クリニックの開業に向いている物件、内装・外装で気を付けるべきポイントとは?|株式会社ラカリテ・鈴木さまインタビュー

クリニックを開業するにあたって、まずはじめに行うのが「物件探し」。

どんな立地を選べば患者さんに困らないのか?物件の内装はどうすべきなのか?などなど、気になることは多いのではないでしょうか。

今回はそんな疑問にお答えすべく、クリニックの内装設備を手掛ける株式会社ラカリテのコーディネーター・鈴木伸さまにお話を伺いました。

株式会社ラカリテ コーディネーター 鈴木 伸

2011年から医療施設に特化した設計事務所に勤務し、2021年12月時点で150件以上の医科クリニックの新規開業・分院開業・移転開業・承継開業による改修などに携わる。

クリニック開業に伴うコンサル業務の傍ら、CLIUSクリニック開業マガジンにてクリニックの内装工事「発注前に必須の基礎知識」等、取材記事の執筆協力や、開業セミナー・イベントでの講演も多数行っている。

 

目次
  1. クリニック開業に向かない立地・物件とは?
    1. 費用が余計にかかってしまうケースとは?
  2. クリニックの内装・外装について気にすべきこと
    1. バリアフリー
    2. インフラ環境
  3. クリニックの導線を考えるときに考慮すべきこと
    1. ミニマム開業の場合
    2. トイレについて
    3. 感染系について
    4. 待合室から診察室までの距離
  4. 内装素材のポイントについて
    1. 壁紙について
    2. 床の素材について
  5. 良い内装業者の選び方

クリニック開業に向かない立地・物件とは?

立地について、これはあくまで例となりますが、大通りで路面に面していても歩道がないとか、歩道があったとしても人通りが多すぎたり、反対に少なすぎたりするところはあまり向かないかなと思います。どうしてもクリニックの性質上、「患者さんが安心して入れるかどうか」が重要になってきます。

テナント物件の場合、例えばバリアフリーのために無理やりスロープを作っているところがありますが、そもそもスロープの勾配は1/12以下が福祉の街づくり条例(バリアフリー条例)として推奨しています。

そこを守ろうとすると、高さが仮に10cmある場合、スロープの全体の長さは1.2mくらい必要となってきます。

でも、その分のスペースが取れないこともあり、そうなると急角度となってしまい、車椅子の患者さんが来たときに、何かのはずみで飛び出してしまったりとかも考えられます。小児科のバギーとかもそうですね。また小児科の患者さんはお子様なので、勝手に飛び出してしまうこともあるかと思います。

重要なのは、クリニックがある建物が「分かりやすく、安心して入れること」ではないでしょうか。

他にも、近隣住民の方が多いクリニックでは駐輪場だったり、駐車場を作るスペースがあるかどうか?駐車場スペースが無い場合でも、乗り降りができるスペースがあるかどうか?は確認した方が良いです。

他には、「オフィスビル」の中でクリニック開業する時も注意が必要です。

オフィスビルはもともと、そこの事務所に勤務している人など特定の人しか利用しない建物となります。でも、クリニックは不特定多数の人が利用します。

クリニックが入居することにより、特定の人の利用から不特定多数の人が利用する建物とみなされ、消防法上の用途を変更しなくてはいけない可能性が出てきます。

防災設備の設置基準が厳しくなりますので、当然その分の費用もかかってきます。

しかも、クリニックが入るクリニック部分だけではなく、建物全体に設置となり、「この費用を誰が持つのか?」という話にもなります。オーナーさんから「クリニックの入居は不可」と言われる場合もあります。

この場合、この建物での開業を諦めざるを得ないことになりますので、事前に確認しておく方が良いです。

 

費用が余計にかかってしまうケースとは?

これは「開業に向き・不向き」といった話ではないですが、工事費用にはテナントの引き渡し条件や工事条件が大きく関わってきます。建物により条件はバラバラのため、条件を早めに確認することが重要です。

分かりやすい例えとして、「夜間工事しか出来ない」建物の場合、工事は夜しかできません。そうすると、工事費用は高額となります。

他には商業施設、駅ビル、大型オフィスビルなど、簡単に言うと「大型の物件」は内装工事に際し条件や制約が厳しいところがほとんどです。

たとえば、大きな建物にはスプリンクラーがついていることが多く、スプリンクラーがあるテナントに入る場合は、当然クリニックにもスプリンクラー増移設の工事を、部屋のレイアウトに併せて行わなくてはいけません。

スプリンクラーが無い建物はスプリンクラーの工事を行わなくて良いため(無床診療所の場合に限る)、この分の工事費用が大型の建物の場合、かかることとなります。

また大型の建物ほど、夜間工事を求められることが多いです。

 

クリニックの内装・外装について気にすべきこと

バリアフリー

クリニックは身体の調子が悪くなった方々が通うところなので、バリアフリー化するのは現在では当たり前のことではありますが、クリニックに入る前の建物自体でバリアフリーになっていない建物って意外とあります。

ほんのちょっとした段差などでも気にしなければいけないのですが、どうしても、そういった視点を持っている先生方は少ないです。専門では無いので、仕方のないことですので、そこは私たちの出番となります。

車椅子の患者さんを考えるのであれば、1人で通うことは少なく、付き添いの人と一緒に来ることが多くなります。それを見越した形でのエレベーターのサイズ、入り口や通路の幅、スロープ有無、外構部の勾配など、クリニックの中だけでなく、クリニックの入り口に行くまでの導線も含めて気にしておく方が良いです。

このような部分は先生方も考えていない訳ではないと思いますが、テナント内部に目が行きがちのため、抜けることが多いので、物件の内見を行う時には専門家などに同席を依頼することをお勧めしています。

また、「クリニックのある場所が分かりやすいかどうか?」や「分かり易く案内できるか?」は重要だと思います。

そもそもの立地もそうですが、建物によっては看板が設置できないこともあります。この場合、どのようにしてクリニックがあることを伝えていきましょうか?っていう所も含めて考えていかなければなりません。

インフラ環境

電気容量などのインフラ環境も重要です。これについては、開業時だけではなくて、将来を見越して確認して欲しいです。

まずは、導入する機器に見合った電気容量があるのか?無い場合には、増やすことが可能なのか?また増やせる場合、どのように増やせるのか?等となります。

電気容量も重要ですが、忘れてはいけないのが「排水の位置」です。

どうしてもテナントの場合、好き勝手に排水が出来る訳ではなく、決まった位置に配置されています。

排水位置が多いとトイレや洗濯機など、水回り設備の設置する場所が比較的融通することが可能となります。排水位置が1ヵ所しかないと、クリニックで使用する水回り(トイレ・手洗い・流し台・洗濯機など)を排水位置の近くに集約しなくてはいけないと言う水まわりの制約がされてしまい、診療スペースや患者さんの導線などにも影響が出てしまう場合があります。

そのため、排水があるだけではなく、いくつあるのか?どの場所にあるのか?が重要となります。

 

クリニックの導線を考えるときに考慮すべきこと

多くの先生方も調べていてご存知の方も多いことと思いますが、一般論としては、患者とスタッフの導線は分けましょう、というところです。

ミニマム開業の場合

ただそれだけじゃなくて、最近はミニマム開業を考えられている先生も多いので、「クリニックをコンパクトに作りたい」という希望もよくあります。

そのときに、通路をなるべく狭くしたいっていう先生は多いのですが、「荷物を持っている人同士がすれ違うこと」を考えた通路幅にしておかないと、あとあと窮屈な思いをするんじゃないかなと思います。

他には、椅子のスペースだけを考慮する先生がいますが、実際に人が椅子に座った場合、足が出ますので、そのスペースも考慮する必要があります。そこを考慮しておかないと、さらに窮屈となってしまいます。

トイレについて

他には、待合室のトイレの出入口は、なるべく待合室に座っている方の視線から見えない所にある方が良いと思います。

トイレは分かり易い所になくてはいけませんが、ほとんどは待合室に面しています。そのため、扉が開く時に便器が見えないようにしたりすることは重要です。

感染系について

コロナ時期を経たことにより、感染系を考える必要もあると思います。

分けるのか分けないのか?時間帯で分けるのか、などですね。

ただこれも、テナントの場合、例えクリニックの入り口で分けたとしてもテナントの入口やエレベーター、共用部の動線がそもそも全部一緒だったりしますので、どこまで感染対策を行うのかを先生と確認しています。

今だいぶコロナも以前ほど大きく取り上げられなくはなっていますが、気にする先生は多いです。

ただその場合はそれなりに面積取られたり、コストが上がってきたりもしますので、そのあたりはしっかりとご検討いただきたいです。

待合室から診察室までの距離

高齢者の患者さんが多いクリニックの場合、患者さんの歩くスピードがゆっくりなことも少なくありません。

そのため、呼び出してから診察室に入ってくるまでが長い患者さんがいます。1分2分かかることもあります。こうした患者さんが20人いたとしたら、単純に20~40分の診察ロスになります。

そのため、高齢の患者さんが多い場合は、「次の患者さんはここに来て待ってください」と言う次の診察の方の席や中待合室などの導線を作る方が良いと思います。

 

内装素材のポイントについて

壁紙について

壁紙はビニールクロスを使用します。

ビニールクロスは用途や目的に併せて、抗ウイルス、抗菌、汚れ防止、耐久、消臭、光拡散、マイナスイオン、抗アレル、吸放湿などがあります。

目的や用途もそうですが、色味(デザイン)で選ぶことが多いです。

やはり患者さんの層に合う色味を取り入れて、印象や雰囲気を良くしたいと言うことです。

男性の先生の場合は「かっこよくしたい」意識が働きますが、そうなるとクリニックの雰囲気に合わないこともあります。そのため、最終的には落ち着くナチュラル系になってくることが多いです。

色味で言うと、小児科が一番迷われるかと思います。

ナチュラルな感じにするのか、お母さんの層に合わせてエレガントやモダンなイメージを入れるのか、お子様に合わせて可愛らしくするのか、パステル調を取り入れるのかなどなど。

私が見て来た印象では、おおよその場合、最終的には先生の奥様が決めていらっしゃいました。笑

床の素材について

床は一般的に長尺シートか、塩ビタイルが多いかと思います。

長尺シートの特徴として、耐水性が高いため水回りや清潔を保ちたい部屋(診察室や処置室、内視鏡室、トイレなど)に適しています。塩ビタイルは強度が高く、タイルのため繋ぎ目があることから本物に近いように見えます。そのため、待合室など意匠や多くの人が長く滞在する場所に適しています。

 

良い内装業者の選び方

まずひとつめには、「担当者を見る」ことです。

先生ご自身がこれから開業する科目と同じ科目での実績が何件あるのか?はしっかりと確認される方が良いです。

クリニックの内装は、科目が違うと細かい部分の考え方も変わってきます。

導線1つとっても、そこが患者さんの印象や評判に繋がる訳ですから、大事にしてほしいと思います。

あとは、この内装のことについては、おそらく先生が分からないところが多いと思います。しかも、開業時に一番または二番目にお金がかかる部分だと思います。そのため、やはり「信用できる人間」であるかどうかを見てほしいです。

依頼する会社も重要ですが、担当者の方がもっと重要だと思います。

お金の面だけではなく、「やはりこの人に頼みたい」と思える人を選ぶのが、最終的には失敗しないと思います。

担当者が多く経験している場合、内装以外の部分も相談(セカンドオピニオン的なことも含んで)が可能となり、他の先生方の事例を参考にすることもでき、なにかトラブルが出た時にも迅速に対応してくれるなど、このような面も大事にしていただければと思います。

 

取材協力: 株式会社ラカリテ コーディネーター 鈴木 伸

人に伝えたくなる医療福祉施設創り 口コミで広げたい居心地の良い空間作りのプロフェッショナル

特徴

・来院された方が家族やお知り合いに話したくなるクリニック創り ・ドクターやスタッフがより良い医療を提供できる働きやすいクリニック創り ・オリジナリティーあふれるクリニック創り ・災害に強く、安心・居心地の良いクリニック創り ・自社の作品に固執せず現状に満足しないこと

職種

設計事務所

依頼内容

店舗設計 店舗デザイン 内装施工 インテリアコーディネート

建築内容

診療所

診療科目

内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、

鈴木 伸

取材協力 株式会社ラカリテ | 鈴木 伸

2011年から医療施設に特化した設計事務所に勤務し、2021年12時点で150件以上の
医科クリニックの新規開業・分院開業・移転開業・承継開業による改修などに携わる。

【コラム執筆・取材協力】
■クリニック開業・経営 CLINIC Support(メドピア社)
『失敗しないクリニック開業物件選定』『医療設計の気を付けるべき落とし穴』
■Vetpeer~獣医師の情報交換コミュニティサイト~(Zpeer社)
『動物病院の医療設計(全15回)』 
■クリニック開業ナビ お役立ちコラム/開業・経営支援/開業準備(DONUTS社)
『クリニックの内装工事「発注前に必須の基礎知識」とは?』


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