア内の医療機関は競合としてカウントしないなどの考慮が必要でしょう。
- 開業予定地周りのアクセス面を見てみる
道路からクリニック敷地への侵入しやすさ、歩道橋が前後にあるか、急行が止まる駅であるか、などさまざまな側面からアクセス良好であるかを検証しましょう。
「よい立地」はどんな立地?
クリニックをオープンするのによい立地の条件としては、以下が挙げられます。
需要が供給を上回っているエリア
需要(=医療のニーズ)が供給(=医療機関数)を上回っていると、エリア内の医療機関数に関わらず集患が見込めます。
競合が少ない or 弱い
エリア内に同じ診療科が少なければ、自ずと患者に選ばれるクリニックになりえます。エリア内の同一診療科の評価が低い場合も同様です。
認知度が高いエリア
認知度の高さは、「通りかかる人数」×「認知されやすさ」で測れます。ビル内のクリニックなら1階に入居していること、都心部なら駅から徒歩3分以内であると自ずと認知度が高くなります。
ちなみに、ビル1階の認知されやすさを10とすると、2階は3、3階以上は1と言われています。ただし、「角地であるかどうか」「信号待ちの場所から見えるかどうか」などでも条件が異なってきます。
「認知されやすさ」を高めるためには、目立つ看板を出すことなども役立ちます。看板の大きさや位置、角度なども重要なので最善の注意を払うことが大切です。
通りすがりの人の視界には空中階の看板は入らないので、低い位置を意識することも大切。また、クリニック名より科目名を目立たせることも重要です。
また、たとえば地域密着型のクリニックであれば地域住民がよく通るエリアであることが大事ですし、都心部で働いている人に通ってもらいやすいエリアを狙うのも一手です。
ただし、メンタル系のクリニックや美容外科など、患者が通院していることをあまり知られたくない診療科の場合は、認知度が高いエリアに開業するのは控えたほうが無難でしょう。
好立地の場所は「広告」の役割も果たしてくれる
条件のよい立地への開業は坪単価が高いため諦めてしまったという開業医も多いかもしれません。しかし、"そこに開業するだけで集患が見込める"ほど条件がよいのなら、坪単価が高くて当然です。しかも、実際に集患力が高いのであれば、そのぶん広告費を抑えることができます。その点に目を向けると、単価だけで立地を選ぶことはナンセンスだと理解できるでしょう。
たとえば、坪単価2万円で通りすがりの新規患者が月に100人以上期待できる立地と、坪単価が1万円で通りすがりの新規患者が月に5人期待できる立地であればどちらを選ぶかというと、迷いなく前者ではありませんか?
立地選びの際は、そうした点も考慮に入れながら候補をしぼっていくことがとても大切なのです。
一般内科の好立地
一般内科のほとんどの患者は、都市部であれば、徒歩圏内に在住しているか通勤していると思っていいでしょう。そのため、駅徒歩3分以内で、ビル内のクリニックであれば1階に入居するのがおすすめです。
車社会となっているエリアであれば、車で5~10分以内の内科に来院するのが一般的だと考えるといいでしょう。
マイナー科目の好立地
耳鼻科、精神科など特定の疾患に対応しているマイナー科目の診療科は、一般内科よりも広い範囲からの来院が見込めます。
もちろん、駅徒歩3分以内の建物1階であればベストですが、それよりやや広い範囲や2階以上であっても問題はありません。目安としては、電車社会なら半径500mから1km前後、車社会なら半径2kmから4km前後を診療圏ととらえるといいでしょう。
超マイナー科目の好立地
産婦人科(婦人科)、泌尿器科、精神科(心療内科)、美容皮膚科などの超マイナー科や、下肢静脈瘤などの手術をおこなうクリニックを利用する患者は、急行が止まらない駅でも通ってくれる可能性が高いです。
ただ、患者の利便性を考えると、急行が止まる駅なら駅徒歩3分、鈍行しか止まらない駅なら駅徒歩1分を目安にしたいところです。
基本的にネットでクリニックの場所を確認してきてから来院することが考えられるので、ビル空中階であっても問題ありません。
物件の選択肢
続いては物件の選択肢について説明します。まずは、物件のタイプが大きく5つに分けられます。
土地を買って自分で建物を建てる
自己資金または融資で土地と建物代両方を用意する必要があります。
土地のみ借りて建物は自分で建てる
土地の賃料+建物分の自己資金または融資が必要になります。
土地+新たに建てた建物を借りる
地主に対して、賃料を支払うことになります。
既存の建物一棟を借りる
家賃負担のみではありますが、前のクリニックのイメージがついていることがデメリットとなる場合もあります。たとえば、長年婦人科だった建物を借りて居抜きで皮膚科を開業した場合、エリア住民に借主が変わったことが知れ渡っていなければ、男性患者は増えにくいでしょう。
また、前のクリニックの悪評が高かった場合、借主が変わっていることは周知の事実であっても、なんとなく来院したくないと思われてしまうこともあるかもしれません。
建物の一室を借りる
家賃負担のみですが、エリアによっては賃料が高い場合があります。たとえば、東京・銀座などのもともと土地代が高いエリアなどは説明するまでもありませんし、築年数によっても変わってきます。
物件選びの際のチェックポイントは?
続いては、クリニックの物件を選ぶ際にチェックしたいポイントを紹介します。
広さ
広すぎると賃料が無駄になりますし、狭くて必要な機器が置けなくては元も子もありません。適切なスペースを確保しましょう。搬入予定の機材のサイズ、車椅子患者が通れるだけの通路の幅、待合室には最大何人の患者を収容できたらいいのかなどをもとに適切なスペースを割り出します。
建物内の設備
診療科目によっては大型検査機器が必要なので、十分な容量の電源が供給されているかどうかは必ずチェックしたいところです。
出入口
車での来院が多いことが予想されるなら、一方通行ではないか、反対車線からでもアクセスしやすいかなどをチェックします。徒歩での来院に関しては、安全に歩けるかどうかをしっかりチェックしましょう。また、医療機器を十分に搬入できるサイズや形状であるかどうかの確認も必要です。
天井の高さ
医療機器を設置するためには、最低でも天井高2,400mmが必要です。天井走行式X線装置を導入するなら、最低でも2,700mmは必要です。
水回り
現状の水回りの確認は必須です。理由として、「原則水回りを中心にレイアウトが決まる」ためです。ゼロから建物を建てる場合はある程度自由に決められますが、そうでない場合は建物自体で水回りの位置が決められており、そこをメインとして考える必要があります。
レイアウトだけでなく、患者やスタッフの導線にもかかわる部分でもある(動線が悪いと余計な業務が発生したり、診察に余計な時間がかかったりする)ため、しっかりと見ておきましょう。
増設する場合に床下工事ができるかどうかもチェックしたいポイントです。
バリアフリー
エレベーターの有無だけでなく、車椅子での移動に影響を及ぼしそうな段差などはくまなくチェックしましょう。
例えば、玄関部分に車いすのスロープを設置する際には、バリアフリー法で「勾配は最低でも1/12以下(例:高さ10cmの場合、最低でも長さ120cmのスロープが必要)」と定められています。※バリアフリー法では、「“望ましい”のは1/15」となっています。
その分のスペース確保できるかどうかもしっかりと見ておきましょう。
耐荷重
レントゲン機器などを導入するなら、平米荷重300kg以上が必要です。
耐震構造
新築でないなら、1981年の建築基準法改正に伴う新耐震基準を満たしている建物であるかどうかを確認しましょう。
消防設備
テナント物件の場合、ビルそのものに、法律で定められた消防設備が設置されています。これにともない、各部屋に自動火災報知設備や避難口誘導灯を設置する必要があるので、内見の際、設置個所も確認しておきたいところです。
また、ビルの大きさによっては、各部屋にスプリンクラーも設置することが義務付けられています。しかし、クリニックの場合、手術室や分娩室でスプリンクラーが作動すると甚大な被害を受けるおそれがあることから、場所によっては、スプリンクラーの代わりに補助散水栓等を設置します。
アスベストの有無
古い建物であればアスベストを使用している可能性があります。患者の健康に害を及ぼすことがないよう、アスベストを使用している物件であれば契約を考え直したほうがいいでしょう。
B工事
物件が大型の建物の場合、消防設備工事や電気設備工事、空調換気設備工事などの担当業者が決まっている場合があります。これを「B工事業者」と呼びますが、B工事業者指定となっている場合、金額交渉が難しいため、工事の費用を抑えることができないと考えておいたほうがいいでしょう。
ちなみに、テナントを借りるときは、そのままでは部屋を使えず工事が必要な場合がほとんどですが、工事の区分は大きく以下の3種類にわけられるので、このうちどれに該当するかは必ず確認しておきましょう。
発注 | 業者の選定 | 費用負担 | |
---|---|---|---|
A工事 | 物件オーナー | 物件オーナー | 物件オーナー |
B工事 | 借主 | 物件オーナー | 借主 |
C工事 | 借主 | 借主 | 借主 |
看板設置の可否
建物外に看板を設置できるかどうかは集患率に大きく関わるので必ずチェックしましょう。
賃貸契約時の注意点
条件をクリアしていざ契約となった際には、契約内容をきちんと確認する必要があります。そのほか、以下の点についてもしっかり確認しましょう。
契約期間
物件が定期借家の場合、契約期間をしっかり確認する必要があります。
定期借家の場合、契約期間が10年以下に設定されていることが多いですが、将来的に医療法人化を希望している場合、長期間賃借契約を持続する必要があるので、最低でも15年以上にまで引き延ばせるよう、交渉することが大切です。
ただし、借主の都合で中途解約する場合、残存期間の賃料を請求されることがあるので注意が必要です。
引き渡し時期および賃料発生のタイミング
築年数が浅くない物件などは、保証金の減額や家賃交渉に応じてくれることもあれば、内装工事期間中の賃料を免除してくれることもあります。
工事期間中に賃料が発生するかどうかで初期費用は大きく異なるので、必ず事前に確認しましょう。
増築や改造などの制限について
クリニックの内装に関して、医療法上の施設基準や医療機器の設置にかかる制約をクリアするために、増築や改造が必要になる場合があります。
しかし、賃貸物件ではオーナーの同意なしに増築や改築を行うことができないので、あらかじめ確認しておくことが大事です。
明け渡し条件
クリニックの場合、原状復帰が困難なことも多いため、「賃貸借契約が終了した際に原状復帰して明け渡すことが不可欠であるかどうか」についても、事前に確認しておくといいでしょう。
物件探しはプロに任せるのも一手
立地×物件のタイプがさまざまにあるなか、自院に最適なものを見極めるのが難しいと感じるなら、クリニック開業専門の業者から提案してもらうという手もあります。
また、開業してからも頼りになる人に近くにいてほしいと感じるなら、複数の医療機関で構成された「医療モール」に入居するのも一手。
いろんな選択肢があるので、焦って決めて失敗することのないよう、先輩医師などにも意見を聞きながら、納得いく物件を見つけてくださいね。
特徴
依頼内容
建築内容
職種
診療科目
この記事は、2022年2月時点の情報を元に作成しています。