集患・増患ができるクリニック設計のポイント

※この記事は2022年1月27日に行われたセミナーの模様を書き起こし、編集したものです。

「どんな作りにすれば、患者さんに喜ばれる?」「効率よく診察していくには?」「価格を抑えるには?」などなど、クリニックを開業・経営していくうえで気になるのが設計・内装の話。

今回はクリアスが過去に主催した「クリニック設計のポイント」について、セミナーの模様をご紹介します。

講師は、株式会社ラカリテ様より、 コーディネーターの鈴木伸(すずき しん)様です。

オープニング

司会者)

本日は、「集患増患ができるクリニック経営のポイント・事例紹介と注意する点」と題しまして、株式会社ラカリテより、コーディネーターの鈴木伸(すずき しん)様にお越しいただきました。よろしくお願いいたしますします。

鈴木様)

本日のテーマとしまして4つご用意しています。

1つめが集患・増患のポイント、2つめが設計のポイント、3つめに改修工事の事例を紹介します。最後に、医療施設の設計についてお話をしていきます。

=株式会社ラカリテ・概要=

人に伝えたくなる医療福祉施設創り/口コミで広げたい居心地の良い空間作りのプロフェッショナル

住宅や商業施設などからも学びアイディアを吸収しつつ、医療に特化したサービスを展開。提案力を強みとする。

開業後の改修・補修・継承・医療法人化後の分院展開も行っている。

http://www.laqualite.jp/

集患・増患のポイント

集患・増患対策にはいろいろあると思うんですけれども、正直「これが正解」というものはありません。今回設計の視点からお話していきますが、やっぱり設計だけでできるものではないので、トータルで行ってもらえればと思います。

その理由としまして、やっぱり科目によって、集患増患対策のポイントが異なったりですとか、患者層エリアや患者潜在層の特徴が異なりますので、プロモーション(の対象に)するところが変わってきます。

患者さんからの認知や、それを獲得するための告知も大切ですね。

ある設計につきましては、ハード面だけでなくてソフト面、いわゆる人のところというところも大切になります。あと集患増患対策って意外と予算がかかりますので、どこまでやるのか、どれを優先順位をつけてどれを行うのかというところを考えていただければと思います。

大きなポイントとしまして、やはり「競合となっているクリニック」がいると思いますので、そのクリニックが何をしているのか、そこに対抗して何をすればいいのか?っていうところを考えていただければいいのかなと思います。

まずは、集患・増患対策として一般的なものを挙げていきます。

1つがクリニックのホームページ、あとポータルサイトへの掲載や、ホームページのSEO・MEO。ほかにはSNSですね、LINEやインスタなどです。賛否両論あると思いますけども、こういったところを活用してる先生も増えています。

ほかには看板やサインチラシ、あと広告を打ったりも、集患・増患の方法としてはありますよね。

開業前には内覧会を行ったり、あと予約システムで患者さんの方の習慣対策を行ったりもあると思います。

ほかにもいろいろいろありまして、その中でも今回、私が担当する「設計」というのは、この図では青い色をつけているところです。感染症対策とアメニティですね。

やはり集患・増患対策というのはどれか1つではなく、他のものもトータルで行っていただく必要があると思います。

続きまして、「クリニック創りでできること」です。

クリニック創りでできること~コロナ禍前~

コロナ禍前までは、クリニックのポイントとしては、いわゆるバリアフリーがありました。とくにご高齢の方が多いところの場合は、手すりを設置したり、トイレの大きさを重視したりとかですね。

廊下にも手すりをつけたりですとか、あとエリアにもよりますけども土足対応をしたりですとかもありました。それから、ウォーターサーバーや空気清浄機、加湿器、アルコール消毒液の設置などもですね。

ただ、コロナ禍以降は、やはりこのあたりも変わってきています。

クリニック創りでできること~コロナ禍後~

まず1つ、感染症対策(に力を入れる必要があります)。

「抗ウイルス」とか「抗菌仕様」のものが多く導入されたり、 待合室に対しての考え方が変わっています。

コロナ禍の前は、椅子を雑然と並べてるところがあったんですけども、いまは間隔を空けて配置したり。

あと手洗い器ですね。図の上段・左から2番目のクリニックさんの場合は、受付の横に(手洗い器を)置いてあるんですけれども、(コロナ禍になってからは)患者さんも手を洗う習慣ができていますので、待合室の中に手洗い機を設置する、ということも増えてきています。

あとは換気ですね。たとえば空気清浄機は以前はホームセンターとかで販売するものが多かったんですけども、今はもう業務用が多くなっています。主に小児科さんですとか婦人科さんとかでは、業務用の空気清浄機を選定するクリニックさんも増えてきてます。

プラスしまして、発熱外来室を設けたり、発熱外来の診療時間を分けたりするクリニックもあります。オンライン診療や予約システムを導入して、クリニックの中に患者さんがいる時間や人数を調整していく先生方もいらっしゃいます。

自動精算機も、受付カウンターの上に置く小型のタイプと自立型っていうものがありまして、どちらを入れられますかっていうところですとか、あと換気扇を増やして空気循環の量を増やしていくっていうところもあります。

ほかにも、診察室の扉に自動扉を行うクリニックさんが増えてきたりですとか、あと自動扉の導入も進んでいます。あるクリニックさんでは、お手洗いのドアの開け閉めっていうのを、もうこれ非接触でするという形をさせてもらったりということもあります。

待ち時間の対策では、Wi-Fi 環境やコンセントの充実を図るところが多いです。待っている間、患者さんには携帯を見てもらう、ということですね。会話を減らさなきゃいけない中で、もし待ち時間が多少長くなっても、こういったものがあれば、患者さんの方の気分を害すことが少なくなるってことで環境を整えています。

体温測定の機械を入れさせてもらったり、受付のカウンターには感染症対策として、アクリルパネルやビニールカーテンを設置するクリニックさんとかも増えてます。

こうした取り組みについては、やはり「感染症対策をやってるんですよ」ってことを患者さんに伝えるということが大切です。競合の医院を調べてもらって、そこが行ってないことをプロモーションしてもらえればなと思います。

「伝える」ことの重要性

こちらが1つの事例ではあるんですけども、ホームページでしっかりとこういった対策してますよっていうものを謳ってます。

やっぱり今、患者さんはホームページを見て来院することが多いので、そのホームページ上で「感染症対策を行ってますよ」っていうところでわかりやすくアピールするといいですね。

図の左側、わかりづらいかもしれないですが、これは「紫外線を出して空気をよくします」みたいな照明器具を導入したことを知らせていますね。

図の右側だと、パネルでの院内告知の例ですね。クリーニングとかしたときとか、あと光触媒とかを噴霧するなどの感染症予防対策をした際に、こうしたかたちで告知しておくと、ただやってるだけにならず、患者さんに対して、安心安全なんですよというところのアピールにもなります。

ただやっただけでこういった告知をしないと、せっかくやったのに伝わりません。伝わらないってことは「対策してない」と思われることもありますので、ここら辺は注意をしていただいた方がよろしいのかなと思います。

設計のポイント

続きまして、設計のポイントをお話ししていきます。

設計のポイントとしまして、大きく分けて3つございます。

1つは、患者さんがどこを気にするのかっていうポイント。

あとスタッフさんが動きやすい導線をつくること。

最後やっぱり、気になるとこだと思います。金額のところですね。以上3点についてお話をさせていただければと思います。

患者さんが気にするポイント

まず患者さんが気にするポイントとしまして、こちらの5つがあります。

受付の視認性

受付の視認性について気をつけていただきたいところですが、入ってきた患者さんから、スタッフさんが見える・わかるっていうところが1つのポイントとなります。

ちょっと逆の発想になっちゃうかもしれないんですけども、座席で座ってる患者さんの視線というのは、なるべく受付以外へ向けてもらってる方がいいっていうのがポイントになります。

最近は患者の待合室に滞在する時間が短くなってますので、そこまで心配しなくてもいいところもあるんですけども、やっぱり患者さんが待ち時間長くなってきますと、だんだんイライラしてくる方もいますので。

そういった方が受付に目を向けると、受付のスタッフさんはやっぱりプレッシャーを感じちゃいますよね。こういったところで、視線を遮るような配置や形にしてもらう方がいいのかなというのはあります。

患者さん用トイレ

続いての患者さんが気にするポイントは、患者さん用のトイレです。

やっぱり扉を開けたときに便器が見えるですとか、出入りする姿を見せたくないっていう方がいらっしゃいます。そこら辺の配慮というのをしていただいた方がいいのかなとは思いますね。

あと女性専用トイレを求める女性が増えてます。喫茶店とかホテルにも、女性専用トイレ等が増えてきてますよね。やっぱり今の世間のニーズとして「男性が使ったあと使いたくない」という女性の方は増えてきています。こちらについても、配慮していただいた方がいいのかなというところです。

ほかにも、清潔感ですとか遮音性ですね、あと仕様によって広さとトイレ変わってきますので、大便器と小便器を入れるケースもあったりですとか、お子さんのベビーキープとオムツ台をご用意したりですとか、あと車椅子への対応なども気をつけていただければと思います。

レイアウトのわかりやすさ

診察で呼ばれたときなど患者さんが動くときに、どの部屋に入ればいいのかいいのかが(一目で)わかる方がいいのと、呼ばれてから診察入るのに、移動が短い方が回転率がいいですね。

1つの例としましてわかりやすいところで言いますと、整形外科さんですね。患者さんが高齢の方で、足があまり動かないと。呼ばれてから診察室入るまでに1〜2分かかったとしましょう。もし同じような患者さんが10人いたら、それで10分20分のロスになってしまいますよね。この辺りのことも考慮して、移動距離は検討していただく方がいいのかなと思います。

ほかには、特にいまはコロナ禍というのもありますけども、「混雑する箇所」を作らないように、会計時や受付時に注意をしていただく方がいいのかなと。

案内のしやすさも考えておきたいですね。受付のスタッフさんに「どこに行けばいいですか?」みたいな質問が多いとそのたびに仕事が止まってしまいますので、なるべく説明がなくてもわかりやすいようなレイアウトにしてもらってる方がいいのかなと。

ただテナント開業の場合、テナントの形状によって無理が生じる場合もありますので、こういったときは院内サインとかで案内をしていただくのがいいのかなとは思います。

そのほか、診療科目によって室名サインを変えていただくのも1つのポイントかなとは思います。

写真は小児科さんの例なんですけども、診察室1ってことで1匹の小鹿がいまして、診察室2にはゾウが2頭いますよ、みたいなところですとか。あと眼科さんとかですと室名サインを大きくしてあげたりですね。高齢の方が多いところはなるべく文字は大きい方がいいのかなというのがあります。

あと、院長室やスタッフルームっていうのは、なるべく待合に面さないところの奥の方……患者さんが入らないエリアにしてもらってる方がよろしいかと思います。

プライバシーの確保と配慮

プライバシーに関しては、先生方が思っている以上に敏感な患者さんが多いです。

会話の内容が漏れていないかとか、診察中、他の患者さんに会話が聞こえていないかとか。待合室から診察室の中が見えていないのかとか。

こういったところを気にされてますので、どうやって見えないようにするのか、音漏れに同対応するのかを考えていただく方がよろしいかなと思います。ただ実際、完全な対策ってのは難しいです。

そのため、たとえば音については待合室で音楽を流して会話の内容を聞かせないっていうところですとか、あと待合室の椅子の配置に工夫して中を見せない形にしたり、なるべく診察室から遠ざけたりとか。そういった配慮をしていただいた方がよろしいのかなと思います。

スタッフが動きやすい導線について

スタッフさんの動線についてですが、まずは「裏導線の確保」っていうのが大事なポイントです。

裏動線の確保

裏導線というのは、ここに書いている通りスタッフ導線のことを指してまして……一般的に、僕らの世界では患者さん導線のことを表動線、スタッフさんの動線を裏動線とお伝えしています。

なぜ裏導線を確保するかといいますと、患者さんとスタッフさんがバッティング(接触)する場所はなるべく少ない方がいいからです。

わかりやすいところで言いますと、待合室で患者さんとスタッフさんがすれ違ったとき、患者さんから声をかけられると、そのスタッフさんは仕事が止まってしまいます。

それによって診察できる患者さんの数が少なくなったり、診察の効率が悪くなったりもしますので、なるべく患者さんがスタッフさんに声をかけるのは受付だけにしてもらってる方がいいです。

また、裏導線(スタッフ導線)を作ることによって、スタッフさん同士の会話を患者さんに聞かれないようにもできるので、そのあたりも考慮されると良いかと思います。

収納と倉庫

この辺りは設計士のテクニックになるかと思うんですけども、やはり先生方が思いつかないところが多いところになります。

収納倉庫っていうのはいろんなものが増えてきますので、効率を考えていただくように検討してもらってる方がよろしいかと思います。先生方が思っている以上に、書類とか物品ってのは増え続けます。

院長室・スタッフルームの配置

先生によっては、院長室とスタッフルームを離すケースも増えてきています。やっぱり休憩してるスタッフの声が聞こえたり、反対にこっち(院長室)の話を聞かれるのが嫌だっていうのもありまして。

あと、テナントの面積によりましてこういったものが作れない場合ですね、スタッフ室が更衣室になったりとか、院長室を作らないってこともあります。

ただ、院長室を作らないときに注意していただきたいのが、重要書類や金庫の保管場所をどこにするのか?といったところや、他のスタッフに聞かれたくないときのスタッフの面談などをどこでやるのか?に気をつけてもらってる方がよろしいかと思います。

1つの事例としてこのような図をご用意しました。赤いのが表導線(患者さんの動線)で、青いのが裏動線(スタッフさんの動線)です。

バッティングするところは基本、受付前になってます。そこ以外はバッティングしない形で(患者さんを)迎えられる形にしています。

こういった形で、両方の動線を分けてもらうほうがよろしいのかなと思います。

気になるコスト

続きまして、コストについてお話ししていきます。

いくつかテーマを記載していますが、まず初めに、簡単な質問をしたいと思います。

初めての登山に行きます。登山用品を買うとき、誰に相談しますか?という質問です。

答えとして、A.初心者、B.経験者、C.専門店と選択肢があります。基本的に、ここは経験者や専門店の方に聞く方が多いのかなと思います。

では続きまして、ペットボトルのドリンクを購入する際、どこのお店で買いますか?という質問です。

同じものに100円〜150円の値段がつけられています。一般的に、近くにあれば100円の方をお選びになるかなと思います。

続きまして、車を購入する際、どこのお店で買いますか?という質問です。金額は1000万、1300万、1500万とあります。車の場合、先ほどのドリンクと違ってオプションや付属品をどうするのかで、物自体が多少異なってきます。

実際、車の場合はショールームなどに行けますので、そこで実物や見積書を見ながら決めるのかなと思いますんで、これは多分、どの店舗も選ばれるのかなと思ってます。

概算見積書について

では実際に工事についてです。クリニックを開業するときや改修工事のときに、3社に見積もりをお願いしたとして、どこを選ぶのか?についてですね。

ここで注意していただきたいのが、先ほど例に出した車の場合は見本があって、触れたりとか試乗体験できたりするんですけども、工事や設計の場合は、ここでわかるのは、平面図と金額とイメージのものが多少あるかないかぐらいです。

なので、「金額だけで判断をしないで欲しい」んです。理由として、大体どの会社さんも「概算見積書で出します」って言うんですけど、この「概算」という言葉は、広辞苑から拾いますと【おおよその見積もり、あらましの計算】という意味になっています。

見積もりした側が大体の数量とか設備というのを想定して算出するので、今後の打ち合わせを行って金額に変更が生じることもありますし、各社の想定する内容がバラバラなので、どうしても金額差が出てきます。

じゃあ概算見積書ではどこを見ればいいのかっていうところなんですがーー

概算見積書を見るときのポイントは、表紙の総額ではないです。

2枚目とか3枚目にですね、工事の大項目を書いてるところがありますので、ここを比較してもらいたいと思います。

プラスして、見積もり条件って書いてあるんですけど、この見積書に含まれているものと含まれてないものってのがありますのので、しっかり見てください。

「A社にはこれが入ってるけど、B社にはこれが入ってないから安いんだな」というのも実際ありますのでしっかり見比べていただいて、なんとなくの予算感ってのをつかんでいただく方がいいと思います。概算見積書を相見積もりをした場合ってのは、見積条件が違う可能性がありますので、注意が必要です。

平面図面の違い

たとえば開業するときに、99. 95平米でこれ30坪ぐらいなんですけども、要望として受付とか待合室、診察室とトイレとか、同じような要望をいろいろな会社にお願いしたとしましょう。そのうち3社(A社、B社、C社)から見積もりが上がってきましたと。配置は同じです。

ただ、中身が違います。工事金額もこれ正直バラバラです。こういった場合に、どこが高くてどこが安いのかっていう話になるんですけども……答えとしては、1番高いのがB社で、1番安いのがC社です。

理由は、診察室の入口ですね。まず1つのポイントとして、C社はカーテンにしているので空間が広くなっています。一方B社はプライバシーを確保して扉にしていますので、ここでまず部屋数が多くなっています。部屋数が多いと、換気扇や、煙感知器・非常照明などの防災設備、あとエアコンの台数も増えてきますので、当然金額の方が上がってきます。

C社が安い1つの理由としては、X線室なんですけども、ほかの2社は2枚扉を用意してるんですけど、C社は扉が1枚になってます。X線室は当然鉛の扉を入れますので、1つ当たりやはり30〜40万かかってきます。この数が少ないとコストは安くなります。ただ保健所によって基準に満たないこともありますので、そのあたりでも注意していただく方がいいのかなというのがあります。

平面図からコストの違いが判明できるものっていうのが限られてまして、なんとなくわかるのが扉の仕様とか数。造作物(受付カウンターなど、制作するもの)がどれほどあるのか。

実は平面図面からわからないものって多々ありまして、防音性や遮音性をどうするのか、既製品を使うのか、造作物を使うのか。

などなど、そういったものがわかりませんので、やっぱりここに金額差ってのは影響してきます。しっかりと確認していただく方がよろしいです。

仕様変更の例

一例ですが、扉だけでもこれぐらい種類が分かれています。

トイレに関しても、大きくタンクレスというトイレとタンク付きというトイレがありまして、ここだけでも金額差が倍以上違ってきます。

デザインだと、「安くしたいから、色は白でいいよ」みたいなことをおっしゃる先生いらっしゃるんですけど、これA案B案って素材は同じで色を変えてるのを選んでいますけれども、これ金額差は変わらないです。色はプリント技術が上がってますので、どの色を選んでいただいても基本は変わりません。

素材を変えたときに金額が変わってきますので、なるべくイメージに近いものをお選びいただく方がよろしいのかなと思います。

あとテナント開業時にの話になるんですけども、いわゆる引き渡しの条件によって金額差も変わってきますので、この辺も注意が必要になります。

スケルトン(何もない状態)なのか、事務所使用という付帯設備(照明・エアコンなど)があるのかないのかですとか、あと入り口の扉が初めから自動ドアになってるのか、もしくは普通の扉になってるのか。当然ここでもし自動ドアに変えるとなりますと、扉を撤去して変えなくちゃいけないんでやっぱここでこれだけで100万円近く変わってきます。

あとわかりづらいかもしれないですけど、段差ですね。エレベーターホールと内部の段差があるのかないのか。ここによっても、バリアフリーするために床を上げなきゃいけないって工事が発生しますので、金額上がってきます。ただその分水回りの排水が比較的自由になってきますので、どちらを優先するのかっていうのがあります。

あと、エアコンですね。室外機を1階の裏に置けるのか、屋上なのか。仮に屋上の場合、ルートがなければクレーンを使わなくちゃいけなかったりとかします。そういったところで、商品代以外の工事金額ってのが上がってきますので、これも実は大きいところになります。

床の状態で書いていますが、とくに古い建物が多いんですけど、テナントが何個も入れ替わると床の状態に凹凸が現れます。そのままだと仕上げ材を張れないので、この場合レベラーという薄いコンクリートを巻かなくちゃいけないので、その分の金額差ってのが出てきますね。

夜間工事になる場合でも、職人さんの人件費が上がったりですとか、夜間の搬出入をしなくちゃいけないので運搬費も上がってきます。そのテナントがいつ(搬入作業を)できるのかを確認いただく方がよろしいです。

追加工事の注意点

追加工事とは、工事請負契約後に発生する仕様変更や追加に関する工事を指します。正直、これはなくしてもらった方が先生にとってはいいです。

理由としましては、相見積もりのときってどの会社も結構、金額頑張るんですけど、もう決まった後ですと、頑張らなくてもよくなっちゃいますんで。値引き率が下がったりとか……。なので、金額交渉もしづらかったりします。追加工事はすでにお願いしている業者さんに依頼するので、金額面ではデメリットになりそうです。

ここで、なぜ追加工事が発生するのか?というとですね、やっぱり仕様確認不足とか、先生と担当者との認識相違とかがあります。余計な出費を増やさないためにも、なるべく全て要望を伝えて、確認してから契約の方をしてもらう方がよろしいかと思います。

追加工事で見落としがちなポイント

追加工事になりやすい項目としては先ほども少し話しましたが、図の通りです。

それから建築内装の話じゃないですけども、電話設備にも注意が必要でして、例えば田兄は、ビジネスフォンとホームテレホンとあります。ビジネスフォンを導入する場合は工事も必要になってきますので注意が必要です。

それから院内警備を行う場合、警備会社さんは早めに選定いただく方がよろしいのでこれも注意が必要となります。

じゃあ実際、追加工事をどうやって防ぐのか?っていうところなんですが、先ほどお伝えさせていただきましたように、やっぱりなるべく全部決めてから発注や契約をすることです。

事例紹介~改修工事~

本日のクリニックの先生方も多いと伺ってますので、ちょっとここで過去の事例の方を参考として、改修工事の説明をしてきたいと思います。

まず1つめは、受付周りを交換改修した事例です。

内容としましては、この既存のカウンターの衣装を変えてます。あわせて、その後ろにある壁は壁紙や仕上げ材を変えています。

柱や梁にはアクセントになる色を入れ天井をより高く見せたりとか。床も変えてます。あとは照明器具も交換していますね。

当然、規模感によって違うんですけども、大体1週間ぐらいあればここら辺のところはできるかなと思います。

改修工事の注意事項として、工事期間に合わせて、工事する環境を整えなくてはいけません。工事する該当箇所の医療機器などを動かさなくちゃいけなくなります、スタッフさんや医療機器会社さんにご協力お願いしなくちゃいけないので、だいたい工事期間プラス予備日として2日間見てもらってる方がいいです。

場合によっては休日出勤をしてもらわなきゃいけないってのもあります。そうなると人件費のコストですとか、工事費以外のところもかかってきますんで、ここら辺も頭に入れていただく方がよろしいのかなというのがあります。

もう1つの事例は、居抜きのクリニックを改修したときのものです。

内容としましては、床・壁・天井の仕上げ材を全て張り替えたり、診察室の扉と照明器具等も交換しています。

居抜きクリニックの場合、設備関係が古くなってることが多いです。とくにエアコンとかトイレ、そのあたりは交換した方がよろしいのかなと思います。

こちらは大体1ヶ月間ぐらい工事を行いました。先生が水槽を入れたい、ということでしたので、少し壁のところを壊して水槽が入るスペースを作ったりもしています。

続きまして、トイレの改修事例です。

これもこちらの方はそうですね承継会議をしたクリニックさんでした。トイレを1回全部解体して、そこから新しいものを入れていますね。

工事期間5日間と書いてありますが、トイレだけなら実際もっと短くできます。

ただ、やっぱりこれぐらい見てもらってる方がいいのかなと思うので、ここを目安としています。

こちらは手洗いコーナーを交換しています。

こちらの場合は、「手洗いの数を増やしたい」ってところで、周辺の壁もも解体して、部屋を広くしたりしています。ほかにも床や壁、天井、手洗い器も変えていますね。

だいたい10日間ぐらいで完了しています。

続きまして、こちらは承継開業に伴いクリニックをほぼ全て1回壊しましてリニューアルをしました。

なぜここまでしたのかって言いますと、親の先生と子供の先生で診療科目が違いますので、やっぱり導線が変わったりとか、親の先生の開業時と今とでは、プライバシーの考え方が違うなどの理由があります。受付自体も場所は変えてないんですけど、ちょっと広くしていますね。

診察室も広い空間だったのを、ベッドと椅子と机の配置に変えて、部屋を1つ増やしています。

ここに関しましては、2ヶ月の工事期間もらいました。

ここは親の先生が建物所有してまして、空いてる部屋がありましたのでそこで仮設診療所を作って、1回そこに移動して診療をやってもらったというエピソードもあります。

まとめ

それでは、まとめに入りたいと思います。

医療施設の設計における注意点

医療施設の設計が、誰でもできるってわけではありませんので、ここ注意してもらった方がよろしいのかなと思います。

注意するポイントとしまして、先ほどお伝えしました導線のところ。患者さんのプライバシーの部分。あと電気容量の確保です。特に大型の医療機器を入れる場合は電気容量が足りるかどうか、増やせるかどうかも重要です。

設計時には、先生が入れられる医療機器とか備品のサイズの確認をしておくといいと思います。もしサイズが分かれば、担当者に「これを入れるんですよ」と伝えておくと搬入等が搬入等がスムーズです。

医療機器の搬入経路も結構重要です。昔聞いたことがあるんですけど、レントゲン室作りました。ただ機械が入らなかったと……。

扉のサイズとかですね、機械の大きさとか確認しておく方がよろしいのかなというのがあります。

X線の遮蔽工事はできる会社さんが限られてますし、絶対に漏えいさせちゃいけないので、責任施工っていう形になりますが、やっぱり専門業者さんにお願いするのがいいです。

それから、医療機器に伴う給排水やガス仕様の有無の確認も必要です。

特に重要なのが保健所の検査です。保健所によって見解が異なることは多いです。この保健所はOKでも、他の保険所じゃNGってこともありますの。ここら辺手馴れてる方にですね、確認してもらってる方がよろしいのかなと思います。

設計における注意しなくちゃいけないところというのは多々ありまして、大なり小なり、必ずと言っていいほど開業前後はトラブルってのが発生してきますので、開業する際改修工事もそうなんですけども、やっぱり経験値が高い会社を選ぶ方がリスク回避になります。

業者選択の重要性ですね。

これは先ほどの質問ですが、やっぱり経験者の方に相談してもらうのが一番です。

ただ、工事会社によっても得意な部分と不得意な部分があります。弊社も医療設計は得意なんですが、飲食店やマンションは正直苦手なので、なるべく手を出さないようにしています。

そういった経験値についても、豊富なところにお願いするほうがいいです。

特に重要なのは「担当者」ですね。結局は先生と打ち合わせするのはその会社ではなくて担当者なので、その担当の方がどれぐらい実績を持っているのかは見たほうがいいです。特に先生と同じ科目をどれぐらい受け持って来たのかを確認しましょう。

どうしても経験しないと、生が気づかないところでのアドバイスや提案ができなくなりますので、相手がどういう人なのかはしっかりと見ましょう。医療用語は理解しているのか、医療機器に精通しているのかも含めてです。

工事が終わったから翌日から開業できるかと言ったらそうではありませんので、ここら辺のスケジュール感をわかってるかと、先生が開業するときいろいろな関係者と連携ができるのかっていうところが重要になってます。やっぱ業界狭いので、先生が気づかないところで、裏側でですね、いい方向に進めてるケースもあります。

そういったところも含めて、慣れてる方、意思疎通が図れる方をお選びいただく方がいいと思います。

反対に危険なパターンとしては、書いてある通りですが、

設計は、パズルの組み合わせみたいなところもあります。先生方にも当然「こうしたい」「ああしたい」はあると思います。でもパズルのようなものだからこそ、できないこともあります。

ですので、なんでもかんでも言った通りにするところには、気をつけてください。

「これをやるにはこういったデメリットがあるんですよ」っていうのを話さなきゃいけないところをただ言われたままやって、ダメだったときに「先生がこういうふうにしたからこう作ったんです」って言われることもあります。

作り直すのは大変ですので、やっぱりそのときでリスクがわかるものを、会話で話をできる人を選ぶ方がいいのかなってのがありますね。

金額のところでは、住宅専門会社やリフォーム専門会社が見積もりに参加することがあるんですけど、金額正直すごい安いです。

なぜこんなに安いのだろうと僕も思うぐらいなんですけど、そういった場合には比較的、見えてないところが多かったりですとか、逆にその分(担当者がわからないことが多くて)先生が動かなくちゃいけない場合があります。

結構開業前の忙しいときに先生の負担が増えてしまって、ストレス激増することがありますので、注意をしていただく方がよろしいのかなと思います。

これらを気を付けるだけでも追加工事の発生数が少なくなってきます。追加工事が増えると、事業計画が崩れる場合もあります。一度崩れてしまうと、医療機器が入らないとかそういったところにも影響してきますので、なるべくここら辺は気をつけていただいた方がよろしいのかなというのがあります。

内装費建築費の注意事項

いわゆる一般的な坪単価って正直、信憑性がありません。

ある程度正確な数字を出そうと思ったら、先生がどういう診療をしたいのか、どういう部屋が欲しいのかっていう要望を確認したうえで現地を見てみないと出せません。

逆に先生の要望も曖昧な形で伝えて、現場も見ずに金額を言う業者さんはちょっと避けてもらった方がいいのかなと思います。

見積もりの内容……ちょっとさっきの話と重複しますが、やっぱり現場確認しないとですね、わからないことって多々あります。現場行くのか行かないのかっていうところで、行く方を信用してもらった方がいいのかなってのはあります。

造作家具の増加については、どうしても作らなくちゃいけないものと、既製品で対応できるものってのがいろいろありますので、バランスを見ながらお選びいただければと思います。

例でいうと、患者さんが使うところは制作で、スタッフさんが使うところ(患者さんに見えないところ)は既製品みたいな形で区別してもらってる方がよろしいかなと思います。

最後、仕様の大幅アップをすると、コストが上がってきちゃいますんで、低くコストを抑える部分と、ここはちょっとコストかけようって部分を検討してもらうといいかなと思います。

まとめ

まとめとしまして、増患のためにはハード面もそうですが、ソフト面を重視することも大切です。

患者さん目線で物事を考えてもらって、清掃やメンテナンスも定期定期的に行ってもらったりですね。

それから、余裕を持ったスケジュールで行動しましょう。時間的余裕がないと考える時間が少なくなってきますので、結局もっと考えればいい案があったのに、もうこれしかないからこれせざるを得ないってなったときに、コストアップに繋がりやすかったりします。

僕ら内装屋さんの方も、工事の依頼を受けるときに前もって言ってくれたら人を抑えることできるんすけど、ギリギリだと抑えづらいので、そこで人件費が割高になってくる場合もあります。なので、注意してもらえるといいかと思います。

また、資金調達に時間がかかる場合もありますのでご注意の方お願いいたします。

最後に重要なところとして、医療施設設計の経験豊富な会社を選んでもらう、特に担当者を選んでいただくことです。そのほうが、ストレスはたまらないはずです。

アフタートーク(Q&A)

Q.継承開業にあたり、改装時の設計についての注意点は?

A.クリニックの図面がある図面は全部出して欲しいですね。

改装のとき1つ注意ポイントとして、クリニックの図面がどこまであるのかを確認してください。電気やエアコンの系統等をたどっていくと、改装の対象に該当しないエリアにも影響してくることがあります。もちろん当然現場を見て、どういうシステム構成になってるのかっていうところも見ていきます。

Q.新規開業の場合の注意点は?

A.開業までのスケジュールを把握することが一番大事かなと思います。

新規開業には各ステージがありますので、このステージで、先生はいまどこにいるのかっていうのがわかるのと、この時期にこれやった方がいいですよってのがありますので、そういった指標を見ながら、まずやってもらうのがいいかなと思います。

Q.患者様従事者、どちらの動線を優先すべき?

A.私個人の意見ですと、やっぱりまずはスタッフさんの動線を考えてもらったほうがいいかと思います。

立派な外観を作っても中が非効率になってしまいますと、もう1人スタッフさんを配置しなくちゃいけない等が出てきます。その分人件費が上がったりもしますので。

Q.在宅診療で開業するときのポイントは?

A.荷物を置く場所への動線を考えてもらえるといいかと思います。

患者さんのご自宅に行くって形になりますんで、たぶんバッグがいくつかありますよね。その保管場所とその導線に注意してもらった方がいいと思います。

Q.レイアウトリニューアルを行う場合、診療も同時に行う効率的な方法はある?

A.診療を止めずに改修工事をやったケースもありますが、工事中に患者さんも来ますので、非効率になってくるのは正直な話ですね。

夜間のほうがいいとかってなると、また費用の面がいろいろかかってくるというところですね。

Q.新築戸建てでクリニックを立てる場合、目安の施工期間は何ヶ月ぐらいが一般的ですか?

A.5ヶ月~8ヶ月間ぐらいでしょうか。

ただし、木造なのか鉄筋なのかで規模感に変わってきます。あとはそのエリアによってですね。たとえば豪雪地帯ですと、やっぱりその真冬になると予備の月が欲しいってなります。

あとは面積が大きいと開発行為っていう行為にみなされる場合があります。そうなると、開発の申請をしなくちゃいけなくなります。その手続きで1ヶ月2ヶ月かかることもまれにあります。

あと用途というのがありまして、たとえば田んぼの場合は農業地から転用しますよって手続きを行政がしなくちゃいけないんですけども、これを許してくれるところと許さないところがありますので、そこで時間がかかることもあります。

Q.メンテナンスのポイントは?

A.メンテナンスについては、日々の清掃を行っていただくと内部メンテナンスの機会っていうのは少なくなって来ます。

ただ、床清掃などのクリーニング系は、患者さんの数にもよりますけども3ヶ月~4ヶ月に1回、半年に1回ぐらいは清掃を入れていただく方がより良いのかなと思います。

人に伝えたくなる医療福祉施設創り 口コミで広げたい居心地の良い空間作りのプロフェッショナル

特徴

・来院された方が家族やお知り合いに話したくなるクリニック創り ・ドクターやスタッフがより良い医療を提供できる働きやすいクリニック創り ・オリジナリティーあふれるクリニック創り ・災害に強く、安心・居心地の良いクリニック創り ・自社の作品に固執せず現状に満足しないこと

職種

設計事務所

依頼内容

店舗設計 店舗デザイン 内装施工 インテリアコーディネート

建築内容

診療所

診療科目

内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、

鈴木 伸

取材協力 株式会社ラカリテ | 鈴木 伸

2011年から医療施設に特化した設計事務所に勤務し、2021年12時点で150件以上の
医科クリニックの新規開業・分院開業・移転開業・承継開業による改修などに携わる。

【コラム執筆・取材協力】
■クリニック開業・経営 CLINIC Support(メドピア社)
『失敗しないクリニック開業物件選定』『医療設計の気を付けるべき落とし穴』
■Vetpeer~獣医師の情報交換コミュニティサイト~(Zpeer社)
『動物病院の医療設計(全15回)』 
■クリニック開業ナビ お役立ちコラム/開業・経営支援/開業準備(DONUTS社)
『クリニックの内装工事「発注前に必須の基礎知識」とは?』


他の関連記事はこちら

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


他の関連記事はこちら