【開業医にインタビュー:吉岡範人医師(前編)】「新しいことをしないと成長しない」継承クリニックを成長させる極意とは

神奈川県横浜市都筑区の産婦人科クリニック『医療法人社団都筑会 つづきレディスクリニック』は、産婦人科でありながら訪問診療や医療脱毛にも力を入れるなどの画期的な試みにより、メディアからも注目を集めています。

院長を務めるのは、2019年に同院を承継した吉岡範人医師。
院長就任から3年の間にも新しい取り組みを積極的に行っており、患者数は順調に増加しているようです。ハイスピードで進化し続ける理由は一体何?お話を伺ってきました。

産婦人科医の父の背中を見て育ち、産婦人科医に

――まずは産婦人科医を志したきっかけを教えてください。

実家が産婦人科で、小さいころから医師として働く父親の姿を見て影響を受けてきました。
家族で旅行や外食に出かけている時、急ぎの対処が必要になり病院から呼び戻されることもあれば、家で過ごしている際、緊急帝王切開を手伝いにきた先生たちの食事のケアをすることもありました。

そういった状況の中で育ったこともあり、産婦人科医の道に進むことは自然でした。その後、救命救急の道も経験しました。診察をして患者さんとコミュニケーションする時間はもちろん大切ですが、緊急時にみんなが一斉に集まって山を乗り越えて、「がんばったね」と声を掛け合うようすに、育った環境の影響もあり、惹かれるものがあったからです。
自分の考えをかたちにしたい。常に新しいことに挑戦するため開業の道へ

――いずれは勤務医ではなく開業医になりたいという思いも、そのころから抱いていたのでしょうか?

いえ、もともとは勤務医として大学にずっと居たいと思っていました。そのほうが、よりレベルの高い医学を吸収し続けられると思っていたんです。しかし、実際に大学で働くようになってからは、やはり何をやるにも許可を得る必要があり、常に誰かの目を気にしないといけないことに一種の窮屈さも感じるようになりました。

もちろん、そうした環境下のほうが仕事しやすいという人もいるでしょう。でも、新しいことに挑戦し続けたい自分にとっては、他の環境の方が向いていると思うようになりました。

――お父様から学ばれたことも、独立を後押しする要素となり得たのでしょうか?

それも正直ないですね。当時は時代的にも、全員が同じ方向を向いているのが正しいとされる日本の教育もありましたし、開業医といえど、新しいことにチャレンジする人は少なかったのではないでしょうか。

一方で、今の自分がモットーとしているのは、「産婦人科の医療×プラスα」「既存値×既存値=ダイバーシティ」の言葉で表される世界観です。
既存のものに何かを掛け合わせることで、常に新しいものを生み出し続けたいと考えています。そういった考えを持つ中で、ちょうど当院の院長から継承のお話をいただきました。院長の体調の都合で、後継者を探していたところに運良くお声がけいただき、継承するかたちとなり、さまざまなサービスをかたちにできるようになったんですね。

開業から3年以上経ちましたが、クリエイティブな発想を持つことは意識しています。SNSなどを通して人とつながることにも時間を割いていますし、常にアンテナを張り巡らせています。

「既存値×既存値=ダイバーシティ」その一環として産婦人科で医療脱毛をスタート

――これまでにもさまざまな要素を掛け合わせたサービスを展開していらっしゃいますね。

そうなんです。僕はどんどん新しいことを始めてしまうので、時にはスタッフから反対意見があがることもあります。でも、一緒に話し合ったり、試しに始めてみたりして、患者さんに浸透しはじめると、スタッフ自らサービス改善のための工夫を重ねてくれるようになります。自分一人ではできないことばかりなので、いつも助けられています。
たとえば、「産婦人科の医療×プラスα」「既存値×既存値=ダイバーシティ」の一環として、産婦人科クリニックである当院で医療脱毛をスタートした時も力になってくれました。

――どうして医療脱毛を掛け合わせようと思われたのですか?

分娩時に会陰が裂けた際などに縫合しやすいよう、出産前は剃毛するのですが、医療脱毛を行えば、ほぼ剃毛しなくても済むようなお手伝いができるのではないかと思いました。さらに、産婦人科用検診台だと視野が取りやすくスムーズに剃毛できるので、レーザーを当てる場合も同様に、照射のムラが出ることなく施術できると考えたためです。

このVIOの脱毛サービスについては、どんな角度、どんな当て方だとより痛みを少なくできるかを、スタッフが中心となって意見交換しながら、日々工夫・改善してくれています。それもあって、以前の患者数と比べて倍増、週末などでは3倍以上に増えることもあります。

水泳選手も受験生も、目標に向かうアスリート。ピルでサポートしたい

――そのほかにはどんな「既存値×既存値」の掛け合わせを展開されていますか?

基本的に、他の職種の方とタッグを組むことが多いです。たとえば、歯科医と組んで妊婦の方の歯科健診を始めましたし、スポーツ医学と産婦人科の領域を掛け合わせることにも力を入れています。

スポーツ医学と産婦人科の領域をなぜ始めたかというと、自分自身、学生時代に水泳部だったこと、そしてスキューバダイビングのインストラクターとして活動していたこともあるほどスポーツ好きなことが関係しています。自分の専門分野を生かして、女性選手の健康およびパフォーマンス向上をサポートしたかったためです。
経験上、0.1秒を縮めることがどれほど大変か分かりますし、生理がある女性ならなおさらですよね。ベストな状態で記録に挑めるようピルを処方しています。

これと同じ考え方で、「産婦人科の医療×受験生」でもピルの有用性について多くの人に伝えていきたいです。受験当日の体調で、点数も変わってくるはず。
しかし、親世代のなかには未だにピルに対してネガティブなイメージを抱いている人が多いです。スポーツの記録を伸ばすためにも、受験を乗り切るためにも、ピルがどれだけ役に立つものであるかについて、正しい知識を発信していきたいです。

――常に進化するために考えているようすが伝わりました。最後に、患者さんを診察する際に意識していることを教えてください。

やはり産婦人科の患者さんは基本的に女性で、「女性医師に診てもらいたい」という方が多いのも事実です。ただ、自分が男性であることで、客観的な目線を持てるとも捉えています。女性とは違う視点でアイディアを出していけるのではないかと。

たとえば、生理がある人が誰かの生理の話を聞いたら、自分と比べてしまうこともありますよね?一方、生理がない男性は、体感できないからこそ自分と比較することなしに、相手の辛さや不便さを解消してあげられる可能性もあります。
そう考えると、「女性医師のほうがいい」という意見があることは、僕にとってピンチであると同時にチャンスでもある。


あとは患者さんが感じることが全てだと思うので、その姿勢を見て、自分に診てもらいたいと思ってくれる患者さんが増えてくださると嬉しいですね。

取材協力 つづきレディスクリニック 院長 吉岡 範人 医師

聖マリアンナ医科大学で初期研修を行い、産婦人科医として同大学にて16年間勤務。『婦人科腫瘍』を専門としながらも、周産期、更年期、癌患者に関わる妊孕性相談や不妊相談までを幅広く担当。その後2019年に『つづきレディスクリニック』を継承開業。“女性がいつまでも若々しく・活き活きと暮らしていけるお手伝いができるレディスクリニック”を目指し、これまでの医療にとらわれない柔軟なアイデアをもとに、患者さんに寄り添ったクリニック経営を行う。


他の関連記事はこちら

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


他の関連記事はこちら