クリニックを開業して経営していくうえでは、どうすればトラブルなくスタッフが働けるかを考えることも大切です。労働条件や職場環境の整備はもちろん、時にはメンタル面のケアが必要になることもあるでしょう。そこで今回は、スタッフがクリニック勤務を辞めたいと思う理由や、その対応について考えてみます。
看護師が勤め先を辞めて転職する理由は?
株式会社ビズヒッツが、転職経験のある看護師202人を対象におこなったアンケートによると、看護師の主な転職理由は以下の通りです。
転職理由 | 人数 | |
第1位 | 転居のため | 38 |
第2位 | 人間関係への不満 | 35 |
第3位 | 夜勤が辛い | 28 |
第4位 | 収入に不満(収入アップのため) | 21 |
第5位 | 労働時間への不満 | 20 |
第6位 | 希望の診療科に移るため | 15 |
第7位 | 仕事内容への不満 | 14 |
1位になった「転居のため」は、結婚や配偶者の転勤などのやむを得ない事情ですが、2位以下の「人間関係への不満」「労働時間への不満」「仕事内容への不満」などは、クリニック側で改善の余地がある場合もあるでしょう。
具体的にはどんな改善方法があるのか、2位以下に表を入れた回答者の声を見ながら対策を考えていきましょう。なお、3位の「夜勤が辛い」、6位の「希望の診療科に移るため」は総合病院などで働く看護師の回答のため省きます。
2位:人間関係への不満
(対策例)スタッフ間の軋轢に早い段階で気付けるよう、日ごろから個別面談の時間を持つことが望ましいでしょう。また直接的に情報収集をすることが難しい場合は、情報のハブになっているスタッフや現場リーダーと連携することで、スタッフ間で話されている不平・不満、院長のスタンスに対する意見などをまめに収集するようにしましょう。
4位:収入に不満
(対策例)「給与や待遇、勤務条件が当初の理解と違った」というパターンなら、採用時に条件をしっかりと伝える必要があります。「条件を納得したうえで働き始めたけど、思ったよりきつかった」と感じる人が多いのが実情なら、正当な額について考え直す必要があるでしょう。そうでなければ、いい人材がどんどん競合に流れていく場合もあり得ます。また、最初のうちは一律の給与であっても、がんばりに応じて昇給する可能性が高いとなれば、収入への不満は出にくいもの。働きぶりを正しく評価する評価制度や昇給制度を設けることも大切です。
5位:労働時間への不満
(対策例)24時間体制のクリニックの場合は急な対応も多いことが考えられるので、その点に納得して一緒にがんばってくれるスタッフを見つけることが大切です。診療が長引くことなどが原因で残業が多いなら、電子カルテや自動応答電話などの導入によって、業務を効率化することを検討することで改善される場合があるでしょう。また、クリニック運営に必要なギリギリの人数ではなく多めの人数を雇うことで、各自の休みの希望なども考慮しながらシフトを組めるような工夫も必要です。
7位:仕事内容への不満
(対策例)こちらも、2位の「人間関係への不満」同様、個別面談、現場リーダーなどを通して話を聴くことで、「どうすれば気持ちよく働くことができるのか?」を一緒に考えてあげることがとても大切です。
参照:Biz Hits【看護師の転職理由ランキング】202人アンケート調査
人間関係や仕事、待遇に悩んでいるスタッフへの理想的な対応は?
前述の対策例のうち、採用後も定期的におこなってほしいのが「個別面談=1on1ミーティング(以下、1on1)」です。1on1とは、上司と部下が1-1でおこなう定期的な対話のこと。クリニックの場合、院長もしくは理事長などが、一人ひとりのスタッフに対しておこなうのが理想的でしょう。「定期的」とはどのくらいかというと、「週1回」または「隔週1回」程度が理想的。頻度が多いと感じるかもしれませんが、その分、1回1回の時間は短く、15~30分程度がベストとされています。
ポイントは、「対話」ということ。スタッフがメインで話をする場であり、決して院長がスタッフに一方的に何かを伝える機会ではないことを踏まえたうえで導入することが大切です。
1on1導入によって期待できる効果は?
続いては、1on1導入によって期待できる効果を説明します。
1. 離職防止
職場での人間関係や仕事に対する悩みは、なかなか人に相談しづらいもの。しかし、日ごろから定期的に1on1をおこなっていれば、なにかあったときにすぐに相談しようと思ってもらいやすいでしょう。同時に、毎週のように1:1で向き合っていれば、院長側が、スタッフの異変に気づきやすいというのもポイントです。
2. 院長とスタッフの信頼関係構築
1on1はお互いが対等に話をする場。仕事中には話題に出すことがないプライベートなことや最近の関心ごとなども交えて対話するうち、お互いへの理解が深まり、信頼も築かれていきます。信頼関係が構築されることは、いうまでもなく離職防止にも役立ちます。
3. 成長促進
院長が一方的に業務の指示を出すのではなく、「対話」することを主旨としていることから、スタッフ側は自分で考えて課題にアプローチしようとします。これによって、スタッフの成長が促されるのが1on1の大きな特徴。「答えを出す」のではなく、「気づきを与える」というスタンスのコミュニケーションだということです。
4. 成果創出
一人ひとりが気付きを得てモチベーションが上がれば、自ずとチーム全体としても士気が高まります。しかも、短いサイクルで1on1を繰り返すことによって、よい変化が見られるスタッフをさらに後押しすることができるので、成果の創出につながりやすくなります。また、軌道修正が必要な場合も、早い段階で対応することができるのもメリットです。
1on1の具体的な実施方法
続いては1on1の具体的な進め方を解説します。
1. チェックイン
1回の1on1は15分~30分という短い時間なので、何を話そうか考えているうちに終わってしまうということがあり得ます。そうならないためには最初が肝心。まずは、「話しやすい雰囲気を演出する」ことを目的に、最近気になるニュースをお互いに発表するなど、気軽に取り組める話題から始めましょう。
2. メインテーマに対するスタッフの考えを引き出す
雑談で始めて、雑談で終わってしまっては意味がありません。よきタイミングで、その日話したいテーマへとシフトできるよう会話を進めます。ただし、院長から具体的な質問の投げかけを続けるのはNG! スタッフ側からうまく言葉を引き出せるよう、たとえ会話の途中で意見の食い違いがあったとしても、いったんは聞き役に徹することが大切です。
3. 対話のなかであがってきた課題の対応策を一緒に考える
スタッフの考えや悩みを十分に理解するところまできたら、次は一緒に対応策を考えていきます。スタッフが、「どうしてそうなったと思うのか?」「これからどうしたいのか?」についての考えを深めるサポート役に回り、自発的な気付きを促します。
4. 次回の1on1までの課題を決める
週に1度の頻度で1on1を設けていたとしたら、次回の1on1は1週間後。1週間あればできることはたくさんあります。一緒に次回の1on1までの行動目標を立てることで、毎日の仕事を通していち早く成長することが期待できます。また、2回目以降の1on1では、前回の行動目標をどのくらい達成できたのかを冒頭に必ず確認しましょう。確認後は、1に戻り、スタッフがメインで話す場、空気感を醸成しましょう。
1on1の効果を高めるコツ
続いては、1on1実施の際に覚えておいてほしいコツを解説します。
1. リスケになりにくい時間帯・曜日で開催する
1on1の効果は、定期的に開催してこそ高まります。すぐにリスケするようでは効果が半減します。業務が忙しくなりやすい時間帯や曜日は避けて日時をできるだけ定例として設定することが大切です。その際、クリニックの都合だけではなく、子どものお迎えや家族の食事作りといった個人の事情も踏まえることもお忘れなく。
2.「1on1の時間はスタッフのため」であることを念頭に置く
スタッフから本音が出るようになると、場合によっては反論したり自分の意見を述べたりしたくなるかもしれません。しかし、1on1の大事な目的は信頼関係構築や離職防止なので、スタッフが「自分のことを否定された」「意見を聴いてもらえない」と思っては当初の目的が果たせません。一人ひとりが気持ちよく働ける環境を作ることは、結果的に自院に大きなメリットをもたらすことを心に刻んでおきましょう。
3. 対話の内容を記録・共有する
高い頻度で開催するという特性上、対話の内容を細部まで覚えておくことは大変です。前回の内容を覚えていないとなると、スタッフの気持ちが萎えてしまうこともあるので、対話の内容はしっかりと記録しておくことをおすすめします。もちろん、一字一句書き起こす必要はありません。箇条書きでもいいので、重点はきちんと書き留めておきましょう。
習慣化すると全員の意識が変わっていく
「今週から毎週1on1を実施します」と言われると、スタッフによっては「そのぶんクリニックに早く来たり残ったりしないといけないのか」とため息を漏らしてしまうかもしれません。しかし、1on1を実施したことによって業務が効率化されていくことや課題がアップデートされていくことを実感できたら、定期的に開催する意義を理解してもらえるはず。院長自身も、「余計な時間を持つことは面倒だ」と感じる人もいるかもしれませんが、物は試しと思って1回10分からでもいいのでチャレンジしてみてはいかがでしょうか? スタッフ数が3人であれば、3人併せても30分。毎週30分の1on1によって劇的にチームワークがよくなるなら、試してみない理由はないですよね?
特徴
対応業務
診療科目
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対応業務
診療科目
この記事は、2022年5月時点の情報を元に作成しています。