クリニックの重要な設備投資の1つに、電子カルテの導入があります。
電子カルテは医療の質を高めるだけでなく、クリニックの経営にもプラスになるはずです。なぜなら電子カルテはコンピュータ業務システムの一種であり、業務の効率化と生産性向上に寄与するからです。
この記事では、電子カルテと減価償却の関係について解説します。
クリニックを経営する医師が自院の運営コストや経費について考えるとき、減価償却の知識が必要になることがあります。減価償却の視点で運営コストを考えていくと、経費を削減できるかもしれません。
そして減価償却を理解するには、耐用年数と取得価額の知識も必要になるのであわせて説明します。
さらに、運営コストの面から見た、電子カルテのおすすめについても簡単に解説します。
減価償却の定義:固定資産等の取得にかかる費用を、一定期間に配分する会計処理
減価償却の定義は次のとおりです。
減価償却の定義
減価償却とは「減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続き(※1)」のことを言います。
この「減価償却資産」とは、建物や機械装置、器具備品、車両運搬具など、時間が経過するにつれてその価値が減っていく資産です。つまり、土地や骨董品など、時間の経過で価値が減少しないものを非減価償却資産といい、非減価償却資産は、減価償却の対象外となります。
また、使用可能期間が1年未満のもの、取得価額が10万円未満のものなども対象外です。数万円で買ったPCのモニター、その他ボールペンや消毒液などは減価償却資産ではなく、事務用品費や消耗品費等として一括で費用計上します。その他にも10万円以上20万円未満の資産を購入した場合には一括償却資産といって、取得価額を3年間にわたって費用計上していくものや、30万円未満の資産については少額資産といって、一括で全額を費用計上できるものもあります。詳しくは、国税庁のホームページ(国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」)で確認しましょう。
さて、減価償却資産は、仮に現金一括払いで購入したとしても、買った年にその全額を計上するのではなく、一定期間に分けて少しずつ費用計上していくものになります。つまり、その資産を手にした際は一気にお金が減りますが、費用計上では数年に分けるため、“決算上はよい数字が出ているのに現金が少ない”事態が起こり得ます。
手元の現金が減って資金繰りが必要になると、経営が不安定になりかねません。クリニックの経営を安定化させるために、減価償却の知識をもう少し深めていく必要があります。
※1 引用:国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」
電子カルテの耐用年数と取得価額の考え方(参考:国税庁)
減価償却を理解するうえで欠かせないのが、耐用年数と取得価額の知識です。
電子カルテは、サーバーとソフトウェアで構築されているので、この2つの観点から、国税庁が示す耐用年数と取得価額について確認します。まずここでは、院内にサーバーを置いてソフトウェア(電子カルテ)を運用する“オンプレミス型”をメインにご説明します。
なお、クラウド型の場合についても後述しています。
取得価額とは。取得価額の計算方法
取得価額(※2)=購入の代価+購入に要した費用の額+事業の用に供するために直接要した費用の額
電子カルテの取得価額は、電子カルテを購入する際の初期費用だけではなく、それに付随する費用も該当します。
例えば、以下のような費用も全て取得価額として含めることが可能です。
・電子カルテの購入費用/設定費用
・サーバーの購入費用/設定費用
・電子カルテやサーバーの更新費用
そのほか、電子カルテの購入に係る購入手数料や運送費などの費用も対象となります。
耐用年数とは。減価償却費と耐用年数の考え方
耐用年数(※3)
・サーバーの耐用年数:6年
・ソフトウェア(ここでは電子カルテを指す)の耐用年数:5年
耐用年数とは、その資産の効果を持続できる年数のことを指しています。耐用年数は、機器等によって異なるため、事前に確認すること(減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年大蔵省令第十五号))をおすすめします。なお、分からない場合は税理士などに聞くのが良いでしょう。
減価償却費と耐用年数の関係は複雑な計算式で算出するのですが、ここでは次のように単純化した前提で解説します。
■減価償却費と耐用年数の解説の前提
1)電子カルテの取得価額が600万円
2)耐用年数6年
クリニックがこの電子カルテを現金一括購入すると、クリニックの現金は600万円減りますが、購入した年に費用計上できるのは1年分の減価償却費だけです。
1年分の減価償却費は「取得価額÷耐用年数」で算出するので、1年間の減価償却費は100万円(=600万円÷6年)になります。
電子カルテを購入した年は、600万円のうち100万円しか費用計上できず、翌年も次の年も100万円ずつ費用計上し、減価償却していくことになります。
(厳密に言えば、購入した日から決算月までの期間で月数按分した金額を減価償却費として費用計上し、翌期以降は残りの償却期間で費用計上していきます。)
※2 参考:国税庁「No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数」
※3 参考:国税庁「LAN整備の耐用年数の取り扱いに関する質疑応答」1
レセコンの会計処理について
電子カルテに付随して使用するレセプトコンピューター(レセコン)も、サーバーやソフトウェアを使えば、減価償却、耐用年数、取得価額の考え方は電子カルテと同じです。
また経理ソフトや業務管理システムを導入した場合も、電子カルテに準じた取り扱いになります。
クリニック経営における設備投資と経費削減に貢献する「クラウド型電子カルテ」
続いて、クリニック経営における設備投資と経費削減の関係について解説します。
院長はクリニックを経営するうえで「設備投資はとても重要である」と考えているはずです。医療設備が整っていることは、よりよい医療の提供に貢献します。
しかし、過剰な設備投資は経営を圧迫しかねません。そのため、自院に合った設備投資を考えると同時に、経費削減も考える必要があります。
この「設備投資と経費削減のせめぎ合い」は電子カルテの導入でも課題になります。
電子カルテの買い替え費用に「不満」の声
開業医の3割程度は、電子カルテやレセコンなどの買い替えの費用に不満を持っています。
それは多額のお金を支払って電子カルテなどを購入しても、大体5年ごとに買い換えなければならない“オンプレミス型”だからです。そのたびに数百万円規模の支出が必要になるため、院長の不満は当然といえば当然です。
そこで提案したいのが、経費の大幅削減に繋がるクラウド型の電子カルテです。
クラウド型電子カルテならいつでも最新、買い替え費用もなし
先ほどまで紹介したのは、「オンプレミス型」というタイプの電子カルテ。クリニックがサーバーとソフトウェアを購入し(リースの場合も)、電子カルテを導入・運用する仕組みです。サーバーやソフトウェアは、故障やバージョンが古くなるタイミング等で買い替えが必要になります。
一方、クラウド型電子カルテは、クリニックへのサーバー設置が不要。
クリニックのパソコンのブラウザ等からログインするだけで、いつでも電子カルテを使うことができます。
クリニックはサーバーもソフトウェアも持たないため、買い替え費用も不要です。新機能の実装やバージョンアップは随時行われ、常に最新の状態をキープできるなど、メリットも多くあります。
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クラウド型電子カルテは減価償却の対象外になることも
クラウド型電子カルテであれば、設備投資と経費削減の両方を追求することができるでしょう。
なぜならクラウド型電子カルテなら常に最新バージョンを使うことができるので、「よりよい設備投資」に繋げることができるからです。
また、クラウド型電子カルテは買い替えが発生しないので、5年ごとの多額出費が不要です。クラウド型電子カルテの利用代金の支払いの多くは月額になります。
サーバーの設置やソフトウェアの導入も必要なケースもあり、クリニックは減価償却資産を持たないため、減価償却の処理が不要となります。
毎月支払うクラウド型電子カルテの利用代金は、毎月費用計上できます。
ただ、もし初期費用が必要だったり、電子カルテの設定費用がかかったりする場合は、オンプレミス型の電子カルテと同様に、以下の方法で取得価額を導き、耐用年数は5年として減価償却費として処理できる場合もあります。
取得価額(※2)=購入の代価+購入に要した費用の額+事業の用に供するために直接要した費用の額
詳しくは、ご自身が利用するクラウド型電子カルテのタイプを見ながら、税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
まとめ:クラウド型電子カルテで経費を削減して経営を安定化
電子カルテを使うことでクリニックの院長は最適な医療を患者さんに効率よく提供できるようになります。また看護師や事務員の仕事も効率化され生産性が向上するので、職場環境も改善されるはずです。
したがってクリニックにとって電子カルテの導入は「必要設備投資」であり、そのコストは「必要経費」といえます。
しかし電子カルテへの投資は高額になるので、クリニックの経営者は経費削減にも取り組まなければなりません。
その解決策の1つが、クラウド型電子カルテの導入です。
よりよい医療を提供するための設備投資と、経営安定のための経費削減の最適解を考えながら、電子カルテを選定してみてください。
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監修/ten_ten37(税理士)
税理士事務所にて、税理士として会社設立時の手続き、個人事業主や法人の会計、税務コンサルティングや税務申告書作成などを実施。
この記事は、2022年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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