麻酔医から医療脱毛クリニックの開業。コロナ禍における開業ポイントとは?

フリーランスの医師としてさまざまな病院で働きながら、医療脱毛クリニックの経営を手がける菅間氏に開業までに考えたこと、また今後開業を考える医師に向けたアドバイスをお聞きしました。

「将来はM&Aで病院を経営して、地域医療に貢献したい」という壮大な構想をもつ菅間先生は、早くから株や不動産投資をはじめるうちに、自身もクリニック経営を目指すようになった経歴の持ち主。

現在も複数の病院との間で麻酔科医として契約するかたわら自由診療のクリニックを伸ばし、今年2月には分院をオープンさせました。

しかしコロナによる開業直後の危機などを乗り越えたのは、適切な準備と集患の努力があったからです。保険診療でも学べるポイントが多々あるので、ぜひ参考にしてください。

※本記事に記載の情報は取材を行った2022年7月26日現在です。

恵比寿ブライトスキンクリニック経営者 菅間 剛氏

日本麻酔科学会 麻酔科専門医。2007年に慶應義塾大学医学部卒業。横浜市民病院、
慶應義塾大学医学部麻酔学教室、練馬総合病院麻酔科などを経て、2020年4月に「恵比寿ブライトスキンクリニック」を開院。2022年2月に池袋院をオープンする。現在もフリーランス麻酔医として多数の病院での手術を手がけている。

目次
  1. 麻酔専門医となってフリーランスに
  2. 開業までの決断と準備
  3. コロナ禍と開業時期が重なる予想外の試練
  4. たった一度の医師人生だから挑戦したい

麻酔専門医となってフリーランスに

--もともと麻酔科を選んだきっかけを教えてください。
菅間:この診療科に行きたい!というのが定まっていたタイプではないんです。研修医で横浜市民病院にいたのですが、このときに麻酔科は若い先生が活躍しているイメージがありました。「若くからいろんな仕事に携われた方が早く成長できるだろう」という目算があったと記憶しています。

--「若くから」というのはもともとビジネスの野心をお持ちだったのでしょうか。
菅間:野心は早くからあったかもしれません。不動産や株の投資も早くからやっていましたし、結構本気で勉強もしていました。そうすると自然に経営への興味が増してきたんです。投資と経営は近いものがあって、自分も経営したいと思ったのは後の開業に結び付いていると思います。

--早い段階でフリーランスとして特定の勤務先を持たないスタイルに転身したのですね。
菅間:はい、かなり特殊な働き方をしてきました。2014年に麻酔科のフリーランスになったので、8年が経過します。脱毛クリニックを開設したあとも複数の病院と契約していて、年間最大で50病院にて勤務した年もあります。麻酔科医が常勤していない病院の数は多く、急に手術が入るときに頼まれる場合もあるのです。勤務医と比べても収入がよく、麻酔科にはそこそこフリーランスの医師もいます。

開業までの決断と準備

--開院に踏み切ったきっかけを教えてください。
菅間:ひとつは経営者として勝負してみたかったこと。その際に、麻酔科医である自分が考えついたのが医療脱毛クリニックでした。いろんな病院で勤務してきた経験から、信頼できる医師の人脈もあったので、協力していただけるだろうと。また比較的、参入障壁が低く、当時は競争相手が少なかったのです。脱毛時の痛みに悩まされている方が多かったのも、麻酔科が活躍できる可能性を感じたポイントです。

--開業に選んだのは恵比寿駅前。かなりの一等地でしたね。
菅間:場所にこだわりはなかったのですが、クリニックを軌道に乗せられればテナント料はたいした問題ではないと考えました。当院のターゲットは若い方なので、山手線沿線でも若者が多く集まるエリアに狙いをしぼっていき、恵比寿を選んだのです。

そして駅前にこだわったのも理由があります。おそらく今後競合クリニックが増えると予想していて、先行者優位で差をつけられるなら駅からの距離、利便性だろうと思ったからです。駅に近づくほど、賃料は上がりますが、集患上の利便性を優先しました。結果的に後発の競合クリニックは数多く増えましたが、優位性を保つことができています。

--自己資金に加えて、資金調達もされたのですか。
菅間:当時自己資金を3,000万円ほど用意したうえで、金融機関へ融資の依頼をしました。ところが保険診療に比べると、そもそも自由診療は相手にしてくれない金融機関が多いことに驚きました。おそらく堅実性が欠けるのでリスクが高いという判断なのでしょう。銀行3行に次々に断られたものの、4か所めの政策金融公庫、そしてそこから紹介された信用金庫から、融資をしてくれるとの回答を得られました。

難航したからこそ、貸してくれる金融機関に巡り会えたときの喜びも大きく、絶対に事業を成功させないといけないと思いが強くなったものです。

コロナ禍と開業時期が重なる予想外の試練

--診療メニューとしては脱毛のみですよね。絞ることの恐れはありませんでしたか。保険診療も取り入れようと思ったことは?
菅間:恐さはなかったですね。絞った方がマーケティングをする際にも「分かりやすいから有利」だと考えました。患者さんにとってもクリニックの特徴が伝わりやすいので広告も打ちやすいんです。Web上でも余分な広告費がかかりにくいですね。

Googleのリスティング広告と、InstagramやTikTokなどのSNS広告には当初から力を入れました。2年前、TikTokは今ほどメジャーではなかったから逆にインパクトがあったかもしれません。ターゲット層から逆算したマーケティングが重要なのは、保険診療でも共通だと思います。

ただ当時、保険診療を採用すると医療の属人性が高まり、担当できる医師が限られてしまいます。事業の持続性から不利だと考え、脱毛だけに絞ったのです。

--ところが開業が2020年の4月でした。まもなく最初の緊急事態宣言が発出されたころでしたね。
菅間:これには参りました。開業直後から休業状態で2か月間は売上ゼロでした。スタッフもすでに雇用して「スタートするぞ」というタイミングだったんです。週3日は、お客さんが来ない中で、スタッフと共に接客の練習や動線のシミュレーションをして、準備していました。

--売上はないけれど支出はありますよね。
菅間:そうです。だからウラでは家賃の支払いを遅らせてもらうお願いをしたり、フリーランス麻酔医としての出勤回数を増やして、スタッフの人件費を稼いでいたんです。
6月の売上がようやく300万円くらいでしたが、秋ごろには一気に伸び始めました。コロナで外出できなかった方からの予約が殺到したのだと思います。

--その後は順調で分院を出すほどになったのですね。
菅間:はい、今年(2022年)2月には池袋院を開業できました。本院が恵比寿にあり、患者さんのマーケティングが重ならない場所であること、ただし本院からのアクセスがよいこと、そして利用客の多いアクセスがよいところというポイントで池袋を選んだのです。

今後は、大きな会社がバックにあるわけではないので、どんどん分院を増やす計画はありません。自由診療でひとつの成功パターンを作れて、こちらは信頼できる仲間も増えてきたので、むしろ自分は新しい挑戦を続けていきたいと考えています。実際に保険診療クリニックを手がける構想も動き始めています。

たった一度の医師人生だから挑戦したい

--ここまでお話を伺ってみて、若くして実業家としての気質をもっておられたのだなと、感じました。でもクリニック、医療機関にはこだわっているように感じます。
菅間:自分がせっかく麻酔科医になって手術全体を管理する立場だったから、医療を変えていきたいと思っているのかもしれません。自分自身も特殊だという自覚はあります(笑)
今後は、ある程度スケールの大きな病院の経営に関わりたいとも思っています。

極端に思われるかもしれませんが、病院が開いている時間も平日の日中だけというのはおかしいと考えていて、休日や夜もオープンしている方が喜ばれるかもしれない。それくらい常識破りのことをしていきたいです。

冒頭に話したように私はフリーランスになったことで、収入を伸ばしつつ経営者としての一歩も踏み出せました。たとえば外科の先生方などにも、こんな働き方の選択肢を提供したいと考えています。アルバイトというよりはフリーランスですね。自分の手術の腕で収入を確保してもらい、働き方を変えていきたい。

--「いつかは開業したい」と考えている医師に向けたメッセージがあればぜひお願いします。
菅間:もっと人生を自由に考えることをおすすめしたいですね。病院に勤めるだけが選択肢ではありません。他の人の真似をする必要もないですし、いくらでもやり直しができます。チャレンジする気持ちを大切にしてほしいと思います。

--ただ菅間先生のような特殊なマインドやスキル、専門性がないと、勝ち筋が見えてこないのではないでしょうか。
菅間:厳しい言い方かもしれませんが、自由診療は弱肉強食なのに対して、保険診療は制度に守られています。リスクが高いどころか、飲食店などと比べたら「リスクはほぼない」と感じるほどです。

ただし何も考えずに、漠然と働いていると、自分で事業を起こすことはイメージできないかもしれません。私の脱毛クリニックもたまたま思いついたわけではないんです。日頃から、医療のニーズがどこにあるかを考えて、自分だったら何を提供できるか、これこそがマーケティングの発想だと思います。

脱毛クリニックではSNSが集患上有効だったという話をしましたが、高齢者をターゲットにしていたら、それは効かないですよね。その場合はダイレクトメール、口コミの強化を考えます。クリニック経営も、自身のキャリアにもマーケティングは本当に大切だと実感します。

--今日は貴重なお話をありがとうございました。

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執筆 執筆者 藤原友亮

医療ライター。病院長や医師のインタビュー記事を多く手がけるほか、クリニックのブログ執筆やSNS運用なども担当。また、法人営業経験が長く医療機器メーカーや電子カルテベンダーの他、医師会、病院団体などの取材にも精通している。


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