
キャッシュレスの決済にどこまで対応すべきかを悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
利便性を考えれば対応すべき、また診察後に患者さんから直接要望を聞かされるケースもあるでしょう。
しかし多くのクリニックがためらうのは手数料が気になるから。実際のところ、導入にかかる費用を上回るメリットは得られるのか、今年開業したばかりの院長に話を聞きました。
院長のポリシーで、キャッシュレスに対応するだけではなく、原則として「完全キャッシュレス」を実現するまでの背景と、狙い、そして実際の効果とは? ぜひ参考にしてください。
※本記事に記載の情報は取材を行った2022年7月21日現在です。
2009年、筑波大学卒業。小児整形外科を専門として、横浜労災病院、滋賀県立小児保健医療センター整形外科、茨城県立医療大学付属病院整形外科などで勤務。2020年に筑波大学大学院博士課程修了。
2022年5月、茨城県つくば市にて「つくば公園前ファミリークリニック」を開業。子どもが遊びに来たがり、帰りたくなくなる空間を作るなど、既存の枠組みにとらわれない医療を実践する。
キャッシュレス化の遅い医療機関の現状
日本医師会が約2000件のクリニックを対象にした調査(2019年)によれば、クレジットカードや電子マネー、QRコードを含んだキャッシュレス決裁を導入しているクリニックは2036件のうち212件(10.4%)に留まっています。
(公社)日本医師会|医療機関におけるキャッシュレス決済についてのアンケート結果概要について
また2020年に(一社)キャッシュレス推進協議会がまとめた調査結果によると、「キャッシュレス決裁を利用したいが、利用できない場所」で、病院・診療所が29.6%とトップとなりました。第2位となった歯科診療所を含めると、スーパーマーケットや役所などを大きく上回っています。
類似した他の調査でも医療機関でキャッシュレスを使えるようになってほしいという声は上がっており、実態と利用者の希望に大きなギャップがあると言えそうです。
(一社)キャッシュレス推進協議会|キャッシュレス・ロードマップ 2020
キャッシュレスシステムに求められるもの
「キャッシュレス決済」の手段は、
クレジットカード
電子マネー
QRコード・バーコード
の3種類に大別されます。
一般的な手数料の相場としては、決済額の3.0%前後とされますが、カード会社などとの特約によって、大口契約を結べるとより安い手数料で利用できる場合もあるようです。
クリニックになじみがあるのは、日本医師会ORCA管理機構が取りまとめる「日本医師会員開院向けキャッシュレスサービス」でしょう。
年会費は別途かかるものの、日医会員はVISAやMastercardブランドのカードが1.5%で利用できます。電子マネーの種類によっては、日医会員のみが利用できる制度もあります。
自動精算機、自動釣銭機は多数のメーカーが販売しており、選ぶ際のポイントは以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
内部リンク|「クリニックの業務を効率化してくれるセルフレジとは?」
開業直後の院長に聞いた、キャッシュレス化の理由とメリット
キャッシュレス決裁を導入した意図とメリットを、今年(2022年)5月に「つくば公園前ファミリークリニック」を開院したばかりの中川将吾院長にお聞きしました。
同クリニックは、開業時点で主要ブランドのクレジットカード、交通系電子マネー、iD、nanacoのほか、PayPayやauPAYなどのQRコード決済に対応しています。現金使用はできない完全キャッシュレス会計を実現しました。
--キャッシュレスの最大のメリットはどのような点でしょうか。
中川:なんといっても締めが早いことです。最終の患者さんが退出してから、私たちスタッフが帰るまでにだいたい10分です。お金が合わないなどということが起こり得ないので、ストレスがありません。
--それは早い。現金がゼロだからできることですね。
患者さんの年齢によって、またクリニックのある自治体によって方針や金額が異なりますが、当院は子どもやファミリーをターゲットにしています。そのため、現役世代の一般的な「3割負担」よりもさらに患者さんの支払額は少ないのです。また年配の患者さんが少ないので、完全キャッシュレス化することのメリットが上回ると考えました。
--開業前にコロナ禍があったことでキャッシュレス決裁を決心されたのですか。
中川:いえ、コロナがなかったとしても、開業したらキャッシュレスにしたいと思っていました。たしかにコロナによってキャッシュレスに拍車がかかったのは事実だと思います。しかし以前に勤務していた病院などでも、毎日現金を数える業務に事務スタッフが追われている姿に、私は疑問を感じていたんです。締め作業に、どんなに短くても15分、もし金額が合わなければさらに残業が発生します。スタッフの精神的な負担からも、残業費の面からも誰も得しないと思っていました。
--手数料は2~3%程度と言われ、負担を嫌うクリニックも少なくないと聞きます。
中川:私は、手数料が正確にいくらか気にしていません。なぜなら保険診療のクリニックで決済手数料がかかるのは、あくまでも患者さんが負担する最大3割負担の分だけです。より金額の大きい公的医療保険の負担分に対して手数料はかからないので、事実上1%に満たない負担割合です。これは一般的な飲食店などと比べて恵まれているんですよね。手数料を議論するよりも、患者さんにもクリニックにとってもメリットのほうが大きいと思います。お金の集計の人件費もかかりますからね。
--患者さん側からどうしても現金で払いたいという要望はありませんか。
中川:あらかじめホームページなどでも告知しており、そうした要望はこれまでほぼゼロです。2例ほど「クレジットカードも電子マネーも作ったことがない」という患者さんがいらっしゃいましたが、近くのセブンイレブンでnanacoを作ってもらうようにご案内したら、気持ちよく新規発行してくださいました。
スマートフォンをお持ちの高齢者も増えましたし、多くのクリニックでもっと患者さんの利便性を追求してもいいのではと、個人的に思います。
--ホームページを拝見すると、多くの種類の決済手段に対応していますね。これも余計に費用がかかりますか。
中川:種類を増やすデメリットは、月数百円程度が余計にかかることくらいです。患者さんが端末画面を操作するときに、種類が多すぎると「何が使えるのかわかりづらくなる」と考えて、利用頻度が低そうな電子マネーやQRコードは削りました。
--その辺りの手続きで面倒なこと、日々大変なことがあれば教えてください。
中川:いえ、とくに面倒なことは感じません。開業当初に精算機メーカーさんに使いたい決済手段を伝えただけですね。請求手続きもないので、振り込みを待つだけです。それも公的保険の支払い手続きより早いため、全く気にならないです。
当院はファミリー世代がメインのターゲットとはいえ、もう少し年配の方がキャッシュレスに戸惑うケースがあるかなと想像していましたがほぼゼロに近いです。現金は、個人として財布で持ち歩いている分だけで、特別な備えはしていません。
個人的に高齢者の患者さんが多いクリニックでも十分に導入検討の余地はあると思いますね。
--ありがとうございました。
現金対応のみの精算機をキャッシュレス対応させるのも可能
今回取材した中川院長は、新規開業時点で完全キャッシュレスのシステムを決断しました。一方、すでに自動精算機は導入していたもののキャッシュレスに非対応だった複数の医院でも「患者さんからの要望が多いため」オプションでクレジットカードや電子マネーに対応を始めたところもありました。
追加でのキャッシュレス対応も可能なので、検討のうえで精算機メーカーなどへ相談してはいかがでしょうか。
特徴
決済
システム提携
タイプ
機能
種別
診療科目
特徴
機能
タイプ
決済
システム提携
種別
診療科目
特徴
機能
決済
タイプ
システム提携
種別
診療科目
特徴
決済
機能
種別
タイプ
システム提携
診療科目
この記事は、2022年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 執筆者 藤原友亮
医療ライター。病院長や医師のインタビュー記事を多く手がけるほか、クリニックのブログ執筆やSNS運用なども担当。また、法人営業経験が長く医療機器メーカーや電子カルテベンダーの他、医師会、病院団体などの取材にも精通している。
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