クリニックに掲げる看板は非常に重要です。診療圏の皆さんにアピールすることはもちろんですが、必要な情報を伝えて自院を選んでもらわなければなりません。看板は患者さんをクリニックに誘導するための、第一のツールと考えるべきなのです。
医科・歯科の看板製作において、多大な成果を上げている『株式会社デンタルサイン』という会社があります。同社の原裕司代表取締役にお話を伺いました。
看板はマーケティングの一環として考えるべき
――クリニックにとって看板の意義をどう考えるべきでしょうか。
患者さんにアンケートを取るとクリニックには「利便性」が求められます。「近さ」とか「通いやすい」といったことです。この「近さ」「通いやすさ」をアピールするためには看板は必要不可欠な要素です。
昔は、例えば「皮膚科」「歯科」など診療科目が分かれば患者さんを集められましたが、現在では「診療技術」の進歩によって受けられる治療内容が細分化されています。また、患者さんもそれを知りたいと思っているのです。さらにホームページや広告の手段も多岐にわたる状況です。
ですので、医師が伝えたい情報、患者さんが求める情報を統合して発信することが求められています。看板はまずそれを伝える道具なのです。
「近さ」「通いやすさ」を重視して患者さんはクリニックを選びますから、クリニックの近所を通る方々が患者さんの候補。その方々に直接アピールできるのはクリニックが掲げる看板です。ですから、看板こそマーケティングの基軸になるといえます。
――マーケティングの一環として考えるべきなのですね。
看板、開業チラシ、ホームページといった広告ツール一個一個、それぞれ別に考えるのではなく、開業プランを練るときに一緒に考えることができれば、相乗効果を上げることが可能です。
例えば、ホームページは看板より後に作ったりしますが、そうすると先にできているクリニックの看板とミスマッチが起こりがちです。例えば、看板にロゴが入っていなかったり、ホームページで使われている基本色と看板の色調が異なっていたりなどです。
こうなるとマーケティング効果、集患効果は後退してしまいます。
例えば、「確か駅の近所に医院があった」と考えた場合、恐らくそのクリニックの名前は思い出せないでしょう。名前を思い出すのは難しいのですが、「オレンジのロゴだった」とか「クマがいたぞ」といった強い特徴があったりすると、そこだけは覚えているものです。つまり「形」や「色」を覚えてもらうことはとても重要で、看板はそれを訴え掛ける役割を果たします。
――確かに名称より、形や色を覚えています。
クリニックに来院する際には、多くの患者さんは「確かあそこにあったぞ」と思い出し、検索して電話番号を調べ、電話をかけて予約する、という流れになるでしょう。この流れの最初の部分、「あそこにクリニックが……」で思い浮かべてもらえるようにするのが看板です。つまり、患者さんの導線をつくるためものといってもいいでしょう。
ですので、看板には記憶に残る色使いにする、覚えてもらいやすいロゴマークにする、といった工夫が必要です。また、ホームページやチラシ、診察券なども統一したイメージにして、「ああ、このクリニックだ」とトータルで認識してもらえるようにしないといけません。
――看板の重要性があらためて認識できました。
導線をつくるという意味では、看板に入れる文言にも工夫が必要です。私たちでは、例えば「24時間Web予約可能」といった文言を看板に入れたりします。こうすると、夜に急に歯が痛くなった人が「そういえば24時間Web予約可能という看板が出ていた。明日の朝すぐに診てもらえるかもしれない」といって検索する可能性などが高まります。
また、保険診療なのか、それとも自由診療なのかによっても看板は変えないといけません。保険診療の場合には利便性を求める患者さんのほうが多くなります。しかし、自由診療の場合には「専門性」「技術力」を求める患者さんが多いでしょう。
自由診療をメインに行うクリニックなのに「利便性をアピールした看板」を掲げたりするとミスマッチが起こってしまいます。
――看板で何をアピールするのかが重要なのですね。
私たちは、看板を作るときに「遠視」「中視」「近視」を切り分けて考えてください、と申し上げます。要は、遠くから見て分かる文言、中くらいの距離から認識できる文言、近くで見て認知させたい文言を別に用意したほうがいいということです。
例えば「歯」や「歯科」を大きな文字で配置すれば、それは遠くから見ても「歯医者がある」と分かりますよね。これが「遠視」のためのものです。
「中視」用の文言では「特徴を伝えること」が必要になります。現在クリニックはたくさんありますので、その中で何をアピールして選んでもらうか、という点が大事です。
「近視」用の文言では、クリニックの詳細を伝えて「入りやすく」します。診療時間を伝えるなどは、近視的な視点で用意すべき情報になります。
遠視的、中視的、近視的な情報を総合的に組み合わせて、患者さんに総合的にアピールできれば、看板はクリニックへの導線をつくる非常に有益なマーケティングツールになるでしょう。
――ということは、看板をそれ単品で考えていると駄目ということですね。
そうですね。ホームページなど集患ツールをトータルで考える時代です。10年前はクリニックの看板にロゴは入っていませんでした。手前みそになるかもしれませんが、私どもが「いやロゴは大事です」とその効果を実際に先生方にご説明したり、セミナーで説いたりしてきました。結果、クリニックの看板の多くにはロゴが入っています。現在は非常に競争が激しく、生き残るのが大変ですので、看板も含めてどうやって患者さんにアピールしていくのかを真剣に考えないといけない状況ですね。
看板の発注は早く行うべきである!
――発注してから実際に看板が設置されるまでどのくらいの時間がかかるものでしょうか。
正直言ってそれはまちまちです。デザインを固めてから納品まで2カ月でできるか、といわれるとできるのですが……。「まちまち」というのは、そのクリニックの開業条件によって異なるからです。例えば、戸建てを造るのか、テナントで入るのかでは全然違います。
私たちに声が掛かるのは、多くの場合、電気の配線をどうするかという相談の際です。看板は電気を使うため、電力供給が外にできないと困るので。
ですので、戸建てで開業という場合にはそれこそ半年前、へたをすると1年前から動いています。看板を掲げるのに配線をどうしようかと考えておかないといけないからです。テナントの場合には、電気配線は決まっていますから、開業の半年~3カ月前に入ることが多いです。
――電気の配線の制限を受けるのですね。
はい。戸建ての場合には、最初から設計しておかないといけません。これに失敗すると、「横からしか出せません」みたいなことになります。必要なところに届かないとか。
看板設置までのスピードという意味では、ロゴマークのあるなしなども影響を与えます。ロゴから作らないといけないのでしたら、やはりその分の時間が余計にかかります。「1カ月でやってくれ」などと言われることがないわけではありませんが、その場合には「先生早く決めてください」と先生のお尻をたたいての作業になります。
総じて言えば、戸建ての場合には開業の1年前には、まず「看板の予算」についてヒアリングされ、半年前ぐらいに電気配線の相談を受けるという感じになります。テナントでの開業の場合には、3カ月~半年前に相談されるというスケジュール感です。
――ということは、看板の準備はテナントの場合でも半年前には始めるべきですね。
はい。中には意地悪な大家さんがいらっしゃって、「壁に穴を開けるな」と言われたりしますので、とにかく早く準備を始めるに越したことはありません。
――えっ。その場合どうするのですか。
先生に「付けられません」という話をするしかないです。デザインがもう確定しているのに、大家さんが隣に出す看板とかぶるので「やめてください」と言われたこともあります。
――ひどい話ですね。
都心部は大家さんが強い場合が多いので、契約の段階で看板についてどのようにできるのかを確認しておくことをお勧めします。看板を出してもいいよという話だったのに、いざ看板を出す段になってから「賃料○万円を取ります」と後出しで言われたこともあります。その賃料があまりに高かったので、その先生は看板を出すのを諦めてしまいました。
看板のコストはどのくらいかかるのか?
――条件によって変化するとは思うのですが、これから開業する歯科医師は看板の設置コストをいくらぐらいと考えればいいでしょうか。
都内で開業する場合には「100万円ぐらい」といわれたりしますが、看板はデザインや設置環境などによってまさにピンキリで変わります。「100~200万円で対処していく」という感じでしょうか。
↑このような高所作業車が必要になると看板の設置コストは上がります。
↑看板を吊り下げて作業するためのユニック車。敷地内の作業でなければ、深夜作業になる可能性が高いのです。
2階に看板を出すのか、1階に出すのかでも違います。高所作業車を使う、使わないで全然違います。また、夜しか作業できないのであれば、警備員をつけなければならなくなり、その分コストがかさみます。
ですので、やはり看板のコストについては一概には言えません。開業場所などの情報を基にどんな看板にしたいのかを実際にご相談いただくのがいいと思います。
いい看板を作るには専門知識が必要不可欠である
――いい看板を作るために必要なものはなんでしょうか
看板業界はいわゆる「プロダクトアウト」の世界なのです。しかし、私はどんな技術を患者さんにアピールしたいのか、どんな患者さんを呼びたいかなど、マーケティングの発想で看板を考えるべきだと思っています。
看板業界に不足しているのは「専門知識」ではないかと思います。
飲食・美容院などいろいろな業種の看板を手掛けると、その業種の表面上の知識は分かるようになるのですが、深い部分についての知識は得られません。業種を絞って製作すれば、専門知識がたまっていって、その業種にふさわしい、求められる看板が作れるようになります。ですので、当社は歯科業に特化しようということで創業し、会社名も『株式会社デンタルサイン』としています。ただし、医科の看板も手掛けております。
それぞれの看板にそれぞれの工夫が凝らされている!
――クリニックそれぞれに立地、条件が異なりますし、先生がアピールしたいことも違いますから、看板はワンオフの世界ですね。
例えば、以下は『成増北口通り歯科』さまです。
新規のピカピカのクリニックというのは高齢者の方からすると入りにくいという意見があります。そのために、高齢者の方の写真をアップで入れるという工夫を行いました。先生は高齢者の方の義歯治療を行いたいというご希望でしたので、色使いも年配の方を意識したものにしました。
年配の方にはグラデーションとか近似色が見えにくいのです。ですので、色をはっきりさせるというテクニックも使っています。
診療時間の案内が右側の入り口のところと自動販売機のところに貼ってあるのですが、これは、通院する年配の方がバスを利用されることが多いからです。年配の方は都内のバスが無料で利用できます(要シルバーパス)。実はここはバス停の近所なのです。ですので、集患の助けになるように、わざとここに診療時間の案内を貼っているのです。
――これこそまさに導線ですよね。
そうですね。高齢者の方がわざわざ奥まったところにある診療時間の表示を見に行くかというと、そんなわけありませんので、ここに案内を貼ったほうがいいですとか、そのような提案も差し上げています。
――なるほど。それぞれに工夫が凝らされているのですね。看板というのは奥深いものですね。
そう言っていただけるとうれしいです。一個一個を俯瞰すると、どこでもできそうなものに見えるのですが、ロジックを一つ一つ説明させていただくと、「意外と細かく考えているのね」と言われます。
もっと情報発信を意識して看板を作りましょう
――これから開業しようとする医師にアドバイスをお願いいたします。
現在は昔に比べて技術が進歩し、治療についてできることが細分化しています。先生方がそれぞれ習得してきたものも違います。先生方が持っている技術を患者さんにしっかり伝えることができなければ、もったいないことになってしまいます。
情報発信をしっかりしていただきたいと思います。
例えば、一人1時間ぐらいかけて診療を行いたいという先生がいらっしゃって、これはうちではやっていないのですが、看板をリニュ-アルしたのです。
大きく利便性をうたった看板を作ってしまったので、そのクリニックには「利便性を第一に考える患者さん」……「早くやって」という患者さんばかりが来院するようになったのです。先生が目指したのは、ゆっくり時間をかけて丁寧な治療を行うことだったのですが。
――診療と患者さんのミスマッチが起こったわけですね。
せっかく新しい看板に替えたのにターゲットとなる患者さんが来なかったというので、この先生はやる気をなくされてしまったのです。
こういうミスマッチが起こるのは、情報発信がうまくいっていないからです。ですので、先生方には情報発信をもっと意識していただきたいです。何を伝えたいのか、今後どうしていきたいのかが明確になっているほうが私たちもお手伝いしやすいです。看板には、先生方が患者さんに伝えたいことがしっかり現れているべきなのです。
――ありがとうございました。
まとめ
いかがだったでしょうか。看板とひと口にいいますが、それぞれに工夫を凝らして製作・設置されているのです。
クリニックの看板は患者さんに見せる「顔」です。デザイン、昼・夜での見せ方の差異、どのように目立たせるのか、ホームページとの連携は取れているのかなど、トータルなコーディネートが必要になります。
「看板は別個で後でいいや」という考え方はいけません。原さんの言葉にあるとおり、開業の少なくとも「半年~3カ月前」には、開業を告知するチラシ、診察券などと共に予算組みを行っているべきです。
これから新規にクリニックを開業する医師の皆さんは、おさおさ看板に対しても怠りなく準備してください。またどうせ看板製作を行うのであれば、『デンタルサイン』のようなプロ中のプロに依頼しましょう。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年3月時点の情報を元に作成しています。