「経営指標を見ると、患者数は問題ないけど…」
「あれ、この患者さんって心エコー2回やったのにレセプトにないな」
「算定漏れが起きてるならどう防ごう…」
このような悩みや疑問、不安を感じたことのある開業医は多いもの。
診療報酬の算定漏れは、患者さんの急変も起こりやすい循環器の診療では、対応も限られた時間しかとれない方もいるでしょう。
そこでこの記事では、日常の中で起きている診療報酬の算定漏れについて、発生する仕組みと防ぐためのアプローチ方法を事例を挙げながらご紹介します。
改善を維持させる具体的なノウハウもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
実は日常的に起きている算定漏れ
まず、忙しくなりがちな循環器の外来では、日常的に算定漏れが起きるリスクが潜んでいます。その理由は、医療行為の実施と記録までのタイムラグが大きな要因だと考えて間違いないでしょう。
例えば、診察待ちの陳旧性心筋梗塞の患者さんが動悸で座り込んでしまったとします。その場合、血液検査や心エコー、胸部のレントゲンなど、身体の状態把握に必要な検査を行うのが通例です。
そこで気をつけなければいけないのは、心エコーでも血液検査でもなく、胸部レントゲンです。症状があっての検査ですが、「不安定狭心症の疑い」と病名をつけても適応外として査定されてしまうでしょう。
このように、忙しい外来での対応と、保険診療としての対応のニ軸で考えなければならないため、算定漏れが起きるようなリスクは日常的に潜んでいるのです。
算定漏れが起きる仕組み
算定漏れが起きるシチュエーションとしては、診察から保険者審査までの間で課題が残っている場合が多いです。
このように書くと「それはそうだろ」と思われるかもしれませんが、実際にどのような仕組みで算定漏れが起きるのかを正しく答えられる院長は少ないでしょう。
私が過ごした18年間の医療事務人生の中で、事務方よりも算定に詳しい医師を見たことがありません。それだけわかりにくく、複雑な構造をなしているといえます。
また、医師と事務方では考え方の順番が逆なことも少なからず影響しているでしょう。
具体的には、医師は患者さんの症状から病名を推測し、必要な診療内容を組み立てますが、事務方は、行われた診療内容を元に診療報酬に耐えうる病名があるかどうかを調べます。
診療をする側と、診療された内容を見る側の認識がズレていることに気づき、そして合わせられなければ、算定漏れは減らないと言っても過言ではありません。
より具体的に3つのタイミングに分けて、算定漏れが起きる仕組みついてお伝えします。
1.診察終了からカルテ記載までの間
循環器領域をはじめ、一般内科や健診、予防接種など、多様なニーズの患者さんに対応しているクリニックは数多くあるでしょう。
再診患者さんのように経過観察や定期処方がメインの場合、何事もなく診察は流れていきますが、不定愁訴まじりの初診患者さんだと話は変わります。しかも同時に2人、同じタイミングで来院されると一気に緊張感が高まります。
過去にあったのは、同姓同名の患者さん対応で情報が錯綜し、部分的に情報の入れ違いが起きたケースです。生年月日を見れば判別はつけられるものの、同じ11月生まれだったため、Aさんの診療内容がBさんのカルテに記録され、その逆もしかりという状況でした。すると情報が抜け落ちて算定漏れに繋がる確率が上がります。
よく起きるケースではありませんが、そのような時でも動揺しない体制作りが重要です。
2.カルテ記載からレセプトチェックまでの間
カルテに問題なく診療内容が記載されていても、レセプトチェックまでに漏れてしまうケースも少なくありません。
なぜなら、カルテの内容をレセプトチェックの状態にもっていくのは「人」だからです。
電子カルテやレセコンが充実してきた昨今では、算定に関するアラート機能が普及しています。例えば、ECG12誘導を月に複数回オーダー・実施した場合に、確認のアラート表示がされたとします。
ただし、その場でアラートの指示に真面目に従う医師は希少です。多くの医師は画面を先に進めて早く検査の実施に移りたい気持ちが先行しています。そのため、アラートで表示された算定要件に関するチェックはなかったものになり、算定要件を満たせずレセプトには現れない結果を招いてしまうのです。
3.レセプトチェックから保険者までの間
レセプトに実施した診療内容が100%載っていたとしても、保険者にたどり着くまでに振り落とされるケースもあります。
どのような場合が該当するのかというと、これまでの体験談として「経験則」が挙げられます。
長く在籍している事務方は、算定のルールや院内の実情を把握しており、信頼できる存在です。しかし、信用できるかは別問題です。
なぜなら算定のルールを把握していたとしても、情報がアップデートされておらず、現行ルールではOKのものが経験則によって、レセプトから消されてしまう場合があるからです。
最悪の場合、月に2回算定できる検査を1回に、適応病名があるのに処置内容が抹消、そのような事態もあり得てしまいます。
日常診療から算定漏れを防ぐためのアプローチ
ここからは、これまでお伝えしてきた日常診療の中で起きる算定漏れを防ぐアプローチについて紹介します。
算定漏れ対策と聞くと、電子カルテの改修などシステム面に目がいきがちですが、どれだけシステムがよくなっても使う側が改善されなければ、単なる宝の持ち腐れです
そのような事態になれば、せっかくかけた改修費用も無駄となりますので、違う形のアプローチについてお伝えします。
算定漏れを防ぐ「体制面」からのアプローチ
最初にできるアプローチとして、体制面が挙げられます。体制面といっても、人の入れ替えや組織改編のような大掛かりなものではありません。
具体的には「認識のすり合わせ」です。
算定漏れが起きる仕組みのところでもお伝えしましたが、医師と事務では考え方の順番が異なり、その隙間で算定漏れが起きてしまうもの。スタッフの役割を縦割りにしなければ、管理も難しく、役割自体もあいまいになってしまいます。
しかし、診療報酬というクリニックの経営に関する内容は、職種の壁を取り払って向き合うことが必要です。
すぐに始められることで、月に1回診療報酬に関するミーティングを設けて、一つの事例を追いかける「トレース」という方法があります。
診察からレセプトになるまで、時系列で追っていくことで、診療に関する内容と算定に関する内容の双方の理解が深められます。
個人の技量からアプローチ
算定は事務方一人ひとりの技量が試される大切な仕事です。
そのため「成長を促すこと」も、経営者として大切な戦略の一つだと言えます。院内で勉強会を開くのも有効ですが、外部で開かれる勉強会やセミナーへの参加も選択肢として入れておきましょう。
院内の勉強会だけでは、今のクリニックの現状に基づく偏った知識だけが増えてしまい、珍しい症例の場合には算定の知識が追いつかない状況も考えられます。その点、外部の勉強会やセミナーでは、算定に関する考え方を広く知れるため、結果として算定漏れが減らせることにつながります。
改善を維持させる具体的なノウハウ
体制面と個人の技量へのアプローチができるように改善してきたら、その状態を維持できるよう、記録を残すようにしましょう。
その場では勉強になった、改善できたと思っても1日経つと、またいつも通りの日常に戻ってしまうもの。
「いつ・何を・誰が・どのように」といった基本的な内容を整理し、いつでも振り替えられるように記録をとっておくと良いです。さらに、それだけではなく院内の勉強会開催時など、おりを見て、改善が定着しているかを振り返るのも有効な方法といえます。
改善を維持させるには、個人の記憶や記録に頼るのではなく、組織的にアプローチすることが大切です。
まとめ
診療報酬はクリニック経営において、収入の根幹となる貴重な財源です。
そんな診療報酬ですが、忙しい日常においては軽視せざるを得ない場面も多々あります。
そのような日常を底上げするには、体制面と個人の技量を2つのアプローチで、改善を図ることが大切です。
とはいえ、院内の取り組みとしてすぐに始めるのはマンパワーの問題や、時間の問題も解決しなければいけません。
最初の一歩として、外部にお願いするのも一つの手です。頼れる相談先があれば、余計な負担なく、改善を進められるでしょう。
特徴
対応業務
その他特徴
タイプ
提供人材
診療科目
特徴
対応業務
その他特徴
診療科目
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その他特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2022年10月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療ライター 武田 直也
フリーランスWebライター。18年間医療事務として合計3つの医療機関に従事。診療報酬をはじめ、診療情報管理士の資格を活かし、カルテ監査やDPCデータ、クリニカルパスなど医療情報の活用に精通している。
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