発達障がいクリニックもコロナ対応すべき?〜梅華会・梅岡比俊先生の「クリニック開業・経営ベストプラクティス」#1〜

質問
「発達障害のお子さん向けのクリニックを運営しています。コロナ対応への設備としては足りない点が多いです。感染外来室を別に設けないといけないでしょうか?気持ちとしては発達障害の育児相談だけをやりたいのですが、発熱のあるこどもを受診拒否して経営していけるのか不安です」

今回は、兵庫県や東京都に計8クリニックを経営する、医療法人 梅華会の理事長である梅岡比俊医師に、発達相談(発達障害)に特化したクリニックを経営する医師から寄せられたお悩みに回答いただきました。

また本メディアでは、梅岡医師からクリニック開業、経営に役立つ情報を教えていただく記事を梅華会・梅岡比俊先生の「クリニック開業・経営ベストプラクティス」と題し、シリーズ化してお届けします。本記事は、その第一回目となります。

なお、以降は梅岡医師による回答となります。

梅岡医師の回答:コロナ対応の優先順位は高くしなくてよい

発達障害向けのクリニックもコロナ対応はすべきか、感染の外来室を新たに設けるべきかというご相談です。
梅華会は児童発達支援スクールも運営しておりますので、その経験から私の考えをご紹介します。

クリニックを選ぶ意思決定者=“お子さんの親御さん”の気持ちを考える

結論から言うと、発熱外来などのコロナ対応の優先順位は高くないと思っています。

まずコロナに関しては、第一波から第六波と実際の患者数が増えてきているにも関わらず、メディアが報道している感染者数と、重症者数やウィルスの重症化が非常に減ってきているということが事実としてあります。

参照元: JHU CSSE COVID-19 Data

そして、まず大事なのが、クリニックを選ぶ意思決定者、キーパーソンは誰なのかです。これは多くの場合、お母さんではないでしょうか。
例えば発達障がい児向けのクリニックをされている場合は、発達障がいをもつお子さんのお母さんがどう感じるかを考えなければなりません。我々医師がどう感じているかではなく、です。

お母さんが危ないと思ったらクリニックには来ないし、大丈夫だと思ったら来るでしょう。

仮にコロナ対応するとして、例えば隔離室や感染専用の外来室を設けるとなったときを考えてみてください。それはスペースを取るのみならず、ウィルスが入ってこないように換気の設備を整える必要も生まれるなど、色々とコストが掛かるのではないでしょうか。
その割には受けている患者さんの側が、もうあまり危機感を感じていないのではないかと思います。

私自身も2022年8月頃から海外に行っていますが、海外ではほとんどマスクもしていないし、隔離といった概念も全く感じません。

そういうことをやっているのは、世界でも中国と日本だけだという話もあります。
10年程前の鳥インフルエンザウィルスやSARSを例に挙げると、今ではもう、普通のウィルスと一緒になっています。ウィルスというものは、いつも人間と共存して生きてきているので、「コロナウィルスが消える」ことはなくても、徐々に弱体化し、インフルエンザウィルスとそう変わらないような季節性のウィルスになるかもしれません。こういった流れが今までも起きてきました。

今回は発達障がい者向けのクリニックの場合のご相談なので、もともと発熱の患者さんを診ているわけではないということを考えると、コロナ対応への優先順位は低いかなと思っています。

発熱患者の診察をしているクリニックや一般的な小児科では、元々隔離室を置いている場合がほとんどだと思います。
コロナが二類から五類に移行するのも時間の問題だろうと考えても、発達障がい者向けのクリニックが発熱患者を受け入れる体制を新たに作るのは、優先順位としては低いでしょう。

コロナ蔓延時の患者数など、事実を数字で把握する

また、現状を見る必要があるとも思います。
クリニックを運営されている方は、コロナが流行ったときにどのような人の流れになったのかを見てください。
第一波のとき、第二波のとき、第三波のとき、と分析していくと、実際のところ第六波に到った時、患者数と、外来受診者数が比例するのかどうか。

私の印象としては、比例しないような気がします。

第一波の時には、皆さんもちろん恐れたと思いますが、人には「慣れ」というものがあります。コロナに慣れたという面も影響しているかもしれませんので、これはしっかりと数字を分析する必要があるのではないかと思います。

コロナ当初は赤字。自費診療や開業医向けの新サービスで黒字化を達成

そんな私も新型コロナウィルスが流行し始めた年は赤字でしたが、自費診療やオンライン診療の導入、給付金や助成金を活用しながらなんとか厳しい状況を耐えしのぎました。その中でも一番大きかったのが、グループ会社で運営している開業医コミュニティM.A.F(https://maf-j.com/)の存在です。

M.A.Fではクリニック経営者向けにセミナーを開催していますが、セミナーの開催方法をリアルとオンラインで選択できるようにしたことで、全くコロナ禍の影響は受けませんでした。このときに売上の柱を増やすことの大切さに気付いたのです。

そしてこのタイミングで梅華会で新たに発達支援事業をスタートさせ、今では阪神間に3校のスクールを開校しています。

もともと少子化が進む日本で、もっと子どもたちの教育に携わりたいという想いがあったのですが、ご存じの通り今の制度で発達支援外来を行うとオンライン診療では報酬が1/3に減ってしまいます。そこで医師が介在しない形を模索し、コペルプラスの療育を取り入れることにしました。コペルプラスの療育であればオンラインであっても対面であっても報酬は同じになります。それであればコロナ禍でも安心して運営ができるし、売上の柱になってくれると思い、このタイミングでのスタートになったわけです。

その他にも、クリニックの関係者を対象にマーケティングセミナーを行ったり、クリニックのスタッフさん向けにコーチングを行ったりと、順調に売上の柱を増やしているところです。

とは言え、日々の診療業務とクリニック運営に忙しく、新たな事業を始めるのが難しいという先生方はたくさんいらっしゃるでしょう。

そのような先生方はできることから手をつけていけば良いと思います。

私は、今のポジションをベースとして、専門の医療以外にも幅広く目を向けるべきという考えです。保険診療以外で、患者さんに提供できるものはないかを考えることから始めてみるのはどうでしょう。そうすることで、クリニックに付加価値が生まれ、そのクリニックが選ばれるための動機付けになると思っています。

(編集:クリニック開業マガジン)

執筆 医療法人 梅華会 理事長 梅岡比俊

1973年生。
2008年、「梅岡耳鼻咽喉科クリニック」を開設。
2011年に医療法人梅華会理事長に就任し、分院開設。
以降は2021年までに分院・フランチャイズなど合わせて9つの施設を開設する。
『卓越したクリニック運営が日本に普及浸透し、関わる人々を幸せにする』をミッションに掲げた開業医コミュニティ「M.A.F ( https://maf-j.com/ ) 」も主催する。
トライアスロンやマラソンに挑戦するアスリートの一面や、野菜ソムリエ、歴史能力検定。ファスティングマイスターなどの各種資格も併せ持つ。


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