念願かなって開業したものの、思うように集患できず廃業への道を辿ってしまうクリニックはゼロではありません。廃業数の推移やその理由を知ることで、将来、自分が開業したクリニックが廃業する可能性を少しでも減らしていきましょう。
2021年の医療機関の休廃業・解散は過去最多
帝国データバンクが公表している「医療機関の休廃業・解散動向調査」によると、2021年、医療機関(病院、歯科医院含む)の休廃業・解散は過去最高水準を記録しています。そのなかでも多いのが、クリニックの休廃業・解散です。
2016年から2021年にかけての推移は以下の通りです。
【クリニックの休廃業・解散件数の推移】
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
375件 | 366件 | 387件 | 444件 | 411件 | 471件 |
参照:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」
クリニックの倒産件数の推移は?
では、同じ期間におけるクリニックの倒産件数はどう推移しているかというと以下の通りです。
【クリニックの倒産件数推移】
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
16件 | 13件 | 14件 | 22件 | 12件 | 22件 |
参照:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2021年)」
クリニックの休廃業・解散が増えている理由は?
倒産ではなく休廃業・解散のかたちで事業を終える医療機関が増えている主たる理由は、経営者の高齢化があると帝国データバンクは分析。さらに、その傾向を加速させた要因としてコロナを挙げています。世代交代が進まないなか、コロナという予測不能な事態が起きたことで、廃業時期が早まったとする見方です。
ちなみに、「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」によると、2021年度の時点におけるクリニックの代表者の年齢としてもっとも多いボリュームゾーンが70代以上。次いで、60代となっています。
【クリニックの代表者年齢構成比】
~30代 | 0.2% |
40代 | 2.7% |
50代 | 14.6% |
60代 | 40.5% |
70代 | 42.0% |
参照:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」
ちなみに、社会保険診療報酬支払基金が公表している統計月報によると、コロナと連動して特に売り上げが落ちている診療科は小児科と耳鼻咽喉科。小児科は子どもへの感染を防ぐために受診を控える人が相次ぎ、耳鼻咽喉科はもっともコロナ患者が訪れる可能性が高いことから同様に受診率が下がっています。なかには、この影響によって今後、休廃業・解散となるクリニックもあるかもしれません。
高齢化(後継者不足)、コロナ以外にも考えられる要因がある?
続いては、後継者不足、コロナ以外にはどういう要因がありえるのか考えてみましょう。
まず、厚生労働省の「医療施設調査」によると、平成20年から平成30年にかけての10年間、毎年約660軒のクリニックが開業していました。令和に入ってからはコロナの影響で状況が変わっていますが、平成の終わりまでの間にクリニック数が増え続けたことで患者の獲得競争が激化して、力不足のクリニックは淘汰されていくこととなったのが実情です。
また、その他には以下のような要因が挙げられます。
立地条件が悪かった
診療圏調査が不十分で、集患が難しい立地を選んでしまった場合、経営がうまくいかない可能性は高いでしょう。たとえばターゲット層が高齢者であれば、高齢者が多く暮らすエリアを選ぶことが大前提ですし、小児科であれば子育て世帯が多いエリアが最適です。
また、駅からのアクセスがよくても競合が多いエリアであれば集患・増患は難しいですし、都市開発によって人の流れが変わる可能性があるかなども細かくチェックしておきたいところです。
医師としてのスキルや経験が足りなかった
前述の「患者獲得競争激化の結果、淘汰された」のはこのタイプ。医師としてのスキルおよび知識が足りなければ、患者に不安感を与えてしまい、それによって患者数は減りがちです。最悪なところでは、知識や経験不足が原因で医療ミスを起こしてしまうことも。
経営スキルが足りなかった
医師として腕があっても、経営者として最低限必要なマネジメント能力がなければ開業医として成功することは難しいでしょう。経営者としての能力が不足していることを自分で理解しているなら、理事を雇うなどしてマネジメントは一任してしまうという手もあります。
資金繰りがうまくいかなかった
資金繰りが悪化して経営難に陥るケースもあれば、入出金の状況を把握できなくなり、結果的に黒字倒産してしまうケースもあります。こうした事態を防ぐためにも、最低限の財務の知識は身に着けることが大切。「貸借対照表」「損益計算書」「売上管理」なども自分で作成できるとベストですが、時間的にも余裕がないなら、税理士などに相談するといいでしょう。
人間関係がうまくいかなかった
クリニック内で人間関係のトラブルがあると、トラブルを起こした張本人以外にも離職する人が出てくる可能性があります。そうなるとクリニックの継続が困難になることもあるので注意が必要。予防策として、スタッフとの個別面談の機会を設けるなど、お互いに溜め込まず意見を言いやすい環境を作りましょう。
廃業のメリット、デメリットは?
続いては、廃業のメリット、デメリットをみていきます。廃業という言葉の響きから、デメリットしかないように思えてしまいがちですが、実はメリットも存在します。
【メリット】
【デメリット】
「建物の原状回復または取り壊しの費用」「借入金の残債の清算」「医療機器などの処分費用」「医療用品、薬剤などの医療廃棄物の処分費用」「スタッフの退職金」「登記や法手続きに関する費用」で1,000万円以上かかることもあります。
また、患者や地域住民、スタッフの目線から見ると、「かかりつけ医を失う」「地域医療を失う」「職を失う」のは大きなデメリットです。医師自身のデメリット、そして地域住民やスタッフ全員のデメリットを回避するためには、承継という選択肢もあります。
開業時には、廃業のリスクを回避することにも意識を向けて!
開業から数十年にわたって地域に貢献して、医師としての使命をまっとうしたタイミングでの納得の廃業ならいいですが、経営が立ち行かなくなって廃業となると、本人的にもモヤモヤした気持ちが残ってしまうはず。釈然としないまま廃業の道を辿るしかなくなったということがないように、これから開業を考えている人は、どうぞ綿密な事業計画を立てたうえでチャレンジしてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年5月時点の情報を元に作成しています。